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不思議な世界の日常的なお話

木に転生した男

作者: nite

 俺は木田。木田寛二。

 それでいて木だ。こちらは普通に生えている木のことを指している。


 俺は数日前、交通事故にあった。すぐさま病院に運び込まれたが、あえなく死亡。老いた体で急いでやってきた母親に泣かれながら、この世を去った。


 だが、俺の意識はそこで潰えなかった。そう、最近ラノベでお決まりの転生イベントが待っていたのだ!

 普通のサラリーマンだった俺だが、男子としてチート能力に憧れたりすることもある。転生といえばチート能力ギフトだ。さあ、いざ転生!


 転生待機場所っぽい白い空間で待っていると…


「すみませんね、今ちょっと転生枠が…あ、これでいいや」


 そんな女性の声が聞こえた途端、俺の視点は一気に低くなった。大きさで言うと、大体小学生くらいか?

 体を動かすことはできない。思考も視認もできるけれど、自分がどうなっているのかだけは不明。


 必死に体と視線を動かして下をみると、そこにあったのは人間の体ではなく、木の幹。俺はなんと、木に転生してしまったのだ!


 はい、ダイジェスト終わり。


 まあぶっちゃけ問題はそこではない。最近ではどうやら無機物転生という新たなジャンルも増えているらしいので、まだ生物なだけましなような気もしている。


 問題は場所だ。

 普通この手の動けない転生では、ダンジョンとかに生まれるものだ。しかし、俺がいるのはどこかの街の公園。しかも、多分地名的にバリバリの日本。


 …いや、だから、普通転生先は異世界だろ!なんで日本の木になってんだよ!俺の期待のすべてを裏切ってくるサプライズはいらねえんだよ!


 俺の前に小さい看板が刺さっているので、そこに俺の名前もしくは品種が書かれていると思うんだが…残念ながら見ることはできない。どれだけ体を反らしても、一メートル先に看板を読むことすらできないのだ。


 転生したときの声は女神だと思うんだが…なんで転生先の枠に日本の木があるんですかね。『生物』という括りだとしても、もう少しあったと思うんですが。

 これなら普通に成仏なりなんなりして、転生しない方がよかった。まあ転生に関しては俺に有無を言わさない感じだったので、選択権なんてないのだけど。


「あいよぉ」


 晴れた日は一日一回、おじさんが水をあげにくる。公園の管理者なのだろうか。

 木に転生した影響か、水がとても心地よく感じる。人間だったころに比べると、のどの渇きみたいなのは少ないのだけど、その分体がごはんとして水を求めているような感じがする。


 尚土からの栄養は勝手に吸っている。無意識に吸えるのだ。あと呼吸も無意識。そこらへん、結構人間と同じなんだなと実感。

 最初のころは叫んだりもしたのだが、どうやら俺の声はあくまで脳内反響しているだけで、外には聞こえていないということがわかると、もう何もかもを諦めて受け入れることにした。数日にして、俺は自分が木であることを認めたのである。


 サラリーマンだったころも、上司の意見に流されるままに生きていたので、上司のさらに上の存在である女神に指定されたなら仕方ないかーといった気分なのだ。

 ぶっちゃけ一回死んでるので人間としての誇りとかあまりないし。つかそんな誇れる人間じゃなかったし。


「転ぶわよー」

「はーい!」


 この公園は、今時では珍しく、結構自由に遊べるらしい。俺から見えづらいが、少し離れたところに広場があるのも確認している。


 それに、若い人も多いらしい。管理人らしいじいさんのような人もいるが、若い世代も多いのだ。

 木になって性欲というものが一切なくなったので、普通に愛でる気持ちで見ている。うーむ、若い子はやはり元気があっていいな。俺もあんな風に動きたい。


 たまに俺にボールを当ててくるやつもいるが…ぶっちゃけ、子供の投げるボールなど痛くない。

 今も女の子にボールをぶつけられたけど、俺のボディには被害なしだ。俺の幹の皮は頑丈らしい。


「木さんがいたいいたいって言ってるよ」


 いえ、痛くないので。お構いなく。


「ごめんなさい」


 ああでも謝れるのはいいことだ。大人でも謝れない人がいるからな。木にも謝れるような大人になれよ。無理か。

 女の子はボールを持って広場へと走っていった。それを母親が追いかける。


 最近じゃボール遊びが禁止されている公園も多いからなぁ・・・俺は子供のころサッカーしまくってたタイプだが、その光景は見れなくなっていると思うと寂しい。

 子供のネット環境への慣れと、大人の無駄な抑圧のせいだろう。かくいう俺も、人間だったころは走り回ってた子供がうるさく感じてたので、こんな気持ちになったのは木になってからだな。


 このまま清々しい気持ちで俺もサッカーをしたいんだが…まあ、足がなければどうしようもないな。根っこが動くようになったりしないだろうか。

 でももし俺が動きだしたら、化け物としてすぐに伐採されるだろうなぁ…


 つかさ、転生したのにチート能力ないとか、しけてないか?木の状態でも行動できるような能力を渡してくれてもいいだろう神さんよぉ。

 せめて何かしら楽しめる要素をくれてもいいと思うんだよなぁ…木になったせいか忍耐力が馬鹿みたいに高くなって、このまま十年くらいここにいても苦痛に感じることはなさそうだけど、それはそれとして暇だ。

 苦痛に感じなくとも暇なのだ。こうして誰に伝わるわけでもない一人語りをしてしまうくらいには。


 たまに鳥が飛んでくるんだが…俺の枝に巣でも作ってくれないかな。見れるものがあるというだけで嬉しいんだけど。


「んーと、ここらへんに…」


 青年が一人公園にやってきた。数日の間に見たことがないので、あまり公園にはこないタイプなのだろう。

 どうやら何かを探しているようだが、その割に視線が高い。鳥でも探しているんだろうか。


「お、あったあった」


 何かを見つけたらしく、こちらに近づいてきた。そして、そのまま俺に触ってきた。別にお触り厳禁じゃないからいいけど、もしかして俺に登るつもりか?


「いやいや、登るつもりはないよ」


 まあ別に登ってくれても…ん?今俺の言葉が伝わった?


「わざわざ聞いてあげてるんだから感謝しなさいよ、木田寛二くん」


 しかも、俺の前世を知っているだと!?どういうことだ…まさか、神様ってことか?


「そうだよ。俺は君を転生させた神よりも強い神様さ」


 神様に強いとか弱いとかあるのか…ああでも、そうじゃないと主神みたいなのは決まらないか。神様にも親とか子供とかの概念があるみたいだし、強さがあってもおかしくはない。


 周囲の音が消えていることに気が付いた。これも神様の御業ってことかね。


「君を転生させた子は俺がちゃんと叱っておいた。流石に木に転生はない」


 あ、神様視点でも『ない』のか。それはよかった。


「どうやら転生させたのが人間の魂だと認識していなかったらしい。悪いね」


 まあなんだかんだ木の生活を楽しんでいるからいいけど。


「それはよかった。実のところ、転生やり直しとかそういう話をしに来たわけじゃなくてね、君はその寿命が尽きるまでずっと樹木なんだ。すまんね」


 えぇ…ちょっと期待したんだが。今度こそチート能力で無双ができると思ったんだけどなぁ…


「その寿命が尽きたら今度はちゃんと転生できるように手配しとくから」


 因みに寿命は何年ぐらい?


「うーん、この木なら…あと四世紀くらいかな」


 ってことは…四百年か…長いなぁ。孫どころかひ孫まで作れるよ。


「今日ここに来たのはただの確認ね。まあこちらの手違いなわけだし、君にプレゼントをあげよう」


 お、まじで?チート能力きたこれ?


「てってれー。栄養素ー」


 …


「喜べよ。樹木にとっては最大のプレゼントだぞ」


 だとしても、もう少し何かあるでしょ。しかもそれ、ホームセンターに売ってるやつじゃない?神様なのにホームセンターで買い物するんだ…


「はい、ぶすっとね」


 問答無用で土に刺された。あー、でも美味い。悔しい。


「ホームセンターで買ったやつに魔法をかけた特別仕様だからな。君が死ぬまで栄養補給し続けてくれるし、二百年くらいすれば能力を得られるぞ。具体的には、自由に枝を動かせる能力だ」


 おお、ちゃんと神様っぽい。でも二百年か…人間でいうと五十歳まで生きることになるけど…まあ文句を言ってもどうしようもない。


「よし、んじゃ俺は失礼するぜ」


 あ、聞きたいことあるんだけど。なんで俺を転生させた神よりも上位の神がチェックしてるんです?


「時空を自由に移動できるのが俺くらいだからね。時の女神とか絶対神みたいな超上位の神じゃないとそもそも時空移動できないし、許可も下りない。つかそもそも、転生だってグレーゾーンなんだからな」


 なんか神様業界の愚痴を言われた。許可とか法律みたいなのあるのか、神も人間と変わらないな。


「それじゃねー」


 いつの間にか青年はいなくなっていて、周囲の音が戻ってきた。

 神様という割にはフランクな人だったなぁ…それに、神様にも感情とかあるんだなって思った。うーむ、木の俺が言うことじゃないけど、神様ってわからん。


 ともかく、この栄養素を吸って、動けるようになるぞー!

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