第86話 3人からの告白:甘梨あめだまの場合(中編)
「2名で予約していた新井っす」
「少々お待ちください」
カラオケにつくと、あめちゃんが受付をしてくれる
少しすると、店員さんからドリンクバーのコップが入ったカゴを渡されたのでオレが受け取った
「部屋は26番っす」
「はーい」
部屋に向かいがてら
「新井で予約したんだ、偽名とかじゃなくて」
身バレ防止で、甘梨で予約することはないだろうと思っていたが、オレの名前を使うとは思っていなかったので聞いてみる
「そうっすね、いつもは栗田で予約するっす
ちなみに本名です」
「へー、そうなんだ、個人情報なのにいいの?」
VTuberという職業柄、身バレに繋がる情報を他人に教えるのはまずいのでは?と思った
「あらあらパイセンには、なんでも教えるっす
それだけ信頼してるってことっす」
「あ、ありがと」
「それに、、」
「あ、どーぞ」
あめちゃんが何か言おうとしたら部屋に着いたので扉を開けて、あめちゃんが入るのを促す
「ありがとうございます」
あめちゃんは、部屋に入る手前で立ち止まり、そのまま前を向いて
「それに、結婚したら新井になると思って、予約したっす」
は?
心の中でツッコんで現実には何も言えない
あめちゃんをじっと見る
目は合わない
恥ずかしいセリフを言った本人は赤くなりながら部屋に入っていった
オレは固まっている
「あらあらパイセンも入ってくださいっす!」
「う!うん!」
急かされて我に帰って入室した
あめちゃんを見ると、ソファに座っていて、まだ赤い顔でスマホをいじっていた
ちょ、そんな照れるなら言わないでよ
朝会ってからフルスロットルだ
今日一日、こんな調子でこられたら保たないぞ、、
そう思いながら座席につく
チラチラと横目であめちゃんを見た
「なんすか?」
「は、恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいっす、、」
「だよね、、」
「でも、がんばるっす」
「oh、、」
「なんで、そんな離れたとこに座るんすか?」
「え?」
L字になったソファの奥側にあめちゃんが座ったのでオレは扉の近くに座ったのだが、なにか気に入らないようだ
「こっち来てください
モニターも見やすいですよ」
まぁ、確かに、あめちゃんの方に座った方がモニターは正面になる
「じゃ、じゃあ」
オレは立ち上がって、あめちゃんの隣に座り直した
「、、、」
ずいっ
「ち、近くない?」
「そんなことないっす」
隣のあめちゃんが近づいてきた
ピッタリと
肩が当たっている
「なに歌うっすか?」
「え?えーっと、、」
曲を入れるタッチパネルを見せられながら質問される
「んー、どうしよかな」
「先に歌ってもいいすか?」
「もちろん」
あめちゃんは何を歌うんだろう
タッチパネルを操作しているのを見ていると、まず最初に入れるのは有名なボカロ曲のようだ
「それカバーしてたよね」
「そうっすね、おかげさまで結構伸びました」
たしか数10万回か、100万回くらいいってたかもしれない
「やっぱ、あめちゃんは、すごいよなぁ」
自分達がKanonで出してる歌ってみたとは毎回再生回数に大きな違いが出る
登録者数の差が数倍あるのだから当たり前だが、その差を考えるとディメコネメンバーの凄さを実感できた
「まだまだっすよ」
ポチっと予約ボタンを押すと曲がはじまった
「〜♪」
すぐにあめちゃんが歌い出す
YouTubeで聞いたあめちゃんの生歌だ
実は、オリジナルのプレイリストに入れて何回も聞いていた曲だった
あめちゃんの歌声に自然と身体が動く
すげー!生歌だー!やっぱり上手いなー!かわいいなー!
脳内はそんなことばかり考えていた
「〜♪
ふぅ、、」
パチパチパチパチ!!
歌い終わったあめちゃんに拍手をしていた
「?ありがとうございます?
あ、そういえばリスナーさんでしたね」
「すごく良かった!!」
「あざっす、パイセンもなにか入れてくださいよ」
「そうだよね、でも、こんなすごい歌声の後だと恐縮だな、、」
「なに言ってるんすか、カラオケは楽しむのが目的です
好きに歌ってくださいっす」
「う、うん、、」
とは言っても、なかなか曲を決めれない
下手くそな歌で恥ずかしい思いはしたくないのだ
「もー、仕方ないっすね
2人で歌いましょー
これなら、歌えるっすよね?」
タッチパネルに表示されたのは、あめちゃんとこと様のユニット曲
ことだまの新曲だった
この前のライブの予習でヘビロテしたからもちろん歌える
「歌える、けど、、」
「どうかしたんすか?」
「いいのかな」
「なにがっす?」
「課長に殺されそう」
「あはは!結木っちならやりかねないっすね!
というか、この状況、ちゅぱかぶらのみんなに火炙りにされるんじゃないすか?」
「こわい、、」
「大丈夫っす、そんなこといいから歌いましょ」
ポチっと予約され、マイクを渡される
「パイセンはことのパートお願いします」
「う、うん、、」
あわあわしてる間に曲がはじまる
「〜♪」
あめちゃんのかわいい歌声とは違って、オレのキモい声がスピーカーから聞こえてきて申し訳ない気持ちになる
ぎゅ
そんなオレの左手をあめちゃんは握って、笑顔を見せてくれた
大丈夫っす、楽しみましょ
そんな顔だった
こくり、と頷いて恥を捨てて歌う
あっという間に曲は終わってしまった
「す、すごい体験だ、、」
「あはは、感動してます?」
「してるっす」
「真似しないでくださいっす」
「だって、この前ライブで眺めてた子と歌うなんて、、」
「そのうち慣れますよ、長い付き合いになるんですし」
「慣れちゃダメな気がする、ずっと感動してたい」
長い付き合いになる
そう言われて、また恥ずかしくなったが、すぐに答えて誤魔化す
「そういうもんすかねー」
「うん、あ、飲み物持ってくるよ
なに飲む?」
「じゃあ、アイスティーお願いします
シロップとかなにもなしで大丈夫っす」
「わかったっす」
また真似をしたら、少し睨まれた
緊張の裏返しなのもあるが、
「ごめんっす」
と言いつつ、コップを2つ持って立ち上がった
怒られないうちに部屋を出る
その後、アイスティーとウーロン茶を持って部屋に戻ると
あめちゃんは次の曲を歌っていた
あぁ!最初から聞きたかった!
そう思うが、時すでに遅し、コップをあめちゃんの前に置いて、曲を聞くのに集中する
パチパチパチパチ!
曲が終わるとまた拍手する
「もー、もっとリラックスしてほしいっす」
「むりっす!」
「そういうもんなんすかねー
はい、あらあらパイセンの番」
「う、うん、、」
タッチパネルを渡された
さすがに何度も一緒に歌ってもらうのも申し訳ないと思い、好きなアニソンを歌ってみる
あめちゃんは何も言わずにモニターを見たり、タッチパネルをいじったりしていた
「ふぅ、、恥ずかしい、、」
「そんなことないっすよ
ぜんぜん歌えてますから、楽しみましょ?」
「うん」
「あらあらパイセン」
「なに?」
「ちょっと足開いてもらっていいすか?」
「なぜ?」
イヤな予感がして聞き返す
「いいから」
「はい、、」
しぶしぶ少し足を開いた
それを見て、あめちゃんはスッと立ち上がり、ポスっ、とオレの足の間に座った
「おお!?」
オレは驚いて、後ろにのけぞる
なるべく触れないようにしないと、そう思ったからだ
「なんすか?いやなんすか?」
ずい
背中をピッタリくっつけてきて頭を上に向けて見上げてきた
「、、、ち、」
「ち?」
「チビ、、」
「はぁ?」
めっちゃ睨まれた
「、、なにしてんの?」
「アピールしてます」
「なんで」
「好きだからです」
「、、、」
「ふん、、」
あめちゃんは前に向き直り、タッチパネルを操作して次の曲を入れ出した
え、このまま歌うんすか?
、、いつまで?
そして、しばらくそのままの体制が続く、
あめちゃんの曲が終わったらマイクを渡されて交代
そのあとはまた あめちゃん、と交互に歌うことになった
あめちゃんはたびたびオレにもたれかかってきて、そんな体制で歌ったりもする
それでもすごく上手くて、かわいかった
たまに彼女の頭を見ると、ずいぶんと小さいんだなと感じる
咄嗟にチビ呼ばわりして、緊張を誤魔化そうとしたのだが、本当に小さい子だ
腕の中にスッポリと入っていた
「トイレ行ってくるっす」
はーい、いってら
1時間くらい歌っただろうか
あめちゃんが席を立った
帰ってきたら入れ替わるようにオレもトイレに行く
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