第151話 相談にのってくれるアイドル
「あらとさん!!待って!!」
「ん〜、今追うのは得策じゃない気がするんすよねぇ〜
パパさんパパさん、とりあえずビール飲みましょ」
「いや、、しかし、、」
「まぁまぁ」
「あの、おばさま、あっくんのパワハラの件って、おじさまには?」
「あら?言ってなかったかしら?
言ってなかったかもー!!
でも解決してるって聞いたし!
まずかったかしら??」
「いや、、あの、、おばさま??」
みんなすごいな、、
私はひま先輩が出ていった方を見る
ひま先輩はすぐにおにいさんを追いかけた
メーを見る
お父様をフォローしていた
Kanonさん
お母様にあの事件について改めて説明してるみたいだ
私だけ何もしていなかった
何かしないと、そうは思う
でも、身体は動かない
何をすればいいかわからなかった
・
・
・
「あらとさん!あらとさん!」
後ろからひまちゃんの声が聞こえる
でも、さっきのことが恥ずかしくて、振り返ることができない
家族の問題を、醜態をみんなの前で見せてしまったからだ
「まって!あらとさん!」
オレはエレベーターの前まで早足で歩いてきたが、ボタンを押すのをやめて、隣の階段に向かう
ここでエレベーターを待っていたら、ひまちゃんに追いつかれるからだ
ごめん、、
振り返らないことを心の中で謝って、階段をくだりはじめる
「あらとさん!!
ひま!話聞くよ!!」
階段の上から大きな声がする
ふと、足を止めてしまう
、、でも、今は
「ありがと!すぐ行くからね!!」
オレが止まったことにお礼を言ったのか、
ひまちゃんが駆け降りてくる音が聞こえる
「あっ!?」
?
ひまちゃんの叫び声?
短い声だが、なにか危機感を覚えた
すぐに振り返る
ひまちゃんが、転んでいた
階段で
「ひまちゃん!!」
オレはとっさに受け止める準備をする
「へぶ!!」
ひまちゃんがオレの胸に飛び込んで、、体当たりしてきた
顔面からつっこまれて、アイドルらしからぬ鳴き声をあげている
「だ!大丈夫!?」
なんとかキャッチに成功したオレは、心配になって、ひまちゃんの様子を隅々までチェックする
「あはは、、いたた、鼻ぶつけちゃった
てへへ」
自分の鼻をすりすりとさすりながら笑いかけてくるひまちゃん
「てへへ、じゃないよ、もー
危ないから、ひまちゃんは階段で走ったらダメ」
「は、はぁーい
えへへ、でも、あらとさんに抱きしめてもらえたからラッキーかも♪」
「あっ!?
ご、ごめんね!」
サッと手を離して、距離を取る
「ふふ♪いつものあらとさんだね♪」
「え?」
「ひま、ちゃんと話聞くから
えっと、外でよっか?
みんなに見つかりたくないよね?」
「あ、うん、、ありがと、、」
ひまちゃんのありがたい気遣いに甘えて、2人で旅館の外に出ることにした
2人とも浴衣だったので、受付で防寒着を貸してもらい、それを着て外に出る
「うー、寒いけど、これ貸してもらえてよかったねー♪」
膝下まであるロングタイプのダウンを着たひまちゃんがダウンの袖を持って、くるりと見せてくれた
「だね、でも、足寒いよね、ごめん」
ひまちゃんの足を見ると、素足に下駄だ
絶対寒いと思う
だって、オレも同じ格好でめちゃくちゃ寒いから
「ううん!ひまが誘ったんだしいいよ!」
「で、でも、、やっぱり戻る?」
ひまちゃんに風邪でもひかせたらと不安になり、そう提案する
「んー、でもでもー、、
あっ!それなら足湯いこーよ!!
あっちにあったよね?
いこー!ゴーゴー!」
「あっ!ひまちゃん!」
ひまちゃんに強引に手を引かれて連れていかれる
握られた小さな手のひらは、寒空で冷えているはずなのに、なんだかあったかく感じた
足湯にはすぐついた
お昼にプールに行く途中で見つけた場所だ
10人くらいは入れるだろう屋根付きの足湯には、誰もおらず、
モクモクと立ち上る湯気が蛍光灯に照らされていた
「寒いからさっそく入ろー!」
「うん、そうだね、そうしよ」
ひまちゃんの隣に腰掛けて下駄を脱いで足湯に足を入れる
「あったかーい!あったかいね!あらとさん!」
「うん、そうだね、生き返る」
「あはは!定番なセリフだね!」
「はは、、そうかも、、」
ひまちゃんがせっかく明るく振舞ってくれているのに、同じテンションで返すことができなかった
「あ、、ごめんね?
ちゃんと真面目に話聞くよ?」
「あ、ううん、そんな、オレの方こそ、、
ありがとね、、」
「うん、、それで、、えっと、お父さんとなにか、、その、ケンカとかしちゃったの?」
「ううん、そういうのじゃ、、ない、と思う」
自分でもさっきのことがなんだったのか、整理できていなかった
だから、曖昧な返事になる
「あらとさんは、お父さんのこと、、きらい?」
「、、、ううん、きらいじゃない」
「そっか!よかったー!
それなら大丈夫だよ!なんとでもなるよ!
ひまが保証するから!」
さっきまで心配そうにしてた顔がパァっと笑顔になる
表情がコロコロ変わって可愛いな
そんなことを思っていた
「あはは、、そうかな、、それなら、いいんだけど」
「じゃあねじゃあね!
あらとさんは、なにかお父さんに嫌なこと言われて、ちょっと怒っちゃっただけなんだよ!
ひまもね!ママやパパに嫌なこと言われたら怒るもん!
ふつーのことだよ!」
「そうかな?そうなのかな、、」
「うん!だからね!謝ればすぐ仲直りできるよ!」
「、、、あやまりたくない、、
ごめん、、」
子どもじみたことを言ってる自覚はある
だから、ひまちゃんにごめんと伝える
でも、今は、オレから父さんに歩み寄る気にはなれなかった
「えっと、、じゃあ、あらとさんはお父さんに謝ってほしいの?」
「うーん、、どうなんだろ、、べつによくわからずに謝られても、なんか違う気がする」
「じゃあ、あらとさんはお父さんに、、
うーん、、
褒めて欲しいのかな?」
褒める?褒めてもらう?父さんに?
想像もつかなかった
思えば、厳しくされたことはあっても、褒められた覚えはない
今回の件も、ずっとオレのことを子ども扱いして、みんなに恥をかくようなこと言われて、それが許せなかった
「うーん、、褒める、とは、、ちょっと違うかも」
「そっかぁ、、」
ひまちゃんは万策尽きたのか落ち込んでしまう
だめだ、話さないと、
こんなに一生懸命聞いてくれてるんだから、
「あのね」
「うん!!なになに?」
オレが話すのが嬉しいのか、真剣な顔でオレを見てくれる
「えっと、、さっきオレが怒ったのって、
たぶん、父さんがいつまで経っても、オレのこと一人前だって認めてない、って感じたからだと思うんだ」
「うん、なるほど」
「それはね、ずっと前から感じてたことなんだけど、
実はひまちゃんのことを大好きになったきっかけのとき、
オレ、めちゃくちゃ追い詰められてて、そのとき、実家に電話をかけたんだ
そしたら、父さんが電話に出て、上司とおんなじこと言われて、、
非常識だろって、、
で、なんにもわからなくなって、、
それから父さんのこと、もっと苦手になったんだ
あ!
でね!その後にひまちゃんの配信見て!マグマダイブするやつ!
それでめっちゃ笑って!
それで救われたんだ!
ありがとう!!」
心配そうな顔のひまちゃんを安心させたくて、あのときのことをまくし立てる
「うん、うん
ちゃんと聞いてるよ」
「えっと、、
だから、、オレは、父さんに認められたい、、んだと思う、、」
「そっか、そっかぁ
そのこと、あらとさんからお父さんに伝えるのは、、いや、なんだよね?」
「うん、、ごめん、、」
こんなこと、こんな子どもじみたこと、あの人に言っても
男らしくなれ、とか
しっかりしろ、とか言われる未来しか見えなかった
「あはは、、ごめんね、、こんな話、
もしさ、同じことを父さんに話しても、どうせ嫌なこと言われるだけだよ
しっかりしろー、とかさ
ほら、ロビーであめちゃんと話してたときも言ってたじゃん
いつもあんな感じだからさ」
「うーん、、じゃあ、
じゃあ!ひまがなんとかする!!」
「へ?」
「ひまがなんとかするから!!
見てて!!」
な、なにを?
この子は何をする気なのだろう?
「よーし!!やるぞー!!」
ザバっと足湯から立ち上がり、下駄を履こうとするひまちゃん
「ひまちゃん!ステイ!」
「はい!」
それを静止する
オレは受付でひっそりと借りていたタオルを使って、ひまちゃんの足を拭いた
「はい、これでよし」
「あわわ、、なんかえっち、、」
「へ?」
オレは、自分が女の子の素足を持ってふきふきしていたことに気づく
「あ!?そんなつもりでは!?」
恥ずかしくなって、すぐに距離をとった
「ううん、大丈夫、拭いてくれてありがと♪」
「うん、、」
「じゃ、戻ろっか?」
「わ、わかった、、」
オレは自分の足も拭いて、また、ひまちゃんに手を引かれて、旅館に戻ることにした




