第150話 爆発してしまった感情
「あらとさん!いらっしゃーい!」
夕食のために旅館の食堂に向かい、
案内された襖を開けるとひまちゃんが出迎えてくれた
部屋は襖で区切られているので完全個室ではなく、いわゆる半個室というやつだった
でも、知った顔しかいない空間になっているので、落ち着いて食事ができそうだ
顔ぶれを確認すると、
あめちゃんたち、課長たち、母さんたちも揃っていて、オレが最後だったようだ
いかんいかん、あまりに憂鬱すぎて少し来るのが遅かったか、今日はディメコネの皆さんもいるんだ
家族の問題は一旦忘れよう
「それでは!皆さん揃ったようですので!
乾杯させていただこうと思います!
皆さん!お飲み物のご準備をお願いします!」
課長が乾杯の挨拶のために立ち上がる
オレは課長とのんちゃんの間に座ってグラスをもった
父さんたちはゲストということで反対側の端っこにいる
「それでは!
半個室ですのでやんわりと!
御社と弊社の今回のコラボを祝しまして!
カンパーイ!」
「カンパーイ!!」
みんなしてグラスを掲げて乾杯する
課長は社名を言うことを控えて簡単な挨拶で済ませた
壁に耳あり障子に目あり、である
実際、襖だし、障子みたいなもんだ
オレは手の届く範囲で周りの人とグラスを鳴らしてビールをグビっと飲む
うめぇ
そうだ、ビールは美味いんだ、楽しもう
「うち、ホームページでさっきみたけど、料理も期待できるみたいやで」
「そうなんだ〜、楽しみだなぁ〜」
言ってるそばから豪華な料理が運ばれてきて、舌鼓をうつ
その間にも、二宮さんのグラスがあいたらすぐにビールを注いで接待するのを忘れない
佐々木さんは、、イヤそうにされたのでのんちゃんに任せた
「そろそろ、あめちゃんと話してきてもいいかな!?」
宴会が少し進んだころ、
課長に鼻息荒く許可を求められた
正面の二宮さんと佐々木さんを任せてもいいか?
という意図の質問だろう
「あー、、オレはいいですけど、、
あれに混ざるんですか?」
チラリとあめちゃんたちの方を見る
あめちゃんとひまちゃん、こと様にのんちゃんは、うちの両親を囲んでワイワイと話し込んでいた
「そうなんです!あらとさんはとってもカッコよくて!いつもひまのこと助けてくれるんです!」
「あらー!そうなの?あの子にそんな一面があったなんて意外だわー!」
「おにいさんは私にも適切なアドバイスをくれました
すごく感謝してますし、頼りにしています
でも、私もおにいさんを支えたいと思っています」
「あらあら!!ことちゃんはホントにしっかりしてるわねー!!
こんな子がお嫁さんなら安心ね!」
「おばさま、うちのおばさま仕込みの料理なら、あっくんもすくすく育てれます」
「たしかに!そうねー!あの子は偏食なところがあるけど、のんちゃんなら安心ねー!」
「ささっ、パパさん、どうぞどうぞ、グラス空いてるっすよ」
「あ、、ああ、、ありが、、すみません、、」
「そんなそんな、いいっすよ〜、わたしみたいな小娘に敬語なんて〜
あ、パパさんは警察官なんですよね?」
「え、ええ、、」
「平和を守っててカッコいいっす♪
いつもありがとうございますっす♪」
「そ、そうですか?
それは、、ありがとう、、こちらこそ、、」
、、、気まずすぎる、、絶対に混ざりたくない、、
「新井くん、、キミはいつも私からあめちゃんを取り上げるよね、、」
「いや、今回はオレのせいじゃ、、」
「ちぇー、、あれ邪魔したらまた怒られるじゃないか、しゅーん、、」
「まぁまぁ飲みましょ飲みましょ」
課長のグラスにビールを注いで飲ませることにした
飲んで大人しくしててください
「あんがと、新井くんも今日は飲みなよ」
「あ、ありがとうございます」
課長が注ぎ返してくれたので、オレも飲むことにした
またしばらく、宴会を楽しむ
「おばあちゃん、おばあちゃん、、ここで寝たらダメだよ、、」
「ねておらんぞー、、新井!新井はどこじゃ!、、むにゃむにゃ、、」
食事が終わり、デザートを待っているとリル姫のおばあさんがうとうとし始めた
終わりがけにリル姫の静止を聞かずに飲んだアルコールが効いてきたようだ
「あ、あの、、わたし、、おばあちゃんをお部屋に、、」
「なら、私たちも手伝いますよ」
二宮さんと佐々木さんが立ち上がっておばあさんの肩を支えて立たせてあげた
「あ!自分が運びます!」
すかさずフォローに入る
「いえいえ、弊社のゲストですので、新井さんはそのままお楽しみください」
「そうですか?大丈夫でしょうか?」
「新井!、、むにゃむにゃ、、」
「はい、この通りまだ意識はありますし、歩けるようですので」
「わかりました、ではなにかあれば呼んでください」
「はい、ありがとうございます
では、失礼します」
4人が退室するのを見送って、自分たちの部屋に戻る
「そうですか、新人は役に立っていますか」
「はい!それはもう!彼のおかげで今回のコラボが成功したと言っても過言じゃありません!
あははー!それは過言かな!
私の功績かなぁー!?
ねぇ!?Kanonちゃん!!」
「うざっ、、課長、飲み過ぎです
水ぶっかけますよ?」
「Kanonちゃんはひどいなー!
こんなに頑張ってる上司に向かって!
あはは!」
部屋に戻ると、父さんが結木課長と話しているところだった
幸い良い話のようだ
「もし、ご迷惑をおかけしたら、厳しくしてやってください
新人は甘いところがあるので」
は?おいおい、勘弁してくれ、保育園じゃないんだぞ
「えー!?そんな必要ないですよー!
彼はパワハラにも屈しない強い男ですし!」
「パワハラ?」
「あ!いえ!なんでもございません!
あはは!」
「鈴村さん、、パワハラとは?」
「あー、、それはもう解決したので、、
もちろん、うちたちはあっくんの味方です」
「そ、そうですか、、
か、母さん、、母さんはなにか知っているのか?」
「父さん、もういいよ、やめてくれ、ここでは」
見てられなくなり、止めにはいる
「いや、、しかし、、」
「いいから」
少し強めに言う
「お父さんお父さん!
そんな仕事の話よりも!
新人のお嫁さんの話をしましょう!!
選び放題よー!!」
アホの母さんがめちゃくちゃ失礼なことを言っている
「母さん、、そんな、、新人に嫁なんてまだ気が早いんじゃないか?
今はそれよりも、、
それに、、ずいぶん若いお嬢さんもいるじゃないか」
「ちなみに、結婚はできる年齢っす♪」
「いや、、そういうことでは、、
あなた方は、、その、、なにかうちの息子に幻想を抱いているのでは?」
なんでそんなことを言う?
「そんなことないよー!あ!ないです!
お父さん!
新人さんはカッコいいです!」
「カッコ、、はぁ、、失礼ながら、社会経験不足でそう感じるのでは?」
「ちょ!!父さん!!みんなに失礼なことを言うのはやめてくれよ!!
それは違うだろ!!」
つい、大きな声を出してしまう
「あっくん?」
「あらとさん?」
みんなが静かになってしまう、でも止まらない
「父さんがオレのこと認めてないのはいいよ!
でも!!
オレの恩人に!オレを救ってくれた人たちに!!失礼なこと言わないでくれ!!
父さんにはうんざりだ!!」
「新人、、私はなにも、、そんなつもりでは、、」
「お、おにいさん、、どうしたんですか?」
こと様のおびえた声で我にかえる
オレは、オレの声は、こと様にそんな顔をさせてしまうようなものだったのか
みんながオレを見ていた
「あっ、、
す、すみません、、飲みすぎてしまって、、はは、、先に部屋に戻ります」
そして、オレは逃げるようにその場を後にした




