第139話 男はオレだけの温泉旅行に出発
温泉旅行当日
オレとのんちゃん、結木課長は、駅前のロータリーでディメコネの皆さんの到着を待っていた
オレたちの隣にはマイクロバスが停まっている
今日の温泉旅行のためにうちの会社が用意したバスだ
ここから旅館まで直行してくれる
「あめちゃんまだかな〜♪
まだかなまだかな〜♪」
課長はご機嫌だった
夢味製菓様御一行、という小さい旗を右手に掲げてパタパタと降っている
「その旗どうしたんですかぁ?」
「運転手さんが貸してくれた!」
「そうですかぁ、楽しそうですねぇ」
「そりゃあ!久しぶりにリアルあめちゃんに会えるからね!」
「そっか、課長は久しぶりなんでしたっけ」
「そうだよー!
、、ん?課長は?Kanonちゃんも久しぶりだよね?」
「うちですか?うちは、、そうですね
久しぶりです
でも、うち、ちゅぱかぶらじゃないんで」
「そうなのー?Kanonちゃんも推し作ればいいのにー
楽しいよー?
私のオススメはあめちゃん!かわいい!」
「あはは、、」
あぶねぇ、、
隣で会話を聞いていてドキドキした
うまく誤魔化していたが、のんちゃんはあめちゃんに会うのが久しぶりじゃない
なんでかというと、のんちゃんも動画編集勉強会やVTuber相談会に参加するようになったからだ
それに、コラボが実現した日には全員でお菓子パーティもした
そんなことを課長が知ったら、自分も参加したかったと泣き崩れること間違いなしだろう
ふぅ、、
ポチポチ
あめちゃん、課長にお菓子パーティのこと言わないでね、泣くから
こっそりとLINEでメッセを送っておく
しばらく待っていると、
「あ!いたいた!ことちゃん!あそこ!」
「ひま先輩、落ち着いてください」
タタタ
ひまちゃんがこちらに向かって駆け寄ってくる
後ろからこと様も歩いてきた
「こんにちは!この度はお招きありがとうございます!」
ペコリ!
ひまちゃんが近くまで来て、お行儀よくお辞儀する
「いえいえ、こちらこそ!」
オレたちもそれにならって頭を下げた
「えへへ!」
顔を上げて見つめ合う
今日のひまちゃんは、白いダウンに白いタートルネックのセーター、黒い短パンにタイツ、膝下あたりまである長いブーツ、というスタイルだった
モデルさんみたいでスタイリッシュだ
今日も推しがかわいい
「おはようございます
今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ!ようこそいらっしゃいました!」
遅れてこと様が挨拶してくれたので、返事をする
こと様は、ベージュのロングコートを羽織っていて、下は白のセーター、チェックのスカートに生足ニーソ、短めのブーツ、という格好だった
ひまちゃんを見たあとだと生足は寒そうに見えた
「、、足、見てますか?」
「へ?いやいや!」
「あっくん、、
ことちゃん、うちがあとでしばいとくからなぁ」
「お願いします」
またそんな、、
「えーっと、、こちらのバスで移動になりますので、先にご乗車ください
外は寒いですしね」
「はーい!わかりましたー!」
ひまちゃんはテンション高く右手を上げて、バスの方にタタタっと向かう
「ひま先輩、転びますよ」
「転ばないよー!あっ!」
「おっと!」
言ってるそばからつまづいたひまちゃんを支える
腰と腕を持つ形になってしまった
「、、ありがと、あらとさん、、」
「う、うん、、」
しばし見つめ合う
「おほん!」
「は!?」
「あ!」
こと様の咳払いで、オレたちは焦って離れた
「、、ひま先輩、行きますよ」
「う、うん、、」
ちょっと赤くなったひまちゃんは、控えめな笑顔でオレに手を振ってバスに乗り込んでいった
「、、、かわいいなぁ」
オレも手を振りながら呟く
「しばくからなぁ」
「、、なんでやねん」
「なんでもなにもあらへんやろ
女ったらし、ひまちゃんの腰なんか触って、すけべ」
「そ、そんなつもりないですー」
「天然ってことはより罪が重いなぁ
地獄いきや」
「こわいよ」
のんちゃんと軽口を叩いていると第二陣がやってきた
あめちゃんたちだ
遠くに、もこもこのピンクのコートをきた女の子と
グレーのダウンをきたマネージャーの姿が見える
彼女たちもこちらを見つけて近づいてきた
「こ、こんちわっす、、
ずびっ、、
さむい、、」
あめちゃんは、腰くらいまでのピンクのもっこもこのコートを着ていて、マフラーもぐるぐる巻きにしているのでとても暖かそうに見えた
でも、下はグレーのミニスカにタイツだった
「こんにちは、あはは、そんなに寒いならスカートやめればよかったのに」
「ずびっ、、女はおしゃれで戦ってるんす
乙女心をわかってほしいっす
うぅぅ、、」
言いながら両腕で自分を抱きしめるあめちゃん
「あ、ごめんね、バスの中はあったかいから、中へどうぞ」
「はいっす〜
、、あ」
何かに気づいたようにあめちゃんが近づいてきて耳元で呟いた
「パイセンがあっためてくれてもいいっすよ♡
ひ、と、は、だ、で♡」
「なっ!?」
バッと後ずさる
「ふふふ♪」
「あめちゃん!?
あんまりあの人に近づかないでください!!」
「おおう?佐々木っち、引っ張らないでください〜」
「私が!私が守るんだから!あめちゃんも!ひまちゃんも!ことちゃんも!
先輩たちに言われたんだから!私が!私が!」
ぶつぶつ呟く佐々木マネージャーにあめちゃんは連行されていく
「あ、結木っち、おひさっす」
「あめちゃん!今日も超絶プリチーです!
あったかい飲み物ご用意していますので!
こちらにどうぞ!
あぁ!!ピンクのコートが素敵ですね!
キュートなあめちゃんにとっても似合ってます!
寒いのが苦手なのにオシャレしてる気合も尊いです!
サイコー!!」
「おおう、、あざっす、、」
2人の前に躍り出た結木課長は壊れた防波堤のように話し出した
我慢の限界だったんだろう
だって、
オレとあめちゃんが話しているのを、ずっと、うずうずと見ていたから
これでもかという勢いで絡みに行く結木課長は、そのまま、あめちゃんたちとバスの中に消えていった
「あいかわらずやなぁ」
「そやねぇ」
「てか、案内放棄してるやん」
「ま、オレたち2人が外にいればええけどなぁ」
「せやけど
そこは、のんちゃんもあったかい中にいてええよ、とかじゃないん?」
「え?だって1人だと暇じゃん」
「、、うちは暇つぶしマシーンじゃないで」
「ネガティヴやなぁ」
「うっさいわ、あ、あれ二宮さんじゃない?」
「そうだね」
オレが手を振ると、二宮さんがやってきた
「こんにちは、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、旅行の取りまとめ、ありがとうございました」
「いえいえ、それよりも私は新井さんに謝らないといけないことがあるんです」
「そうなんですか?なにかありましたっけ?」
はて?なんの見当もつかない
「島野と、、飯塚を連れて来れなかったことです、、」
「は?」
「だって!新井さんはあの2人がお目当てですもんね!ごめんなさい!」
「はい??」
え?この人、まだそんな勘違いしてたの?
勘弁してほしい
「あっくん?」
隣ののんちゃんの声が怖い
「あの、何度も言ってますが、あの2人に一切興味はありません」
本人達に聞かれたら殴られそうなセリフだ
「またまたー!これを肴にお酒飲もうと思ったのに残念ですねー!」
言いながらハイテンションでバスに乗り込んでいく二宮さん
あれ、あの人こんなキャラだったっけ
「あっくん?」
「いや!これについては完全に二宮さんの勘違い!」
「勘違いされた経緯を説明してやぁ」
のんちゃんに詰まられながらも、最後の2人を待つ
その2人は少ししたらやってきた
「こ!こんにちは!新井さん!
よ!よよよ!よろしくおねがいしましゅ!」
リル姫だった
「、、よろしくお願いします
バスの中へどうぞ」
「はうぅぅ、、」
うっとり、リル姫はそんな顔をしていた
はっ!?
過剰に冷たくするのはまずいんだった!
「お疲れ様です!寒かったでしょう?
中に温かい飲み物もありますからね!
どうぞどうぞ!」
満面の笑みで対応してみる
「はう?あ、ありがとう?ございます?」
「おまえさんが新井っちゅう男かい?」
「え?あ、はい、はじめまして
夢味製菓の新井です」
「そうかそうか!うちの孫が世話になってるねぇ!」
「いえいえ、こちらこそお孫さんにはお世話になっております」
こちらが最後の参加者、リル姫の祖母、おばあさんだ
二宮さんから聞いていたので驚かないが、ディメコネ在籍じゃない人が来ると聞いたときは意外だった
「あんた!うちの孫はどうだい!?
かわいいだろう!!」
「へ?」
「はう!?おばあちゃん!?」
「あんた彼女はいるのかい!?」
「え、い、いませんけど、、」
「ならうちの孫をオススメするよ!
なんていってもこの尻さね!」
パーン!!
「あああん!!」
おばあさんが突然、リル姫のお尻を叩く
そしてリル姫はなんかセクシーな声をあげていた
なんだこれ、、
「あんたも触ってみるかい!?ほれ!」
ぺんぺん
また尻を叩きながら、オレにすすめてくる
「あうぅぅ、、」
リル姫はその暴走ババアをとめることもなく、オレに期待の眼差しを向けてきた
「、、、のんちゃん、、」
「は?なんでここでうち?」
「たすけて、、」
「、、はぁ、、
おばあちゃん、寒いからバス乗りましょうね」
「なんだい?わしはこの新井っちゅう男を」
「旅館に着いたらたくさん時間ありますから
そこでお話ししましょ
外にいて風邪引いたら大変ですよぉ」
「そうかい?じゃあそうするかね」
のんちゃんがおばあさんの肩を押しながらバスに誘導してくれる
「ふぅ、これで一安心」
「新井、、さん、、」
「、、、なにか?」
「た、、叩きますか?、、」
リル姫がお尻を両手で押さえながら、上目遣いでモジモジしている
「叩くわけねーだろ」
「はぅぅぅ、、」
はっ!?
心の声が口から漏れてた
「新井さんは、、やっぱり、、Sですね、、」
「うへ??」
リル姫が嬉しそうにバスの中に消えていった
、、な、なんなんだ、なぜこんなに好感度が??上がっている??
オレは困惑した頭のまま、寒空に立ち尽くす
「あっくーん!もう出るでー!」
「あ!はーい!いきまーす!」
のんちゃんに呼ばれて我に返り、すぐにバスに駆け寄り、乗り込んだ
なにはともあれ、楽しい楽しい温泉旅行の始まりだ
リル姫のことは忘れて、みんなとの思い出をたくさん作ろう
オレは都合のいい考えで、これからのことに心躍らせることにした




