第125話 都会の観覧車
カラオケ屋を出ると、ぎゅっと手を握られ、ひまちゃんは駅の方に歩き出す
ドキッとしながらも、どこにいくのか質問する
「あ、次はどこいくの?行きたいところがあるんだよね?」
「うん!ついてきてー!どこにいくかは内緒だよ♪」
言われるがままついていくと、駅から電車に乗り、30分くらいかけて移動することになった
「ここー!ここに来たかったの!」
駅から歩いてすぐのところにそれはあった
観覧車だ
都会の中に似合わない観覧車がビルの横に生えていた
テーマパークにある観覧車ほど大きくはないが、ピカピカとカラフルに光っていて、存在をアピールしている
夜の街並みと合わさって、なんだか不思議な光景だ
「へー、こんなところがあったんだー
キレイだね」
オレは、こんなものがあったなんて知らなくて、当然驚いたリアクションをする
「うん!さっそく乗ろー!」
手を引かれ、ひまちゃんに乗車口まで連れていかれる
乗車口はショッピングモールのビルの中にあり、ちょうど先客のカップルが乗り込んでいるところだった
とりあえず、チケット売り場に歩いていく
「あのね!この観覧車ね!頂上で写真が撮れるんだー!
でね!それをオリジナルのフレームに入れて売ってもらえるの!」
「へー、そうなんだ、ふむふむ」
「あのね、、できたらでいいんだけどね、、それをひまにプレゼントしてくれないかな?」
「え?うん!も、もちろんいいよ!」
不安そうにモジモジとお願いされるが、オレのお願いを聞いてもらったばかりだ
それくらいお安い御用だった
「ホントに!?うれしいな!ありがとー!」
「いえいえ、そんなそんな、じゃ、オレがチケット買うね」
「うん!お願いしまーす!」
オレは、写真撮影付きのチケットを2枚買う
意外といい値段がしたが、ひまちゃんを喜ばせるためだ、なんのその
チケットを買うとすぐに、観覧車の前に案内された
並んでいる人は誰もいない
「写真付きの乗車券のご購入ありがとうございます
こちらの観覧車は頂上で少しの間停止します
そのときに、室内に設置されているこちらのカメラで撮影しますので、お二人は並んで座ってポーズを取ってくださいね」
係の人がモニターを指しながら説明してくれる
「それでは、どうぞー」
ガチャリ
説明を聞いたらすぐにゲートを通されて、観覧車の中に入ることができた
「えへへ、くっついちゃお♪」
ぎゅー
右側に座ったひまちゃんが、オレの右腕に抱きついてくる
「ひ、ひひ、ひまちゃん、恥ずかしいよ、、」
「えー?恥ずかしくないよー?」
そういうひまちゃんの頬は赤い
「ひ、ひまちゃんだって、、赤くなってるじゃん、、」
「ふ、ふーん!大丈夫だもん!」
ぎゅ!
もっと力強く抱きしめられる
「、、、」
そして、黙り込んでしまう
「ひまちゃん?」
「あのね、、ひまね、、」
「うん、なぁに?」
「な!なんでもない!もうちょっとで頂上だよー!
ポーズどうしようねー!」
「え?あ、うーん、ピースとか?」
「えー?普通じゃない?なんか特別な感じにしよーよー」
「ええ!?と、特別と言われても、、」
少し様子が変かと思ったが気のせいだろうか
いつもの楽しそうなひまちゃんだ
「じゃあじゃあ!
2人でハート作ろうよー!」
「ハート?」
「うん!」
「ひまが右手でー!あらとさんが左手だしてー!」
「う、うん
あ、なるほど」
ひまちゃんが右手でハートの片側の形を作ったので、察することができた
オレも左手で同じ形を作る
「そうそう!あ!もう着くね!」
観覧車が頂上につく
そして、ゆっくりと止まった
「本日はご乗車ありがとうございます
写真撮影サービスのお客様の撮影を行わせていただきます
しばらくお待ちください」
そんなアナウンスが入った
「それでは、こちらのカメラをご覧になって、ポーズをお取りください
いきますよー!
5、4、」
「あらとさんあらとさん!笑って!」
「うん!」
ひまちゃんは右腕に抱きついたまま、オレとハートの形を作り、満面の笑みを浮かべていた
オレもつられて笑顔になる
「3、2、1、カシャ!」
フラッシュがたかれて、写真撮影がおわる
「ありがとうございました
それでは、運転を再開します」
またアナウンスが流れ、ゆっくりと観覧車が動き出した
「えへへー、ひまもあらとさんとの写真ゲットしちゃった♪
あっ!、、」
「ん?どうかしたの?」
ひまちゃんが"言ってしまった"という慌てた顔をして口を抑える
「あ、あのね、、実はね、、ひま、、」
「うん」
「あらとさんのお家で、、あめちゃんに写真を見せられて、、嫉妬したの、、」
写真、写真、、あ、あれか、、
すぐに思い当たった
先週、みんながうちに来た時、あめちゃんがオレの枕元から発掘した遊園地での写真のことだ
そこには、オレとあめちゃんが写っている
「だからね、、
負けたくないー!って思って、、ここに連れてきたんだ、、」
「そうなんだ」
「ごめんなさい、、」
「え?な、なんで謝るの?」
「だって、、なんか、、ひま、嫉妬なんてしちゃって、、」
「いやいや、、そもそもオレが中途半端だから、、
なんていうか、、嬉しいよ、、嫉妬してくれて、、」
「ホントに?」
「うん、、でも、、ごめん、、まだ答えれない、、」
「うん、うん、、大丈夫!まだ負けてないってことだもん!
ひまもね!ひまもね!あめちゃんくらい!
ううん!あめちゃんよりあらとさんのこと楽しくできるんだから!
だから!ひまのことも見て!」
「あ、、うん、、ありがとう、、」
"ひまのことを見て"
先週、自宅で抱きつかれたときも同じことを言っていた
そのときは、見当違いも甚だしい
動画の視聴時間を増やして、なんて意味だと解釈したが、
全然違っていた
ひまちゃんはあめちゃんに嫉妬して、自分が負けてると思って、
だから、自分のことを見て、そう言っていたんだ
そっか、、
そこまで分かって、これはやっぱりちゃんと答えを出さないと、
と思う
でも、、
何百回も考えたことがまたループし始める
「あらとさん、ゆっくりでいいんだよ?」
「え?あ、、」
難しい顔をしていたのだろう
ひまちゃんが気を使ってくれる
「うん、、でも、、ちゃんと考えるから、、」
「うん、大丈夫、ひま、負けないもん」
こうして、今日の幸せなデートは終わりに向かう
観覧車を出ると、すでに写真は出来上がっていて、フレームに入ったオレたちの写真が2つ、紙袋に入れられて渡された
「今日から部屋に飾るんだー!」
ひまちゃんはその写真を見てそう言って無邪気に喜んでいた
もちろんオレも嬉しかったけど、
あめちゃんとの写真、ひまちゃんとの写真、両方とも飾るのはどうなんだろう
なんてことを悩んでいた
贅沢な、分不相応な悩みだ
「じゃあ!またねー!今日はすっごく楽しかったよー!
またデートしようねー!」
「うん!オレも楽しかった!カラオケもありがと!」
「ううん!いつでも歌うから!
じゃあまたー!」
「うん!またねー!」
駅のホームで逆方向に乗り込むひまちゃんを見送る
扉が閉まるギリギリまで会話して、電車が見えなくなるまで手を振った
「ふぅ、、」
ひまちゃんがいなくなったあと、
今日撮った写真を取り出して眺める
かわいい、すごく
隣に座ってる男は冴えないやつだ
くー、なんでこんなにかわいい子に言い寄られてるのにオレは、、
優柔不断な自分に頭を抱えつつ
でも選べないことに葛藤して
また何百回目の思考のループの中に飛び込む
そのあと、どうやって家まで帰ったのかは記憶にない




