第117話 パワハラ部長の末路
コンコンコン
「はい、どうぞお入りください」
ガチャリ
「、、、失礼します」
夢味製菓の社長室
そこでは、2人の男性が向かい合っていた
「こちらのソファにどうぞ」
「、、、」
社長が今しがた入室した男性を促す
「、、、」
その男性はなにも言わず、ドスッとソファに座った
社長もそれに続いて席に着く
「、、それで、今日は何の御用でしょうか?」
「今は2人なので、タメ口でいいですよ、磯部先輩」
「、、はっ、今更先輩だと?それはなんの嫌味だ?夢岡」
「ははは、あいかわらずですね、先輩」
そう、夢味製菓の社長 夢岡と
パワハラ男 磯部は、大学院時代、同じゼミに所属していた
「なにが先輩だ、今やオレはその辺の部長で、おまえは大企業の社長
何十年も前のこと持ち出しやがって」
「そうですね、学生のときは、楽しかったですね、ほんとに」
「俺は楽しかったなんて言っていない」
「ははは」
「で、なんなんだ?用件っていうのは?社長のおまえ自ら」
「先輩もわかってるんじゃないですか?」
「、、新井のことか、、」
「そうです、、いえ、正確には他の方からも先輩への批判の声が届いています」
「、、どいつだ?」
「すでに会社を辞められた方から3名
在籍社員からは、今回のことも含めて2名です」
「、、ちっ」
「、、先輩、、どうしてしまったんですか、、」
「どういう意味だ?」
「私が知ってる先輩は、後輩思いの面倒目がいい先輩だったはずです」
「はっ!なにをバカな!俺は元々こんなだよ!」
「、、少なくとも、私にとっては良い先輩でした、、」
「それはおまえの研究テーマに俺も興味があっただけだ
それに、おまえは言えば言っただけのことをやってのけた
ま、できるやつだったからな」
「ありがとうございます」
「でもなー、この会社のやつはなんだ?
低脳なやつばかりで、言っても全く理解しない、通じないんだ、俺の言ってることが
言うこと聞いてりゃ結果が出るってのに」
「それは、、先輩の要求は難しいものばかりですしね」
「なら、俺たちの大学レベル以下のやつは入社させるな!
足手まといなんだよ!」
「、、先輩、それだと会社は大きくなりません
その人の良さを見極めて、人材を育てていくのが、我々経営陣の仕事のはずです」
「はっ!そういえば俺も部長だったな
社長様と同じ目線で考えろと、経営者側だろ?と言いたいわけだ?」
「その通りです」
「くくっ、おまえの1/10にも満たない給料でそこまでやってやるつもりはない
俺は俺の好きなようにやる」
「そう、、ですか、、」
「はぁ、、
で?結局なんなんだ?辞めろって話か?
はぁ、いいよなぁ、金持ちの子どもとして生まれて、美人の嫁もらって、毎日うまい飯食ってるやつは
はぁ、もういいからクビにしたらどうだ、できるもんならな」
「、、先輩も、幸せなご家庭をお持ちのはずです
なにがそんなに不満なんですか?」
「、、出て行ったよ、もう何年も前に、世間体を考えて離婚はしてないだけだ、、
クソみたいな人生だよ、まったく」
「そうだったんですね、、
だからと言って、会社の人間にストレスをぶつけていいわけではありません」
「うるせぇなぁ、、
だから言っただろ!あいつらが低脳だから!俺が育ててやってるだけだ!」
「指を折るのもその一環だと?」
「それは、、、
やり過ぎた、と思ってる、、
いや、俺のせいじゃない、あいつが飛び込んできて、、」
「すみませんが、、数々の証拠から、その言い逃れは難しいでしょう
先輩には、、課長への降格処分が決まりました」
「は?」
「すみませんが、、
しかし、私個人としては、、先輩はうちの会社を去るべきなのでは、と思ってます」
「なにを言っている?」
「降格処分になれば、もちろん人事情報に掲載され、全社員が見ることになります
降格処分になった理由も、書かれるでしょう
そんな状況で、プライドの高い先輩は仕事を続けられますか?」
「ふざけるな!そんなことはごめんだ!」
「ですよね、では、処分が下る前に、、」
「ど、どうにかしろ!」
「すみません、、さすがに、今回は、私でも庇いきれません」
「、、今回は、ってどういう意味だ?」
「、、、」
「おい!なんだ!言ってみろ!」
「、、先輩を今の部署に移したのは、私の案です」
「なんだと?この承認印を押すしかない、クソみたいな仕事に?おまえが追いやったと?
おまえ、、」
「先輩なら、結果を出して、復帰できると思ったんです
それに、異動しなければ部長に出世されることはできませんでした
先輩の素行は、そのときから人事に目をつけられてましたから、、」
「なんだそれは、、おまえ、、」
「すみません、、私の力不足です、、」
「、、、なんだ、その顔は、、」
磯部は、夢岡に悪意がないことを悟る
それだけ、辛そうな顔に見えたのだ
自分の味方は、こいつだけだったのかもしれない
そのことにやっと気づく
「、、わかった、今月末には辞める」
「、、はい」
そして、磯部は立ち上がり、退室しようとする
「先輩なら、先輩のレベルに合う仕事を見つけられると思います」
夢岡はその後ろ姿に話しかける
「、、余計なお世話だ」
磯部はドアに手をかけた
「先輩」
「、、、」
「さっき、毎日うまいもの食って、っておっしゃってましたけど、、
俺は、学会発表のとき、徹夜で先輩と資料を仕上げて、発表して、、そのときに、先輩が奢ってくれたラーメンが、、1番、うまかったです、、」
「、、ちっ、、」
ガチャリ




