第99話 頑張ったご褒美
救急隊員さんのいうとおり、病院にはすぐ着いた
オレは自分で歩いて処置室に入る
その後のことは、よくわかなかった
麻酔を打たれ、手を見えないようにカーテンで隠されて
カチャカチャと処置をされた後、
固定された右手が登場した
先生いわく、
メスで開いてピンを入れて固定、そして縫ってからギブスでまた固定、
全治3ヶ月とのことだった
聞くと結構大事だった
冷や汗が出る
処置室から出て、のんちゃんと課長に状態を説明する
のんちゃんは泣いていた
ありがとうと言って頭を撫でる
オレ自身はわりと平気だった
やっと、あいつと決着がつく
その爽快感の方が優っていたからだ
課長は、
絶対許さないから安心して休んでて
と言ってくれて、会社に戻っていった
オレは念のため3日、入院することになった
のんちゃんは部屋まで付き添ってくれ、夕方には帰っていった
あとで、オレの着替えなんかを持ってきてくれる
ありがたい限りだ
そこでやっと、1人の時間ができて、あめちゃんに電話することができた
室内にはオレ以外誰もいない、スマホの呼び出し音だけが聞こえてくる
その音もすぐに消えた
「はい、もしもし、どうでしたか?うまく発表できたっすか?」
「うん!完璧にできた!」
「おおー!すごいっす!さすがあらあらパイセンです!
おめでとうございまっす!」
「ありがとう!
それでね!正式にコラボの承認がおりたんだ!
あっ!とは言っても承認はこれからなんだけど!社長のお墨付きは出たから!
もう実現したようなもん!」
「ホントっすか!?さすがっす!!やりましたね!!
がんばってましたもん!!パイセンの努力の賜物っす!!」
「ありがとう!これも全部あめちゃんのおかげだよ!!
あめちゃんが応援してくれて!支えてくれたから!!
だから!本当にありがとう!!」
「いえいえ♪そんなそんな♪
いやー、支えちゃったなー
たくさん応援したからなー
いっぱいよしよししてあげたしなー
あは♪
あめだま様の応援があったから当然っすね♪」
「うん!!あめだま様!!神様!!女神様!!
ありがとうございます!!」
「あはは♪そこはツッコむところっすよ♪
ところで、今はまだ会社っすよね?
今日は何時ごろ帰りますか?
会いたいっす♪」
「あ、、えーっと、、」
どう伝えればいいか、この惨状を知ったら、あめちゃんは怒り狂いそうだ
それに、心配をかけるのが嫌だった
「?どうかしたんすか?」
「えーっと、落ち着いて聞いてほしい、というか、
オレ自身はもうぜんぜん平気で、ぜんぜん気にしてないというか、むしろ晴れやかな気持ちなんだよね」
「はー?なんの話すか?」
「えと、今日は家に帰れないんだ」
「ほう?それはなぜっす?」
「にゅ、、」
「にゅ?」
「入院するから、、」
「はい?」
「えーっと、、カクカクしかじかで、、」
オレは今日起きたことを事細かく、丁寧に説明した
誤解のないように、オレは平気だから、気分はいいくらいだからって
そう、伝えた
「、、、なんすか、それ」
「えっと、オレは大丈夫だから」
あめちゃんの声は暗かった、あぁ、やっぱり心配かけちゃうよな、、
申し訳ない気持ちになって、何度目かの大丈夫、を伝える
「すぐに行きます、病院教えてください」
「あ、うん、もちろん」
LINEで病院の住所と部屋番号を伝える
1時間も経たないうちに、あめちゃんはやってきた
「おつかれっす、、」
暗い顔をしていた
そんな顔をさせていることが苦しくなる
「あ、おつかれ、ごめんね、来てもらって」
オレは、ベットのリクライニングで車のシートくらいの角度にして、足を伸ばして座っていた
「いいえ、ぜんぜん、、
あの、それが、、」
オレの右手を見ていた
「うん、ちょっとポッキリいっちゃって、あはは」
「、、、」
「あめちゃん?」
「わ、わたしのせいで、、」
「な、ななな!?なんで!?」
泣きそうなあめちゃんを見て心底ビックリする
「だ、、だって、、わ、わたしが、ボイスレコーダーなんか、、渡したから、、」
「ち!ちがうよ!オレが!オレが勝手に飛び込んだだけだよ!
その!これ!これ見て!」
すぐわきに置いてあったボイスレコーダーを手に取って裏面を見せる
「それは、、わたしの?」
「うん!あめちゃんのステッカー!なんていうか!お守りだと思ってたから!
踏まれるのが許せなくて!
あはは!バカだよねー!!
ごめんね!泣かないで!ホントあめちゃんのせいじゃないし!感謝しかしてないから!」
「でも!」
「ちょっ!ちょっとまって!!
よっと、」
オレはベットから足を下ろし、あめちゃんの方を向いて座る
左手で、あめちゃんの手を取った
「ホントに、ホントにあめちゃんのせいじゃない
それにね
パワハラの証拠もバッチリこれに撮れてるからさ
これがあればオレは最強だから」
「パイセン、、」
「うん、だから、本当にありがとう
あめちゃんには笑ってほしいな、だめかな?」
「、、はい、はい、でも、ううん」
首を振るあめちゃん
「がんばった、あらとさんにはご褒美が必要ですよね?」
ツー、っと涙を流しながらニッコリ笑ってくれる
その笑顔は、とても、美しく見えた
見惚れてしまう
「、、、あ!
ご、ご褒美?」
「はい♪痛いのが飛んでくような、そんなご褒美っす♪」
「うーん、そりゃ、貰えるなら欲しいけど、、なんだろう?」
「これです、、」
あめちゃんの顔が近づいてきた
あれ、これって
むちゅ
2回目の、キスだった
「あめちゃん、、」
「痛いの、、飛んできましたか?」
「、、ま、、まだ、痛い、、か、も、、」
「なら、もう一回」
ちゅ
「、、どうですか?」
「も、もっと、、」
「はい♪」
ちゅ
・
・
・
結局、5回もしてもらった
「パイセンは、どさくさスケベヤローですね」
「、、ごめんなさい」
「いいえ♪またいつでもしてあげます♪」
「うん、、」
「えへへ、もう付き合います?」
「それは、、ちゃんと、、言わないと、、」
「お?あと一歩っすかね?」
「そうかも、、」
「おぉぉ、これは勝ち確っすか!
いいんすかね!?期待しても!?」
「ど、どうなんだろう、、」
「焦らしますねー」
「ごめん、、でも、、んー、、」
「ゆっくりでいいですよ♪
鉄は熱いうちにあえて打たない主義なんです♪」
「聞いたことない主義だ」
「あはは♪そうっすね♪
あ、一応、明日にはこととひま先輩にも入院のこと伝えますね?
さすがに言わないのは良くないと思うので」
「そう、、だよね、、
なんて説明しよう、、」
「んー、そこはお任せします」
「そんな、、」
「赤ちゃんじゃないんすから」
「ば、、バブバブ、、」
「、、、」
「ごめんなさい、、」
「正直キモいっすw」
「ひどい、、」
「ウソっすウソっすw
草生えたくらいっすw」
「あはは」
「じゃ、そろそろ、かのちんが来てめんどくさいことになりそうなんで帰りますね?」
「うん、ありがとね、ホントに
あめちゃんのおかげだよ、全部」
「いえいえ♪
また明日も、2人きりになれる時間に来ます♪」
「な、なるほど、、わかった、また、連絡するね」
「はい♪それじゃ、お休みなさい♪」
「うん、おやすみ、また明日」
あめちゃんが手を振って病室から出ていくのを見送る
そういえば個室なんだな
個室って高いんじゃないんだっけ?
そんなことを考えながら、のんちゃんが来るのを待つことにした
テレビをつけて、YouTubeを見る
あめちゃんの切り抜きだ
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オレはあめちゃんに夢中だった




