渋谷のそしゃく
「おねえさん! それ、食べ残すよね? ちょーだい」
とカズキが言った。
「あ! そこの、そう。そこのぼくの、その焼きそばのピーマン捨てるね? ちょーだい」
とオーソンが言った。
ふたりは渋谷の往来に座り込んで、たっぷり笑顔をたたえて、乞食に勤しんでいる。オーソンが首尾よくピーマンの五きれを頬張っていると、カズキが首を振って憐れんだ。
「三時なら甘いやつにしろよ」
「ならせんべいはおやつじゃないのか?」
「お前のはピーマンだ。ソース味のな」
人通りの多いこの時間なら、苦も無くコジることができる。かれらの一番のどかな時間だから、カズキもオーソンも、それからそこら一帯に座り込んでいる雑草のような乞食たちの群れも、ほがらかだった。
「ああ、腹が裂ける」
とウェンが石畳にごろんとなった。手も足もスッと伸ばして、往来の三分の一を塞いでしまった。
「バカやろう!」
オーソンが怒鳴った。その声と重なるか重ならぬかに、カズキのつま先がウェンの肥えた横腹を突き上げる音がする。
ウェンはしぶしぶという顔をして座り直した。かれの丸い背中が往来の方に向いて、それにどこかの悪ガキがけりを入れた。うっと呻いて前かがみになったウェンの両ももは、けっきょく地面についたままで、ウェンの瞳は、恨めしそうに人陰に消えた子供の陰を見ていた。
「ポリが入る口実を作るな、バカ」
とカズキがウェンの肩をなでた。街のどこかに警官の紺の制帽が見えたような感じがして、カズキはしばらくあたりを見回した。
「ちょっとくらい、寝てもいいじゃん」
駄々をこねるという風に伏し目がちな目をしてウェンは腹具合を落ち着かせたいというふうにお腹をさすり、こんどは両腕を背中側に回して体を支えた。
カズキは即座にそれを制止して、かれをちゃんと座らせた。そして、気の毒そうな目を向けた。
「ダメだって。ウェン、腰が悪いのはわかるけど、通りでそんな風に楽にしてたら、迷惑行為だと思われちゃう。厳しいんだ」
「なにがダメなんだよお」
「秩序を乱しちゃダメなんだ。軽犯罪になるんだ」
「わからないよ。座ってるのと寝てるのがそんなに違うのか?」
「座ってるのは物乞いだから。物乞いの体裁がないと座るのもダメなんだ。軽犯罪になるんだ」
「おれもう食えねえ」
とウェンが立ち上がるのに、カズキは肩を貸してやった。
「じゃあもう帰れ。はい、杖」
ウェンの後姿が遠くなるのを見送っていると、オーソンがこんなことを言いだした。
「昔は乞食も軽犯罪ってしってるか」
「そうらしいな」
「なんで変わったんだろう」
「それは食い物を捨てちゃいけない決まりができたからだ。食いきれないやつがあふれかえって、それで乞食が許されるようになったんだ。豊かな街にはどうしても余りができる。まあ、そのおかげで、おれたちは生きていける。世界中から乞食があつまるいい街だよ。ここは」