無限鏡
初めての作品ですので、どうぞひろーーーーーーーーい心をお持ちになって読んでいただけると幸いです。
あぁ、朝が来てしまった。
心地良い眠気から脱したくないから、目を瞑ったまま、身動きひとつせずに思考を巡らす。
普段は親に無理やり起こされるから、自力で眠りから覚めるのは珍しい。どうやら早起きしてしまったらしいが、どうせいつもより5分くらい早いだけの誤差だろう。
そこまで考えると、嫌なことに思い当たってしまう。
間もなく親が自分を起こしにくるのだ。
毎朝、無理矢理に起こすものだから、ストレスを感じずにはいられない。
あぁ、いつものように何食わぬ顔で起こしにくるのかと考えると、次第に腹が立ってきた。
今日は声をかけられても少しだけ無視して、舌打ちしながら起きてやろうと、ささやかな復讐を計画する。
そんな風に思考を巡らせていると、意識もどんどんはっきりしていった。
すると、ある違和感に気付く。
いつもとベッドの感触が違う。いや、それだけではない。何やら車の走行音が聞こえてくる。
違和感どころではなく、明らかにおかしいと確信し、急いで目を開けると、そこは走る車の中で、自分は座席を倒して作られたスペースに寝かされていた。
「え、何これ?」
「あ、起きた…って!顔上げんな!!!」
あまりにも必死に言うものだから、言葉を発した本人も確認せずに再び寝そべる。
そして、今度こそ落ち着いて車内を見回すと、それは我が家の車で、運転席と助手席には両親が、自分のすぐ近くには妹が座っていた。どうやら先程叫んだのは妹らしい。
自分は家で寝ていたのではなくドライブの最中に寝てしまったのだろうかと、自らの記憶を疑うが、自分がパジャマのズボンだけ履いて、上は下着であることを確認すると、やはり途中までは家で寝ていたのだと確信する。
「キャー!!こんな格好で連れ出すなんて、エッチ!!!」
「マジでキモいからやめて。今それどころじゃないから」
妹に冷たくあしらわれ、普通にショックを受けた。
しかし、連れ出したということに否定はしなかったし、何やら真剣な様子である。とりあえず妹に話を聞いてみる。
「今の状況説明して」
「今、逃げてる」
「それだけじゃ分からんよ。何でこんな格好で連れ出されてんの?」
「…信じられないと思うけど、よく聞いて理解してね。実は、あんた以外の人類は皆んな未来から記憶を移されたの。あー…つまり、意識だけタイムリープしてるのね、分かる?」
「………え、流石にわから、うぐっ!!」
突然車体を大きく揺るがす衝撃に見舞われる。シートベルトもしないで寝そべっていたものだから、勢いよく体を打ち付けられてしまった。
おそらく体を動かせば凄まじい痛みに襲われるだろうと、視線だけで外を探ると、1台のワゴンが車体を打ち付けていた。
「神よ!!我々を導いてください!!」
恐ろしいほどに見開いた瞳をこちらに向けながら、男がワゴンから身を乗り出して叫んでいる。
「見つかった。振り切るぞ」
そう言うと父親は急に車を加速させた。
「ぐはぁっ!!」
何の備えもしていなかった体が再び体が打ち付けられ、間違いなく骨が折れた。シートベルトをしていて怪我一つしていない妹が話を続けた。
「未来のあんたは超能力を使えるようになるの。本当に、何でもできるくらいすごいやつ。
それで、未来のあんたが色々ヤバいから、いろんな人があんたを狙ってるの」
「さっきのあれは、もしかして俺を崇めてる宗教団体!?タイムリープうんぬんも、未来の俺がやったの?」
「そう、っ!!ヤバい!検問やってる!!どうする!?車捨てて逃げる!?」
検問を見つけた途端に妹が声を張り上げ、運転している父親に迫る。焦りで完全に余裕を失っている。
それに対して、両親は冷静であった。
「検問はおそらく俺たちの住む地域全般で行われている。この時代に来て数時間だが、それだけの人員を動かして検問できるのは間違いなく警察の上層部の仕事だ」
「得体の知れない宗教団体より、国家に捕まったほうが安全ということよ」
「でも!人体実験され「そんなことは絶対にさせない!」
父親が強い意志を込めてそう言い切った。実際、人体実験なんて頭のおかしいことは日本でやらないだろうから大丈夫だろう。
そして、俺たちは検問され、警官たちに連れて行かれた。
今、家族揃って椅子に座っている。腰が埋まってしまうと錯覚するほどふかふかで、細かく装飾が施されて美しい椅子だ。目の前には木製の大きな長机がある。およそ一般人が入れるような部屋ではない。
窓ひとつなく、この部屋にたどり着く際にも目隠しをさせられるほどの機密ぶりだ。机の向かい側に座っているスーツのおじさん達はきっと国家の重鎮で、これから恐ろしい話をするのだろう、と思考を巡らせていると、おじさんの一人が俺に向かって話し出した。
「ご足労いただきありがとうございました。ここもいつ襲撃されるか分かりませんので、早速ですが本題に入らせていただきます。
まず、あなたは未来の記憶はありますか?」
「いえ、全くありません」
「そうですか、それでは詳しく説明しましょう。あなたは今から8年後、突然人智を超えた力に目覚めます。全能と言っても過言ではない力です。そして、次第に世界中から注目されるようになり、様々な分野の研究に駆り出されます。この頃から、あなたを現人神として信仰する団体も現れ始めました。
そして、あなたは周りから多くを求められる生活に嫌気がさしたのでしょう。急に行方不明になりました。
あなたの行方が分からなくなってしばらくすると、私たちは急にこの時代で目を覚ましました。本当に混乱しましたよ。ここが過去で、あなたの人智を超えた力によって飛ばされたということを把握するのに30分もかかりましたよ」
そこでふと気になったことがあった。妹が、人類は皆んな未来から記憶を移されたと知ったのは何故だろうか。このおじさんの話だと、急に過去に飛ばされたらしいから、そんな事情は分からないはずだ。そこで、俺は小声で妹に尋ねた。
「お前、なんで人類皆タイムリープしたとか知ってたの?」
「それは…あれ、なんで知ってたんだろう…
「おはよう、朝ごはんだから起きなさい」
「……」
「起きなさい!」
「…ちっ」
何故だろうか、いつもはイライラしながらも黙って起きて、おはようと言っていたが、今日は自然とこんなことをしてしまった。
俺が先に着くと、いただきますと言って朝ごはんを食べ始める。
すると、いつものように父親が朝のニュースで得た知識を披露してくる。
「鏡を二つ向かい合わせると、お互いに反射しあって、鏡の中に鏡が映るんだ。そして、鏡の中の鏡も反射して鏡を映し出す。それが延々と続くもんだから、鏡の中に無限に鏡が映し出される。これを無限鏡っていうんだ。だけど、大抵反射の精度は落ちていくから、奥の鏡になるほどぼやけるんだよな」
読んでくださりありがとうございました。拙作では、シュタゲの時を超えると世界線が変わるという設定と合わせて、複数回時を超えると次第に記憶が濁ったり、世界線ごとの記憶が曖昧になっていったりするようにしてみました。しかし、自分で書いていてなんですが、めちゃくちゃ分かりにくいですよね、、、励みになりますので、コメントをいただけると幸いです。