第52話 3月-3
若干の性的要素が含まれております。
苦手な方はご注意ください。
「つばさ、顔を上げて」
オレは首を大きく横に振った。とても見せられる顔じゃないのは自分が一番解っている。
一の手がオレの顎を強引に上げ、上を向かせた。一は優しい笑みをしていた。
「つばさ、可愛い」
一の言葉に爆発しそうなほど恥ずかしくなった。その言葉はオレにとっては耳慣れない言葉だったとともに、散々泣き散らして、相当目は腫れて鼻は赤くなっているのは明らかだったのだ。
一はオレの髪の毛を絡め取り、そっとそこにキスを落とした。髪の毛にまで全神経が集中してしまったような気がした。髪の毛を引っ張られたわけじゃないので、あまり感覚はない筈なのに妙に擽ったかった。
「つばさ、いい?」
「ええっっと、何が?」
本当は一が言わんとしていることは解っていた。だけど、聞かずにはいれなかった。
「それを聞くんだ?」
オレのことなどお見通しといった顔で口の端を緩める。見透かされたようで尚更に恥かしい。一の顔がオレの耳元に来て、オレだけに聞こえる小さな声で囁く。それは一の誕生日の日に囁かれたものと全く同じ言葉だった。オレは遂に何も考えられなくなって、固まってしまった。
「つばさ。つばさ?」
大好きな一の声がオレの耳を悪戯に擽る。甘い呪文を一は唱えているのかもしれない。
「大好きだよ、つばさ」
「オレも、オレだって一が好きだ」
無意識に漏れた声に自分でも恥かしくなり、両手で口を塞ぐ。一はオレを目を細めて見ていた。
抵抗空しく、塞いだ手を一に剥ぎ取られた。もとより、抵抗するほどの強い力が出なかった。一の唇に舐め取られるように唇を奪われた。立て続けに激しいキスをされ、息をするのもままならない。暑い吐息が零れ落ちた。息が出来なくて苦しい、だけど、どうかキスを止めないで。キスが不意に止み、オレは瞳を開いた。本当に1mmくらいの距離に一がいた。唇が触れるか触れないかの距離。鼻と鼻はぶつかっていた。その状態で一は口を開く。
「つばさ。可愛い。もう、我慢出来そうにないよ、俺。ごめん」
唇を吸われ、ゆっくりと押し倒される。
「ごめん……なんて……いらない」
キスの合間になんとか隙をついて言葉を紡ぐ。
「オレも……一と同じ……気持ち……だから」
その刹那、キスが止んで、一がまじまじとオレを見つめる。ニコッと急激に顔の筋肉を緩めた。
「つばさ。愛してる」
一のくちづけが首筋にも落される。
「オレも……だよ」
「つばさ。こうやって抱き合ってる時だけでいいから、自分のこと私って言ってくれないか?」
「何で? やっぱり一もオレが女の子みたいに振る舞う方がいいのか?」
「無理に振る舞う必要なんかないんだ。俺はどんなつばさも大好きだよ。だけど、文化祭で真昼を演じたつばさが凄く可愛かったから、もう一度聞きたい。こうやって二人で触れ合っている時だけでいんだ。ただの俺の我が儘なんだけど」
一は何度もオレを可愛いと言ってくれた。一の前だけなら、女の子になるのもいいかもしれない。というか、オレ的にもこの話し方を直した方がいいのかなとは思っていたんだ。かと言って急に女の子っぽい話し方をするのも気持ち悪い。一がそう言ってくれるなら、オレも切り替えやすい。
「いいよ。わわ私もそろそろ言葉遣いを直した方がいいのかなって考えていたし」
オレのぎこちない「私」に一がケタケタと笑った。
「笑わないで……よ」
オレは頬を膨らませた。
「ごめん。可愛いからつい」
そんなに可愛いって連呼しないで欲しい。オレはそんなに可愛くないよ。
「わ私は全然可愛くないよ?」
「どうして?」
「だって、男っぽいし、わ私には可愛い要素なんてこれっぽっちもないよ」
「つばさは可愛いよ。世界で一番可愛い。誰がなんて言おうと可愛い。俺の前でだけ、可愛くいて。他の誰かが可愛いだなんて思わなくていいんだ。俺だけつばさの可愛さ知ってればいい」
「何それ? 一って案外やきもち妬き?」
そうだよ、と言って一はオレの唇を塞ぐ。熱くて蕩けるようなキスを角度を変えながら、放れたと思ったらまた塞がれる。
「俺の前にいる時のつばさは可愛い。でも、他の男の前で可愛いとこなんて見せて欲しくない。だから、そんな顔、誰にも見せないでよ」
一に見下ろされ、オレが何も言わないうちに、ちゅっと鼻の頭にキスを落とされる。そして、一の頭がオレの視界から消えた。その後、与えられた刺激にオレは啼いた。少しずつ緊張していた体が解きほぐされて、何も考えられなくなっていく。気付けばオレは一に衣服を剥がされて、産まれたままの姿になっていた。一もいつの間に脱いだのか、衣服を身に着けていなかった。
男の人の裸なんて小さい頃に見ただけで、見慣れないから、目のやり場に困ってしまった。だけど、一の体はとても締まっていて美しかった。一の体に見惚れていたら、一に覗きこまれた。
「怖い?」
オレは首を横に振った。相手が一だからだろうか、怖いなんて一つも感じなかった。
「一は、怖くない?」
オレは一の引き締まった胸板に手を伸ばして、そう言った。一が自分から女性を抱くのは初めてだから。それも、あんなことがあっただけに、もしかしたらオレよりも恐怖を感じているのではないかと思ったのだ。
「怖くないよ。寧ろ、嬉しい。嬉しすぎ」
一の顔が近づき、唇を重ねた。そして、オレは貫かれた。
「んんっあああ」
一がオレの手に手を絡めた。オレはその手を強く握りしめた。
「つばさ、愛してる。愛してる……」
一を全身で感じていた。重なり合う全ての箇所が熱に侵されたように熱い。薄暗い部屋の中に、二人の甘い吐息が重なり合う。汗ばんだ肌に吸い付くように重なる二人の身体。
快楽の波が何度も訪れた。快楽の世界に溺れるように、落ちるように。そして、二人同時に果てる。
暫くオレは力が入らなかった。一もそれは同じで、オレの隣で荒い息を吐いていた。
「つばさ。気持ち良かった?」
「ばっ馬鹿っ。そんな事聞くなよ」
一に背中を向けて顔を隠した。あんなに淫らな姿を見せておいて今更なんだが、急に恥かしくなってしまった。
一がオレの背中にキスの足跡を残す。
「いやっっはあっ」
イヤらしい声が出て、余計に恥かしい。
「そんな声出したら、もう一度したくなるんですけど」
「違っ。一がそんなことするから……んっ。ヤダ、もうやめっ」
「じゃあ、こっち向いて。さっきの質問の答え聞かせて?」
オレは諦めて振り向く。そこには愛しい一の笑顔があって、胸がきゅんっとなった。
「凄い汗……」
一の額に触れ、それを拭いながらそう言った。
「ありがとう。で、さっきの答えは?」
どうしてもその答えを聞かないことには許してくれそうもない。
「気持ち良かったよ。……嬉しかった。一とだから、全然怖くもなかった」
一の顔から視線を逸らし、オレは早口で言った。
一に抱き寄せられ、顔が目の前に迫り、顔を隠す術を失った。
「俺も気持ち良かった。つばさと一つになれて嬉しかった」
オレは頬を染めながらも、一の言葉が嬉しくて自然と笑顔が漏れた。すると、突然一にぎゅぅっと抱き締められて、開いた唇が塞がれた。
「つばさ。駄目だ。俺、もう一回したい」
再び始まった胸元へのキスに、「ちょっと、やっ」、言葉とは裏腹に、抗うことも出来ず、いや、逆にそれを望んでいたのかもしれない、そして、再び快楽の世界に堕ちて行く。
この場を借りて申し訳ございませんが、メッセージを下さった健様、返信の仕方がいまいち解りませんでしので、こちらでお返事させて頂きます。
メッセージ有難うございました。健様のご希望のラブを今回前面に出してみました。いかがでしたでしょうか。最後は、健様のご希望のラストを迎えるかは解りませんが、最後までお付き合いお願いします。ラストまであと2話です。有難うございました。