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第32話 10月-1

 ―――10月。

 すっかり秋めいたこの頃。若干涼しい風がオレの髪をさらさらと揺らす。

 一方学園内では、そんな秋を感じる暇がないくらいに文化祭の準備で大わらわだった。生徒達には紅葉を楽しむ暇もない。

 オレ達のクラスでは焼そば屋をやることになっていた。食材の手配やポスター、看板、旗の作成。食材の手配なんかはそんなに大変なことではないが、ポスター、看板、旗は案外骨の折れる作業だったりする。旗なんてどこかに売っていそうな気がするが、ホームルームで誰かが、この際布地を買ってきてオリジナルを作ろう、何て言いだしちゃったもんだからこんな事に。なんだか先ほどから愚痴っぽく言ってはいるが、実はみんなで何かに取り組むこの感じが何気に好きだったりする。今年が高校生活最後だと思うと、尚更にみんなの力も入るってとこだ。

 オレはポスターを作成する班なのだ。校内に貼り出されるポスターなものだから、あまり酷いものは作れない、と考えているとなかなかペンを進めることが出来なくなってしまった。

 着々と皆完成させていく中でオレだけが取り残されていく。

 オレはそれを持ち帰り、家でやることにした。

「なあ、一。なんかいいアイデアないかな?」

 居間のテーブルで頭を抱えていたオレは、止む無く一に助けを求めた。

「俺がつばさのポスターのアイデア一緒に考えてあげる代わりに俺のも手伝ってくれる?」

「ああ、いいよ」

 あまりにアイデアが浮かばなかったもんで、安易にその申し出を引き受けてしまった。それを後に深く後悔することになろうとは今のオレには全く解らなかった。

「よしっ。そうだなぁ、例えば屋台の絵を描いて吹き出しで美味いよって言わせてみたり」

「それは、誰かが書いてた」

「んじゃあ、石ちゃんの絵を描いて、まいう〜って大きく書くとか」

 石ちゃんかぁ。言わずと知れた食いしん坊タレントの石ちゃん。冬でもタンクトップとオーバーオールを着て、ゲレンデを歩いている姿は少々怪物じみていると思うのはオレだけだろうか。だが、オレは石ちゃんが好きで、美味しそうに食べる姿は好感が持てた。おデブタレントと言われる人たちの中で、ダントツ一位だとオレは思う。

「あとは、絵は無しで大きく文字を書く。シンプルに文字だけ」

 「STOP ○○」みたいなポスターを見たことがある。恐らく一はあんな感じのデザインのことを言っているんだと思う。

 一は次々とアイデアを出していく。その中には、それはないだろうってものもあったけど、随分と参考にはなった。

「うんうん、解った。とりあえずやってみるよ。一の手伝いは明日でもいいか? 今日中にこれ終わらしちゃうからさ」

「ああ、いいよ。明日お願いする」

 一の返事を聞いて、オレは自室に籠ってポスターを仕上げた。


 そしてその翌日、夕食を終えると一に薄っぺらい本のようなものを渡された。

「何だよこれ?」

「台本。生徒会で劇をやることになったんだ。つばさには、練習の付き合いをして貰おうと思って」

「え〜? 劇ぃ。オレは読むだけでいいんだよな? まあ、それなら別にいいけど」

 一が劇に出るんだ……。ちょっと見てみたい気がする。ちょうど休憩の時間とあえば、見に行けるかもしれない。

「んじゃ、一通り目を通して。その方が読みやすいと思うから」

 ん、解ったとオレは応じて台本を開いた。



 『アイ ラブ マイ ゴースト』

 普通の高校に通う主人公のしょう。その恋人である真昼まひる

 二人は下校途中、交通事故に遭ってしまう。

 翔は奇跡的に掠り傷だけで一命を取り留めた。だが、真昼は帰らぬ人となった。

 真昼を失った悲しみと、助ける事の出来なかった己の不甲斐無さに翔は塞ぎ込んでいた。

 そんなある日、友人に元気づけられていた翔の前に真昼が現れる。その姿は、翔には見えるのに、友人達には見えていなかった。真昼は幽霊となって戻って来た。

 翔にはその姿が見え、尚且つ声も聞くことが出来た。

 真昼はある物を探して欲しいと言う。それが何なのか真昼にさえ解らなかった。だが、それを探し出さなければ真昼は成仏することが出来ない。浮幽霊となりいつまでたっても天国に行けなくなってしまうのだ。

 翔は考えた。このまま真昼の探し物が見つからなければ、真昼は傍にいてくれる。だが、それは翔にとって、真昼にとって幸福と言えるのだろうかと。姿が見えるのに触れることも、キスをすることも出来ない。自分の中で迷いを抱きながら翔は探し始める。何を探すのかも解らない探し物を。

 真昼の部屋を捜索中、真昼のつけていた日記が見つかる。真昼の許可を得て、中身を読む。真昼の事故の前日、真昼は携帯ストラップを落とし、それがなかなか見つからなく、明日も探そうと記されていた。それは翔が初めて真昼にプレゼントした想い出の品だった。

 真昼は事故当日、ストラップを探していて、咄嗟の行動が出来なかったことを明かす。真昼は翔にストラップを失くしたことを言えず、二人で歩いている間も翔に気付かれないようにこっそり探していたのだ。もし、あの時普通に歩いていただけなら、避けることが出来たであろう。複雑な思いが翔を包む。だが、翔はストラップを探す為、真昼ストラップを失くした日の行動範囲を歩き回るのだ。

 そんな友人の姿を見て、翔の友人であるたもつ健吾けんごは翔を問い詰める。一体何を探しているのだと。二人は最近、翔が狂ったように何かを探していることを訝しく、心配に思っていたのだ。

 翔は、信じて貰えないことを覚悟して真昼がここにいて、探し物をしていること、それがないと成仏出来ないことを話した。二人には真昼の姿が見えないのだから、それを理解することは難しい。だが、翔の目は嘘を言っているようには見えなかった。戸惑いながらも二人は翔を手伝い始める。そして、ストラップは見つかるのだ。

 翔は真昼と一緒にいたいと思う、だけど、また次の世界で一緒に歩きたいからとストラップを渡す。

 別れ際、二人は唇を重ねる。来世で会う約束をして。



「なあ、一。これ、オリジナル?」

「そう。うちの副会長が書いたんだ」

「へえ、凄いな。こんなの書けんだ。で、一は何の役?」

 まあ、聞かなくても大体の想像はつくんだけどね。

「俺は翔役」

「じゃあ、オレは真昼の台詞を読めばいいんだな?」

 一が嬉しそうに頷いた。


 オレ達が最初に読み合わせをしたのは真昼が幽霊として初めて現れるシーン。

「真昼? 真昼なのか?」

 友人である保と健吾が心配そうに翔に声をかける。その台詞もオレが読んだ。友人達と別れ、自分の部屋に入ると真昼が翔に声をかける。

「翔? 翔には私が見える?」

「ああ、見えるよ真昼。本当に真昼なんだよな。会いたかった」

 真昼に伸ばしかけた手を翔は悔しそうに引っ込める。翔には解っているからだ。幽霊に触れることは出来ないと。

「翔、ごめんね。私は幽霊だから、もう二度と触れること出来ないね」

 涙を流さなくても解る。真昼は泣いているのだ。翔は抱き締めて、頭を撫でてやりたいがそうすることも出来ない。

 真昼は寂しそうに微笑む。

「翔、お願いがあるの。私が成仏するには何かが足りないの。何かが必要なの。それを探して欲しいの。きっとなにか私の大切なもの」

「それは何?」

「私にも解らない。きっとそれが心残りになっているんだと思う。私には事故前後の記憶がはっきりしないの」

「解った。探してみよう」

 ここで照明が消され、真昼は奥に引っ込む。翔だけにスポットライトが当てられる。

「俺は考えてしまったんだ。その何かが見つからなければ、真昼はずっと俺の傍にいてくれる。見つからなければ……」


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