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文芸部員 馬宮むつきの独白

作者: 小林 樹人

 そんなに、小説を書くのが好きなわけじゃないんだよ。嫌いではなかったかな。でも、それを盾にして生きようなんて、思ってもみなかった。


 恋がしたい。愛されたい。それはね、異性愛としての話なんだよ。私、わがままなのかな。恵まれてるのかな。知ってるよ、私は恵まれてるって。その上で物足りないんだよね。ひどいよね。欲深すぎる。家族以外の誰かが、そんでそれは異性が、できればイケメンが、いやイケメンの基準すら自分の中でも曖昧なんだけどさ、とにかくそんな人がこう、後ろからそっと抱きしめてくれて、「大乗だよ」って言ってくれたらさ、もうホント、スライムとかになっちゃうよきっと私は。人間の姿でなんていられないと思う。とろけちゃうよ。とろけてえな。マジとろけてえ。はーーーっあざまーーーす!て感じたい。これってダメなのかな?フツーだと思うんだけどダメかな?愛されてえよ。無条件に。あ、今気づいたけどごめん「大乗だよ」じゃなくて「大丈夫だよ」だわ取り乱して仏教徒ガチ勢みたいになったわ。

 

 その衝動をさ、抑え込もうとした時期もあったよ。でも無理だった。女子だから?いや、私だからだな。言いたいよ、世界中に。「誰か、私に夢中になって下さい!」って!スピーカー持って群衆の前で絶叫して、そんでその様を動画にして、それを見た誰かが私を後ろからそっと抱きしめてくれるんだ。さっきも言ったけど、ここは譲れないな。バックハグってヤバくない?ヤバいよね?204万円でそれが叶うなら、私は絶対に204万円を貯めてしまうよ。1億円なら?バカ言うな、それは無理だよ。さすがに。自分の価値見直して出直してこいや。二度直せ。


 ってね。これが私の根っこなんだけど。別にこれのみで生きてるわけじゃないから。フツーに勉強はしてたし、むしろ成績は優秀な方だったんですよ?そんでカナダに1年間留学した。地域は選べなかった。とりあえず夢もなかったし、ハクがつくと思って飛び込んだ。条件は満たしてたしね!

 英語使いの彼氏なんてできるわけがないよね。こちとら日本語の17年選手だってのに日本人の彼氏ができないんだから。非モテのコミュ症っぷりをナメんなよ。そもそも日本語でうまくやれなかった人間が、よりハードルの高い英語でうまくやれるわけがないよね論理的に。仮にそれで言い寄ってくる男がいるとしたら、そいつは私じゃなくて『日本人』ないし『アジア人』に喰いついてるだけなんだよ。だって、私は自分のことを全然向こうで表現できなかった。何日間かなんて数えてないけど、例えるなら「1日をやり過ごすのを365回続けただけ」みたいな。あっちでしか学べなかったことといえば、カナダの歴史くらいじゃないかな?あとタコスが旨かったとか。それだってガチれば日本で事足りるだろうし。興味ないけど。


 そんで日本に帰ってくると、1コ下の学年に組み込まれるわけ。

「あいつは留学生だから英語はできて当然」なんて。ふざけんな。日本に帰ってきてからの方が英語頑張ってるわボケ。その理屈だったら日本人はみんな国語満点になるよね?なら国語のテスト自体いらないよね?でも現実は満点どころか7割も取れない日本人だらけだよね国語は。

 太平洋を越えて、異郷で生きてきた私には、帰国して特に何も残っていなかった。ホストファミリーなんかは優しかったし大好きだよ。でもなぁ。漠然と、分かっちゃうよね。「この関係性はずっとなんて続かない」って。帰国してしばらくの間、国際交流ごっこを兼ねて連絡をしてるだけ。私は彼氏や恋人を渇望しているのであって、疑似的な家族愛なんかは…いや…ホント泣きそうになるんだけど…ありがたいんだけど…それじゃないんだよなあ。それじゃないんだよ。私には、たったひとりがいればいいんだ。人の善意さえも正当に飲み下せない。淋しいな。淋しいよ。誰も亡くしちゃいないのに、私は宇宙で一番淋しい。

 こんな考え方をする私は卑屈なのかな?とか、考えていくうちに。鬱になってたみたいよ。もう乗り越えたはずなんだけど、当時はリアルにヤバかった。学校、行けなくなっちゃってさ。誰が悪いわけでもないのにさ。存在しない架空の『誰か』にヤラれてしまったんだ。情けないよね。それで、留年。留学からの留年て。天国と地獄の体現者か。神か。1コ下の世代が先輩になってしまったよ。


 ただ、自分なりに乗り越えたからここにいるわけで。生きるには大丈夫だと思う。なんとなーくで所属していた文芸部で、あんなにウブで可愛らしかった後輩ちゃんと今や同学年。彼女は立派に部長をやってる。でも足りてないところがいっぱいある。そこにイラついてしまう自分が大嫌い。でも大丈夫、鬱の沼にはもう落ちない。

 暇つぶしに書いていた小説は、今や私の魂そのものになっている。こんなに、こんなになってしまったのにも関わらず、結局私は変われないんだ。『恋がしたい』というそれだけで、必死に恋愛小説を書いている。こんなことは部員以外には知られたくないんで、ペンネームで隠している。隠しているけど、やっぱり世界中に伝えたいよ。「私はこんな風になりたいんだ!」って。誰か、私を肯定してくれるかな。くれたらいいな。自己矛盾だね。でもいいんだ。もう、カッコつけられる立場じゃないし。私は、どこに行ったって何を見たって私でしかいられないんだ。それに気づくのに、わずか19年しか費やしてないってむしろ早くない?早いんだよ。早いよね?…今年の誕生日がきたら、現役成人高校生が爆誕してしまうわけだけど。


 私の拠り所は恋愛小説を書くことで。それを許容してくれる文芸部という場が愛おしくて。これがダラダラなんとなく進んでいくのが、私は嫌だな。もっと明確な方向性が欲しい。溜まり場じゃないんだから。これが目下、私の抱えている爆弾。破裂させたくはない。けれど、ときどき、そうなりそうになる。


 それでもよければ。どうか。私が愛して作ったコたちを、愛してやってほしいよね。

 私はそうやって生きていくしかないんだよ!今のところはね。

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