1 私の種族?魔女(薬)ですけど何か?
「っ、早くいかなきゃ!!」
私は急いで道を走っていた。
外はもう暗く、月が上っている。
いつもならばどちらかというと
早く仕事が終わったからゆっくり帰るのだが···
何故今日急いで走っているのか。
それは超大作VRゲームが発売されたからである。
VRゲーム、《アルカディア》
それは五感の再現すらも可能とした究極に突き詰められたVRゲーム。
レベル制でありながら
初心者でもスキルを駆使すれば高レベル相手でも勝利できる。
種族、職業は実に多様性があり、全てを把握できないほどだ。
様々なダンジョンやクエストがあり、
このゲームをコンプリートする人はきっと出ないだろう。
アルカディアは先日販売されたのにも関わらず
今や100万人がプレイしている。
政府が対策をとろうとするほどの熱中っぷり。
これに興味を持たない方が無理な話だ。
だからこそ私は急いで走っているのである。
何度も通り過ぎたゲーム店を今日だけは駆け込む。
アルカディアは一つだけ残っていて
私はそれを持って受け付けに駆け込んだ。
お金を払って私は家まで走った。
いつもデスクワークばかりで運動不足の体が悲鳴をあげる。
しかしそんなもの気にもせずに私は走り続けた。
景色がどんどん変わっていって家に着く。
「···はぁっ、は、はぁ···」
部屋に着いた途端膝がガクンと崩れる。
そりゃそうだ。今までずっと全力疾走していたのだから。
ガクガクと震える足に鞭を打って私はアルカディアを起動させた。
視界がグニャリと歪む。
足元の足場がなくなったような、空中に放り投げられたような
感覚を一瞬味わったあと私は真っ白な部屋にいた。
ポコン、と私の前にウィンドウが開く。
『VRゲームアルカディアへようこそ!』
いかにもありそうなテンプレのセリフがでた後
私の目の前にステータスが開かれた。
レベル 1
名前 なし
種族 なし【※特殊種族選択可能】
職業 なし
HP 10/10
MP 5/5
筋力 0
敏腕 0
知力 0
体力 0
魔力 0
運 0
魔法 なし
スキル なし
ステータスポイント 残り100
スキルポイント 残り100
···特殊種族選択可能?
アルカディアは人の様々な素質からごくたまに
激レア種族になれるって聞いたことあるけど···
私は特殊種族選択可能という文字に触れた。
するとまた新しいウィンドウが開かれる。
【特殊選択可能種族
・魔女(薬)
ポーション作りに秀でた魔女。
MPは潤沢であるが、
魔法はポーション製作用のものしか使うことが出来ない。
しかし作り出したポーションは治癒、毒、効果に分かれ、
どれもが最高級品質である。】
「······いや、どういうクソゲーよ。」
魔法がポーション製作用しか使えないとかどゆこと!?
攻撃魔法は!?防御魔法は!?
戦えないじゃん!
意味分かんないんだけど···
アルカディアはこういうネタ要素もあるんですか!?
あるんですか!?ねぇ、どうなの!?
「···はぁ。どういうことよ、これ。」
系統は魔女だけど更に薬に特化しすぎた魔女ってこと?
てか魔女って激レア種族だよね?
なら私のはもっとレアってこと?
でも一見ゴミみたいな種族よね?
だけどよく考えよう。
ポーションは治癒、毒、効果に分かれる。
これは多分回復ポーション、毒ポーション、
バフ、デバフポーションだろう。
回復は名の通りHP回復。
毒は飲ませたり投げつけた相手にダメージを与える。
効果は様々な効果を相手や自分につけられる。
これのどれもが最高級品質。
なら回復は瀕死から全回復、
毒は全てのモンスターを殺す毒、
効果は攻撃力上昇だとしたら何倍にも上がるってこと?
少し調べたことあるけど最高級品質って相当の効果だし、
値段もするらしい。
攻撃手段だってないかと思ったけど毒ポーションさえ作れれば
瞬殺だよね?
「···結構、チートかもこの種族。」
ゴクリと喉がなった。
やってみようじゃないか。
こんだけ人気のあるゲームだ。
何か隠し要素があってもおかしくはない。
私は意を決して【魔女(薬)】をタップした。
また新しいウィンドウが開く。
『特殊種族を選択しますか?Yes/NO』
Yesに触れると
『特殊種族、魔女(薬)を選択しました。
付属アバターを作成、魔法に【ポーション製作台製作】
【合成】を追加しました。
スキルに【固有スキル ポーション製作】
【固有スキル 視界拡大】【固有スキル 物拾い】
【固有スキル アイテム感知】を追加しました。』
沢山のウィンドウが開いて一気に魔法とスキルを獲得する。
固有スキルとか沢山獲得するのってありなのか。
いや、元々が戦闘系じゃないから釣り合いがとれているか?
でも物拾いとかアイテム感知って完全に材料収集用だよね。
魔法も完全にポーション製作用だし。
「···というか、アバターってどうなるんだろう?
固定らしいけど。」
そう言うとパッと鏡が真っ白な部屋に出現する。
アルカディアでは第三人称視点にして
自分を見ることができない。
だから鏡やガラスで見るしかないのだ。
私は鏡を除きこみ···絶句した。
陶器のような透き通る白い肌。
宝石にも劣らないエメラルドグリーンの瞳。
キラキラと輝く空色の髪。
妖精だと言われても納得するほど整っている容姿だった。
それに魔女特有の三角の魔女みたいな黒い帽子に
黒いマントを着ている。
現実世界の自分とはかけ離れた姿に思わず絶句する。
「これ、が···私。」
綺麗。その言葉は言葉にならずに空に消えた。
この世界の美しさを表す言葉は
全てこのアバターの為に出来たみたいだ。
私はますます頑張ろうと気合いを入れて
ステータスを設定した。
* * *
「ふぅ。こんな感じかな?」
30分位かけてできたステータスは私が見ても文句なしだと思った。
レベル 1
名前 セーナ
種族 魔女(薬)
職業 薬師
HP 20/20
MP 15/15
筋力 20
敏腕 30
知力 10
体力 20
魔力 10
運 10
魔法 ポーション台製作
合成
スキル アイテムボックス
固有スキル ポーション製作
視界拡大
物拾い
アイテム感知
スキルポイントは100あったが100必要とする
アイテムボックスにつぎ込む。
ステータスは敏腕を多めに。いつでも逃げられるようにね!
名前のセーナは本名をいじっただけだ。
職業はそれしか選べなかった。
『ステータス設定を終了しますか?』
「Yes」
『···了解しました。
ではこれで設定は終了です。では、楽しんで!』
ここに来たときと同じ感覚が一瞬襲い、
気がつくと私は森にいた。
近くの看板には《魔女の村》と書いてある。
ここが私のスポーン地点か。
「···取りあえず入ってみる?」
周りは森だ。
ならば魔女の村に向かった方がいいだろう。
「···職業魔女だから平気だろう。」
私は深く考えずに魔女の村へ足を踏み入れた。