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病弱なまおうのむすめつかまえたけど、俺の手には負えないので、誰かどうにかしてください。9

その知らせは唐突だった。

いつものように山に薬草やウサギを捕りに行って帰ってくると、デリスの姿のない家の中には、見覚えのない白い紙が一枚落ちていた。

不審に思ってその紙を手に取り、内容を眺める。

王都からの知らせだった。

その時点で嫌な予感はしていた。

でも、それが当たらないようにとだけ願っていた。


『デリス殿

  早急に王都に来られたし。

  魔王再来の可能性あり。 

  王は、貴殿の力添えを切に願われる。 』


要約するとそんな感じだった。

まずは、魔王が再び現れたことに驚いた。

そして………。


「デリス……」

紙を握りしめていた。

小さく呟いた言葉に反応するものは無く、寂しさだけが帰ってきた。

ようやく手に入れたこの生活をだれかからの介入で失うのは嫌だ。

それだけは、どうにか。

「い、いやだ……どうしよ……」

呟いたら身を侵略するように怖さが溢れる。

知らない誰かに心臓をわしづかみにされたような。

いや、それ以上の恐怖。

「………怖い、」

くしゃくしゃにした紙を手放すと、茫然と闇を向いて立っていた。

光の入らない家の中、デリスがいつも座っている椅子。

そこにかけられた上着。

それをそっと持ち上げると、ぎゅっと抱きしめた。

彼の香りがする。

落ち着く匂い。

苦しいとき、隣に居てくれた初めての人の匂い。

二人目のお父さん。

「行かなくちゃ……ここに居ちゃいけないんだ。私のために、仕事をしなくちゃいけなくなる。」

離しがたい上着は迷った末に腕をとおして羽織った。

ぶかぶかだけど、心地が良かった。

山のものが入った籠は机の上に置く。

肉は焼く処理しなく手はいけなかったが、今はそんなこと考えられなかった。

腰に差した小動物用のナイフを握りしめ、ポケットの中の口紅を上着の変わりに椅子の上に置く。

これはもう、必要のないものだから。



断るつもりだった。

村に買い物に出ていたとき、王都からの使者とすれ違い声をかけられていた。

手紙を置いてきたことと、大方の内容を聞き、後で返事をしに王都へ手紙を飛ばすことだけ言い、家へ急いだ。

ミミィに先に見られては、いらぬ心配をかけそうだったから。

誰も居ない家を見たときは、正直ほっとした。

まだ、帰ってないのだと思ったから。

でも、違和感に気付いた。

いつも山に持って行っている山採用の籠がある。

それに、鼻につく獣臭と血のにおい。

嫌な予感がした。

急いで手紙を探すと、机の陰に白いくしゃくしゃの紙が落ちていた。

見られたのだと分かると、血の気が引くようだった。

見られたのだ。既に。

では彼女はどこへ?

考えても見当も付かなかった。

行く当てもない彼女は森に戻ったか、将又村の誰かの家へ行ったか。

分からないが、探すことしか出来なかった。

当てずっぽうでも行動するしかなかった。

混乱していたこともあるだろう。

おもえば常日頃、彼女からはいつ寝首をかかれてもおかしくないと思っていたのだから、居なくなったのであれば、これで殺される可能性は低くなっただろうと思うべきだったのだが、たとえ殺されても良いと思えるほどに彼女に対する情がこの三年の間に育まれていた。

愛着だろうか。居ないと不安に思うようにすらなった。

家族とはあまり合わないので、彼女との生活は、人生で初めての誰かとの人間らしい生活だったように思う。

俺は、走り出していた。

当てもなく、彼女を、ミミィを探して。

握りしめた手は関節が白くなるほど力が籠められていた。



ふぅ…と唇からと息が漏れる。

父から聞いたのだ。また、魔王が現れたと。

魔王、勇者。

それらに関して、良い思い出はない。

今でも、婿も取らずに悠々と暮らしているのがその結果だ。

本音、下らない話だろう。

初恋が忘れられないなんて。

ヤキモチも失望もした。

羨望と愛情。その違いなんて分からない暗い幼い頃から、彼の瞳に見つめられたかった。

私は王族としてよくやってきたと思う。

それでも欲深さは罪なのだ。

欲は汚点。お母様は欲のない、女としての役目を果たす女になりなさいとおっしゃられた。

私は、女とは、男よりも立場の弱い女とは、選択の自由すらもないのかと逆上した。

選ばれる女じゃない、選ぶ女になりたかった。

友も、家来も、愛する相手も。

でも、それももう無理そうだ。

逃げ続けたらいつか袋小路に突き当たる。

そうなったら、暴れずに向き合うのが良いだろう。

苦しまないだろう。


「___本当に、よろしいのですね。」

「くどい。良いと言ったら良いの。この話は終わりで良いわね。」

「では。」

頭を下げて出ていくそいつを見送ることもせず、窓の外の沈み行く太陽を眺めた。

自嘲気味に笑う。

こうして、父からの無理矢理のお見合いを受ける日が来るとは。

身を固めるには最後のチャンスだろう。

これで駄目なら、と言うか、自分を押し込めて納得するだけの覚悟が持てないなら、姫なんか止めて、勇者として魔王の元に出向こうかと思った。

「やだなぁ。誰かの女になるのなんて。まっぴら御免ですわ。」





***

こんにちは。まりりあです。

次回はアルマデスさん達の話になるかな。


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