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病弱なまおうのむすめつかまえたけど、俺の手には負えないので、誰かどうにかしてください。8

続きです。


「魔王は、世襲制じゃないから前王を殺すか、空の玉座に座るかのどちらかだった。彼は前者だった。誰かを殺して、何かを手に入れた人って、手に入れた何かはいつでも誰かの手の届くところにあることを知っているものよ。前例がまさに自分だもの。いつか自分と同じように、玉座はすぐ手の届くところにあると知り。やってくる者がいることも。人間という臆病な生き物が、鈍い武器を磨いて鍛えてやってくることも知っている。そんなやつからしてみれば、周りにいる皆が皆敵だろう。いつ誰が殺しに来るか分からない、そんな生活は、まさに地獄だろうな。」


私が地獄と形容した生活を、私は父に強要させていたのだ。

私は頼んでいないとか、父がやりたくてやったことだとは、口が裂けても言えない。

私がこの体で生まれてきたことが元々の原因なので、ここから逃れるつもりはなかった。


「私の父は、そんな王が疑心暗鬼になっていた状況を逆手に取っていったの。『家臣の一人が殺そうとしている。助けてやる。』と。戦慄したでしょうね王は。ただでさえ信じられないのに。王は父にまんまとはめられて、寝首をかかれた。父は、私のために王を殺した。あの世界で唯一殺されない病人。それは、王族だった。」


一つ、呼吸を置く。

自分が王族だと自覚したことは一度もなかった。

しかし、それにより命が救われていたのは確かだ。

父が常に世界中の人たちからその首を狙われていたから、私は生きていたのだ。

父からしたら、私は命よりも大切なものだったのだ。

なのに私は彼からの愛情を素直に感じること後出来なかった。

彼が不器用すぎて、私が鈍感すぎたから。


「私が父を魔王にしたのに、父は死んで私は生き残った。それが今になって悔やまれ……る……」

「ミミィ……」

心配そうなデリスの声が降ってくる。

熱が上がって茫洋とする頭で、私はそれでも笑った。

「あー…、熱あがったみたい。今の話も、忘れて。おやすみ。」

「ああ。」

するつもりなかったのになぁ。と、心の中で呟く。

熱でおかしくなっていたんだと自分に言い聞かせる。

だってこんなこと、

魔王を倒した勇者にする話じゃない。

殺したもののことはよく知らないほうが良いに決まっている。

それでも話しちゃったのは、私が弱かったから。

誰子と共有して、支えてもらわないと、立ち上がれないような気がしたから。

きっと彼は、この世で最もその役目に相応しくない人物で、でも、私が頼れる唯一だ。

ぎゅっと目を閉じて思った。

眠りに溶けていくはっきりとしない意識の中で確かに思った。


あー、やっぱり。私ここに居たら駄目だ。




「今はまだ空席の魔王の座…………俺にこそ相応しいと思わないか。」

「………そうですかねぇ、アルマデスさん?」

洞窟の中で男と女の声が聞こえる。

温度のない声、とでも言おうか。

とにかく冷たい声だった。

「しかしぃ、なんでまた魔王なんですかぁ?」

「魔王がなんたるか。アルジェ、お前は分かるか?」

「えっとぉ………強い?」

「それもそうだ、だが、魔王とは、いや、王とはすべからくその冷静さと強かさで民を守り、快適な暮らしを支えるものであるべきだ。」

「……結構なご意見ですねぇ。きれい事ではありますがぁ。」


コツコツと靴の音が響く。

男は、洞窟の入り口にまで来て、外を眺めた。

前王のなき今、この世界は暗く、闇に沈んだように覇気がない。

力の強いものは次の魔王にと、戦いを繰り広げては無駄な血を流しているし、力の弱いものは、人を襲うことを止め、山菜などを食べて空腹を満たしていた。

下級の魔物達が、そこら辺の草食動物同じく草を方張る姿を想像すると、可愛そうでならない。

王を立て、魔物達の暮らしを安定させ、よりよい暮らしを担保することがこの国の王に必要なことだ。

そして、それは自分ごやるべき事だ。

この国を人間の国と対等に、いや、凌駕するほどの国力を持たせることが、民を守り、快適な暮らしにつながる。

軟弱だが、魔族より知恵を持った人間。

その頭の回転により多くの魔族がやられてきた。

だが、私が負けることはない。

魔族にしては珍しく、少しは頭の回る私なら。


「行くぞ、アルジェ。お前の力が必要だ。」

「こんなとこまで来てくれてぇ、あなたみたいな男に誘われて、行かない女はいないだろうねぇ。でもぉ、私は別に惹かれないんだけどぉ。」

出してくれたとこ悪いんだけどねぇ。と女は笑う。

そっと洞窟の闇から覗かせた顔は幼さを残す可愛らしい顔だった。

金髪、緑眼。頬から首にかけて、そして恐らく体にかけて、つる薔薇の入れ墨が入っている。

しかし、その右手はなかった。

「お前なら、出来るだろう。前王に唯一たてついたお前なら。」

「にゃはは!懐かしいねぇ。」

笑い声にアルマデスは眉をしかめ、体から冷気を垂れ流した。

不機嫌らしい。

それを感じ取った周りの動物たちが我先にと逃げていく。

「ありゃ?不機嫌かなぁ?」

「まあな。前の王は、とにかく頭が良い方でいらっしゃった。」

「政治も上手かったぁ。税は高かったけどぉ、福利厚生はちゃんとしてたしぃ。」

「では、なんでたてついた?」

「ん~?なんでだろぉ?暇だったから?」

「そんなだから負けたんだ。」

「なぁ?力では勝ってたもん。でもぉ~、ここに来たら美味しいもの食べられるって言ってたのにぃ、ここ全然美味しいものないしぃ、なんか封印されるしでぇ、災難だったんだよぉ?」

「………心配になってきた。」


歩き出したアルマデスの後をアルジェがおう。

洞窟をでて三メートルほどのところでアルジェが立ち止まると、ドレスの背中の布を破って一対の翼が飛び出す。

節くれ立った木の枝のようなそれには、黒々しい幕が張られ、風を孕んでいた。

何度か羽ばたかせると、のびをするようにピンと伸ばす。

「う~。外の広いとこ久ぶりぃ~。」

少しづつ、周りに光が集まってくる。

色とりどりの輝くものに、女は微笑んだ。

「洞窟の中は闇しかなかったしぃ、良いねぇ、やっぱり外は。」

その姿をアルマデスはチラリと見た。



***

こんにちは。まりりあです。

スマホで打ってるんですが、文字のところが急に小さくなって戻し方が分からないです。結果、うちずらいです。

ちなみに、アルマデスとアルジェが互いの名前を知っていたのは、最初に自己紹介してたからです。

んでは、また次回。

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