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病弱なまおうのむすめつかまえたけど、俺の手には負えないので、誰かどうにかしてください。5


田舎の暮らしは楽じゃない。

王都は魔法を使った施設や機械が溢れ、それなりに楽な暮らしが誰もができるようになっている。

しかし、ここのような村は違う。

食料や生活用品の入手すら骨が折れた。

まあ、現在無職、所持金も心許ない俺には、金のかからない田舎の暮らしは身の丈に合っていた。

娯楽がないのが欠点だが、どうしてもストレスがたまったときは、剣を振っていた。元勇者の娯楽とはそんなものだ。


来てから三年。

この生活にも慣れ、なかなか楽しくやっている。

魔王の娘、ミミィも成長し、体も強くなって、熱を出すことも少なくなった。

今では、野山を駆けまわって遊んでいる。

時々、山の中で倒れているが。


「ミミィ。飯だ。」

「はぁーい。今日はなに?」

「シチューだ。」

「昨日のウサギ?」

「ああ。」

わあーい、と言うと、大人しく席に座る。

始めこそ、人の食事に戸惑っていたものの、慣れれば美味しいものだと言っていた。

味覚的には近いのかも知れない。

姿形も近しいところがあるから、不思議ではなかった。

でも、一つ。不思議なことがある。

あれだけ酷い仕打ちをした俺に、この子はよく懐いてくれた。

父親を殺した男に、この子は義理の父のように接してくれた。

これは、不思議でたまらなかった。

最初こそ、いつ寝首をかかれるかと思っていたが、そんなことはないと思い始めた。

この子は素直で良い子だ。

この年にしては冷静沈着で頭の回転が速い。

あるいは、今の力だと、此方に反抗しても勝てないと分かっているからかも知れない。

そうだとしたら、俺は、この子が大人になるまでの命と言うことだ。

それならそれで良いのだが。

この世に残してものは、そうないと思っているから、せめて、今この手に握っているミミィさえ独り立ちして、手がかからなくなれば、俺の存在意義はそこまでと言うことだ。

ハフハフとシチューを頬張るミミィを見る。

薄汚れてきたワンピースを見る。近くのおばあさんが孫娘のお下がりをくれたやつだ。

もっと、上等の着物を着させてあげたいきはあった。

自分とて、もとは国で最も裕福な人々に囲まれていたわけで、、ものの善し悪し、高価安価程度は分かっているつもりだ。

そして、ドレスの一つ、装飾の一つ、さらには化粧の一つで女がどれだけ変わるかも。

冒険途中ですら、女性のレジーナは薄く化粧をしていた。

旦那との約束………とかなんとか。

はぁ、とため息をついてお椀の中で無意味にスプーンを回した。

ミミィが目をパチパチさせながら問うてきた。

「どょうしたにょ?」

「ミミィ。飲み込んでから話なさい。」

ん。と言うと、口の中のものを少しずつ飲み込んでいく。

焦らずゆっくり噛んで欲しいのだが。

「んで、どうしたの?」

「いや、お前にもう少し贅沢をさせてやりたいなと、思っただけだ。」

「贅沢?」

ふーん。と鼻を鳴らすと、首をかしげる。

「人間の贅沢って何?ドラゴン食べること?」

「いや、普通、お洒落な服を着たり、アクセサリーを付けたり。」

「うん。あんまり惹かれないよ。キラキラしたもの付けてると、夜の散歩に行けないよ。」

夜の散歩とは、夜の森に入って狼相手にかくれんぼするという魔王の娘らしい遊びだが、一回その場で倒れてくわれそうになって以来、止めろと言っていたのだが。

「それは、止めろと言ったはずだが。」

「あ、あ…、あれだよ、やってたらの話。今はもう、やってないからね!ね。」

分かりやすく焦るミミィの頭を撫でる。

気持ちよさそうに目を細めていた。

全く、親の敵にこのような表情を見せるとは、とんでもない馬鹿か策士か。

少なくとも、この柔らかい微笑みを嬉しいと思ってしまう自分は、魔族の魅力に付かれた勇者失格なのだろう。


「せめて、化粧くらいはさせてやりたいがな。」

「あー、あの、」

普通の人間なら、最低限の教養を終え、就職している年齢のはずだ。

彼女のように病弱なものは違うが。

「お前、いくつになった。」

「今年で14。」

「人間の女は13の誕生日に親から化粧道具を渡され、大人として認められるものだ。」

「そうなの?」

「らしい。我が国の伝統だ。」

レジーナも、当時親からもらった紅を大切に持っていた。

初めて貰ったものには手を付けず、保管しておく者が多いらしい。

それがそのまま嫁入り道具になるわけだ。

「化粧とか、よく分からないよ。イノシシの血でも塗っとく?」

「生臭そうだな。」

化粧品とは一律値が張る。

普通、子供が生まれたら親は十三年間コツコツと金を貯め、男の子には短剣を女の子には化粧道具を渡すのだ。

代理とはいえ、保護者として見ているこの子にそれをしてあげられないのは、なんだか心苦しかった。

「ふぅ……。」

「また、ため息。どうしたの、さっきから。」

「いや、しっかり仕事探しとくんだったなってな。」

「いや、デリスが出来る仕事とかないでしょ。」

「………昔、就労していたことはある。」

「知ってる。魔王殺した勇者様だもの。」

「…………意地悪な言い方だな。」

「ほんとでしょ。」

別に。今更気にしてないよ。とミミィは言った。




***

こんちは。まりりあです。

最近、妹に言って一番驚かれたことは、井伏鱒二さんは平成まで生きていたこと。です。山椒魚も驚き。

凄いですよね。以上。本編とは全く関係ない話でした。

では、またの機会に。

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