病弱な魔王の娘つかまえたけど、俺の手には負えないので、誰かどうにかしてください。18
「はぁ~~~~」
大きなため息がレジーナの口から漏れた。
「な~んでこの生活に逆戻りなのよ!」
「仕方ない。」
ついさっきまで仕事着だった彼女は、今は歩きやすい昔の服を着ている。
三年前までは毎日見ていた様子なのに、どこか懐かしかった。
また、あの生活が戻ってきたと否応なしにうきうきしてしまう。
前回よりも焦って、急いではいるものの、二度目の冒険、向かう先は一緒。
前回より楽に行けるはずだ。
一つ。
気がかり後あるとすれば。
「レジーナ、マルケレ。おまえら戦闘は久しぶりか?」
「ええ、魔法はちょくちょく使ってたし、いつ魔王が現れても良いようにトレーニングはしてたけど。ていうか、体動かさないと太る体質で。」
「俺は、対人なら仕事で何度か。魔物は三年ぶりだな。」
「そうか。」
かく言う俺もそうだが、
果たして、いけるものなのか。
三年とは言え、元々体力差のある魔物との戦い。一日でも訓練を怠れば腕のなまる世界。
三年の間はあまりに長かった。
だが、前回のように時間をかけて慣らしていく余裕はなかった。
「っ………こんな時に。」
右側の茂みから感じた気配に眉をしかめる。
「デリス!」
「このまま突っ切る、弱い魔物にかまっている暇はない。」
「それは……そうだけど。私達の仕事は魔王の影響から人々を守ること、こんな町の近くにいる魔物を見ていないふりするなんて。」
「………確かにそうだな。レジーナ、魔法は?」
「いけるわ。」
「重畳。」
俺はカツン!と大きな音で剣のつばを叩く。
それを合図に三人は茂みに向かって立ち止まった。
一、
二秒経った頃。
「みっぷぅ~!!」
可愛らしい声を出して飛んできたのは木のみの形をした森の精。
可愛らしい見た目と無害そうな声だが、下級魔族にしていされている。
勿論、彼らがいないと森が弱るため、無駄な殺しは禁止されているが。
「げっ!デリス、どうする?」
「睡眠だ。」
「了解!これなら毎日使ってる!」
「「は?」」
レジーナは飛んでくるそれに杖を向け、もごっと呪文を唱えた。
曲がった銀の木の枝に二匹の蛇が巻き付いているという趣味が良いのか悪いのが微妙な杖の頂につく蓮の花を模した水晶から紫や紺の入り交じった色の煙が吹き出る。
もわっとまものをかこむと包み込んだ。
ぴきゅっ!と声がして、魔物の緑色の体が地面に落ちた。
「相変わらず可愛いなぁ~妖精。」
「レジーナ、何でも睡眠魔法毎日使ってるんだ?」
「旦那を寝かすため。」
「……怖っ……」
「マルケレ、聞こえてる。ここで寝かすよ?」
右大臣、いつまでも仕事していそうだもんな。
心なしか三年ぶりの顔が明るく見えたのは、妻が近くで働いているからじゃなくて、睡眠がとれてる、取らせられているからか。
と、思ったのはこっそり飲みこんだ。
ここで寝るのはいやだからな。
「先を急ぐぞ、このままじゃ三日はかかる。」
「ええ。」
まだまだ道は始まったばかり、
小さな一歩を踏み出しただけだった。
さて、魔王を殺すというか、娘と思っているミミィを助けるのを目的としているデリスは、やはり他の二人とかみ合わない(行動的にも気持ち的にも)部分が出てくるわけで、、
「もう、ほんっと信じらんない!」
「悪かった。俺のミスだ。」
「ええ、そうでしょう。そもそもあなたが不用心に茂みに入ってはすやすやと眠っているモンスターに過激なモーニングコールなぞしなければ無駄な時間と傷薬を消費しなかったのよ。」
「もっともだ。」
最近こういうミスが多い。
急いでいるから周りが見えなくなっているのか。
「んもう!寝る!」
「あ、ああ。お休み」
レジーナの怒りは治まらないようで、薪をまたいだ向こう側に毛布に包まり寝てしまった。
「すごい機嫌悪い。」
「そうだな。」
聞こえるのはパキンッ!と木が弾ける音と鳥の鳴き声。
暫くするとレジーナの身動きもなくなって、眠りに落ちたことが分かった。
「……デリス。彼女怒りすぎだ。」
「マルケレ、それはお前が怪我をしたから。そして、その原因が俺だったからだ。彼女は仲間のことに本気で怒る人間だからな。」
「別に、デリスのせいじゃない。だって、ミスだったんだろ。」
「そうだ。」
「人のミスを責めすぎるのはよくない。」
「……彼女は、知ってるからだよ。」
「?」
火にかけて熱しすぎないようかき混ぜていた酒を椀に盛ると、マルケレにも渡す。
彼はそれを無言で受け取った。
「誰かのミスが命を奪うことがあることを。そして、皆の心がバラバラなことがどれだけ危険かを。」
「バラバラって、それは……」
「バラバラだよ。少なくとも俺とお前達じゃこの度の目的が違う。」
マルケレのコップを持った手がピクリと動く。
デリスは無意味にカップの端を爪弾いた。
「どういうことだ。じゃあ、お前はなんのために?」
「俺は、ミミィを探しに来た。」
「あー、あの魔王の娘?」
「ああ。」
そうか……とマルケレは呟くと酒を一口啜った。
「まあ、いいんじゃ無いか?頑張って探せよ。大切なことなんだろ。」
「ああ。」
「彼女だって分かってくれるさ。なんたって、この三人で唯一人の親だ。」
「そうだな。」
町に旦那と娘達を置いてきている彼女にとってこの戦いはどうしても生きて帰らなくてはいけない戦いだ。
だから、可能性も恐れているのだ。
それが何となく分かるから、俺は何も言い返せなかった。
***
こんにちは。まりりあです。
サクッふわ~のドーナツが食べたい今日この頃。
そして、マルケレが話した!!
こいつのしゃべり方忘れてました。存在も忘れそう。
危ない。
誤字脱字ありましたら教えてください。
それでは、また次回。