病弱なまおうのむすめつかまえたけど、俺の手には負えないので、誰かどうにかしてください。
重い重い王城の門を無我夢中で押し開けた。
頭の中には姿を消したミミィのことしかなかった。
それでも意外と思考は冷静で、少しの情報も無くミミィを探しにだだっ広い陸上を東奔西走することはなかった。
情報の集まる王城。
ここに来るのが良いと思ったら、足が勝手に動き出した。
心配だった。
少し前までいつ寝首をかかれるかとか思っていたくせに、今じゃいっぱしの父親役らしく心から心配している。
どこにいるのか。
元気でいるのか。
腹は空いていないのか。
etc……、
とにかく、気が気でなかった。
「デリス。久しぶりね。」
「レジーナか。」
「ええ。わざわざ勇者様にご足労願ったのですもの。丁重なお出迎えを、ね。」
変わらない美しい顔で優しく微笑む。
いや、冒険をしていたころより美しい服を着て、髪をセットしている分、より女らしいというか。
「………ここで、働いているのか。」
「ええ、旦那のすすめでね。」
「そうか。」
「昔と変わらないわ。魔物におわれる仕事から、書類におわれる仕事になったとこくらい。……あなたは随分、変わったみたいだけど。」
「………。」
近づくと、静かにハンカチを手渡してきた。
汗が額を流れ落ちる。
俺は、滝のような汗をかいていた。
「昔は、そんなになるまで夢中で走ることはなかったわよね。」
「……体力がおちてるんだ。」
「嘘。」
実際、嘘だ。
現役と同じ訓練を毎日してきた。
今でも十分戦えるくらいの体力はある。
でも、何となく、普通の生活に絆された自分を見られたくなかったのだ。
レジーナはそれに気付いてか、苦笑いをして肩をすくめる。
するりと話題を変えてくれた。
まあ、それもまた話しづらい話ではあるが。
「魔王の娘は……元気かしら?」
「……………いなく、なったんだ。今日。」
一瞬の間
「……はぁ?!」
大声で叫んだのはレジーナだ。
その声に近くを通っていた何人かが振り返る。
「あ、あ、あんたねぇ、今なんて、い、い、いなくなったぁ?」
「そうだ。」
「なんでそれを早く……って言うか、人に危害を加える気じゃないでしょうね!私の仕事を増やす気じゃないでしょうねぇ!!」
「……違うと思う。あいつは人に悪意は持っていない。」
「………確信なの?」
「ああ。」
「そう。」
じゃあ、信じるわ。と、額を抑えるレジーナ。
それでも、仕事は増えるらしい。
「あれは、一応危険なのよ?あれでも魔族。と言うか、角、角合ったでしょ?見られて通報でもされてみなさい。私が飛んでいくことになるんだから。」
「すまない。だが、町には居ないと思う。」
「はぁ?じゃあ、どこに。」
「……魔王の城。」
ピクリとレジーナの肩が揺れた。
彼女も知っているはずだ。
新たな魔王が生まれたことは。
「……魔王の城……よりにもよって厄介なところに……」
「……ああ。」
「魔王と手なんか組んだら大変じゃない。」
「これでは助けにいけない。」
「はぁ?!」
二度目の叫び声。
と同時に俺の首元をわしづかみ、縦に振ってきた。
「おいおいおい、勇者さまぁ、冗談きついですわぁ!!あ“~?な~にが助けに行くだぁ~?んなの無理に決まってんだろお前、頭スライムになったのか?炎系呪文で蒸発させるぞ?」
最近打ててなくて魔力たまってるんだ、と、腕を回し始めるレジーナ。
それを止めたのは後ろから伸びてきた優しげな手だった。
「止めろ、レジーナ。私が呼んだんだ、怪我はさせないでくれ。」
「あ、あなた…。」
右大臣だった。
旦那兼上司の止めに口を閉じ、大人しく腕の力を抜くレジーナ。
「ご足労ありがとうございます。勇者デリス。」
「ああ。」
「……さて、レジーナ。貴女も来なさい。もう一人、呼んでありますので。」
レジーナの顔に陰がおりる。
何の話か、完全に理解したのだ。
と言うことは、今まで話を聞いていなかったのか。
とにかく、一分一秒が惜しい俺にとって、ゆっくりとした時の流れる王城は居心地が悪く、イラついた。
***
こんにちは。まりりあです。
最近忙しくて今回は短めですね。
ほんとは、時間かけてかきたい……くすん。
まあ、ゴールデンウィークなのでね、頑張ります。
では皆さん。体にはくれぐれもお気を付けて。