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2話 仲間探し

「……は?」


 頭の中が真っ白になった。パーティを追放されたという事実が飲み込めず、リンフィアを見ると、目を反らされた。モンガも腕を組んで視線を床に向けている。誰も俺に助け舟を出してはくれない。脈拍が上がっていくのを感じながら、オーディスに向き直る。


「どうして俺が追い出されるんだよ……。金色の鷹は俺たち四人でここまで駆け上がってきたじゃないか!」

「足を引っ張るお前を俺たち三人が引っ張り上げてきた……、の間違いだろ?」

「『金色の鷹』で冒険者としての実力が一番ないのは俺だ。それは悔しいけど認める。だけど、俺をパーティに誘ってくれた時、これから一緒に成長すればいいって言ってくれたじゃないか」


 『金色の鷹』は幼馴染であったオーディス、リンフィア、モンガの三人によって結成され、その後に俺が加入することで現在のメンバーになった。当時、防御力が高いだけでパーティの盾となるだけの技術を持っていなかった俺は他のパーティーに入ることができず、一人で依頼をこなしていた。『金色の鷹』は俺の誇りだったのに。


「お前がダンジョンの罠に引っかかったり、見張り中に居眠りをしてモンスターに奇襲をかけられたせいで危険な目に合ったことは一度や二度ではない。冒険者として最も重要な警戒心が足りていない」

「それについては謝るよ、もうしないから……だから…………俺を捨てないでくれ」

「反省の言葉はもう聞き飽きた。もっと難易度の高いクエストをこなすために、俺たちにはもっと完璧な仲間が必要だ」


 椅子から立ち上がったオーディスは、俺に近づいてくると剣の切っ先を喉に向けてきた。刃がゆっくりと喉に押し当てられる。俺の喉は鉄よりも固いから着られる痛みはなく、侮蔑と諦めの籠ったひんやりとした感触だけが伝わってくる。


「お、おい……」

「これはせめてもの餞別だ」


 腹を殴るようにして袋を押し付けられた。金属の擦れる音がする。仲間を追い出したことに後悔を持たないよう、せめてもの情けで金を持たせるという魂胆なのか。人を侮辱しておいて自分だけは罪の意識から救われようという図々しさに腹が立つ。


「今すぐ出ていけ、そして二度と戻ってくるな」

「ああいいさ、こんな腐ったやつらこっちから願い下げだ!」


 頭の中で脳が茹で上がるのではないかと思うほど顔が熱くなり、俺は扉を蹴り飛ばして部屋を出て行った。




「……ん? どこだここ?」


 俺は見覚えのない狭い路地にいた。もたれかかっているごみ袋からは魚や肉が入り混じった残飯の匂いがした。

 宿屋を出た後、行く当てもなかったからフラフラ歩き回って、それで、夜明け前に疲れ果てて道端で寝てしまったようだ。

 

「くそっ……」


 壁を殴りつけると、ぱらぱらと煉瓦の欠片が飛び散った。一晩おいても、オーディスに剣を向けられたときのことが忘れられない。間違っても他人をあれほどまで酷く突き放す人ではなかったのに、まるで別人になってしまったようだ。

 このまま過去に引きずられているわけにはいかない。オーディスたちに目にものを見せて俺を『金色の鷹』から追放したことを後悔させてやる。


「俺は、『金色の鷹』を超えるパーティーを作るんだ……」


 


 そうと決まればまず初めにやることは仲間を探す事だ。そのために、俺はギルドを訪れた。冒険者が集うギルドでは、街の住民や権力者、各地を巡る商人等々から受託した依頼を紹介してくれる。その内容としては、モンスター討伐から貴重なアイテムの採集、護衛と幅広い。

 ギルドは人と人の交流の場でもある。パーティーメンバーの募集もここで行われている。

 美人な受付嬢たちが並ぶ中で、俺は良く見知った顔を見つけた。


「ガーマス、久しぶり!」

「おお、アランじゃないか。一人か?」


 華やかな笑顔が並ぶ中にポツンと浮かんでいる禿頭の筋骨隆々な男。明らかに異質な見た目の為か、誰もガーマスの待ち受ける受付には近づこうとしない。おかげで順番待ちする必要がないのはありがたい。


「ちょっと、その、ね……」

「ああ、言わんでもわかる。さては喧嘩でもしちまったか? そうでもなきゃいつもオーディスに引っ付いて回ってたお前が一人でいるなんてありえないもんな」

「パーティーからは追い出されたよ」

「なにぃ?!」


 ガーマスは目を見開いて後ずさりした。ガタイがいいため、少しの動きでも大げさにリアクションをとっているように見える。


「そりゃまたどうしてだ?」

「俺の実力不足が原因で……」

「何言ってやがる。お前の頑丈さはギルドでも有名だ。あのギャムタートルに踏みつぶされて生きてたことは今でも職員の話に出てくるくらいだ」


 褒められるのは嬉しいのだが、俺としては苦い思い出だ。

 ギャムタートルは全長100メートルにも及ぶ巨大な亀のモンスターであり、ただ移動しているだけで街を破壊してしまうほど危険なのだ。ギャムタートルの移動ルートにこの街があったため多くの冒険者が協力して立ち向かい、その行き先を強引に変えたことがあった。


「あんときのお前は傑作だった。踏まれたときは、ぺしゃんこにの肉塊になってると覚悟したけどよ。固すぎて逆に足の裏に貫通してたもんな」


 口に手を当てて笑うのを必死にこらえているガーマス。だけど、そのおかげでギャムタートルは進路を変えたのだ。ちょうど人間が床に落ちていた針を踏んでしまうようなもので、びっくりしたのだろう。


「今日来たのは、新しいパーティーメンバーを探したくて来たんだけど」

「それならあっちの壁にメンバーを集めているパーティーの紙が張り付けてある。それと、募集もしておこう。どんな条件がいい?」


 役割のバランスやその人の性格は重要な要素になってくる。だが、時間をかけて選ぶのは得意じゃない。その辺は切り捨ててしまおう。


「腕に自信のあるやつで!」

「よし、わかった。元『金色の鷹』のお前が募集するんだからすぐに人は集まるだろうよ」


 受付を後にした俺は、沢山の紙が無造作に張り付けられている壁の前で悩んでいた。

 名前を聞いたことのあるパーティーや人物が仲間を募っているが、ピンとくるようなものはなかった。

 ふと、マーガスが新たに紙を張り付けているのが目に入った。


「おっと、気になるか? だが、こいつは正直あんまりおすすめできないな」

「どうしてだよ?」

「金を受け取ることで一時的に依頼達成のために協力してくれる助っ人なんだがな……。優秀なのはいいが、性格がなあ……」

「優秀……ねぇ」



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