8、豪邸の少女
「うっわ……」
不注意、他人の敷地内、しかもメモが落ちた場所は豪邸で、メモは見られたくない内容、これ以上ないくらい悪い要素が詰まってる。
溜め息をつきたくなるぐらいの状況を冷静に整理しつつ、メモを回収しないと面倒なことになるのが目に見えてるので豪邸の正面へとまわる。
「正面から見ると余計に豪華だな……。」
自分の背よりもずっと高い門、その高い門越しに見える噴水、更に奥にはホテルと言われても納得できる大きさの家。まさに豪邸といった感じだった。
こういうのってアニメとかドラマとか、そういうのだけじゃないのか。
と内心圧倒されつつもチャイムを鳴らす。程無くして人の声(おそらくは使用人の類いだろう)が聞こえる。
「はい、こちら月鐘です。どのようなご用件でしょうか。」
「えっと、すみません。先程、強い風が吹いたときにノートの切れ端が飛ばされてしまって。取りに入らせていただく……か、取っていただけないかなと思いまして。」
ノートが飛ばされたから中に入りたい、では怪しすぎるため言葉尻を付け足す。
「少々お待ちください、今係の者がそちらに
向かいますのでお待ちください、というつもりだったのだろうか。話していた相手の声が途中で切れる。なにやら誰かと話している声がする。話が終わったからチャイムの応対が再開、と思いきや意外な言葉が告げられる。
「門を開けますのでお入り下さい、その後、お客様さえよろしければ玄関の方へとお越しください。」
門を開けてくれる、僕自身がノートを回収していい。うん、ここまでは理解できる。問題はその後。玄関へ向かえ?家の中に入ってくれと?見ず知らずの大学生になぜそんなことを?
破いた紙切れを拾いにいくその最中で実治は思考を巡らせた。が、しかしいくら考えたところでその言葉の趣旨が理解できるわけでもない。理解に至る道があるとすれば一つ、メモだろうか。今まで経緯はわからないが誰かの考えていることが記されていたメモ。
もしかしたらこの屋敷の中に連れ出してほしいと思ってる人がいるのかも……
勉強のできる優等生にとって、大学のつまらない講義より、未知に興味を抱いてしまうのは悪い癖だろう。更にいうなら豪邸に足を踏み入れていること事態なかなかない経験だ。実治は、今自分が置かれている状況に飲まれ、その結果、普通じゃないことに対する不安よりも興味が勝ってしまった。
玄関の前に立って、今更ながらに緊張する。
帰ろうかと足が動くその瞬間、玄関がゆっくりと開き、使用人らしき服装をした人物が実治を家の中へと迎え入れる。外観が外観ならば内観も内観、自分とは縁もないような豪華な内装に呆気にとられてしまう。ホテルのような豪華な廊下を歩いた先で、一つの部屋の前に案内される。
「この先でお嬢様がお待ちです。」
通りすがっただけの人を屋敷に招くんだ、一体どんなヤバいお嬢様なのだろうか。
一つ大きく深呼吸をし、ゆっくりと扉を開く。扉の先には人影、その先の窓から勢いよく溢れる光に目がチカチカと痛くなりながらこちらに向かってくる人の影を追う。予想よりもずっと小さい影だ。
「お嬢様って……」
目の前で立ち止まったのは、自分よりもずっとずっと小さい子供だった。