7、それと同じさ。
「なるほどな、それで世一は喫茶店が怪しいと睨んだわけだな。」
メモを見つけたとき、会社員らしき人たちはなにやら話し込んでいた。女子会してるおばさん達も同様。だから怪しいのはマスター、ってわけね。確かに俺らが移動するときに店を閉めること決めてたもんなぁ。と、一人で納得している友人の言葉を聞き実治は訂正をする。
「厳密にいうならそれを考えたのはカラオケの後だし、【睨んだ】じゃなくて【確信した】だけどね。」
事件に巻き込まれた翌日のこと、一人では消化しきれないモヤモヤがたまっていた二人は授業の空き時間を使い前日のことを振り返っていた。
「涼はさ、暗い部屋で何故喫茶店のマスターが誘拐犯だとわかったんだ?」
「それは世一がいつか言ってたやつだよ。人が一番記憶に残ってるのは匂いとかなんとか。」
人の記憶というものは香りが一番残りやすい。コーヒーの匂いから喫茶店を連想し、マスターではないかと考えるのも不自然ではない。
ふむ、そういえばそのようなことをいっただろうか。と考え込む友人を見ながら涼は時間を確認する。そして「そろそろ次の講義行くかな~、世一は今日はもう講義無かったよな?」とおもむろに席を立つ。
「あ、待ってくれ涼!最後に一つだけ。その……僕のメモのことなんだが……」
それに気づいた実治が呼び止めるように声をかけた。涼は声が小さくなっていく実治のことを気にせず言葉の続きを待つ。
「その、僕のメモは不確定要素が多い。誰が書いたのかすらもわからないし、今回涼を助けられたのも……多分偶然に近い。なのに……なんで、僕の言葉を……信じてくれるんだ?」
自分でも整理がついてないのか途切れ途切れになる実治の言葉を聞き、涼は手を口にあてた。
「世一はさ、俺を助けてくれたとき、いってくれたろ?それと同じさ。」
言葉を言い切るが早いか、背中を向け、手をひらひらする涼を実治はじっと見つめていた。肩を震わせているようにも見える、耳が赤くなっているようにも見える。
そして涼の答えの意味を理解し納得する半面、形容しがたい感情に襲われ机に突っ伏した。
その後、次のメモがあることに気づくのはそこまで遅いことではなかった。大学に残る理由もなし、やることもなし、特に理由もなく適当な道を散歩していた時のことだった。丁度そのときは大きな屋敷を見つけ、煉瓦で造られた豪華な塀に目を奪われた時のこと。手帳のメモに記されていた内容は
連れ出して……なんていえたら。
という短い文だった。メモに気づき慌てて周囲を見回すが誰もいない。薄々勘付いていたことではあるがこの謎のメモは自分が書いたものらしい。自分ではわからないとは言え今までのメモとなにか共通点がないだろうか、照らし合わせるためにメモのページを破ったその刹那ののこと。強い風が破いた紙切れを塀の向こう側へと拐ってしまった。