6、理由なんて必要ない
6/5、誤字を修正しました
「涼が電話にでないことって……あっただろうか。」
人との付き合いを大事にする須藤涼という人間にとって、電話は自分と他人とを繋ぐ生命線のようなものだ。そのため電話にでないことは珍しい。何か嫌な予感がする。
スマホのメモを思い出した実治は焦る心を深呼吸で落ち着かせ「そんなことはない」と呟き、涼と別れた場所に戻ろうとした。やはり焦っていたのだろう、踵を返した実治は曲がり角で一人の少女とぶつかった。
「あぅ……」
「すまない、大丈夫かな?」
ぶつかった少女に手を差し伸べ、怪我をしてないか確認すると実治は足早にその場を去っていった。少女がその後ろ姿を見つめているとも知らずに。
「喫茶店のマスター……」
直後、人の影は動きを止める。
「よく……わかったね。素直に驚き、って感じだよ。まあ、それがわかったところでもう遅いけどね。」
その言葉を言い終えるが早いか、手に持った凶器を振り上げる。
「あ~、俺、死んだな。」
涼がそっと目を瞑ったその時、奥の方で何かが割れる音が響いた。驚いて目を開けると、自分の上で凶器を構えた男もまたその音に驚き、音がした方向を見つめていた。そこからの出来事はあまりに刹那的であった。部屋が明るくなったと思ったら骨が軋むような衝突音がし、男が吹き飛び、首から数センチしか離れていない床に凶器が刺さり……
「僕の友人に何を!して、いるんだ!!」
声のした方には両手で椅子を持ち、とても息を荒くした実治が立っていた。
「な、なんで……」
「理由なんて必要ない!……君との電話が繋がらなくて!僕には、メモが、あって!それで全て繋がって!だから来たんだ……解けた、涼!逃げるよ。」
いつものような冷静さを失くした実治に涼は若干気圧されながら手足の拘束が解けたことを確認する、周囲を見渡すとそこは午後興奮しながらコーヒーとケーキを口にした喫茶店だった。入口は吹き飛んだ男で塞がれているため裏口から外へと走り出す。
そこから先は怒涛の展開、という感じだった。裏口から逃げ出した俺と世一は丁度そこを警察に見つかって泥棒と勘違いされた。事情を説明するのにとても苦労した。そこでも世一が頑張って説明してくれた。なんで喫茶店のマスターが気絶してるのか説明するときは珍しくもごもごしてたけど。そこはまあ、世一の友達の俺がフォローしてやったってわけ!
「それにしても君達、運が良かったねえ。丁度ここいらで通報があったんだよ。まあそっちはイタズラだったみたいだけど、誘拐事件の犯人を逮捕できておじさんも鼻が高いよ!……それはそれとして、こんな事件に巻き込まれたんだ、家まで送っていくよ。」
実治たちを保護した警察官は誇らしく胸を張る。それを聞いて全てが終わったことを理解した二人は背中を合わせへたり込む。
「助かった……」
「はは……ほんとそれ。」
大きく息を吐いた実治の背中を感じ涼は口を開いた。
「ありがとな、世一。」
実治はその言葉を聞きただ一言、「ん。」と返すのだった。
漫画などではこういう表現ありますけど、実際に警察ってそういう事件に巻き込まれた人たちを家まで送ってくださるんですかね。