4、崩れていく平穏
「なんていうか、世一ってよく考え事するよな。なにか考えてないと落ち着かないのか?」
実治は自分をからかう涼にそんなことはない、と否定をし黙り込んでしまった。
メモの内容からして涼の言っていた誘拐事件に似通ったところがある。誰が誰のことを書いたんだ?そもそも僕は涼と話をしていた、僕のスマホにこのメモを入力しようとすれば涼が何かしらのアクションを起こすはずだ。それもないとなれば僕が無意識のうちに書いたことになるが、笑えない冗談だ。
「世一、なんか悩み事か?なんかあるんなら相談のるぜ、カラオケでな。」
意気消沈、といった実治を励まそうとしてるのかあまり気にしてないのか涼は明るい声を出す。
「最近さ、この近くにカラオケができたんだってさ。思いっきり歌えば気分も少しは良くなるんじゃないか?」
自分が行きたいだけだろう、というツッコミを胸の内に抑えつつ実治は涼の提案に賛成するのだった。
「お客さんごめんね。もうそろそろ閉店なんだ。」
「ええ?もう閉店しちゃうの?私たちまだ喋り足りないんだけど…。」
ふと、隣のテーブルで談笑していたマスターたちの声が耳に入った。どうやらもう閉店らしい、たまにしか開いてないというのはどうやら本当のようだ。
「マスターの気まぐれ…ていうのは冗談で、もう豆がなくなっちゃったんですよ。お客さんに出したやつが最後。それ飲んだらお会計お願いしますね。」
その言葉を聞き2人は顔を合わせ、丁度良いと言わんばかりに席を立った。
涼とカラオケを終えた実治は家へ帰る道を歩いていた。全力で歌ったら幾分か気分が楽になった。
「あ、今日の講義のレポートって提出いつまでだったっけ?」
心に余裕が出来た影響か、涼に聞くべきことを忘れていたことに気づき電話をかける。しかし、いくら待ったところで涼は電話に出ない。
頰に冷たい感触を覚え目を覚ます。そしてそこで初めて自分が横になってることを自覚する。周りを見渡そうにも手と足を縛られていてうまく動けない。
「…え?俺、なんで縛られてるの?」
じたばたともがき、縛られた縄が緩まないことを確認すると涼は記憶を辿る。そして実治と別れてからの記憶がないことに気がつく。それとほぼ同時に背後から声がした。
「目が覚めたみたいだね。」
その声を聞き涼は自分の立場を理解した。ただの噂だとしか思ってなかった誘拐犯、それが今自分の後ろにいるのだと。危機を感じ背筋が凍る、呼吸が自然と早くなる。思うように動けない中、少しずつ後ろを、声のした方を向く。そこには1人の人間の影があった。