スカーレットの日常
冒険者の集う酒場で汗臭い男たちに紛れて大酒を食らい、下ネタにも大笑いする豪快な女、それが私だ。
名はスカーレット。だいたいは皆スーさんと呼ぶ。
身長も175は越えてるから男どもと大して変わらない、食べる量も飲む量も変わらないが素早さ特化の薄手の服に胸だけがデカい所為でスケベな男はたまに寄って来る。まぁ、死なない程度に殴ってやれば命の危険を感じるのか同じことは二度としない。楽勝だ。
最初にこの街に来た時から舐められまいと思った…と言うより媚びへつらいたくは無いと堂々としていたら、土地柄なのか周りに恵まれたのか、楽しくやっている。死なない程度に殴ってやったヤツも今では笑い話として本人が話して酒の肴のいいネタになっている。
冒険者の酒場、「アリス」は可愛らしい店の名前とは裏腹に毎夜毎夜飲めや喰えやのドンチャン騒ぎ。冒険者はそうそう来ない。
朝ここに来てマスターが王宮から持って来た仕事を依頼して、片付いたら夜にまた集まってお疲れと言いながら飲むだけなので面子はいつも変わらない。依頼された仕事の報酬をだいたいこの夜の飲みで全て払っているので翌朝皆でまたここに来て日銭を稼ぐ…そんなルーティンだ。
一応私は冒険者側でこの店に来たのだが、仕事は楽だし酒と料理が旨い。すっかり居ついてしまった。
「あ~~~もったい無い。スーさんこんなにカッコイイのにその魅力に気付いてるの私だけだもんなァ~~」
この酒場の給仕の女の子、フランは私の前に大盛パスタを置いて「どうぞ!」と言いながらそう話す。小柄で可愛くて仕事の出来るここの看板娘。小さい顔に大きなくりくりとした青い眼、長い金髪を一つに結んで可憐にテーブルの間を行き来して料理や酒を運ぶ姿にだいたいの男は落ちる。が、酔っ払った男が尻を撫でた時に持っていたアイスピックで笑顔でその手をブッ刺す等と護身はしっかりしているので手を出すヤツは居ない。目の保養と言いながら酒の肴にフランを眺める男達が大半だ。女の私から見てもフランはかわいい。アイスピックで騒動を起こした時なんかもだいたいの常連男が「フランちゃんはしっかりしてるね~!!」と褒め讃えたほどだ。
「スーさんは顔つきが精悍!!腕は確か!!スタイル抜群!!…皆もっと評価してくれてもいいと思うんだけど…」
フランは私のファン第一号だ。この酒場に来て高難易度の依頼をいきなり受諾してアッサリクリアして来た時に、キラキラと目を輝かせて「かっこいいですね!!!」とベタ褒めしてくれた。可愛い女の子に褒められて悪い気はしないのでクールを気取って「たいしたことないよ」なんて言ったっけ。
「スーさんの女としての魅力ってェのは、男には解らんな~。フランちゃんの方が絶対かわいい。嫁にしたい。」
「強いし性格もいいヤツだけど異性としては見れないなァ。旦那になったら絶対尻に敷かれるじゃん」
「仕事で一緒に組むことになったらメチャメチャ安心はするけどさ~~それとこれとは違うじゃん?」
話を聞いてた同じ大テーブルに座ってたヤツがあちこちから声が上げる。私も恋愛関係はわりと苦手と思っているので「そうだろそうだろ?」と異論は無く上機嫌で返しながらパスタをかっ込んだ。実力で褒められるのは一番嬉しい。
「スーさんがいいならいいんだけどさァ~~~。皆後悔しても知らないですよ~~?ってアタシは言っときますからね!!」
空いたジョッキを回収しながらフランが言った。
なるほど過去にも女友達に「スーちゃんは私の王子様なの!」等と言われたことがあるのでそういうもんなんだろうな。
フランの揺れるポニーテールを見ながらキンキンに冷えたビールを頂く。おいしいが、刺激が足りない。
「なぁ、ポーカーで負けたやつがテキーラ一気飲み。10セットくらいやろうぜ」
今日の私はちょっと高難易度の仕事ををこなしたので懐には余裕がある。仲のいいやつはだいたい酒好きでギャンブル好きだ。皆がアッサリ同意したので今夜はポーカー大会に決定。
1ゲームごとに最下位がテキーラとなったが生憎勝ちもせず負けもせずの中間地点をウロウロしていたのでテキーラには有りつけなかった。所持金も増減ほぼ無。
酔っ払った私達のポーカーなんて良くてツーペアかスリーカードかの勝負でどっこいどっこい。全員ブタなんて引き分けもある。暇潰しの道楽でしかない。
一通り終わって2人程酔い潰れたところで、料理もお酒もだいたい出尽くして洗い物をしているマスターに話しかけるべくカウンターにジョッキを持って移動した。
マスターはまぁ、イケオジって感じだ。そんなに歳が行っているわけではないがどっしりと構えていて低音ボイスで話す。仲間たちがギャーギャー盛り上がってるところでクールなのはマスターだけなのでなかなか良い。目の保養。
マスターはここから寝ないで朝の任務の掲示板張り出しと割り振りをしてから寝るみたいだ。
「どうよ、最近」
「依頼か?酒場か?」
「酒場はこの通り賑わってんのがわかるよ。依頼。」
たまに一般人が「夫を探してください」みたいな依頼をする以外は王宮からのモンスター退治や貴重なアイテムの採集がメインだ。
モンスター退治なら腕に自信があるし、アイテム採集ならば護衛で付いて行き採集の邪魔をされないように戦うだけだ。
「賑わってると言えばそうだが、スーさんの期待してるようなデカイ仕事は入ってないよ」
掲示板に張り出されるのは雑務が殆ど、大掛かりなものになると王宮からこの冒険者を連れて行ってくれと言われたりマスターが見繕って声をかけたりしているが、ここ半年くらいデカイ仕事が来ていない。つまり半年くらい呑兵衛生活だ。腕が鈍りそうだから流石に昼間はトレーニングしてるが、緊張感が無いんだよなぁ…。背筋がシャキッと伸びるくらいの、そして死も覚悟しなければならない程の大仕事を任される快感は何にも勝る。
そこで失った仲間なんてのも居るっちゃ居るし、私だけが半年も飲めや騒げやな自堕落生活を送っていてはいかんな、とは思うわけで。
「もうこを離れて別の地に向かおうかちょっと考えてるだろ」
「まーね、楽しい顔なじみも出来たけど後世に残るような大仕事、憧れてんだよねぇ!!」
「スーさんはほんと、冒険者向きの思考だよなぁ」
「離れ時、なのかなぁ…って。ちょっと最近は考えてるよ」
ジョッキを飲み欲してウイスキーのダブルを注文した。何も言わなきゃ一番安いやつが出て来る。酔えれば充分。
「デカイ仕事…入ってるっちゃ入ってるんだけどな」
「は!!!???」
マスターの言葉につい大声を出してしまった。酔いが回っているので音量の調節が難しい。
「スーさん向けではないと思って今別の適任の人を探してる」
「詳細」
「仕事を受けない人にはなるべく伝えないように、との依頼だからな。」
「受ける」
即答していた。
「スーさんのそういうとこ潔くて好きだけど、断ると思うんだよなぁ。血なまぐさい感じじゃないから。むしろ政治的…と言うか。」
肉体一つでのし上がって来たので政治的と言われると気が引ける。交渉術も魔物相手やチンピラ相手に脅迫紛いの喧嘩を吹っ掛けてなんとかしていた人生だったので、偉い人の顔色をうかがうのは向いてないのは承知だ。
「政治関係でも要人を守れってんなら出来る。依頼人がメチャクチャ理不尽にゴネるタイプで私が殴り倒しそうにならなければ。」
至極真顔でマスターとの心理戦に入ったが、デカい仕事が達成された充実感と報酬額の高さには興味がある。少しだけでも詳細が知りたい。
大分飲んでいたので据わった目だったかも知れないがマスターに出来るだけ誠実に想いを伝えた。多分傍から見たら完全に睨んでると思われるだろうけど。
皆でワイワイやる酒場の雰囲気も好きだが、私はどうも長く続くと飽きてしまう。楽しいのだがこれ以上の難関クエストの遣り甲斐はずっと求めているのだ。
マスターはしばらく考えていたが、私の熱意に押されたのか情報を伝えてくれた。
「断るならこの先の話は他言無用だ。いいな?」
すぐさま頷いてウイスキーを飲み干した。
酒場の酒を飲みに来てる客じゃない。ここからは冒険者スカーレットの商談だ。
「まあ順当なので知ってるとは思うが、現在の王には跡継ぎが居る。そいつはこの世界を救う手助けをしたいと思ってるそうだ。実力は定かでは無いから何とも言えないが、そこで出た案件が跡継ぎの息子を一人前に育てて欲しいってヤツだ。ちなみに依頼者は息子の方。おやじには許可を取ってるからここに依頼が来てる」
夢見る金持ちのボンボンの話に聞こえたが、その心意気は買った。話術で民衆のご機嫌を取るより手っ取り早く力を示したい。そういう話だろう
「王の話を聞いた限りは、現実を見て諦めて欲しい、だそうだけどな」
「ん~、クエストクリアの条件が曖昧そうだな。一人前ってのが誰から見てかで随分変わるだろう。諦めさせればいいんだったら即殴って「お前には向いてない!!やめちまいな!!」で終わるんだけどなぁ…」
カウンターの木机をトントン指で叩きながら思案する。心意気はヨシ、だが長期戦になりそうなら報酬と見合わない場合がある。
ウイスキーを飲もうと思ってグラスを手に取ったが空だったのでマスターにおかわりを頼んだ。
「報酬は日当、達成時にはまとまった報酬が送られる、とのことだ」
いつもの安酒ではないボトルをマスターが手に取ったのでどういう真意かと計りかねて返事が出来ない。マスターの挙動を見守っているうちにいつもより透き通った琥珀色のウイスキーが目の前に置かれた。
「俺は面倒見のいいスーさんは適役だとは思った。でもスーさんが求めてるのはそういうクエストじゃないのも解ってる。受けてくれるならこちらもありがたいんだ」
とりあえず出されたウイスキーを飲む。うん、確かにいつものとは味が違う。甘めの飲みやすいタイプ、序盤に豪快な料理共と来ては物足りないだろうが飲むだけの終盤に来たら味が変わっただけで楽しいもんだ。
「日当は…どのくらいだ?」
「……このくらい……」
マスターが指を三つ立てた。3,000ギル。ほう。
「よし、受けた」
日当3,000ギルに私は即決した。
ちょっと扱いにくい相手でもそれだけ貰えるなら金の為だと割り切れる。
「まあ、ほどほどに鍛えてやってくれ。スーさんは金の為に適当な事はしないと信じてるからな?」
「おう、あまりに酷いやつだったら金は要らないから帰ってくれって言う」
そんなかっこいいことを言いながら、日当3,000ギルなら一週間は引き留めてやろうと思った。