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那須明日香はうまくいかない

 那須明日香の学校でのナンパ(逆ナン)作戦は結論から言うと3回アタックして悉く失敗である。


 パターン1 軽そうなタイプを狙ってみたの巻


 彼女が最初に目標に選んだのは浅黒い日焼けした男子生徒だ。誰にでも気やすく話しかけてくる遊び慣れていそうなタイプ。かといって軽薄過ぎない真面目な時は真面目な顔になるあたりポイントが高い―とのアスカ評。大抵誰か友達と一緒にいるので声をかけるタイミングが無かったのだが、ふと一人になったタイミングがあったので声をかけてみた次第である。


「そこの貴方、お話しない?」

「う……?あれー、那須さん?那須さんが話しかけて来るなんて珍しいねー」


 彼の顔が少しぎこちない笑顔であった事にアスカも気づかず積極的に話し続け


「あなたってほら、遊んでそうじゃない?実際何人くらい経験があるのかなって」

「いきなり何の話だい?経験ってのはあれの事でいいのかい?」

「あら、はぐらかされたかしら?多分あなたの思ってる通り、セックスの事よ」


 ゴフッ!と思わず鼻水が噴き出る程驚く男子。普段クラスで滅多に喋らないどころか距離をとっている女子からこんなぶっちゃけたトークされたら無理もない。男友達同士では毎日のようにぽんぽんと言葉が飛び出すテーマでも流石に切れが悪くなるというものだ。


「げほっげほっ……本当にいきなりだね、那須さん。まあ、そりゃ経験無いとは言わないけど」

「そう。私はまだ経験がないの。処女なの」

「ごふっごふっ!」


 軽そうな男子くんの気管支がピンチ。緊張で胃の壁もゴリゴリ削れていく。


「そういう訳で貴方さえよければ私の処女もらってくれない?」



~~~~~~

 心臓ドキドキし過ぎぃぃぃ!私なんか凄い事口走ってないかしら?こんなのあっちの世界なら平手食らってあっという間にハブにされる流れよ!大丈夫よね私!?そうだ、口止めお願いしておかないとまずいかしら客観的に見たら私すごくキモイ!肌がぞわぞわする!

~~~~~~



 貞操逆転観点で見れば、アスカのこの行動は、男子高校生が遊んでそうなギャルに「僕の童貞貰ってください」である。うんキモイ。逆転しない観点で見ても相当頭のアレな女にしか見えないというのはさて置くとして。


「へ…へへ…那須さんに誘われるなんて思いもしなかったぜ」

「それはOKという事でいいのかしら?」

「いや!ちょっと俺、腹の具合が悪いんで……そ、それじゃ」

「あ、ちょっと……待って…待ちなさい!」


 突如挙動不審になって逃げようとする軽い系男子に少し語尾を強めて呼び止めると、アスカが思っていた以上に効果てきめんにビク!と足を止めてくれる。それを不思議に思う事なく、念の為口止めしておく。


「断られたのは残念だけど……この事、言いふらしたりしないでね?」

「モチロンデサー、はははははは」


 パターン2 大人しそうなタイプを狙ってみた場合


「こんにちは。何をしてるのかしら?」


 少年の背後から不意に近づいてくる気配と声。ふわっと石鹸の臭いが微かに鼻に届く。


「べ、別に何も……」


 少年はいわゆるオタク系よりのそこらによくいる地味なタイプ。

 こうして並べると、アスカは自分を地味で特徴がないと言うが黙っていればそこそこ美少女の部類ではある。意味ありげに「ふふふ…」などと笑って少年の顔をじっと見ている。

 少年は内心でパニックになっているが、アスカの方も内心は大概テンパっているのでお互い様である。


「あー、こほん。ね、貴方?」

「は、はい」

「童貞でしょ」

「ナンデ ナンデ」


 少年はしカタコトを越えてコンピューターのような音声で声が裏返ってしまう。


「なんでもいいわ。貴方が童貞ならそれについて相談があるのだけ、どっ!?」

「うあああああっ!!!」


 ドンッ!といきなり少年が走り出し、アスカを半ば突き飛ばすようにどこかへ駆け抜けてしまった。


「あら……いきなり童貞君呼びは刺激が強かったということかしら?」


 売春交渉自体に入れないのでは2回目は1回目よりもうまくいかなかったと言えるだろう。想像以上にうまくいかない事に若干のいらだちを覚えて軽く不機嫌に眉をひそめてしまう。


「気が弱い方が御しやすいかと思ったけどあんな反応の仕方もあるのね……なら、次はどんな子に声をかけようかしら」


 パターン3 後輩を狙ってみた感じ


 2度の失敗で少し慎重になり、相手を選ぶのも時間をかけるようになる。ほんの少しハードルを上げてみただけで、誰もかれもが無理そうに見えてきてなんとなく声をかけられずに漫然と時間だけが過ぎていく。


「遊んでそうなタイプも遊んでなさそうなタイプも駄目って考えると選択肢がないわね…」


 想像していたほどすんなりいかない。突破口を見いだせないままうろつくと、ネクタイの色の違う男子を見かける。入学年度ごとに違う色のネクタイとなるのでネクタイを見れば何年生か分かるのだ。

 アスカのネクタイは青で2年生。目についた男子学生は緑で1年生だ。


「後輩、後輩ね、うーん」


 同級生でばかり考えていたところに思考の隙をつくような下級生という選択肢。先輩命令みたいな感じで少し強気に出れば言う事を聞かせられるかもしれないといった打算を働かせつつ、男子に近づいていく。アスカにとって都合がいい事にちょうどよくその男子は一人きり。何かを探しているような感じであったが構わず踏み込んでいく。


「あら、そのネクタイ、貴方1年生よね。東棟は2年生の教室しかないわよ?誰かに用かしら?」

「え?お、おう……」


 ハトが豆鉄砲を食らったような呆けた顔をする後輩を見て、このまま押し切ればイニシアチブを握れる、そう確信を得たアスカはどんどん切り込んでいく。


「まあ、それはどうでもいいわ。お姉さん、貴方に少し興味が湧いたわ」

「……?」


 後輩は相手の真意を探るような訝しげな顔をするが、先の二人のように慌てたり混乱するような素振りもなく至って落ち着いた様子である。後輩の落ち着きぶりを見てアスカ自身も平静を保ちつつ、じっくりと交渉を進めていく。


「あまり遊んでるようでもないし…童貞でしょ?お姉さんが貴方の童貞貰ってあげてもいいのだけど」


 あまりにも自然に口から出たセリフ。自然過ぎて一瞬何を言われたかも後輩は理解が及ばないくらい自然だった。


「どういう……何の意味で?」

「あら、貴方も興味が出てきたかしら?ふふっ、ここじゃ何だし、詳しい事は放課後に会ってお話しない?」



~~~~~~

 いけた?いけたぁぁぁぁ!反応はまずまずだと思うわ!少なくとも前みたいに逃げ出されたりしなかった!追い打ちよアスカ!十数年何の使い道もなかった胸のデッドウェイトを押し付けて誘惑!大抵の逆転モノじゃ男子高校生はおっぱいに目が無いわ!これでトドメ!さあ、コロっといきなさい!いって!ちょっとこれ以上はこっちのメンタルがもたないの!

~~~~~~



 脳内でぐるぐるとテンパリつつ、目も渦巻きになりながら、後輩の腕をとってぎゅーっと胸を押し付ける。柔らかい乳房の感触がむにゅっ、と執拗に存在感を主張して後輩の脳に刺激をお届けする。これで落ちない男はいない!とばかりに自信満々に誘惑の真似事をしていると、後輩からリアクションが返ってくる。


「ちょっと話が見えないんだが……売春的な何かを持ちかけてるつもりか?」

「有体に言えばそうね。でも、これ以上はここでは人目があるから時間を…」

「バカ?」

「え?」


 冷や水を頭っからぶっかけるような、ストレートな罵倒


「バカだろ。バカ以外何と言えばいいんだ。いちいち何がおかしいこれがおかしいと細かく言わないとダメか?」

「な……な……なっ!!貴方!初対面の先輩に向かっていうセリフ、それが!」

「更に意味が分からない事を言うな、バカ」

「ま、またバカって言った!」

「うるせーバカ」


 バカに次ぐバカ連呼。後輩男子の顔からはもはや呆れ以外の何物の感情も読み取れない。とてもさっきまで学校の先輩女子に胸まで押し付けられて誘惑されていた高校生男子とは思えない落ち着きっぷり。男ならどんな馬鹿な女でもおっぱいは嬉しい物だろうが特に高校生ならという常識はさておき。

 バカ連呼を浴びてアスカも流石に堪えたのかうっすら涙目になりながらずりずりと後ずさって離れていく。


「バカっていう方がバカなのよ!この大馬鹿野郎!!頼まれたって童貞もらってあげないんだからね!」

「大声でトチ狂ったセリフ口走ってんじゃねーよバカ」

「ばーーーか!!」


 これが三度目の撃沈である。三回失敗して懲りたというよりも、3人目があまりに酷かったので心が折れたという方が正しい。といっても昼休みから放課後までの間に大体精神力は回復するのだが。そして「同じ学校の生徒は駄目と考えましょう」と思考し、街の方へ適度な遊び相手を漁りにいく方針を固める。


 放課後になり、街に繰り出すアスカ。一旦家に戻って私服に着替えてからではあったが。クローゼットの中は可愛さよりも着やすさ重視としたものが多めであった事がアスカの印象に残る。



~~~~~~

 こっちの世界の私はアウトドア派なのかしら、それとも異性の目を気にしないタイプ?考えても答えは出ないわね。周りに聞いてみれば簡単に分かると思うけど…そんな事聞いて回るのはさすがに怪しいわよね。この世界の私と入れ替わるならもうちょっとこの世界の私らしさを追求すべきなのだろうけど、

 よく考えたらいきなりビッチ行為に走るのだから以前のままのフリは無理があるかしら?もう割り切って、突然性格が変わったと思ってもらいましょうか。さすがにもうちょっといい服はなかったのかしらと思いたいけど、まあこれなら及第点ね。

~~~~~~



 大人っぽさよりも少女らしさ重点のブルー系で統一して出陣。アスカとしては大人っぽいのがよかったのだがそういうのは微妙に無かったようだ。行先はちょっとにぎやかな感じの繁華街の一角。まだ真新しい感じのするゲームセンター。中高生からサラリーマン年代の男性まで幅広い年代層が見える。


「なんとなく来てみたものの…ちょっと場の雰囲気にのまれてしまうわね」


 アスカは前の世界でなら来た事のあるゲーセンだが、ナンパ(逆ナン)目的で来た事などない。ただ、ここではチャラい雰囲気の大学生がナンパをしているのを何度か見た事があったのだ。(前の世界基準なので女子大生が男子高校生を、ということであるが)大人しそうなカモっぽい感じの高校生を演じつつ、手持無沙汰にベンチに座ってみる。


 だが来ない。そんないつもいつもナンパ男がいるわけではないのだ。大抵は普通に遊びに来てる客が大半である。


「ちょっと当てがはずれたかしら。こっちから積極的にいかないとダメなのかしらね、やっぱり」


 アタックするより待ちの方が楽だったのだけどもと愚痴りながら、今日はもう帰ろうかと思った時に声がかかる。


「ねえねえ君、ずっとそこに座ってるけどゲームやんないのぉ?」


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