第9話 拾い上げた夢
扉をくぐると、そこは、まだ両親と暮らしていた過去の家だった。
まだ、幼い俺を抱え、母親が話しかける。
「光輝は将来何になりたいの?」
「うーん。こまっているひとをたすけるヒーローになりたい!」
少し頭を傾げ、幼い時の俺はそう言った。
「優しい光輝らしい夢ね!それなら、光輝はお父さんみたいに他の人を守れるくらい強い人にならないとね!」
「うん!ぼく!おとうさんみたいなけいさつかんになりたいんだ!」
それを聞くと母親は優しい笑みで俺の頭を撫でた。
俺はハッとした。
そうだった…。俺は幼い頃、父親に憧れて警察官になりたかったんだ。
その後、幼稚園を上がる前に両親は事故で亡くなった。
居眠り運転したトラックと正面衝突したらしい。
遺体の損壊が酷かったらしく、俺は両親の最期の姿を見ることはなかった。両親がいなくなった実感がないまま、住まいを施設に移すことになった。
そこで、初めて会った花田が自分より小さい子をいじめているのを発見し、注意したことをきっかけに、自分が標的になってしまい、今に至る。
毎日虐められていたお陰で、自分の中の正義感すら消え失せてしまっていたようだ。
「どう?何か見つけられたかしら?」
ノアさんの声が頭の中に響く。
「うん。見つけたよ。これが俺の夢だ!」
俺は見つけたそれを大事に抱え込み、過去に背を向けた。
視線の先には、よくわからない表情をしたおっさんと、優しい表情を浮かべたノアさんがいる。
俺は二人の元へ歩き、夢への扉を閉じた。