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第8話 間 光輝


俺は昔から不幸だった。


小学校に上がる前に両親が事故死し、身寄りのない俺は施設へと預けられた。


そして、いじめっこを注意したことから標的にされ、壮絶な日々が始まった。


施設にも居場所はなく、学校にも居場所がない。誰一人として、俺を必要としてくれる人なんていなかった。


小学校でも毎日いじめにあっていた。

そんな時、一人の女の子に出会った。


風間かざま 来花らいか

俺の初恋の相手だった。


どういうわけか、彼女は路地裏で傷だらけになっている俺にハンカチを差し出してくれたのだ。


彼女と俺は中学も同じだった。


相変わらず俺はいじめにあっていたが、彼女がいるから頑張れた。こんな俺にも目を向けてくれる人がいる。その事実が俺をなんとか繋ぎ止めていた。


しかし、同時に俺は友人も居らず毎日いじめられ、風呂にも入れずに臭いと罵られている。


こんな俺には、彼女は相応しくない。そうとも思っていた。


でも、毎日彼女を少し見かけるだけで幸せな気持ちになり、少し頑張れた。


そんな日々を綱渡りでなんとか過ごしていたが、絶望は唐突に訪れる。


その日は体育祭だった。

体力のある運動部員がクラスのヒーローになる日。


俺を毎日サンドバッグにしている同じ施設の花田もとても張り切っている様子だった。


花田は出席番号順では俺の後ろに並ぶ為、そのたびに体をつねられ、殴られ、俺の体は常にアザだらけだった。


奴はそれをクラスの奴らに言いふらし、自分の地位を上げ、俺の地位を下げることを常習的に行っているような奴だった。


野球部で、四番の花田はここぞとばかりに張り切り、最後の種目である選抜者リレーで、他の生徒をごぼう抜き。見事クラスを逆転勝利へと導いた。


歓喜に沸くクラス。ゴールテープを一番に切った花田が胴上げをされている。


胴上げが終わり、皆が花田へ称賛の言葉を投げかけているところで、花田が大声で言った。


「みんな!聞いてくれ!!」


なんだなんだと周囲の視線が花田はと集まる。


「実は、今日俺が頑張ったのは、ある人にかっこいいところを見せたかったからなんだ!!」


お?この流れは?とクラスで「おー!!」と言う歓声が響く。俺は嫌な予感がした。


花田はズンズンとあゆみを進め、俺の想い人である風間さんの元へと歩いていった。


「風間!いや、来花!!

写真部のお前は、いろんな風景をカメラにおさめてた。俺にも、いろんな写真を見せてくれたよな。

そんな時、撮った写真の事を笑顔で語るお前の姿がとても綺麗に見えた。


俺は自分の好きなことに全力なお前のことが好きだ!!もっと近くでお前のことを見たいし、知りたいんだ!!


だから、俺と付き合ってくれないか?」


相手の事を知った上で、もっと相手のことが知りたいからと言う男らしい告白。ただの自分本位ではない、相手の事に興味があると明確に伝えた告白。


それを聞いて、風間さんは驚いたような顔をしたが、恥ずかしげにこう言った。


「は、花田くん…。嬉しい。よろしくお願いします。」


その場にいた俺を除く全員から歓声の声が上がる。


その時、俺の心にヒビが入るのを感じた。

ひび割れから、今まで感じていたほんの少しの幸せが流れ出ていくのを感じた。


今まで、顔を合わせて挨拶するだけでも幸せだった。

でも、彼女は俺を毎日いじめている花田の物になってしまったのだ。


それに、俺は彼女のことを何も知らなかった。

でも、奴は俺よりもずっと彼女のことを知っており、アプローチをしていたのだ。


どうして、好きなら行動に移さなかったのだろう。どうして、俺は彼女にうまく話しかけられなかったのだろう。


そう自分自身に問いかけた。答えは一瞬で出てきた。


そう。俺は自分に自信が無かったのだ。俺みたいな奴が彼女に近づくなんておこがましい。そう思っていたのだ。


施設でもいじめられ、風呂にも入らせて貰えない為体も臭い。こんな俺が、どうやって彼女に好きになってもらえるだろう?


俺が俺である以上、それは無理なことだ。

それに気がついてしまった瞬間。心に穴が空いた。


この先どうしようもないと言う絶望感。生きていても仕方ないと思ってしまったのだ。


体育祭の帰り道。俺は周りに囃し立てられながら仲良く手を繋いで帰る花田と風間さんの姿を見てしまい、死ぬことを決意した。


そして、今日全裸のおっさんに命を救われたのだ。


おっさんは言った。


「生きていれば良いことがあるかも知れない」と。


でも、絶望の中にいる俺にはその言葉は信じられなかった。


それでも、俺は少しだけ救われた気持ちになった。


おっさんはこんな見ず知らずの俺を助けてくれたのだ。

その事実が、俺にも少しくらい価値があるのではないかと思わせてくれた。

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