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母さんと父さんに連れて来られたのは父さんの部屋。
なにやら父さんは悩んでいるようで、難しい顔をしている。
「……アリ、シャルル。いつから魔法が使えるようになった?」
「俺は紋様が現れた時からです」
「私は、アリ様に1年程前に教えられて」
「……そうか、これは少し困った事になったな……」
「どうしたんですか?」
「……虹紋様が魔法が使えないとなっているのは魔法の最高権威『スペリオル・ウィザード』が完全に証明をしたと言っているんだ。これを覆すなら……向こうからやってくる可能性がある」
成る程な……ッチ、今はまだあいつらと正面切って勝てるかは怪しいか……
「わかりました。ではこれから人目につかないところで魔法を使う事にします」
「……ああ、本当にすまないな。不甲斐ない親で」
父さんが謝ってくる。
俺は父さんと母さんに感謝しなきゃいけない。シャルルの話から虹紋様がかなり迫害されているらしいが、それを母さんと父さんはそんな俺の面倒を見てくれていた。
「いえ、では失礼しました」
「失礼いたしました」
俺とシャルルが同時に部屋から出る。
「……迫害か……」
「アリ様?」
「なあ、お前はこれで良いか?やっと力を手に入れられたのに力を制限されるなんて」
「……そう、ですね。私としては悔しいです。でも……」
でも?
「……今の生活を崩したいとは思いません」
「……そうか」
「はい、とても良い環境で良い師匠に巡り会いました」
……師匠、ね。
「お前は俺を超えてくれよ」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもない」
◇
ああ、これは夢だ。
これは夢だとすぐに理解できた。
それはなんというか、酸いも甘いもその全てをごちゃ混ぜにしたような夢。
1人の男が黒いものと対峙している。
男が俺だと気付くのに時間はかからなかった。
確か、この時はまだ20歳だっけか、黒いものは……嗚呼、知っている。見えないが、俺はそれを知っている。
俺の師匠だ。本当に、前世で俺が勝てなかった相手。
なにかを話している。
ああ、懐かしい。確か師匠と魔法の事について話していたんだ。
こうすればああなる。ああすればこうなると言った具合でいつも師匠と話していた。
それは俺の人生の中でも最も甘美な一時だっただろう。
だが、それは終わる。なんの前触れもなく、師匠は消えた。
どこに行ったのか、どうして居なくなったのかわからない。ただ、忽然と姿を消した。
最後にあの人はなんて言ったんだったか……
『君は所詮そう言うものなのさ』
◇
「っは!」
……懐かしい、夢を見た。
よく体を確認して見ると汗がびっしょりと付いている。
気持ち悪いので服を脱ぐ。
……師匠か……
コンコンとリズムの良い音がドアからなる。
シャルルだな。
「なんだ?」
「いえ、もう午後の2:00ですが、大丈夫ですか?」
そんなに寝てたのか……
「ああ、ちょっと疲れてたっぽいからな」
「そうですか?今日は魔法の練習をお休みになりますか?」
「いや、行く」
なにか嫌な予感がする。
これ以上ないくらいの予感が……
「そうですか。では、入ってもよろしいですか?」
「ああ」
「失礼しま……」
「……どうした?固まって」
「いえ、その……ふ、服が……」
「服?」
ああ、そう言えば脱いだままだったな。
貴族の娘だし、こういうものの耐性はないか。
「ああ、すまん。すぐに着替える」
「い、いえ……その、ご馳走様です……」
それから俺は夢を見ることは無くなった。
風属性ばかり使って居たからこの一年は他属性を主体に鍛錬をし続けた。
そして……
「じゃあ、行ってきます。母さん、父さん」
「ええ、頑張ってくるのよ」
「おう、わかっていると思うが、その……」
「魔法は使いませんよ」
「そうか、すまない」
俺は10歳になり貴族院へ通う事になった。
「シャルルもあの子をよろしく頼むわね?」
「はい!アリ様の事を誠心誠意手伝わせてもらいます!」
そして、貴族院の付き人でシャルルがくるようになって居た。
まあ、だろうなと言う感想だが。
俺たちは王都行きの馬車に乗った。
「……なあ、シャルルって貴族だよな?」
「……はい、そうです……」
「向こうに行って知り合いがいるとか無いのか?」
「…………あっ……ど、どうしましょう!アリ様!私、知り合い居ます!」
……こりゃあ前途多難になりそうだなあ……
「落ち着け、まずその知り合いはお前が捨てられたって知ってんのか?」
「……はい」
「んじゃあなんもして来んだろ、お前が生きてるって分かったら色々面倒だろうし」
「はい、その……ごめんなさい」
「はは、謝んなくて良いっつーの」
そして数日後、もう少しで王都に着くところで……。
ヒヒイイイン
と、馬が悲鳴をあげる。
「どうした?」
「と、盗賊だ!盗賊が現れたんだ!」
業者のおっさんがこっちに逃げてくる。
いや、剣を取り出してる。戦う気なのか。
「盗賊、ねえ……」
「す、すまねえ!俺がもう少し戦えりゃあ!」
「いんや、んな事いいよ。それよりも、あの盗賊倒すから、ちゃんと送ってってくれるか?」
「な!なにを言うんだ!俺が時間稼ぎをするから、その間に少しでも君は逃げるんだ!」
優しいなこのおっさん。
屁っ放り腰で剣も震えているが、その心意気は良い。
「おっさん。無理すんな、俺がなんとかする。シャルルはこの馬車守れ」
「はい」
俺は魔法が縛られてる。
じゃあどうやって倒すか?
「おっさんその剣借りるぜ?」
「え、ちょ!?」
簡単だ。切り伏せればいい。
伊達に体鍛えてないんでね。
馬車から降りると、十人くらいの男たちに囲まれて居た。
「ん?俺たちの相手は嬢ちゃんかよ!ギャハハ!こいつは良い!適当に遊んで売るか!」
ロリコン……いや、今の俺は10歳だし、ロリコンじゃない?いやロリコンだわな。
まあ、喧嘩売ってきたあいつらが悪いんだ。腕や足が無くなったって文句言わねえよな?
「じゃあ、こっちから行くぞ」
小声で《ブースト》をかける。
そして、目の前にいた盗賊の横を一瞬で過ぎ去り、過ぎ去り際に腕を切る。
「……は?ぎゃああああああ!!!」
腕を切られた男が叫び、盗賊達の注意がそちらに向く。
なのでその隙に……
「え?どうし——うわああああ!!」
「おい!お前らああああああ!!!」
盗賊達の腕や足を一本切り落とす。
「な、なんだこいつ……」
さて、俺は無益な殺生はしないタチだ。
だから、このまま放っておく。
「よし、じゃあ行きましょうか」
「え?あ、ああ。そうだね……」
自体がまだ理解できていないおっさんに馬車を走らせる。
「さあて、どうなってるかな?王都は」
俺はまだ見ぬ王都に期待を膨らませた。
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