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風呂からシャルルが上がってきた。
「あの……ぱ、パンツはありませんか?」
下をモゾモゾしながらシャルルが尋ねてくる。
「ほら、こんなんしかねえがな」
俺の男用のパンツを投げ渡す。
「あ、ありがとうございます。悪魔様」
……そうか、まだこいつは俺の事を悪魔だって思ってんのか。
「お前今何歳だ?」
「?8歳です」
推測通りか。
「俺も8歳だ。敬語とかいらねえから、好きにしろ」
とか言うと、驚いたようで目を丸くさせてる。
「え?8歳?え?た、確かに見た目は幼いなとは思っておりましたが……本当に?」
「ああ、本当本当。ここに来たのはちょっと用事があっただけだ。お前を見つけて救ってやったのも偶然だ。お前は運が良かった」
「……そうですか、では500年前に住んでいたと言うのは?」
ああ、そういやんな事言ってたな。
まあ隠す必要ねえし、いうか。
「んや、俺は500年前から転生して来たからな。昔はここに住んでたから来ただけだ」
「?そ、そうですか」
どうやら話についていけてないらしい。まあんな事どうでもいいが。
「それよりもシャルル。お前、ちょっと魔法使ってみろ」
「……わかりました」
本当は魔法なんてもう使いたくもないんだろうが、多分俺が怖いから渋々使うんだろうな。
……さて、『呪文』がどうなっているかだが……
「んじゃ外に出るぞ」
「はい……」
外に出て少しアトリエから離れる。
「ここら辺でいいか。なんでもいいから魔法使ってみろ」
「いきます……すぅ……『我が火の力の眠りし所よ、我が声を聞け、我に答えよ。《ティンダー》』
『呪文』を言って火属性の最下級魔法の《ティンダー》を発動しようとするが、一向にその気配はない。
「……あははは、やっぱり、ダメでしたね。そうですよね、私はダメなんですよ。わかっていました。けど、ここまで生き残れたら何か出来るんじゃないかって、淡い期待を抱いていたのですがね……」
ああ、全く嫌になる。
「聞きたい事がある。もし、赤の紋様が浮かび上がったらそいつはまずは火属性の魔法しか練習しないのか?」
「……はい。そうです。そこから少しづつ他の魔法を覚えて行く。と言った具合です」
成る程な……。
「お前、魔法が使えるようになりてえか?」
「なれるものなら、代償は幾らでも構いませんね……」
そうか……
「なら俺がお前に魔法を教えてやる。喜べ、俺が弟子を取ったのはお前が2番目だ」
「……え?」
シャルルの目は信じられない物を見るような目だった。
それが自分に魔法が使えるのかどうかを考えているのか、それとも自分と同年代のガキが魔法を教えられるというのか……まあこんな所だろう
「私は、魔法を使えるんですか?」
「使える。俺が保障しよう」
「……貴方は虹紋様では無いからそんな事が言えるのです。私は、もう……」
「《ファイアボール》」
五月蝿いのでファイアボールで周辺を焼いてみた。
目ん玉飛び出るほど驚いているようだ。
「そんな、『呪文』を使わずにこんな高威力の魔法を……」
『呪文』ねぇ……
「お前、実は間違った『呪文』を使っていたらどうする?」
「え……間違ってる?『呪文』が?けど、これは『スペリオル・ウィザード』様が正式に出した本に書いてあって……」
やっぱあいつらクズだわ。
「いいか?お前の『呪文』第1節に『我が火の力の眠りし所よ』って言ってるが、それは火の紋様があるか、そこそこの魔力がないと使えない。虹紋様で《ファイアボール》撃ちたいんだったら『我が際限なき力よ、我の声に応えよ、力を示せ《ファイアボール》』」
すると、俺の手からさっきよりは小さい火の玉が射出される。
「ほら、言ってみろ」
そう言ってもシャルルは思いつめた表情をして動かない。
「……くだらねえ事考えんな。どうせこれで失敗したらとか思ってんだろ?いいか?成功していないってのは失敗と同じなんだよ。
お前はこれに縋ってんだ。けどな、失敗するかも成功するかも分からんこれに縋るって事は失敗してんだよ。
いいか、もしこれで万が一にも失敗したら俺がどうにかしてやる。だから気兼ねなく使いやがれ」
どうやら図星だったようで、ピクリと顔を動かして、前を向き、深呼吸をするシャルル。
「行きます!『我が際限なき力よ、我の声に応えよ、力を示せ《ファイアボール》』!!!!」
すると、彼女の背中から虹色の光が発せられる。
「こりゃあ……潜在能力だけなら他のスペリオルにも届くな……」
どんどん虹色の光は強くなり、羽のような形をとる。
そして、彼女の突き出した両腕から真っ赤な炎の玉が射出される。
威力は『呪文』を行なったにしては上出来で、俺の二分の1くらいの大きさだった。
「どうだ?初めての魔法は?」
「……あ、ああ……う、うてた……私……」
そう言ってバタンと地に伏すシャルル。
「ま、これからは『呪文』使わずにやって貰うけどな」
取り敢えずまだまだガリガリな彼女を抱えて空間魔法で帰る。
……実はこの空間魔法俺だけのオリジナルで世間に広めてないんだよなあ……まあいいか。
取り敢えず貴族の娘だって事がわかり、なんやかんやあると面倒だから無属性で髪の色を変えておく。
流石便利雑用属性と言われるだけはある。
銀ではなく金に染めておく。本当は緑とかにしたかったが、今の時代で何が地雷色か分からんしな。
さてぇ……勢いで連れて帰ってきたは良いが、こいつどうするか。いや、家に雇ってもらいたいんだがな。
貴族の娘なのに砂食ったり虫食って生き残るとか大した根性だしなぁ、このままってのは俺的には無理だ。
まあ、なんとかするか。
とか考えてシャルルをベッドの上に乗せる。
その時にコンコンとドアが叩かれる音がする。
この叩き方は……
「お兄様、リアスです。少し良いでしょうか?」
……これどう見るか?
自分の兄が自分の知らない女をベッドの上に乗せてる……これもしかしたらリアスの俺への好感度が下がる?
「あ、ああリアス。ちょっと待ってくれ、実は部屋が散らかっていてな……」
それだけはマズイ!なんとかしてこいつを隠さなければ!
俺のアトリエに一旦こいつを持って行くか?
それしか無い!
ガチャ
「お兄様?大丈夫で……す……か……」
リアスよ、何故俺が散らかっていると言っているのに入ってきてしまうのか?いや、リアスにはよく部屋の掃除を手伝ってもらっていた事がある。それのせいで手伝おうと思って入って来てくれたんだろう。
我ながらなんて優しい妹なんだ。
だがもう少し躊躇として欲しかった。
「お兄様?そちらの方は?」
何故か黒いオーラを出しながらリアスが近ずいてくる。
たまに女って怖いよな、駄目イドもたまにこんな雰囲気醸してた時があった。
「いや、今日ちょっと外に出てね、倒れているところを発見したんだ」
「優しいお兄様らしいですね」
うふふと微笑んでいるが、何故か全く顔が笑っていない。
「何故それをお父様とお母様に連絡しなかったのですか?」
「いや、言うつもりだったんだけど……その前にリアスが入ってきたんだよ」
「では何故お兄様のベッドの上に寝かせているのですか?」
「床で寝かせることはないだろう?」
「お兄様、何故体からあの女の匂いがするんですか?」
リアスの嗅覚はどうやら犬並みらしい。
「そりゃあ、抱えてきたからだけど」
「……そうですか!ならば良いのです。お父様とお母様に報告をしに行きましょうか!」
どうやら尋問は終わったらしい。
ああなると女に逆らったら駄目だ。
一回駄目イドに逆らったらマジで辺り一面が更地になるところだった。
……俺は世界の中でもかなり強いと自負してるが、女には勝てないのか……
その後2人に報告すると、父さんが笑いながら許した。
「そうか、お前もそう言う時期か!彼女の親はいなくて野垂れ死ぬ可能性があるんだろう?ならウチで雇うのはなんの問題もないな」
いや、本当にその程度の確認でいいのかと言いたいが、せっかくのこの話を取り上げられたくはないので『ありがとうございます』とだけ言っておくことにした。
部屋から出る時に聞こえた、愛人という単語は聞かなかったことにしておきたい……
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