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壊し屋のお仕事  作者: 野長シノ
7/7

希望の朝、絶望の昼

気がつくと、最初に集まったあの日からかなり日が経っていた。


作戦決行は明日。


この約ひと月の間に、街の大工や職人の男たちによってギルドの1番奥に監視役用の部屋が作られ、レイやクリフ、この街の冒険者によって街周辺の魔法石結界が強化された。


作戦決行に向けて着々と進んでいた準備も今日で終わる。


自分もやったというように話しているが、俺はこの期間ずっと、店でいつものように依頼を待っていた。


それが俺にできることだと思ったからだ。


たが、それが正解だったかもしれない。


この期間、冒険者やら職人やら大工やら、使い物にならなくなった武器や、工具の破壊依頼が多かった。


依頼を受けて武器を破壊しては、その破片を燃料用や武器用としてレイや街の人に配るという作業を繰り返し、今に至る。


俺がリアの店にいるのは、明日の作戦を確認するためだった。


俺だけじゃない。


クリフの作戦に賛同した街の人たちがリアの店に集まっていた。


最初に集まった時のように、土木工事の男とクリフの2人が集まったメンバーの中心にいた。


『揃ったみたいだな。』


男が周りを見渡してそう言った。


『いよいよ明日、王都から監視役がくる。クリフさんと反魔王軍の力添えもあって、監視役の人も反魔王軍の人が来ることになった。アーシア・マルゾーナという人だ。到着は明日の昼間だ。明日、アダレイドがアーシアさんを連れてくる。王都では、俺たちは監視役の情報に関してなにも知らないことになっている。だから、王都幹部がいるところで話したりしないようにしてくれ。それと、明日はクリフさんが外に出られない。反魔王軍が今回のことに関与しているとバレないためだ。だからクリフさんも非常事態の時以外は頼れないことも頭に入れといてくれ。。』


いよいよ明日か。


俺含め、ここにいる誰もがそう思っているだろう。


男が話終わり解散がかかると、今日は皆店に居座ることなく帰って行った。


みんな仕事に戻ったか、家に帰ったのだろう。


残ったのは、俺とレイ、クリフ、店の従業員の2人だ。


『ご飯食べてく?』


リアがそう聞いてきた。


『ああ。 適当に頼む。』


『はーい。』


リアは料理の下準備にはいった。


俺はカウンター席に座り、リアの料理を待った。


俺に合わせるように、レイとクリフが両隣に座った。


2人が座った直後に俺は口を開いた。


『んで、明日リアとレイはどうするんだ?』


『ん?私たちは特に何もしないよ?クリフさんとここにいて、監視役が来る頃に広場に行くつもり。』


『そうか。』


『ダンは何かするの?』


『いや、なにも?』


『そうでしょ?私たちはすることないんだからさぁ。』


リアはお気楽口調でそう返してきた。


『まぁ、そうだな。』


『だからさぁ。明日はこの店にいない?私たちも暇なんだよぉ。』


リアが下ごしらえをしている手を止め、カウンターから体を乗り出してきた。


『なんでそうなる。』


『ええ?いいじゃん!どうせ暇なんだからぁ。』


『だいたい、俺がここにいてなにか変わるか?暇なことには変わらないだろ?』


『変わるよぉ。私の暇が潰れる。』


『そんだけかよ。俺も店やってるんだからそれはないだろう。』


『なんでよぉ?店にいてもどうせお客さん来なくて暇なんでしょー?』


『あのなぁ…。』


なんとも失礼で、なんとも身勝手な話だ。


こいつは俺のことをなんだと思っているのだろうか。


『いいじゃんよぉ!』


『レイとクリフさんがいるだろ?てか、お前は手を動かせよ。』


『ダンのケチ…。』


リアは頬っぺたをパンパンに膨らませながら、乗り出していたカウンターから降りて、下ごしらえに戻った。

隣からくすくすと笑い声がした。


隣に目をやると、その光景を見ていたクリフが笑っていたのだ。


『そんな面白かったですか?』


とクリフに聞いてみると、


『いや、すみません。王都にいる同僚夫婦のことを思い出してしまっただけで、そんな、会って間もない人を笑うなんて、失礼じゃないですか。』


と笑いながら言った。


失礼といいながら笑ってやがる…。


『いやだぁ。私とダンが夫婦に見えますかぁ?照れるじゃないですかぁ。』


リアはそう言って、なんともいえないにやけ顔をした。


『 おいおいリア、クリフさんが言ってたのはそういうことじゃない。だから、その緩んだ口元を元に戻して、手を動かしてくれ。』


『ええ?ダンは嬉しくないのぉ?』


『いやだから、クリフさんは俺たちのことを言ってるわけじゃないんだって。』


『でも、そう見えたんでしょー?やっぱり照れるよぉ。』


人の話を聞けよ。


俺は心の中でそう思った。


リアは俺たちが料理を平らげるまであの調子だった。


先程まで笑っていたクリフでさえも若干引いているように見えた。


結局のところ、明日は昼まで自分の店にいることにした。


その決断にリアの頬っぺたは膨れていたが、俺には関係ないことだ。


『んじゃ、俺帰るから。』


俺は皆にそう告げて、店の扉を開けた。


外に出てみると、周りの家々はいつもより静かで、灯りもほぼ消えていた。


街の人たちも明日に備えているのだろう。


みんなと別れた後、俺は寄り道をせずに、自分の店へと戻った。


俺は店の鍵を閉め、自分の部屋のベッドに腰掛けた。


静かな空間。


月の光だけが部屋を照らし、余計な音もない。


この空間の中、俺は何も考えず座ったまま数分間を過ごした。


数分経った頃、睡魔が俺を眠りの世界へと誘い始めた。


俺はベッドに横になり、目を閉じた。


疲れていたのか、途端に意識を失った。


次に眼が覚めた時には、もう仕事始めの鐘は鳴り終わっていた。


ぐっすり眠れたようだ。


窓を見てみると、今にも雨が降りそうな厚い雲が空に広がっていた。


俺は体を起こし、ベッドから出た。


店の服に着替えて、外に出てみると、みんなもう働きだしているのが見えた。


店の看板を店の入り口に立てた俺は、店への中へと戻った。


『今日は昼までだな。』


俺はそう呟いて定位置に座り、客が来るのを待つことにした。


いつものことだが、客を待つ時はすることがない。


暇なのだ。


この座った状態で出来ることは、頬杖をついたり、テーブルに突っ伏したり、 伸びをしたりするくらいだ。


暇を持て余していたその時、俺が待ちに待った音が聞こえてきた。


店のドアが開く音だ。


俺は『待ってました!』とでも言うような勢いで立ち上がった。


そして、


『いらっしゃ…。』


俺がそう言いかけた時、俺のテンションはガクンと下がった。


理由は見覚えのある赤髪ショートヘアの酒場の娘と見覚えのあるピンク髪の武器商人の少年が俺の目の前に立っているからだ。


『やっほー、ダン!店の売り上げはどーお?』


その娘はいつものお気楽口調でそう聞いてきた。


『なんだよリア。冷やかしか?』


『うーん…。暇つぶし?』


『今すぐ自分の店に戻れ。』


『えええ?なんだよぉ!どうせダンが暇だと思ったから来てあげたのにぃ!』


暇なことは間違いないが、それをこいつに言われると腹がたつ。


『おいレイ。お前昨日の夜いたよな?どうしてこいつを連れて来た?』


『ダンさんすみません。姉ちゃんが、(行かせないと今日のご飯なしにする)って言うもんですから…。』


脅す方も脅される方も何してるんだよ…。


『お前らなぁ。客じゃないなら帰ってくれよ。それに、クリフさんはどうしたんだよ?』


『あぁ、大丈夫大丈夫!バイトちゃんと一緒にいてもらってるから!』


『あのなぁ…。』


『毎度毎度、バイトちゃんをこき使い過ぎだろ…。』


『いいのいいの!忙しくなったら私も帰るから!』


帰る気ないだろ。


俺は心の中でそう思った。


『いいじゃんいいじゃん!あと数十分程度の話なんだからさぁ。どうせお客さん来ないんでしょー?』


はぁ、面倒くさい。


俺の話も聞かないまま、こいつらは居座り始めた。


そして、居座ってから10分もしないうちに、リアが


『ねぇー、暇なんだけどぉ。』


と漏らした。


『そりゃそうだ。リアの酒場とはわけが違うからな。』


『うぅ、つまんないぃ。ダンっていつもこんな感じなのぉ?それだったら、私の店でバイトしてよー!』


『あのな。それがものの10分で吐くセリフか?俺の店じゃこれが日常だ。』


『うぅ…。』


この会話をあと何回か繰り返したのだ。


俺的には2回目の時点でイライラし始めた。


3回目が来た時はイライラ度が溜まっていて、追い出そうか、あと数分我慢しようかの葛藤があった。


3回目の会話が終わって、店に沈黙が走った頃、聞き覚えのある警報音が聞こえた。


『緊急放送!緊急放送!この街の入り口に王都の幹部の方がお見えになってい ます!住人の皆さんは街の正門にお集まりください!緊急放送!緊急放送!この街の入り口に王都の幹部の方がお見えになっています!住人の皆さんは街の正門にお集まりください!』


この前アダレイドが来た時同様、ギルド職員によって放送がかけられた。


『まだ、お昼前なのに、もう放送かけるのか…。』


レイがそう呟いた。


『予定より早く着いたのかも!ダン。レイ。急ご!』


リアが先程の会話と明らかに違うトーンで俺たちを促した。


俺とレイは頷いて、リアの後をついて行った。


店の外に出てみると、正門の広場に向かうの人の流れが出来ていた。


以前と比べて、不安な顔をする街の住人も少なかった。


俺たちもその流れに乗って正門の広場へと歩みを進めた。


広場に到着し、辺りを見渡すと、そこにはすでに跪いた人でいっぱいだった。


俺たちが最後の集団だったらしく、俺たちは1番後ろ列で跪くことになった。


『全員揃ったようだな。』


聞き覚えのある図太い声が広場中に響き渡った。


『王都幹部のアダレイドだ。以前ここで宣言したように、貴様らの街は我が王の支配下となった。そして、この街から反乱分子が現れないように、監視役を王都から派遣することになった。その監視役を貴様らに紹介する。同じく王都幹部のアーシア・マルゾーナだ。彼女は私と同じように拘束魔法を使う。命が惜しいなら反乱など考えないことだな。』


話が進んでいくが、一番後ろだとアーシア・マルゾーナどころかアダレイドすら見えない。


『話は以上だ。この後はアーシアに任せる。私はアーシアに引き継いだことを王都に帰って報告する。では、解散。』


解散がかけられた。


街の人々は帰らずに、アダレイドの馬車がこの街を後にするのを見届けた。


そして、アダレイドの背中が見えなくなったのを確認し、跪いて見ている方向を正門からアーシアに移した。


『アーシア様。ようこそ、お越しくださいました。』


誰かがアーシアに対してそう言った。


『話は同僚から伺っています。よくここまで耐えてくださいました。』


かなり、丁寧でおっとりとした口調だ。


だが、その口調で発せられた言葉に、俺たちは安心していた。


『これから皆さんには、一生この街で暮らしてもらいます。なので、この街から脱走しないように、皆さんに活動の制限をつけたいと思います。』


アーシアがそう言い放った。


街の人々が戸惑いの声をあげ、騒めき始めた。


アーシアが聞いていた作戦とは違う行動をとっているからだ。


作戦だと、この後はアーシアとクリフたち反魔王軍が処理することになっている。


何だ?


何かがおかしい。


『それでは、皆さん動かないでくださいね。』


アーシアの言葉に、俺たちは一瞬でパニックになった。


それから10秒後、俺の首には鎖でできたチョーカーが付いていた。


周りを見渡すと、リアにもレイにも街の人々にも同じものが付いていた。


『それでは、このチョーカーの動作説明をします。まず、この街は拘束魔法の結界によって私の箱庭となりました。皆さんの付けているチョーカーは私の箱庭の外側に近づくにつれて皆さんの首を締めていきます。そして、私の箱庭の外、この街でいう正門を出てしまうと、首が締まるのではなく、あなたの首を胴体から分離させます。動作説明は以上です。命が惜しいなら何もしないことですよ。』


その言葉に俺たちは絶望していた。


『ふ、ふざけんな!は、話が違うじゃねーか!』


住人の1人が跪くのをやめ、皆が思っていたことをき出した。


『あんたは、俺たちを助けてくれるんじゃなかったのか?これじゃあ、アダレイドとかわらないじゃねぇか!』


男の言葉を聞いて、一部の男どもが『そうだそうだ!』と言わんばかりに立ち上がって抗議した。


『あなたたちは、死にたいのですか?』


アーシアは口調と声のトーンを変えずに男どもに聞き返した。


『死にたかないから、あんた達を頼ったんだろうが!』


1人の男が声を荒げて反論した。


すると、


『ああぁぁぁ…。』


立ち上がって反論していた連中が悲鳴に聞こえる声をあげた。


近くにいた男の様子を見てみると、チョーカーが首を締めていることがわかった。


『言い忘れていましたが…。』


アーシアは口調もトーンも変えることなく、再び話し始めた。


『このチョーカー、私が締めることも出来るんです。なので、試しに、今立ち上がって反論している皆さんの首を締めさせてもらっています。叛旗を翻す人たちはこうなるので、何もせず、この街で一生暮らすのが賢明だと思いますよ。』


アーシアがチョーカーを緩めたのか、首を締められていた男たちは地面に倒れこんだ。


その光景を見ていた人々は、悲鳴をあげることすらしなくなった。


一瞬にして広場に重苦しい沈黙が走ったのだ。


俺は近くにいたレイに


『レイ、クリフさんを呼んできてくれ。』


と告げた。


レイは頷き、静かにこの場を離れた。


アーシア・マルゾーナは本当に反魔王軍のスパイとして王都幹部の中にいるのだろうか。


今の彼女の行動を見ていても、本当にクリフと打ち合わせをしたのかと思ってしまう。


なんなら、ただの魔王幹部と思えてしまう。


まぁ、すべてはクリフが来たらわかることなのだが…。


『さてと…。一通り説明したと思うので、今日は解散にしましょう。誰か、ギルドの方に案内してくれませんか?』


アーシアが俺たちにそう問いかけた。


『では、私が。』


と名乗り出る者はギルドの職員だけで、他は誰もいなかった。

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