夢と作戦
俺は暗闇の中にいた。
何も見えない。
何も聞こえない。
動けない。
立っているのか寝ているのかもわからない。
そんな場所だった。
ただ…。
『お前の鎖は全てを破壊する。』
『お前が全てを壊す。』
『お前は王の右腕となる男だ。』
『お前が全てを壊す。』
頭の中で、複数の誰かの色々な声が響いていた。
さらに、声だけでなく、誰かの鳴き声、叫び声、負の感情、が頭のを駆け回った。
『お前は人の皮を被った化け物だ!』
『お前が全てを壊す。』
『この世界のためだ。』
『お前が全てを壊す。』
頭で声が交錯する中、俺は何かに縛られるのを感じた。
そいつは俺の足を縛り、腕を縛り、体にまきついてきた。
『この魔法は危険だ!』
『お前が全てを壊す。』
そいつが首に巻きつき始め、口を覆った。
そして、縛りがきつくなっていくのを感じた。
痛い。
叫びたいが、声が出ない。
『残酷すぎる…。』
『お前が全てを壊す。』
『返して、ねぇ…。返してよ!』
『オマエガ…スベテヲ…コワス……。』
俺に巻きついているそいつは鼻を覆ったところで巻きつくのをやめた。
それと同時に頭の中で駆け回っていた声が突然止んだ。
締めつけられているという痛みや苦しさだけが残っていた。
すると、
『黒い鎖で破壊の限りを…。』
俺の声が頭に響いた。
その瞬間、足首、膝、太ももと順々に今までに感じたことのない痛みが走った。
その痛みはどんどんと顔に近づいていた。
やだ。
やめろ。
心の中で叫ぶことしかできなかった。
『あああああああああああ!』
突然、声が出るようになった。
気がつくと、そこは俺の店の中だった。
俺は乱れていた呼吸を整えた、
『夢か…。』
久々に恐ろしい夢を見た。
まさか、自分が死にかける夢を見るとは…。
時間を見ると、仕事終わりの鐘が鳴り終わって1時間以上経っていた。
俺は店の外にある看板をしまい、部屋着のジャージに着替えた。
そして、今日の収穫である2000ルートを片手にリアの店へと向かった。
店の階段を上り、 店の入り口を抜けると、いつものように客が入っているのが見えた。
でもやはり、雰囲気が違っていた。
『いらっしゃい。でも、あいにく、今日は貸切なんだよ。悪いんだけど今日は別のところで食べてくれない?』
リアがそういった。
『お、そうだったか、悪いな邪魔して。』
俺はリアに背中を向けて帰ろうとした。
だが、
『あぁ、いいよリアちゃん。このにいちゃんにも聞いてもらいたかったからちょうどいい。』
土木工事の男が、俺を引き止めた。
なんのことかわからなかったが、とりあえず椅子に座り、話を聞くことにした。
よく見ると、リアやバイトちゃん、常連客の他にレイ、ギルド職員、昨日アダレイドの前で反論したやつまで集まっている。
『みんな、今日は集まったくれてありがとう。話す前に、今日のことはここだけの秘密、外では絶対に喋らないようにたのむ。』
男の言葉でなんとなく察した。
そして、いつもこの店で酔っ払って、絡んでくるおっさんが真面目に話しをしているのはとてつもなく変な感じだ。
まぁ、いつも酔っ払ったところしか見てないからかもしれないが…。
『さぁ、本題だが…。みんなも知ってるように、昨日王都から幹部の1人がやってきて、この街を支配下に置くという話をした。支配下に置かれるにあたって、監視役が王都から派遣されるという話もした。王都の奴に支配されるということは、俺たちが今まで送ってきた日常を送れなくなるということだ。王都では重税によって人々は苦しめられ、飢え死にする奴 もいる。それ以外にも、王都では日々住人が捕まり、重労働を強いられたり、理不尽に殺されたりしている。それが俺たちの街でも起きようとしている。 王都の住人には悪いが、俺はそんな目にあうのはごめんだ。この街は今までのように、この街だけで成り立たせたい。この街を守りたい。賛同してくれるやつは俺についてきてほしい。』
やっぱりそうだったか。
大変なところに出くわしてしまった。
『おい、お前。自分が何言ってるかわかってるのか?それってつまり、魔王に喧嘩売ろうってことだろ?』
別の常連客の男が反応した。
『あぁ、つまりはそういうことだ。』
『バカなのか?この街には王都に対抗できるような戦力もない。ギルドにいる奴らと住人合わせても魔王軍の奴らには勝てないことくらいわかってるだろ?』
『もちろんだ。王都に乗り込むなんて無謀なことはしない。』
『じゃあ、どうするんだよ?』
『監視役を丸め込むんだ。』
男の発言に、皆がポカーンとした表情を見せている。
『丸め込むというのは少しおかしいか。言い換えるなら監視役はこちら側の奴にやってもらうということだ。』
沈黙から一変、皆が『おお。』と声をあげた。
『でもよ。どうやってこちら側の奴を監視役させるんだ?俺たちじゃ、何にもできねぇぞ?』
『あっ…。』
誰かの発言によって、この空間は再び沈黙を取り戻した。
ここに人を集めた張本人は『はぁーーー。』と長いため息をついて、
『俺がそんなドジに見えるのかよ。』
と一言漏らした。
『じゃあ、この案を考えた人に話してもらうとするよ。すみません、お願いします。』
店の奥から白いローブを着た人物が出てきた。
顔はローブで隠しているようで、わからない。
『紹介する。反魔王軍所属の騎士、クリフさんだ。』
そいつはローブのフードをとり、顔を見せた、
『初めまして。反魔王軍所属のクリフ・グリーソンです。』
紺色の短い髪、シュッとした顔の輪郭、以下略。
とにかくイケメンだ。
かなりのイケメンで、ここにいる男たちと一緒にいると人だけ浮いて見える。
まぁそこはどうでもいい。
『では、さっそく発案の経緯についてお話します。』
クリフは話し始めた。
『反魔王軍は、王都を拠点に、魔王軍と戦っている戦闘集団です。我々軍員の中で、魔王軍内部にスパイとして潜入し、幹部の地位についた者が何人かいます。その者と連絡をとり、監視役をかってでてもらいます。その他に、この街に監視役の部下を中心にこの街の衛兵部隊を結成させ、皆さんをお守りします。今までの生活が送れるよう、我々も尽力させていただきます。』
クリフは最後に一礼し、話しを終えた。
クリフの『作戦』に、皆が拍手と歓喜の声をあげた。
これならいける。
俺もそう思った。
『見ている限り、反論は無さそうだな。 反魔王軍の情報によると、監視役は一月後にこの街に到着するとのことだ。それぞれで出来ることをしてほしい。よろしく頼む。今日は解散だ。』
よかった。
クリフに関してはまだ信用出来ないが、この街に日常が戻ってくるなら、また静な暮らしができるなら、俺も出来ることをしよう。
といっても、壊し屋を継続させることしか今のところは浮かんでいないのだが…。
とにかく、気がかりだったことの1つは解消されそうだ。
とりあえず解散もかかったことだし、夕飯にしよう。
俺は持っていた2000ルートをリアに払い、いつもよりグレードアップしているリアのご馳走に期待を膨らませながら、食事が出るのを待っていた。