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壊し屋のお仕事  作者: 野長シノ
3/7

壊し屋ダン②

窓から陽の光が注ぎ込む。


暑くもなく寒くもなく、程よい陽気だ。


あれからというもの、客は1人も来ていない。


昼時はとっくに過ぎて、近所の子供達はおやつの時間というところだろう。


仕事終わりの鐘が鳴るまであと2時間程度。


客はもうこないかもしれないな…。


今日の稼ぎは500ルート。


まぁ依頼ゼロではなかったし、今日も飯を食うことはできるだろう。


だけど、ほぼ半日何もせず、1人店の椅子に座ってるのも楽なことではない。


その状態に飽きた俺は、勢いよく立ち上がり、


『今日は店閉めて、飯にでも行こうか。』


と、誰もいないこの空間であえて大きな声でそう呟いた。


もちろん誰も返事をするわけがない。


いつものことだが、誰かバイトでも雇おうかと思ってしまうほど1人でいることが虚しく思えてくる。


でも、うちにはそんな余裕もない。


だから結局、いつも同じ結論に達する。


今のままでいいと。


ここに転生してもうどれくらいになる?


ずっと1人というのは慣れてるはずだろ?


そう自分に言い聞かせ、俺は椅子に座りなおした。


夢のないことを考えるくらいなら待った方がよっぽど楽だ。


俺は椅子に座り直して、客がくるのをどっしりと構えて待つことにした。


そう決めた矢先、カランカランとドアチャイムの音が聞こえてきた。


店閉めなくて本当に良かったと俺は思った。


入ってきたのは近所に住んでいるリアの酒場の常連だ。


土木作業を毎日している人で、ゴリラみたいなごっついガタイにスキンヘッド、そしてその頭に青色のバンダナを巻いているのが特徴だ。


『よぉ、壊し屋。儲かっているか?』


ドスの効いた低音ボイスが図上から降ってくる。


『見ての通り、暇なんだよ。今日はどういった用件で?』


『あぁそれなんだが…。これを頼む。』


男が出してきたのは、 二つに折れたスコップ、つるはし、そしてさっきの客が出したのと似たような杖だった。その杖で違うところといったらL字型でなく、T字型であるくらいだ。


『んじゃ、これに名前と職業と壊したいものを書いてくれ。』


『へいへい。』


男は俺が渡した紙にサラサラと必要事項を書き、俺に渡した。


そしてこう付け加えた。


『作業をしてる時に折れたものだ。三つとも壊してもらいたい。』


『どんなことしたら、道具が真っ二つになるんだよ?』


『さぁな。とりあえず頼むわ。』


『わかったよ。じゃあとりあえず、金属部分がある道具を先に壊すから、金属片が当たらないように、杖だけ持って店の外にいてくれ。この二つを壊した後に入ってきてくれ。』


男は頷き、店の外に出た。


扉が閉まるのを確認した俺は、折れたつるはしを右手に折れたスコップ左手に、魔力を左手と右手の両方に集中させた。


そしてすぐに二つの道具は黒い鎖に巻きつかれた。


俺は持っている手を離した。


鎖に巻きつかれた道具たちは、俺の目線の高さで浮いていた。


『黒き鎖で破壊の限りを…。』


両手を広げて、手のひらをパチンと合わせる。


すると二つに折れていた道具たちは、まず先っぽの金属部分と持ち手の木の部分とで分かれて床に落ちた。その後に元々折れていた木の部分が後に続いた。


そして、三つに分かれた道具たちは床に落ちたと同時にそれぞれ膨らんで破裂し、破片四方八方に飛び散った。


その瞬間に、パリンと何かが割れて落ちるような音と、何かが木造のこの店のどこかに刺さる音が聞こえた。


間違いない。


金属片だ。


木片なら壁に当たっても床に落ちるからすぐに片付ければいい。


だけど金属片は、飛び散るとタチが悪い。


飛び散った金属片は床や壁に刺さるわ、窓を突き破るわ、あとあとの処理が面倒くさいのだ。


今回もそのような状態だ。


壁に刺さったところが5カ所、突き破った窓一枚。


なかなかのものだ。


だが、今は片付けのことを考えてる場合ではない。


もう一つ壊さなきゃいけない。


木製の杖だ。


俺は店の入り口の扉を開け、店の外で待っている男から折れた杖を受け取り、元の位置に戻った。


そして俺は今日三回目の破壊の魔法を発動させた。


順序は先ほどと同じだ。


折れた杖を両手に持って、魔力を集中させる。


黒い鎖が杖全体に巻きついたら、例の呪文を呟く。


そして、広げた両手を胸の前でパチンと合わせる。


これで終わりだ。


あとは杖が勝手に壊れる。


杖、もとい木の棒2本はそれぞれで三つに分かれ、分かれた棒切れたちは膨らんで破裂し、四方八方へと飛び散った。


『さすがだな。やっぱり頼んで正解だわ。ほらよ、1500ルートだ。これで足りるだろ?』


『多すぎるな。500ルート1枚でも多いくらいだ。』


『いいから貰っとけ。そんな客こねぇんだからよ。んじゃ、おれは帰るわ。じゃあな暇人。俺には仕事上がりの酒が待ってんだ。』


『そうかよ。ありがとうな。俺は鐘が鳴るまで店にいるよ。』


俺の宣言に対して男は鼻で笑い、


『残りの時間で客来るのかよ。』


と言い残して、笑いながら店を出ていった。


事実だとわかっているが、実際に口で言われると腹が立つな。


俺は心の中でそう思いながら、木片を片付け始めた。


全ての木片を集めた俺は、さっき壊した魔法の杖の木片と共に店の端に山を作った。


『これでよし。』


俺は腕で額の汗を拭った。


その時、涼しい風が俺の肌を優しく撫でた。


突き破れた窓から流れているようだ。


穏やかな風を感じるのは悪いことではない。


だけど、目の前の光景を見てしまうと、これが悪いことのように思えてしまう。


『窓直さないとなぁ…。』


そう呟きながら、俺は壁や床に刺さった金属片を抜き始めた。


幸いにも、刺さった金属片のほとんどは軽く引っ張ればスルリと抜けるものだった。


俺は余計な力を入れることなく、楽々と金属片を処理した。


それもあってか、すぐに片付けは終わった。


金属片を俺は木片の山の隣にまとめた。


集めた木片や金属片は仕事終わりの鐘が鳴ったら武器商人のレイのところに持っていくのだ。


金属片だって溶かせばまた武器の一部になるだろうし、木片も燃やす材料にはなるだろう。


俺は一旦部屋に戻り、店の服からジャージに着替え、完全にオフモードになった。


もう客は来ないだろうとふんだのだ。


店のキッチンスペースにある引き出しから麻袋を2つ取り出した。


すると


カラーン、カラーン、カラーン、カラーン。


仕事終わりの鐘が街じゅうに広がった。


ちょうどいい。


そう思った。


俺は麻袋の口を広げて、山にした金属片と木片をそれぞれ袋に入れ、口を紐で縛った。


それを店の入り口持って行き、扉の前に置いた。


それから扉を開けて、店の外の『物の破壊承ります。』と書かれた看板を店の中へと戻し、店の鍵を閉めた。


そして俺はそれらの荷物を両手に持ち、 リアとレイの店がある2人の家へと向かった。


リアとレイは同じ場所で違う商売をしている。


同じ場所というのは、つまり1日働いたオヤジたちが酒を飲む場所と武器を作る工房が同じ建物の中にあるということだ。


俺の眼の前にそびえ立つ木造二階建ての建物。


俺のログハウスが可愛く見える大きさだ。


どれくらい大きいかを説明するのが難しいが、とりあえず二階建ては二階建てだ。だけど、2人で住むには広すぎることは確かだ。


俺の目の前には人2人は横に並べそうな石段を2段とその先に入り口が見えた。


俺は2段飛ばしで入り口の前まで一気に飛び上がった。


そして俺はためらうことなく、店の扉を開け放った。


店に入ると、レイが売り物であろう片手剣を研いでいた。


扉が開いた音に気付いたレイはこちらをみて


『いらっしゃい。あっ、ダンさんじゃないですか!』


と言った。


『ようレイ。今日の素材だ。』


俺は両手に持っていた麻袋を床に置いた。


『いつも助かります。今日は何ですか?』


レイは麻袋の口を開けた。


『見ての通り、木片と金属片だ。使えそうか?』


『はい!金属片は溶かして使います!木片はリアと山分けします。』


レイは笑ってそう話した。


レイに麻袋を手渡し、俺は今日の仕事を終えた。


『んじゃ、俺は上で飯でも食ってくるわ。』


『あっ、僕も行きます。ちょっと待っててください。』


レイは研いでいた片手剣を店の奥にある工房へと持っていった。


売り物を持ち出されないためだろう。


工房から出てきたレイは工房の施錠をした。


俺とレイはこの家の2階にあるリアの酒場へ続く階段を一歩ずつ上っていった。


階段を一段ずつ上っていくにつれて、酒と何らかの食べ物の匂いが鼻に、ゲラゲラと笑う男たちの声が耳に伝わってきた。


階段を登りきると、 なんとも騒がしく、慌ただしそうな光景が広がっていた。


4人掛けテーブル4つと8人掛けのカウンター席。

そこで酒を飲み、飯を食べながら、群がっている男たち。


そしてカウンターの向こう側にはせっせと料理をつくるリアと、客の注文を聞くバイトの姿があった。


今日の夜もとっても忙しそうな様子だった。


俺たちは空いているカウンターに2人並んで座った。


その時俺の左の席の方から俺の背中に平手が飛んできた。


『よぉ、暇人。俺以降の客はいたのかよぉ。』


さっき店に来た土木工事の男だ。

酒を飲んでご機嫌なのか、絡み方が非常にウザかった。


俺は男に少し苛立ちながら


『いなかったよ。お陰様で暇だったよ。』


と返した。


俺の反応に男はゲラゲラと笑いながらこう言った。


『まぁそんな怒るなよ。 ここは魔王の支配が及ばないようなチンケな街なんだからよぉ。』


男の言葉に周りのオヤジたちもゲラゲラと笑いだした。


どこが面白かったのか俺にはさっぱりわからなかった。


でも真面目な話、男の言う通りだ。


魔王城周辺の街は俺が望んでいるような穏やかな生活は出来ない。


魔王族による破壊活動。


重税。


その重税による住民の飢え。


理不尽な処刑


魔王のやり方に意を唱えて消された者は数えられないくらいいる。


逆に魔王に賛同するという化け物のような奴も少なくない。


中心地は荒れに荒れているのだ。


この街にいる奴ら(俺も含め)は中心地に出稼ぎに行くとか、そういう思考はない。


なぜなら、俺自身はあの場所が危険だということを知っているからだ。


だが、おそらく、ここにいる酔っ払いたちの半分以上は、中心地に行った奴らから聞いた話と噂をもとにイメージした空想を酒の肴にしているのだろう。


俺からすると、中心地の情報はその程度でいいと思うのだ。


むしろ、知らなくていいことの方が多い。


そんなことを俺は教える気にもならないし、聞いていても気分が悪くなるだけだろう。


さて、今日の夕食はどうしようか。


いつの間にか下を向いてた俺は、顔を上げ、目線をカウンターに戻した。


すると、


『ねぇ、ちょっと、ダン!何食べるの?』


リアが手を腰にあてて、カウンター越しに俺の目の前に立っていた。


何か食べないと店に来た意味がない。


『とりあえず、これで食えるもので。』


俺はそう言って、ジャージのポケットから1500ルートを出し、カウンターに置いた。


『 おぉお?それは俺が払った1500ルートじゃないかぁ。本当にギリギリだなぁ、暇人はよぉ。』


その言葉に再び酔っ払いたちはゲラゲラと笑いだした。


何度もいうが、今の場面で面白いところがあったようにも思えないし、ただただこいつらの絡みがウザい。


俺はそいつらの笑いを無視して、


『まぁ、なんか適当に作ってくれ。』


とリアに言った。


横から『スルーかよつれねぇなぁ。』って聞こえたが、リアははぁっとため息をつきながらも、調理を始めてくれた。


それに気づいたこの店のバイトの人が


『お水、どうぞ。』


と水を持ってきてくれた。


落ち着いたというか、おっとりした声だ。


『ありがとう。』


ここのバイトの人は肩まで伸びた銀髪と服の上からでもわかるような胸、そして身長が低いことが特徴だ。


しかしながら、そんなボディをもちながら、転生する前の俺の身長(平均身長より10センチくらい低かったんだが…)を下回っている。


いつ見ても、とってもアンバランスだ。


だが、彼女はリアと同い年らしい。


彼女のことについて俺たちはそれくらいしか知らない。


正確に言えば、リアとレイ以外全員彼女の本名や素性を知らない。


だからみんな、バイトちゃんと呼んでいる。


俺がこの街にきた頃からこの店でバイトをしていたから相当長くバイトをしているようで、おそらく男どもはもう慣れたのだろう。


バイトちゃんのことについて俺も多少は興味があったが、周りの男どもが誰も聞いていなかったので、俺も聞かなかった。


まぁ、リアの知り合いなら悪いやつはいないだろう。


俺たちはそう理解している。


というか俺自身も、危害を加えないのならべつにいいと思っているし、毎度毎度ここで飯を食ってたら慣れてしまった。


そんなバイトちゃんが持ってきた水を俺は一気に飲み干した。


キンキンに冷えた水が渇いた喉に染み渡るのを感じた。


すると、すかさずバイトちゃんが水のおかわりを持ってきてくれた。


長くバイトをしているとやはり動きが素早い。


水のおかわりの度に手を上げて呼ばなくてもいいのだ。


二杯目の水を飲みきった頃、何やらカウンターの向こうから何かを焼いているいい匂いがしてきた。


まぁ、もう一杯水を飲みながらゆっくり飯を待つことにしようじゃないか。


俺の1日の締め、晩飯を。

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