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壊し屋のお仕事  作者: 野長シノ
2/7

壊し屋ダン①

太陽の光が窓に降り注ぐ頃、俺は目を覚まし、ベッドから抜け出す。


3.5畳程の寝室の扉を開けると見える店のエリアが静かに俺を迎えた。


店の中には飲み屋のようなキッチンスペースとカウンターに椅子が6個とシンプルな空間だ。


俺は部屋着用のジャージから店に出る用の服に着替えた。


俺が開店準備をしていると、店の入り口の扉からドンドンと強いノック音が聞こえた。


トントントントン


『まだ空いてないんだけどなぁ。何の用だよ。』


俺は独り言をこぼし、入り口へと歩いて行った。


ドンドンドンドンドンドン


強いノック音は止まらないどころかさらに強くなっていった。


もうノックっていう可愛いものでもない。


なんというか、扉を殴りつけているようだった。


『うるさいなぁ。俺は壊すのが仕事だけど、物を壊されるのは仕事じゃないんだよ。』


俺はそう言いながら扉の小窓を覗き込み、ノック音の主を確認した。


そいつを見て俺ははぁっとため息をついて、扉の鍵を開けた。


すると外から勢いよく扉を開け、ボーイッシュな女の子が入ってきた。


『とっ、とっと、とあぁ。』


押された勢いで俺は尻餅をついてしまった。


彼女はゆっくりと店の中に入り、


『ダン遅い!この時間に店の扉をノックするのは私ぐらいなんだからいい加減覚えてよ!』


と、赤色の短い髪の先っぽをいじりながらそう言った。


なんて自己中で、なんて迷惑な話なんだ!


『はいはい、よくわかりましたよ。んで、今日は何の用?リア。』


赤色のショートヘアのリアはにっこりと笑って


『特に用はないよー。うちの店の準備が終わったから近所をまわってるだけ。』


と言い、椅子に座った。


『はぁ。またかよ。用が無いなら帰ってくれ。』


『えええ?ダンなんか冷たくない?』


『冷たくない。店の準備しろ。』


『もう終わったんだってぇ!うち酒場なんだから特にすることないのぉ!お願いここにいさせてぇ!』


リアはおれよりも若い年齢ながら俺の店の隣で酒場を構えている。


リア自身、酒臭いオヤジたちに小さい頃から接客で絡んでいたせいか、声がでかく、態度がでかく、そしてうっとうしい性格になってしまったようだ。


『依頼があるならいてもいいが、ないなら自分の店に戻ってくれ。』


『やだぁ。暇つぶしたいぃ。』


『ここは暇つぶし屋じゃないんだよ。てか、お前自分の店空にしていいのかよ?』


『それは大丈夫!バイトがいるから!』


おいおい、自分の店だろ…。


『いいから帰れ。』


『えええ?でももうすぐ鐘なるよー?』


『はぁ?そんなに時間が経ったのか?』


そのような言い合いをしていると、


カラーンカラーンと鐘の音がこの街じゅうに広がるのを耳で感じ取った。


『あっ…。』


無意識に声が漏れたようだ。


『ほら、仕事の時間だよぉ!』


………。


俺は絶句してしまった。


この街は俺のもといた世界でいう9時ごろに仕事始めの鐘が鳴る。


この鐘でこの街の人たちは働きに出たり、店を開いたり、クエストや討伐に出たりする。


俺の店も鐘の音とともに始まる。


リアも同じくして、鐘が鳴ったら酒場を開く。


こんな朝早くから飲む連中が来るというから驚きだ。


そんなことより…。


『なんでいつもいつもうちで油を売っている??さっき店の準備が終わったから近所をまわってるって言ってたけど、なぜ毎日毎日うちに来る??』


『まぁまぁ、そんな怒らないでよぉ。隣なんだからさぁ。』


『理由になってない!鐘なったんだから自分の店に戻れ!』


すると、店の扉が開く音がした。


銀髪に髭を蓄えたダンディな男が杖をついて店に入ってきた。


今日最初の依頼者だ。


『あっ、いらっしゃい。この店は初めてですか?』


『ええ。』


男は低い声で短く返事した。


『ありがとうございます。』


俺は男にお辞儀をして見せた。


『ここは言わば壊し屋。お客さんの壊して欲しいものを代わりに壊します。できる限りお客さんのご要望に答えるつもりです。』


俺が男にそう説明すると、横にいたリアが


『あれ?私の時と扱いが違う。どゆこと?』


と、ぼそっとつぶやいた。


『お前は帰って店の準備をしろ。』


俺もリアに対してぼそっとつぶやいた。


その光景を見ていた男はこちらを見てくすくすと笑っているのが見えた。


俺はせきばらいをして依頼について切り出した。


『それで、今回の依頼は何でしょう?』


男は険しい顔になって、持っていた杖をテーブルの上に置いた。


『この杖を壊してほしいです。』


老人がつくような杖だ。


持ち主が持ちやすいように加工されたL字型の杖だ。


少なくとも俺はそう見えた。


『これは依頼をされた方全員に聞くことなのですが、なぜこれを壊したいのですか?』


俺はそう質問すると男ははぁっとため息をついて


『じゃあ、それを話す前に。貴方方にはこの杖は何の杖に見えますか?』


と俺たち(まだリアが横にいるから貴方方って言ったのか…。)に問いかけてきた。


『何って…。おじさんが日々使ってる杖じゃないんですか?』


俺が答える前にリアがそう答えた。


確かに俺も同じように思っていた。


だが、男は再びはぁっとため息をついた。


そして10秒ほど黙り込んだ。


そして男は


『これは、歩く用の杖ではないのです。』


と切り出した。


『えっ?じゃあ…。これは…?』


リアが不思議そうに男に聞いた?


『これは…。魔法の杖みたいです。』


『魔法の杖、ですか。』


『ええ、私も歳で道具屋で歩行用の杖を注文してこの杖を買ったのですが、その帰りに荒くれ者に襲われて、その時に荒くれ者を近づけさせないために杖をそやつらに向けたら、意識がなくなって…。気がついたら、荒くれ者全員がポロポロになっていたんです。』


『はぁ…。』


俺はこのトンデモ話にそう返事することしかできなかった。


『それにこの杖、自分の意志で魔法を使えないようで、いつ魔法が発動するかわからないんです。』


男の話が終わると、俺は男に紙とインクを渡した。


『わかりました。では、この紙に名前と職業と壊したいものを書いてください。』


男は紙とインクを受け取り、名前を書き始めた。


その間にまだ横にいるリアの方を向き、


『おいリア、お前どうせ今暇なんだろ?だったら、あいつを呼んできてほしい。』


『ええ?いいけど、今度ご飯ご馳走してよ?』


『飯おごるかは別として、あいつを呼んできてくれ。』


リアは頬を膨らませて、俺の店を出た。


それと同時に男が


『書けました。』


と言い、紙を俺に見せた。


『えっとぉ…。』


俺は紙に書かれた内容を確認した。


『名前は…。ブランさん。職業は商人。壊したい物は杖…。はい、確認しました。ただ、今すぐに壊すことはしません。もう少々お待ちください。』


『えっ?どうしてですか?』


『今専門家を呼んでいるので。』


俺の言葉に男は不思議そうにこちらを見ていた。


ちょうどその時、リアが勢いよく店に飛び込んできた。


『ダン!連れてきたよ!』


その後ろからリアに引っ張られるようにして、ピンク色の短い髮の少年が店に入ってきた。


『何すんだよ姉ちゃん??引っ張るなって??』


『ほら、これ、あんたの専門でしょ??』


リアがそう言って少年に例の杖を見せた。


すると少年はリアへの抵抗をやめ、まじまじと杖を見つめ始めた。


見るだけでなく、杖を端から端まで触って、持ち上げてこの杖が何かを確認していた。


『姉ちゃん…。こんなのどっから持ってきたの!これはなかなか手に入らないレベルの杖だよ!』


『どっからって…。ここにいるおじさんが歩行用の杖だって言われて道具屋で買ったんだって。』


リアがそう説明すると、少年は目を丸くして、


『そんな簡単に手に入るものなの??俺初めて見たよこんな代物!』


と言った。


それを聞いていた男が状況を読み取れないのか、


『あの…。これは一体どういう…。この人はいったい…。』


と俺に聞いてきたので


『ああ、こいつはここにいるリアの弟で、名前はレイ。この街で武器商人をしていて、武器に関する知識が豊富なんです。』


と説明した。


『んで、結局何なんですこれは?』


男は不安げにそう聞いた。


レイは杖を片手に持ちながら


『これは魔王が作ったウィザード用の杖。反旗をひるがえす者を粛清する目的で作られたみたいだ。だから、対人限定で攻撃魔法しか出せない仕様だな。それにしても良くできてる。俺、魔王が作った武器を見るの初めてだ。』


レイは初めて見た武器に少し嬉しそうだった。


だがすぐに険しい顔になり、


『でも魔王が作ったということは、魔王側の者にしか対応してない。一般民が使うのは危ないね。』


と付け足した。


その話を聞いた俺は男の方に向いて姿勢を正し、


『だそうです。最後の確認ですが、これを壊しますがよろしいですか?』


と男に聞いた。


男は考えることもなく、すぐに頷いた。


俺はそれを見てから立ち上がり、杖をレイから受け取った。


『じゃあ、俺から離れてください。あんまり近くにいると危ないので。』


俺のその言葉に3人は店の入り口までさがった。


俺は杖を両手で力強く握った。


俺の両手が壊す対象に触ることで発動できる俺の唯一の魔法スキル『破壊』。


壊し屋をやっているのにはいくつかわけがあるが、このスキルが使えるからと言っても間違いではない。


まぁ、今はそんなことどうでもいい。


入り口にいる3人は喋らずこちらをじっと見つめていた。


俺はすーっと息を吸いこんだ。


杖に魔力を集中させる。


それを眺めていた依頼者の男は少し驚いているようだった。


『つ、杖の端から黒い鎖が…!』


『大丈夫ですよ。ダンが触った破壊の対象に魔力を集中させるとあの杖みたく端の方から黒い鎖が巻きついているように見えるんです。で、あの鎖がもう片方に辿り着いた時が準備完了の状態です。』


すでに見慣れているリアとレイは全く驚いていない。


リアにおいては男に説明できるほどだ。


そうこうしているうちに、黒い鎖が杖の端まで到達した。


それを確認した俺は杖を握っていた両手を離した。


手から離れた杖は鎖を帯びながら、床に落ちることなくその場で浮いていた。


俺は両手を広げ、再び息を長く吸った。


『黒き鎖で破壊の限りを…。』


そう唱えた俺は広げた手と手を胸の前でパチンと合わせた。


すると杖は三つに割れ、床に落ちた。


そして三つに分かれた杖は、それぞれで膨らみ、やがて破裂した。


杖は一連の動作で大量の木片に変わった。


俺は入り口の方へ向かい、男の目の前に立った。


『見ての通り、杖を壊しました。これでよろしいですか?』


『ええ。ありがとうございました。これ、報酬です。』


男は懐から硬貨の入った大袋を俺の前に出した。


大袋に入ってる硬貨は全て500ルート(日本円で500円の価値はある)。


『こんなにたくさん。さすがに貰いすぎじゃないぃ?』


リアがニヤニヤしながら俺にそう言った。


まぁ、確かにその通りだ。


今回の依頼は杖の破壊。


500ルートを大袋でもらうのは多すぎる額だ。


『リアの言う通り、大袋一つ頂くほどのことはしてません。』


『ですが…。』


男は申し訳なさそうな顔をしてこっちを見ていた。


そして、


『ですが、危険なものを壊してくれたのですからこれぐらいは…。』


と付け加えた。


俺は首を横に振って、


『これが俺の仕事なので。』


と言い、大袋から硬貨を1枚だけ取り出し、残りの袋を男に手渡し、


『俺はこれだけでも充分満足です。さすがに商売なんで何も無しだと俺も厳しいです…。』


と男にニコッと歯を見せて笑った。


『そうですか。』


男は俺に背中を向け、ドアノブに手をかけた。


『何かあれば、またきてください。』


俺はその背中にそう伝えた。


『今度はまともな杖を買ってくださいよー!』


リアはその背中にそう言った。


男は『ありがとうございます。』と言い残し、店を出ていった。


『いやぁ、すごいねぇ。まさかダンの破壊の魔法一回であんなにくれるなんてねぇ。』


リアが自分の髪をいじりながらそう言った。


まったくだ。


別に俺はこの仕事でたくさん儲けようとは考えていない。


1日生活できればそれでいいのだ。


だから報酬も多くは貰わない。


さっきの500ルートも多すぎるぐらいだ。


俺はさっきの報酬も貰うのが申し訳なく感じていた。


まぁ、とりあえずそれは置いとくとして、そんなことより。


『お前いつまでいるつもりだよ?そろそろ自分の店に戻ったらどうだ?』


『ええええ?うち酒場だよ??こんな時間にお客なんてくるわけないじゃん!』


リアが頬を膨らませながら言った。


『じゃあ、なんで朝から開店させてるんだよ。』


『それはあれよ。暇なのよ。』


『おいレイ、お前の姉ちゃんを連れ帰ってくれないか?そろそろ酒場も戻らないとまずいだろ。』


『そうですね。わかりました。』


『悪いな。こっちから呼んでおいて。』


『あぁ、いえいえ。武器の見分けをするのも武器商人の仕事なんで。』


レイはそう言いながらリアの腕をがしっと掴んだ。


『さ、帰るよ姉ちゃん!』


『ええ?私帰りたくないぃ。まだ、お客さんいないもん。』


レイはリアの腕を引っ張った。


『いいから、帰るよ。』


『いやぁあ。』


子供か!


早く連れて帰ってくれ。

俺は心の中でそう思った。


レイが店の扉を開けた時、


『待ってよぉ!私まだ言い残したことがあるのぉ!』


リアはそう言い放った。


リアの言葉にレイは動きを一度立ち止まった。


『なんだよ姉ちゃん。』


『さっきの普通のおじさんの手に魔王が作った杖がなんで渡ったんだろうと思ったのぉ!』


『それさっき、あの人が道具屋で買ったって言ってただろ?』


俺は呆れながらリアの質問に答えた。


『そうじゃなくて!なんで道具屋なんかに魔王族の道具が置いてあんのよ!おかしいと思わないぃ?』


『確かに、それは気になるね。本来魔王族の道具は魔王の部下たちが持つもの。それが人々の手に渡るのは変だね。』


レイも腕を組みながら頷いた。


言われてみればそうだ。


なんで、あのおじさんが、てか、その道具屋が持ってたんだ?


『そうでしょ??変でしょ??』


リアが俺に詰め寄ってきた。


『でももう杖も壊しちゃったし、どこの道具屋で買ったかもわからない。俺たちが出来るのはここまでだな。』


『まぁ、そっか。私の考えすぎかな。』


リアのその一言でこの話は終わった。


『んじゃ、帰るよ姉ちゃん!』


レイは再びリアの腕を掴み、店の外へと引っ張っていった。


2人がいなくなり、俺は椅子に座って一息ついた。


魔王族側の持ち物…。


やっぱり、それが気になってしまう。


今まで魔王族の持ち物の破壊なんてしたことがなかった。


だから今のことは魔王族側に伝わって欲しくない。


俺は魔王族の武器を壊した怪しい人物として追われたくないし、魔王討伐にも興味がない。


むしろ、それ関係に首を突っ込みたくないのだ。


俺はこの街で細々と暮らして行きたい。


何事もなく1日を過ごせればそれでいい。


それでいいのだ。


考えてもきりがない。


この話はこれでおしまいにしよう。


俺はゆっくりと立ち上がり、床に散らばった木片を拾って片付けることにした。


俺の破壊のスキルは自分が触れる物体ならなんでも壊せる。


だけど、ただ壊すだけ。


消えてなくせるわけじゃない。


つまりは、依頼を受けて物体を壊すことで、後片付けが生じるのだ。


さっきの依頼が杖だったから店の中でできたものの、コレがもし、大きな家具や兵器だったら店の中が大惨事になる可能性があるし、依頼がもし建物とかの破壊だったら、壊したところの近隣に破片が飛び散って多大な迷惑がかかるだろう。


だが、俺のスキルはこれでも生易しいものだ。

もともとは対象に触らなくても広範囲で破壊ができるものだったのだが、それだと魔力消費も激しくなって、体に負担がかかるから、触った対象だけを破壊するぐらいのレベルに落として、リミッターをかけたのだ。


まぁ、破壊する規模と威力に関しては魔力を集中させる時間を伸ばせばその分だけ強化されるのだけども…。


俺は集めた木片たちを店の隅に置いた。


後片付けも終わって、何もすることがなくなった俺は椅子に座り、お客が来るのを待つことにした。

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