命の滝
フェアとシュンは森の中を進んでいく。
(ほら、早くしないと日が暮れるわよ!)
「ま、待って・・・。」
シュンがぜえぜえと喘ぎながらフェアを追う。
(遅い!こんなんじゃ何時まで経っても森を抜けられないわよ?)
「忘れてるみたいだから言うけど、一応僕はケガ人だからね?」
しかも口にしたのはあの謎水とイノシシ肉だけだ。
(十分食べてるじゃない。魔物の生活なんてそんなものよ?人間の食事が豪華すぎるだけ。)
「恐るべし、サバイバル生活・・・。」
シュンがそう呟くと、聞こえていたのかフェアが睨んだ。・・・聞こえてなかったとしてもテレパスで分かってしまったのだろうが。
(ちなみにいまから行く場所は、シュンのケガに役立つものがあるところだから。)
「え、寄り道ってこと?」
(そんな怪我でまともに戦える訳ないでしょ?効率を良くするためにも行くのよ。)
なるほど。確かに普段通りに歩けるとは言ってもたまに刺された場所が痛むし、疲れやすい。体力のなさはレベルのせいなのかそれともケガのせいなのかは分からないが、ケガは治すに越したことはない。
(――着いたわ。ここよ。)
フェアは止まった。
シュンも同じく立ち止まる。
「すごい・・・。」
シュンたちの目の前には小さな滝があった。滝の流れが岩をなぞり、滝つぼへと落ちていく。滝つぼの水はどこまでも澄んでいて、底まで見渡せた。滝つぼの周りは光草が生えている。
森の中から突然現れた秘境に、シュンは心を奪われていた。
そしてシュンはあることに気づく。
「もしかして・・・この水はここの滝から汲んだもの?」
シュンは残りわずかの水筒を振る。
(そうよ。ここの水には、飲んだ人の治癒力を向上させる効果があるの。)
「そっか・・・。」
この水のおかげでシュンの命は救われた。もちろんフェアがこの水を運んできたからこの水は効果を存分に発揮することが出来たのだが、それでもシュンの命を救った恩人であることに変わりはない。
「ありがとう。」
シュンは滝に向かい一礼する。
滝は日の光を反射して微かに輝いている。
(これからはここを拠点にしてレベルを上げるのがいいと思うの。まだシュンはペーペーに弱いし、多少レベルがないと回復するのにも時間がかかるし。)
「ペーペーってどういう意味だよー・・・。」
シュンはそう言いながらも住処の準備をした。
(簡単な家でいいなら私が造るわよ。どんなのがいい?)
「えっと、虫とかが入ってこない感じなら何でもいいよ。それより、フェアって家まで作れるんだね。」
(風魔法の応用よ。そんなに難しくないわ。シュンの水筒もそうやって作ったし。)
「あーそういわれればそうか・・・。水筒が竹でできてることの方がびっくりしたからそんなこと考えてなかったよ。」
シュンは水筒を眺めながら言った。ケガで意識が朦朧としていた時はそれを気にする余裕もなかったのだが、改めて見るとちゃんとしている。竹の節に合わせて切ってある水筒は、町に売ってるものよりも質がいいぐらいだ。
(その木なら、ここの近くに沢山生えてるわよ。珍しい木なの?)
「僕がこの世界に来てから、一度も見てないよ。現代ではそんなに貴重な木でもなかったのに。」
・・・ちょっと待った。竹って木なのか?生え方とか育ち方も木とはちょっと違う気がするけど。竹は竹だろ、って思ってたから疑問に思ったことがなかったな。竹って何だ?
(木じゃないかもしれないの?)
「分からない。」
シュンはそう言うしかなかった。
「でも水筒を作るのに役立ちそうだね。後で取りに行こっか。」
(もう一つ作るの?)
「水分は取っておけるうちに取っておかないと。水魔法が使えたらそんなこと考えずに済んだのかもしれないけど。」
それにレベルさえあれば『アイテムボックス』で竹をある程度収穫してただろうし。
うーん。魔法ってやっぱ便利だったんだな。そう言えば、『アイテムボックス』の中身は無事なのだろうか。中は時が止まっているので焦る心配はないが、魔法が一時的に使えなくなった場合中身がなくなってしまうのかそこが気になる。死んだ人の中身は戻ってこないって言うけど・・・
ま、気にするだけ無駄か。レベルが上がったらわかる。
(気にしないのね。・・・意外と淡白な所あるわよね、シュンって。)
「そうかな?」
パーティーのみんなからは甘いって言われてたけど。小さなことを一々気にしすぎだ、って。
(人間の評価なんて知らないわよ。私は単純にそう思っただけなんだから。・・・さあ、魔獣を倒しに行くわよ。)
「え、今から!?」
(もちろん。じゃないと今日の夕飯がなくなっちゃうでしょ?ついでにシュンの経験値も稼がないとね。)
「え。でもまだ家だって出来て・・・」
(細かいことはいいから!ほら、行くわよ!」
「え、ちょ、待って!」
なんか今日は一日中フェアを追いかけている気がする・・・