理由
「そういえば、どうして僕を助けてくれたの?」
シュンはふと疑問に思ったことを尋ねた。ついでに体をゆっくりと動かす。どうやら昨日の魔力熱が峠だったらしい。体は大分軽くなっている。まだぎこちない動きではあるが、日常生活を送ることは出来そうだ。
こうして回復したのも全部フェアのおかげだ。
(私は水をあげただけ。シュンの生命力がなかったら手遅れだった。)
心を読んだフェアが答える。まだ心を読まれることに慣れてない。うっかり変なことでも考えたらどうしよう・・・
(考える気なの?)
「そこまで読まないでよ!!」
思考には気を付けよう。
「それで、どうして人間の僕を助けてくれたの?」
(・・・逆に聞くけど、助けないって選択があるの?)
「え?」
(目の前で困っている人がいたら助けるのが当たり前でしょ?)
「でも僕は人間・・・」
(何?人間だとダメなことでもあるの?)
「というより・・・殺されると思った。魔物は人間を見たらすぐに襲いかかってくるから・・・。」
そういうとフェアはため息をついた。
(あのさ、私たちをそこらの獣と同じにしないでくれない?確かに魔獣の類は好戦的だし本能のままに襲いかかってくるけど、私みたいな人型の類は理性もあるし、温厚なやつも多いのよ?むしろ人間の方が好戦的じゃない。わざわざ私たちを追い回して。)
「そうなの?」
シュンは今までの戦いを思い返した。・・・確かにオークやゴブリンの集落は積極的に討伐されるし、人間側が一方的に討伐した魔物もいた気がする。
「でも人型の中には好戦的な奴もいたけどなあ・・・」
(それは、身内を殺されたことへの復讐とかじゃない?あるいは単純にそいつが好戦的だった、とか。人間と同じようにこっちの性格も個性があるのよ。)
言われてみればそうか。
(まあ、私の場合テレパスもあったから、単にあんたに興味があったのも理由の一つなんだけどね。)
「・・・?」
(シュンの走馬灯、私もテレパスで共有してたんだ。――随分面白い経験してるのね。賢者とか、地球っていう異世界とか。)
「!!!・・・見て・・たの?」
(ええ、しかも賢者になったのに捨てられるって、一体どんな状況なのか気になって。)
「・・・。」
(ああ、もしかして気にしてた?)
「ううん。大丈夫。・・・もう気にしても仕方がないもんね。」
フェアはシュンの周りを飛んだ。
(言っとくけど、テレパス持ちの私に嘘とか遠慮とか通用しないから。聞かれたくないことは、私は聞かないわ。)
「・・・ありがとう。」
シュンは微笑んだ。「今はまだ、賢者についての話はしたくない・・・かな。」
(そう。じゃあ、地球についての話は?)
「それはいいけど・・・」
(じゃあそっちを聞かせて!)
その日は日が暮れるまで、地球や日本についての話をした。フェアは好奇心が旺盛で、分からないことはなんでも聞くのでシュンが答えに困ることもしばしばあった。内容は日常生活から国際関係のことまで多岐にわたった。シュン自体もこの世界に来てから大分経っているので、忘れてしまっていることも多かった。そんなとき、フェアはシュンが思い出すまでずっと待っていた。
「――――あーもう、疲れたよ!休憩しよう!!」
シュンそう叫ぶと地面に寝転がった。
(えー。もっと聞きたいことあるのに。)
「僕の体力が持たないよ!もう・・・。」
久しぶりに頭をフル回転させた気がする。頭がぼんやりして、文字の羅列が目の前を飛び交っている気分だ。この世界に来てから暗記物は魔法の名前ぐらいだったから、暗記能力が落ちている気がする。現代日本の知識なんてめったに使わなかったから、そこら辺の記憶が抜けかけている。
「それにこの知識も古いんだろうなー・・・。」
(そうなの?じゃあ新しいのを今すぐ手に入れてきてよ。)
「無茶言うなよ・・・。僕がこの世界に来てから、ここ以外の世界についての話なんて聞いたことがないんだ。今頃あっちがどうなっているのか、僕にはさっぱり分からないよ。」
シュンは空を見上げて呟いた。
「まさに、”神のみぞ知る”、だ。」