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捨てられ賢者の異世界譚  作者: Rester
第一章 トラトスの森
3/17

看病

朝になって、目が覚めた。・・・いつもと違う。森の中だ。木漏れ日が顔に降り注いでいる。


「夢じゃ・・・ない?」


シュンはそう呟いてから、昨日の出来事を思い出した。改めて王子の裏切りに胸が苦しくなる。自分が捨てられたことも、そして魔物に出会って、意識を失ったこと。


あれ?なんで僕は今も生きているんだ?


そこでシュンは初めて自分以外の存在に気づいた。

「フェアリー・・・」


昨夜と同じフェアリーが、ふよふよと浮かんでいる。


「僕を・・・殺さないのか・・・?」


フェアリーの目には、敵意がない。ほとんどの魔物が人間を見た瞬間敵意をむき出しにしてくるのに。シュンは体を動かそうとするが、まだうまく力が入らない。どうやら回復するまでにはあと数日はかかりそうだ。

「だけどその前に魔物に襲われるか・・・」


フェアリーが何かを伝えようと指をさす。シュンがその方向に目を向けると、そこには小さめの水筒が置いてあった。シュンのものではない。


「もしかして、君が・・・?」


そういうと、フェアリーは頷いた。小さめの水筒ではあるが、フェアリーからしたら自分と同じ大きさのものだ。それをわざわざ僕のために?


フェアリーの行為を信じたい。が、正直しばらく誰かを信じる気にはなれそうもないし、なにより自分は今腕一つ動かせない。


「ごめんね、今は体が動かないから水は飲めそうにないや。」


フェアリーはその言葉を聞くと、水筒のところまで飛んでいく。何をするのだろう・・・と見守っていると、フェアリーは水筒を持ち上げシュンの口元まで運んだ。


「・・・飲めってこと?」


フェアリーは頷く。

断ることは出来なそうだ。もしかして、毒でも入っているのではないだろうか?

・・・いや、殺す気なら最初から魔法でも何でも使って殺せばいい。わざわざ毒を使う理由はないか。

シュンは口をわずかに開いた。フェアリーが水筒を傾ける。


「わっ、ちょっ・・・いてて!鼻に入った!!」


コントロールがうまくいかないせいでこぼれた水が、思いっきりシュンの顔にぶちまけられた。


「痛いって・・・あれ?」


そこでシュンは自分の身体がさっきより軽くなっていることに気づく。


「・・・もうすこし、この水飲んでもいい?」


フェアリーの許可を得て、再び水を口にする。すると倦怠感が癒え、まだ腕だけだが体が動かせるようになった。どうやらこの水には治癒力を向上させる効果があるらしい。


「すごいなこの水・・・ありがとう。」


フェアリーは嬉しそうに宙返りする。治癒力が上がったおかげで体の動かし方がわかるようになってきた。しかし・・・


「そうなると、アレも早く来るか・・・」


シュンはフェアリーに話しかける。


「ねえ、多分この後、僕は高熱を出すと思う。きっと一日中続くと思うから。」


そういって目をつぶる。まだフェアリーに対する恐怖が消えたわけではない。もしかしたら助けたのは単なる気の迷いかもしれないのだ。

・・・だけど、今の僕にはフェアリーに頼るしかない。


===


「はあ・・・・はあ・・・・」


夕暮れ時、やはりそれはやってきた。急激なレベル低下によって今まで体内にあった魔力が受け皿をなくし、体内で暴れ狂っているのだ。この症状は「魔力熱」とも呼ばれ、魔力の多い人ほど重症化しやすい。賢者として魔力は誰よりも多かった。レベルの高低差から考えてもかなりきついとは思ってたけど・・・ここまでとは思わなかった。

フェアリーがシュンに水を飲ませるも、一瞬で熱湯と化す。


・・・100度を超す体温って、一体どうなってんだよ。


フェアリーは健気にシュンの介抱を続ける。シュンはそれを、素直に有り難いと思った・・・


===


やはり魔力熱は一日中続いた。曖昧だった意識がやっとはっきりしてきたのは夜明け頃のことだった。辺りの闇が少しずつ取り払われていく。


――生き残ったんだな。あんな高熱の中で。もしここが日本だったら、絶対に生きて帰れなかったな。異世界のタフさ加減がなした業・・・いや、この子のおかげか。

シュンは隣で眠るフェアリーを眺めた。

一日中こいつが付き添ってくれたから、僕は生き残れたんだ。


「・・・ありがとう。」


疲れて眠りにつくフェアリーに向かってそう声をかける。



「グルウウウ・・」

突然うなり声が辺りに響いた。ハッとして起き上がる。いきなり起き上がったせいで軽いめまいに襲われたが、何とか立てるまでに回復したらしい。シュンはうなり声のする方角を睨みつけた。


茂みをかき分けてやってきたのは、イノシシに似た魔物だ。敵意の塊がつきささり、思わず後ずさりする。おかしいな。敵意を浴びることは慣れっこのはずなのに。久しぶりだから、勘が取り戻せないのか?

とりあえず、近くの棒切れを拾い上げる。今はスキルがないせいで魔法も使えない。なんとかこれで追い払わないと。


「やっ!!」


イノシシより先に前に踏み込み、眉間めがけて棒を突き出す。棒はクリーンヒットした、が・・・


「折れた!」


弱っ!!とばかりにイノシシが鼻を鳴らす。どうやらほとんど効果がなかったようだ。

・・・そうか、今はレベル1。筋力も子供並みに落ちているのか。これはまずい展開だな。体もすくんでうまく動けない。もしかして、レベルが低くなったせいで敵意に対する耐性がなくなっているのか?


「グルウウウ!!」

イノシシがシュンめがけて突進する。避けようとしたが、間に合わない。


やられる!


「ザシュッ!!」

風を切る音と共にイノシシの身体が真っ二つになった。フェアリーの風魔法だ。振り返ると目の前にフェアリーがいた。


「あー・・・起こしちゃった?」


フェアリーは怒ったように腕を振り回した。何に怒ってるんだろう。起こされたことにかな?


シュンが首をかしげると、フェアリーは腕を下ろした。体が淡く光る。

殺される? 一瞬身構えたが、光はすぐに収まった。しかしその後シュンの目は大きく見開かれた。突然頭の中に声が響いたからである。


(あのさ、なんで私を起こさなかったの!?)

「え、だ、誰!?」


シュンは辺りを見回すが、周りには誰もいない。


(私に決まってるでしょ!目の前の!!)

「フェアリー・・・君が?」


フェアリーは頷いた。


「君・・・喋れたの?」

(人間の言葉は喋れないわ。シュン、自分のステータスを確認して。)

「何で僕の名前を・・・」

(いいからさっさと調べる!)


フェアリーに急かされ、シュンはステータスを確認した。すると今までゼロだったスキル欄に《テイマー》というスキルが追加されていた。《テイマー》の下には従魔としてフェアリーの名がある。どうやら《テイマー》のスキルは、魔物を従魔として仲間にすることができ、従魔とは意思の疎通が取れるものらしい。今までに一度も見たことのないスキルだ。


(そりゃそうよ。人間と関わろうとする変わり者なんて、滅多にいないし。)


そうなると、ここにいるフェアリーは変わり者ってことか。


(うるさいわね。)


・・・というか、なんで思ったことを知られてるんだ?意思の疎通って、そういう意味?


(違うわよ。テイマーとしてのスキルじゃ、せいぜい会話が通じる程度。私はテレパスを持ってるから、あんたの心の声とかがわかるってわけ。)


え、ずるい!!一方的だ!!


(ずるくなんてないもーん)


フェアリーはこれ見よがしに周囲を飛び回る。というか、フェアリーの性格思ってたのと違うな・・・


(よけいなお世話よ。・・・それより、いつまでもフェアリー呼ばわりはやめてくれない?種族の名前で呼ばれてあなたはうれしいの?人間)

「たしかにそっか・・・じゃあ名前を教えてよ。」

(名前はないわ。フェアリーは単独で生活してるの。名前をつける機会もないし、テレパスがあるから名前の必要がないの。あんたがつけて。)

「え、僕が?」

(他に誰がいるのよ。)

「・・・じゃあ、フェアリーだから、フェアは?」

(ずいぶん安直ね)

「そうかな?」


フェアリーはため息をついた。


(気に入った・・・っていうのはなんか嫌だけど、まあ悪くはないから、その名前でいいわ。)

「OK。これからよろしくね・・・フェア。」


そういうと、フェアは宙返りをして応えた。

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