裏切り
全ては一瞬の事だった。
少年の手は虚空を掴み、彼の左脇腹にはナイフが突き刺さる。
少年の目はぐっと見開かれ、堪え切れず床に膝をついた。
少年が痛みに呻く。
「な、なんで・・・?」
少年はキッと目の前の人物を睨んだ。
「なぜだ・・・!メファイア王子!!」
少年の叫びに王子は低く笑った。
「哀れだな、シュン。賢者とも呼ばれたお前が、こんな簡単な罠にはまるとは。」
「くっ・・・。」
少年――シュンは立ち上がろうと前のめりになる。
「僕の問いに答えろ・・・!さもないと・・・」
「さもないと・・・なんだって?私の兵士が君を殺す、かい?」
その言葉に応じ、一人の兵士がシュンを蹴り飛ばす。シュンは耐えきれずに倒れた。
「賢者を・・・なめるな!『バーニング』!」
「範囲魔法とは・・・君もなかなか容赦ないねえ。」
対象をことごとく焼き尽くす魔法を唱えられたにも関わらず、王子の笑みは崩れない。一方シュンは、
「・・・『バーニング』が・・・使えなくなっている・・・?」
「おや、どうしたんだい?賢者サマ。」
シュンは倒れたまま再び王子を睨む。
「僕に・・・何を・・・」
「気づかないのかい?・・・賢者が聞いてあきれる。さっきから不思議に思わないのかい?刺されたにも関わらずまともに話せていることが。」
「何・・・?」
そう言われて初めてシュンは自分の腹部を見る。
ナイフが刺さったままの脇腹からは血が一滴も垂れておらず、傷跡は青白く光を放っている。
「安心してくれ。私は君を直接殺すつもりはない。ただ、暴れられると困るからねえ、レベルを奪わせてもらう。・・・ほら、そのナイフに見覚えはないかい?」
「レベル強盗の短剣・・・」
そう悔しげに呟くとシュンはぐったりと意識を失いかける。しかしうつ伏せになったせいで倒れた拍子にナイフがさらに腹部に食い込み、痛みに覚醒する。
「おっと、ナイフが刺さったままじゃあかわいそうだね」
王子がそういうと、シュンの一番近くにいた兵士がシュンから無造作に短剣を抜き取った。
「ううっ・・・!」
シュンが更なる痛みに呻くが、やはり傷口からは青白い光だけが漏れ出す。
「ああ、わかってるとは思うけど、レベルスティールは短剣を抜いた時の方が効果が高くなるから。自分のステータスを見れば一目瞭然だと思うけど。」
シュンは周りの兵士に無理矢理立たされる。王子がぐっと顔を近づけた。
「これでお別れだ、シュン。せいぜい自分の過ちをあの世で悔いるといい。」
シュンは時々焦点が合わないようだったが、悲しげに、
「どうして・・・?僕は君を・・・信じてたのに・・・。」
「私だって信じていたかったさ。君を、な。・・・だが君が許されない行為をした。それが、全ての元凶さ。」
「許されない行為・・・?」
シュンには心当たりが全くなかった。
「・・・もういい。連れていけ。」
「「はっ!!」」
兵士数人がシュンを抱えるようにしてその場を去る。
後には王子一人が残された・・・
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どうして・・・一体、なぜ?
シュンの頭にはその問いばかりが浮かんで、他のことは何も考えられなかった。
兵士の一行はシュンを抱え、さっきまでいた宮殿を抜け出す。辺りは暗闇に包まれ、明かりが一つある他は何も見えない。明かりの先には一台の馬車が佇んでいた。
シュンは馬車に押し込めるようにして乗せられる。兵士が数人だけ乗り込み、静かに馬車は走り出した。レベルの低下とナイフによる体力の低下によって身動きがとれない。
どうして・・・なぜ・・・?
戸惑う少年を乗せ、馬車は人気のない道を進む。