綺麗になりたいの!
たまの休憩や食事は、看守のグレイさんと会話しながら過ごした。
もちろん、グレイさんの契約獣であるコウも一緒だ。
コウは私の膝に乗って、背を撫でさせてくれた。
グレイさんは、50代の髭の素敵なおじ様である。
優しくて、15歳で死刑になるマリサを憐れんでくれた。
たまにおいしいお菓子を持ってきてくれて、父親のような人だと思った。
「私の家は子宝に恵まれなくてね……ずっと妻と二人でこの歳まで過ごしてきたんだが、きっと娘がいたら、君くらいの年齢だったと思うよ」
そういって悲しそうに笑うグレイさんに、マリサは「私がお父さんって呼びましょうか?」と尋ねたが、「悲しくなっちゃうから、ダメだよ」とやんわり断られた。
そうだ、これから死んでいくマリサに感情移入でもしてしまったら、グレイさんをもっと寂しくさせてしまう。
しかし、すでにグレイさんはマリサのことを大事に思い始めてしまっているだろうと思った。
マリサは、自分が死ぬ行くことで、悲しませてしまう人間がいることに気づき、「私、死にたくないな……」と思い始めるようになった。
「見てくれ、マリサ!」
「どうしたの、グレイさん」
グレイさんが、何やら慌ただしくマリサの牢屋前へとやってきた。
「俺の家内がな、マリサが綺麗になりたがっていると話したら、とっておきの美容液をくれたんだよ」
「ええっ、本当に!?」
グレイから受け取った化粧瓶は、蝶々のモチーフをしており、ふんわり甘いローズの香りが漂ってきた。
「すごく可愛い……! でも高そうだよ、いいの、こんなに素敵なものをいただいてしまって……」
「いいんだよ。日に日に綺麗になっていくマリサを見ていたら、もっと綺麗になってほしくってね。妻も同じ気持ちだよ」
「嬉しい……ありがとう、グレイさん! 今度、グレイさんの奥さんにも、直接お礼言いたいな……」
「伝えておくよ。大事に使っておくれ」
「はいっ!!」
直接会えることはないとわかっていながらも、こんなに嬉しい贈り物は初めてで、マリサは感激のあまり目に涙を浮かべた。
エイヴァンからもらった真珠のネックレスの、数百倍嬉しかった。
「可愛いお顔が泣いちゃ台無しだよ。笑っておくれ」
「えへへっ」
グレイさんに毎日のように可愛い可愛いと言ってもらえて、マリサはさらに自分磨きを頑張った。
体重はいい具合に減ったので、今度は引締めだと、部分痩せトレーニングを取り入れた。
「もう、着ていた服がガバガバね……」
牢屋に入れられた当時に来てきた服は、肩からずり落ちそうになるくらいに大きくなっており、マリサの体型には合わなくなってしまった。
「この服、お気に入りだったはずなんだけど、今見るとすっごいダサいかも……」
そこで、マリサはグレイに裁縫道具を貸してもらい、チクチクと自分の洋服をリメイクしたのである。
「うん! これなら可愛い!!」
ピッピー!と、近くにいたコウも近寄ってきて、洋服の出来を喜んでくれたようだった。
マリサは、グレイから廃棄されそうだったボロボロのカーテンや、古くて使われなくなったアクセサリーを集めてきてもらうと、洋服に縫いつけたのだ。
「やっぱり若い子はデコルデ出さなきゃ♪ あと、せっかく細くなったんだから、少し短いスカートにして……、ニーハイ風にしたらかわいいかも♪」
どんどん洋服を改造させていき、ついには原型がないほどにデザインされた洋服となってしまった。
「私センスあるー! どこかのアイドル衣装みたいになっちゃった!?」
きゃっきゃと楽しそうにしているマリサに、ほのぼのとグレイや他の看守はマリサを優しい眼差しで見守った。
そして、ふとグレイは気づいた。
「マリサの手の甲にあんなアザあったかな……?」
うっすらとした赤い痕だったので、グレイは頭を傾げながらも、今度軟膏を塗ってあげなくてはと思った。