木いちごの王子
木いちごの国に、木いちごの王子様がおりました。
毎日、王子様は自分の棘で傷つきましたが、泣きません。
木いちごは棘が一杯なので、王子様はいつも一人ぼっち。
王子様は、痛くても悲しくても、泣きません。
でも寂しいある夜、お月様に話しかけました。
「ねぇ、お月様、どうしてここには誰もいないの?」
お月様は、なぜか涙を流して打ち明けます。
「ねぇ、王子様、お空の国で、私はいつも一人ぼっち」
王子様は驚きました、「でも、お空には沢山のお星様がおりますよ」
お月様は、なぜかまた涙を流して伝えます、「夜の輝きは、お空の言葉を知りません」
次の朝、お月様の涙は、木いちごの棘にしたたる朝露になりました。
二つの朝露からは、二輪の百合が咲きました。
その夜、王子様は、お星様にささやきました。
「ねぇ、お星様はお月様の言葉が分からないの?」
お星様は、深いため息をつきました、「あのね、お月様はお日様が怖いんだ」
王子様は言いました、「でも、お日様は、暖かく優しいよ」
お星様は、また深いため息をもらします。
「お月様とお日様は、どんなに好きでも会えないんだ」
次の朝、お星様達の深いため息は深い霧になり、木いちごの棘は露でぬれました。
棘からしたたる雫は、木いちごの国を菫で満たしました。
そのお昼、王子様は、お日様に聞きました。
「ねぇ、お日様、どうしてお月様を訪ねないの?」
お日様は、にっこり笑って答えます。
「あのね、王子様、私とお月様は君の言葉を待ってたの」
お日様の笑顔は爽やかな風になり、
風にそよぐと、二輪の百合は兄と弟に、菫は妖精になりました。
王子様が嬉しくて泣いてしまうと、兄と弟が言いました。
「あのね、嬉しい時は、笑ってごらん」
その夕暮れ、木いちごの王子様の涙は、喜びの輝きになり、みんなのために歌いました。
妖精さんは、木いちごの輝きをルビーにことよせて、お月様に捧げます。
その夜、お月様は王子様に微笑みました。
「王子様、私に言葉を有難う、何かお返し出来ないかしら」
王子様は答えます、「お月様、あなたの贈り物は、多すぎるほど、いただきました」
もう王子様は全く寂しくありません、どれもみな、掛替えない愛しい言葉を交わすから。
すると、みんなが言いました。
「王子様、言葉は離れた人に届くけど、取り替えきかないものですよ」
それでも誰も怖がらず、夜ごと日ごと、木いちごの言葉を奏でます。
棘のある木いちごの香り、ちょっと痛くて怖いなら、心を込めて、おかぎなさいな。
あったかいお日様の匂いがするよ、優しくて甘くすっぱい夜の香りが君を包むよ。
叙事詩的説話的で隠喩に富んだ童話・絵本のための文章を書いてみました。孤独な少年の自分探しや、性に目覚める前の少年の同性愛的な雰囲気を幽かに漂わせることを目指しました。別途で書いていたBLに挿入するつもりだったものですが、その小説は書き終わっていないので、これだけ単独で曝しておこうと思います。