花
花を手折る。
満開のそれを彼に渡した。
――気付かない。
彼は気付かない。
もう1本、柔らかく瑞々しい茎を折る。
「もういらないよ」
1本でいいと彼は言った。緑色の飛沫が私の手を濡らして、指をすり抜けて落ちていった。
アネモネの花びらを千切っていく。
溜息は誰にも聞こえない。彼は遠くへ行ってしまった。
もう、私の元へは帰ってこない。
アネモネは無残な姿で泥にまみれて死んでしまった。
花を手折る。
ハナミズキを彼に贈った。
お返しはなかった。
花を手折る。
クルクマは気に入ってもらえなかった。
――どうして。
彼は首を振った。
花を手折る。
リナリアは私の心の全て。
「受け取れない。こんなもの、受け取れない」
リナリアを踏みにじる彼は別の花を手に取った。
ぽろぽろと涙がこぼれる。
最後に一つ咲いた花を、最後に愛した彼に差し出した。
「ありがとう」
彼はたくさんの花を抱えながら言った。
「嬉しいよ」
それだけだった。
シクラメンは受け取られ、私には何も残らない。
花はもう咲かない。
私には何も残らない。
お読みいただき、ありがとうございます。
花言葉ネタです。
アネモネ:嫉妬のための無実の犠牲。
ハナミズキ:私の想いを受け取ってください。
クルクマ:乙女のかおり。あなたの姿に酔いしれる。
リナリア:私の恋を知ってください。この恋に気付いて。
シクラメン:切ない私の愛を受けてください。