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返報  作者: ハヤオ・エンデバー
第1部
8/12

第8回

 宮崎はオレンジジュースを飲みながら小田菜月の交際相手がいる取調室の前を行ったり来たりしていた。中島が消えてから既に5分経過している。

 “差し入れって何なんだろう?何か夜食でも買ってくるのか?”

オレンジジュースを飲み干すと刑事はゴミ箱に狙いを定めて空き缶を投げたが、それはゴミ箱の縁に当たって床に落ちた。宮崎は頭をカクンと下げながら空き缶の方へ向かう。

 “昔は教室の一番後ろの席にいてもゴミ箱にゴミを入れることができたのになぁ~家で練習すべきかな?いや、そんな姿を娘に見られるのはマズイな。娘には立派に育って欲しい。”

 空き缶を持ち上げた時に宮崎の耳に怒鳴り声が飛び込んできた。その声は下の階から聞こえ、刑事はその声と同時に何かが走ってくる音も聞いた。音は次第に宮崎の方に近づいてくる。

 “何だ?”

 階段を見ると眼鏡をかけた男が踊り場に現れ、宮崎を確認すると「刑事さんですか?」と尋ねてきた。刑事が問いに答えようとした時、その男に続いてビデオカメラを持った男が現れる。それに続いてマイクを持った女性や一眼レフカメラを持った男、ボイスレコーダーと鞄を持った男たちが階段を駆け上がってきた。宮崎はやっと彼らが報道関係者だと気付き、階段の前で両手を広げて立ちはだかった。

 「報道関係者はここから先にはいけません!」刑事はできるだけ大きな声で叫んだ。しかし、小柄の記者たちは宮崎の脇の下を通って廊下に出ると刑事課に向かって走り出した。

 「ダメだって言ってるのに!」宮崎はできるだけ多くの記者を抑えようと、脇を通り抜けて廊下に出た数人の記者を無視した。

 「さっき一階に来た刑事が刑事課に行ってもいいと言ってたぞ!」宮崎の前にいるビデオカメラを持った男が言う。

 「ダメなものはダメなんです!お引き取りください!!」宮崎は自分を押してくる記者たちを押し返しながら叫ぶ。

 「記者はこれ以上先に行けないの!」廊下から怒鳴り声が聞こえてきた。

 宮崎が廊下を見ると記者を階段の方へ押し返す三人の刑事がいた。異変に気づいたのか取調室にいた刑事も廊下に出てきて記者たちを宮崎の方に誘導し始めた。

 刑事たちが報道関係者の相手をしている隙に中島は、小田菜月の交際相手がいる取調室3に滑り込んだ。部屋には茶髪で両耳に銀色のイヤリングを着けている20代前半の男が机を見つめており、室内に入って来た中島を見ようともしなかった。

 「大久保くんだよね?」東京から来た男は若者と向かい合うように椅子に腰掛けた。しかし、菜月の交際相手はじっと机を見つめている。

 「今日は大変だったね~」中島はニヤニヤしながら若者を見る。「あんな事件に遭ったらそうなるのは当たり前だよね~」

 大久保はだぶだぶの服を来た男を無視し続けた。黙っていればどうにかなると彼は思っている。

 “黙っていればさっきの刑事みたいに同情的になるはずだ…コイツも似たようなもんだ。”

 「でもさ~君って…男として、かなり格好悪いよね~」

 中島のこの一言を聞いた途端に頭に血が上り、大久保は目の前に座る男を睨んだ。

 「いや~やっとこっちを見てくれたね~。嬉しいよ。」

 “黙っていればいい気になりやがって!!”若者は机の下で強く拳を握った。

 「顔が赤いけど風邪かな?ここ寒いの―」

 「黙っていればいい気になりやがって!」大久保が立ち上がって拳を振り上げた。それを見た中島は椅子から立ち上がって机から逃げた。

 “やっぱり口だけか…”若者は鼻で笑いながら椅子に戻った。

 「怒るとは思わなかったよ。それで聞きたいことがあるんだけども…」

 “ビビリの癖にまだ喋るのか。次に俺をバカにしたらぶん殴ってやる。”

 「いくらもらったのかな?」

 突然の質問に大久保の思考が停止した。

 「もう一度言った方がいいのかな?あの誘拐犯たちからいくらもらったのかな?」中島はゆっくりとした口調で尋ねた。「それに何で自分の彼女を誘拐させる手引きなんてしたのかな?」

 “どうやってバレたんだ?誰か捕まったのか?”中島を睨んでいた若者の目から敵意が消え、彼の視線は再び机に戻った。大久保は中島のハッタリに怯えていた。

 「大丈夫かい?気分が悪かったらトイレに行ってもいいんだよ。」だぶだぶの服を来た男は先程まで座っていた椅子を机の方に押しながら言う。

 “誰か捕まっていたら黙っていても…いや、黙っていればいいんだ。アイツらが言っていることは全部嘘だと言えば大丈夫だ。でも、もし、金沢さんにあの人の部下を売ったなんてバレたら殺されるかもしれない…”

 「本当に大丈夫かい?」椅子の背もたれに両手を付きながら中島が再び尋ねた。

 「もし、俺が事件のことで、何か…大事なことを、あの誘拐について、知っていて…それをアンタに話したら…どうなる?」大久保が口を開いた。

 「心がすっきりすると思うよ。」

 “そんなこと聞いてねぇよ!!”

 「それから上手く行けば執行猶予でも付くんじゃない?詳しくは弁護士に聞いた方がいいよ。君の味方だからね~」

 「俺が何か言ったってことを誰にも言わないか?それに俺に何かあったら助けてくれるか?」若者が中島の様子を伺いながら言う。

 「その“何か”による。くだらないことなら何もできないよ。」

 “頼りない…でも、刑務所には行きたくない!執行猶予でも良い。ここから出られたら本州に逃げよう。そうすれば、金沢から逃げられる!”

 「菜月の居場所を知っている人がいる…」

 「教えて欲しいな~」中島は上着のポケットからメモ帳を取り出すと、大久保が言った住所をそこに書き込んだ。







 小野田がトイレから出ると通路を早足で歩く奥村を見つけた。彼はまだ彼女が野村のことで怒っているだろう、と思って目を合わせないように歩き出す。

 「小野田さん!」

 奥村の声が通路に響き、小野田は驚いて顔を上げて彼女を見た。ふくよかな体型の分析官は小走りで小野田に近づく。

 「黒田さんが呼んでいます。」そう言うと奥村は振り返って歩き出した。

 「何かあったの?」彼女を追いながら小野田が言う。

 「武田が死にました。」

 「良いニュースじゃないか!」

 「でも、状況が少し変なんです…」

 二人が通路を抜けると、大きなスクリーンの前に立つ黒田と彼を囲むように集まっている分析官たちが見えた。

 「何が起きているのさ?」と小野田。

 「黒田さんが説明してくれますよ。」

 スクリーンの前にいた支局長は小野田と奥村を見ると早く来るように手招きした。彼の部下は急いで上司の近くに向かう。それを確認した黒田は右手のボールペンを忙しなく回しながら喋り始めた。

 「西野と広瀬、SATの働きによって武田とそのグループを逮捕または射殺した。」一部の分析官から拍手が上がった。「これが良いニュースだ。問題はこれから言うことだ…」黒田は一呼吸おいて部下を見る。「武田は射殺されたが…撃ったのは西野たちでは無いらしい。どうやら武田は仲間に撃たれたと考えられている。」

 「どうしてですか?」分析官たちの一番後ろにいた小野田が尋ねた。

 「SATの狙撃手が殺されていた。建物の裏口を見張っていた狙撃手と観測手は射殺されていた。正面入口を見張っていた狙撃手たちは首の骨を折られていた。」

 「犯人は捕まったんですか?」小野田が尋ねる前に黒田の前にいた女性分析官が言った。

 「そいつは既に現場から去っていた。そこでこれから2つのグループに分かれて捜査をしてもらいたい。一つは武田の拠点を捜索している西野と広瀬たちの支援。彼らには一応、SATの応援もあるが、できれば我々で処理したい。最後のグループはSATの狙撃手と観測手を殺害した奴の捜査だ。西野たちの支援をするグループのリーダーに小野田。SAT殺人犯の捜査グループのリーダーに…」黒田が部下の顔を眺める。

 “頼れるのがいないな…小野田に兼任させるか?”

 支局長は部下たちの輪に加わらず、パソコンを睨んでいる小太りの男に目を止めた。

 “水谷か…腕はある。経験もある。”

 「SAT殺人犯の捜査グループのリーダーを水谷にする。」

 名前を呼ばれた男は目を見開いて黒田を見た。彼は自分がネットサーフィンしていたことがバレたと思った。

 「はい?」小太りの30代後半の男が椅子から立ち上がった。黒田の周りにいる分析官たちが水谷を見る。

 「頼むぞ。一時間毎に私に報告してくれ。以上!」黒田は自分の部屋に向かって歩き出し、分析官たちは自分たちの机に戻り、各グループのリーダーに指示を求めた。

 “水谷に問題があれば、小野田に兼任させよう。それがベストだ。”ガラス張りのドアを開けて部屋に入ると支局長は武田の捜査を続けている野村のことを思い出した。“武田が死んだ今、アイツのやっていることは無意味だ。さっさと引き返して西野の援護に回そう…”

 黒田がコーヒーを啜りながら電話機に手を伸ばすと着信音が室内に響き、彼は受話器を素早く持ち上げた。

 「黒田だ。」

 「東京の恩田です。」女性の声が受話口から聞こえてきた。

 “東京?”北海道支部の局長は一瞬戸惑った。“武田の件についてか?”

 「今、大丈夫でしょうか?」

 「ちょっと待ってください。」黒田はパソコンの前に回ると椅子に腰掛けず、パソコンの画面に表示されていた小さなウィンドウにカーソルを合わせて5桁の数字を打ち込んだ。

 “安全な回線で話したがるとは武田の件だろうな…”

 「お待たせしてすみません。大丈夫ですよ。」

 「念には念を言うのが本部の意向なのですみません。それにこんな夜遅くに…」

 「お互い仕事ですからね。それで要件は?」支局長がやっと椅子に腰掛ける。

 「率直に言いますと、小田菜月誘拐事件の捜査を始めて欲しいんです。」

 “何だって?”

 「しかし、あの事件は警察が―」

 「詳しいことは極秘事項になっています。」

 “極秘?あの事件が?まさか、政治家のイメージアップのためだけに俺たちを使う気か?”

 「捜査とはSATやSITの援護ですか?」苛立ちを隠しながら黒田が尋ねた。

 「それもお願いします。それとは別にあなたの所の職員にも動いて欲しいです。」

 「武田の件でこちらも忙しいのですが…」

 「北海道だけが忙しいと思わないでください。」電話相手の声は尖っていた。

 “言ってくれるじゃないか!”黒田は耳を真っ赤にしながら受話器に耳を傾けている。

 「それではお願いします。」

 電話が切れると黒田は受話器を静かに元の位置に戻してコーヒーを啜り始めた。

 “もう少しの辛抱だ。武田の件を解決したんだ。昇進できるだろう…”北海道支局長は自分を納得させるために心の中で呟いた。“そうなれば、うるさい東京の指示を聞かなくても済む。”







 仲間から交通事故のために遅くなると連絡を受けた若松は携帯電話のパズルゲームをダウンロードして遊んでいた。しかし、数分でそのゲームに飽きてテレビを見ながら少し離れた部屋にいる新村のことを考えた。

 “デートに行くならどこだろう?できれば同僚がいないような場所が良い。映画か?いや、いきなり暗い所に行こうというのは下心があるように思われるかもしれない。普通に買い物だな。または食事。でも、大抵の場所に同僚がいるんだよな~職場恋愛は無理かな?”

 「若松さん?」

 新村の声に驚いて若松は素早く顔をリビングに入ってきた新人捜査官の方に向けた。

 「どうした?」ぎこちない声で若松が尋ねる。

 「交代してもらってもいいですか?」

 「あ!ああ、いいよ。」小太りの捜査官がソファから立ち上がった。

 「ありがとうございます。あの~迎えはいつ来るんでしょうか?」近くにあった椅子に座って新村が言った。

 「交通事故があったらしいから遅れるらしい。」

 「そうですか…」

 「まぁすぐに戻れるから大丈夫だよ。」

 若松と新村がリビングにいた時、守谷は袖の内側に隠していたナイフを取り出して両手首を縛っていたプラスチックの手錠を切った。両手の自由を得た男は片足も縛っていたプラスチック手錠を切り取って椅子から立ち上がる。リビングから捜査官たちの声が聞こえる。守谷はナイフを右手に静かに部屋を出た。

 「最近人気のオムライスの店知ってる?」

 「はい!友達に誘われたんですけど、忙しくて行けなかったんです。」

 “呑気な連中だ…”守谷は忍び足で声の聞こえるリビングの手前で立ち止まった。

 「それじゃ、今度一緒に―」

 若松が喋り始めた時を狙って守谷はリビングに飛び込んだ。笑顔を浮かべて立っている小太りの男と椅子に腰掛けているショートカットの女を見つけた。最初に襲撃者に気づいたのは椅子に座っていた新村であった。彼女は腰のホルスターに収められている銃に手を伸ばしながら立ち上がり、彼女の反応を見た若松は驚いて一歩後ろに下がった。彼は新村に撃たれると思ったのだ。

 男性捜査官の動きは守谷にとって好都合であった。二人の距離は1メートルから70センチに縮んでいた。

 「後ろです!」

 新村が叫び、ようやく状況を理解して若松は後ろを振り向いた。守谷がナイフを突き出し、反射的に男性捜査官は左腕を上げて攻撃を防ごうとした。だが、ナイフは捜査官の左腕に刺さり彼は呻きながら右拳を守谷の脇腹に叩き込む。襲撃者は怯まずに左手で相手の左肩を突き飛ばし、その勢いで突き刺さっていたナイフを取り戻した。

 「動かないでください!」銃を守谷に向けて新村が叫んだ。

 “おっと…”

 襲撃者は出血を止めようと腕を抑える捜査官の胸倉を掴み、手前に引っ張りながら若松の股間を膝で蹴り飛ばすとナイフを床に落として男性捜査官の拳銃を奪う。新村は若松が邪魔で守谷に狙いを定めることができない。襲撃者は床に転がっていたナイフを遠くへ蹴り飛ばし、奪った銃を男性捜査官の額に押し付けた。

 「銃を捨てろ。」守谷が言う。

 「若松さんを…開放してください…」新村は自分の声が震えていることに気付いた。

 守谷は溜息をつきながら若松の右脚を撃った。悲鳴を上げながら男性捜査官は床に崩れ落ちて倒れそうになったが、守谷は若松の髪を掴んでそれを阻止すると銃口を捜査官の頭部に押し付ける。それを見た新人捜査官の手は震えており、目には涙が溜まっている。

 「泣いても何も出ないよ!」守谷が怒鳴った。「早く銃を捨てろ。」

 「ダメだ…新村…このクソ野郎を撃て…」か細い声で若松が言った。

 「で、でも…」

 「撃てって言ってるだろうが!!」

 「お前が撃つ前に俺はコイツを撃つけど、それでもいいのかな?」守谷は新村に笑みを向けた。

 新村は迷った挙句に引き金にかけていた指を離して銃を床に投げた。

 「君が賢い子で良かったよ。」そう言いながら守谷は若松の頭を撃ち抜いた。肉の塊となった若松は糸の切れた操り人形のように床に崩れ落ち、新人捜査官は恐怖のあまりその場に座り込んでしまった。

 “逃げなきゃ…逃げなきゃ、殺される!”

 襲撃者は若松の死体を跨いで新村にゆっくりと近づく。

 “逃げなきゃ…逃げなきゃ…”

 着信音が室内に響いた。その音は死体から聞こえている。襲撃者が驚いて死体の方を見た瞬間に新村は裏口がある台所に向かって走り出した。







 武田の死を知った本間は急いで今いる建物から逃げる準備を始めた。彼女はできる限り、そこにいた形跡を無くすために部屋に広げていたパソコンや地図、写真などを鞄に押し込み、必要の無い物はまとめて建物の裏で穴を掘っている部下の所に運ぶように命じた。武器や電子機器は用意しておいた車に積み込み込まれ、本間が保険のために借りておいた建物に運ばれる予定になっている。

 ここまでの手順は既に決められていたが、これは“小田菜月を処刑した後の手順”であった。女テロリストは小田菜月を殺すべきか、一緒に別の建物に移動すべきか迷っている。

 「失礼します。」紺色の小さな鞄を持った部下の木下が部屋の中に入ってくると、本間は考えるのを止めて部下を見た。

 「それは何?」本間が木下の持っている鞄を見ながら言う。

 「あの男が要求してきた拳銃です。」背の高い男が女に鞄を手渡し、女テロリストはその中身を確認した。一見鞄の中に入っていた銃はソ連製のものに見えたが、本間は中国製だろうと思った。

 「私からあの男に連絡しておくから、あなたはここから出る仕度を整えて。」本間は鞄を机の上に置くと携帯電話を取り出した。

 「分かりました。しかし、銃について補足すべきことがあります。」

 女は木下の言葉を聞いて顔を上げた。

 「あれはかなりの不良品でして、2発…いや、1発撃てればいい代物です。」

 「何でそれを私に教えるの?」本間は男から目を離さずに言った。

 「あなたは私の雇い主ですし、唯一信用できる人です。それに私はあの男が嫌いなんです…なんというか、冴えない感じのあの男が…」

 “コイツは保身に走っているのか、それとも本当に忠実な部下なのか?”本間は心の中で呟いた。“まぁ、どうであれ木下と私の意見は一緒。”

 「不良品の銃とあの男。どういう関連が?」と本間が尋ねる。

 「あの男、佐藤とかいう男に消えてもらおうと思います。」

 “これは面白い!”

 「どのように?」

 「銃の遊底に仕掛けをして置きました。遊底を固定する部分を甘くしておいたので、発砲したら遊底が発砲した者の方に飛んで行きます。そして…」

 「遊底が顔面を直撃し、運がよければ脳にまで達する?」

 「その通りです。」木下は笑みを浮かべ、右手人差し指で脚を軽く叩いた。彼は嬉しいことがあると指で脚を軽く叩く奇妙な癖があった。

 “上手く行けばいいけど…”

 「それじゃ、早くあの男に連絡しないとね…ああ、そうだ。私は二時間後にここを出る。あなたには最後まで残って移動が終わるのを見届けて欲しいの。」

 「分かりました。」

 「くれぐれも気を抜かないようにね…」








 「こっちだ。皆がお前を待っている。」男が西野に言った。

 西野は男の後を追って廊下を歩き出す。

 「何があったんだ?」男の横に並んで西野が尋ねる。

 「ちょっと問題が起きただけだ。」

 男の態度に西野は不信感を抱き、それが次第に恐怖心に変わった。

 「大丈夫。すぐ終わるさ…」

 額に小さな切り傷を持つ男は廊下の突き当りにあるドアを開けて西野に入るように促した。部屋の中を見ると、男たちが輪を描くように並んでいるのが見えてドアが開くと数人が西野たちを見た。

 「どうした?」ドアを開けて待っている男が心配そうに問いかけた。

 「何でもない。」そう言って西野は部屋の中に足を踏み入れた。

 部屋は狭い上に薄暗く、肌寒い場所であった。倉庫だろうと西野は思った。とても人が集まる場所ではない。

 「こっちだ。」輪を描いて並んでいる男の一人が西野に向かって言った。

 華奢な体型の西野は輪を描いている男たちを脇に寄せて輪の中に進む。恐怖が全身に走り、西野は体が震えていることに気付いた。輪の中心へ辿り着いた時、西野の中で広がっていた恐怖が消え始めた。彼の目の前には布袋を頭から被せられ、両手足を縛られて跪いている男がいる。

 「コイツは誰だ?」西野は誰ともなしに尋ねた。

 「ネズミだよ。」背後から声が聞こえてきた。西野が振り返ると彼をこの部屋まで案内した男がいる。

 「ネズミ?」

 「そう。つい数時間前だよ。コイツ!」男が跪いている男を指差す。「警察に俺たちの情報を流していやがった!!」

 これを聞いた西野は心臓が縮まるような感覚を得た。その後、彼の心臓は緊張によって激しく動き始めた。

 「お前も知っているはずだ。」額に小さな傷を持つ男が跪いている男の布袋を剥ぎ取った。

 男のいう通り西野はその男を知っていた。顔中血だらけになってもいても、殴られて顔中が腫れ上がっていても西野はその男が誰かすぐに分かった。今、この部屋にいる誰もよりも西野はその男を知っている。

 “あれほど電話を使うなと言っただろうが!!”変わり果てた男の姿を見た西野は苛立ちを覚えた。

 「皆で考えたんだ…ここはお前がやるべきだと…」西野の前に鉄パイプが差し出され、西野は目の前で跪いている男を見ながらそれを手に取った。

 「助けて…」輪の中央で跪いている男がか細い声で言う。

 「裏切りに者のくせに命乞いをするのか?」西野を部屋まで案内した男は鼻で笑った。「小林…できるだけ早く頼むよ。」男は西野の肩を軽く叩くと一歩下がった。

 しかし、西野にはできなかった。

 「小林…お前、この裏切り者に同情しているのか?コイツはクズだ!コイツは俺たちの変革の邪魔をしようとしたんだぞ!」額に傷を持つ男が西野の背中に向かって叫んだ。「やるんだ!これはこの国のためだ!やらなきゃ、俺たちがやられるんだ!」

 三人を囲むように並んでいる男たちが「殺せ」と叫び始める。

 “許してくれ!”

 西野は歯を食いしばると、鉄パイプを振り上げてそれを跪いている男に向けて振り下ろした。







 

 目が覚めると星空が見えた。辺りが騒がしく、人々が忙しなく動き回っているのが分かった。心臓が激しく動いている。西野が起き上がろうとすると胸に激痛が走って再び倒れた。

 「どうなってんだ?」西野は頭だけ動かして周囲を見渡した。SAT隊員や制服警官、スーツ姿の男たちが走り回っている。

 「気が付いたか?」片足を引きずりながら広瀬が近づいてきた。

 西野は胸の痛みを我慢して起き上がると同僚を見た。

 「撃たれたのか?」

 「脚だけだ。特に問題はない。」

 「腕を撃たれたSAT隊員は?」

 「救急車で運ばれたよ。死にはしないだろう。」

 「それは良かった。」西野が立ち上がりながら言う。「ところで武田は?」

 「死んだよ。後頭部が半分消えてたよ…」

 「そうか…」西野は急に脱力感を覚えた。

 “武田が死んだというのに全く嬉しくないな…あの思い出のせいかもしれない…”胸に右手を添えながら西野は改めて周囲を見渡した。

 「どうして警官たちが?」と西野。

 「黒田が道警に手を回したらしい。あれでも元キャリア様だぞ。」広瀬が皮肉を込めて言った。実際に彼は黒田があまり好きではなかった。

 「それより、少し問題がある。」広瀬は顔から薄ら笑いを消して西野を見た。

 「武田の場所から何か見つかったのか?」

 「電子機器などを見つけたが、全部本部に送られたよ。これから何か分かるかもしれない。」

 「じゃあ、何だ?」

 「SATの狙撃手と観測手が4人とも殺されていた。正面を見張っていた2人は首の骨を折られ、裏口の2人は射殺されていた。」

 「犯人は?」

 「逃走中だ。全力で探しているが―」

 「不審人物の目撃情報は?」広瀬を遮って尋ねる。

 「不審と言えば、ここから700メートル程離れた場所で民家の塀に突っ込んだバンを見つけた。」少し考えてから広瀬が言った。「その運転手は腹部に銃弾を受けていた。おそらく武田の仲間だろう。」

 「他は?」

 「無い。それより少し気になることがあるんだ…」広瀬は周囲に聞こえないように西野に近づいた。「SATと武田を撃った狙撃手は主に頭部を狙っている。バンに乗っていた男とお前を除いてな…」

 「何が言いたい?」西野は広瀬が言おうとしていることを読み解こうとしたが、同僚が喋るのを待つことにした。

 「バンに乗っていた男は別として―フロントガラスに命中した際に弾道が外れたのかもしれないからな―何故狙撃手はお前の頭を撃たなかったのだろう?」

 「下手だったんだろう。」

 「さぁな。でも、三回も頭を撃ち抜いていた男がお前の時だけ外すとは…」

 「狙撃手が故意に外したと?」西野は遠回しに話す広瀬の会話に苛立った。

 「早い話がそういうことだ。しかし、何故…?」

 携帯電話の着信音が鳴った。広瀬は電話を上着のポケットから取り出して番号を確認すると電話に出た。電話は同僚の伊藤からであった。

 「広瀬だ。」

 「広瀬さん。H07に着きましたが―」

 「わざわざ連絡なんていらないぞ。早くアイツらを本部に―」

 「トラブルです。若松さんの死体を見つけました。新人は行方不明です。」

 「何!?」広瀬は思わず大声を上げ、西野はその声に驚いた。「拘束していた男は?」

 「いません。家の中を捜索しましたが、誰もいませんでした。」

 「これからそっちに行くから待ってろ!」

 そう言うと広瀬は電話を切って西野を見た。

 「守谷が逃げ出して若松を殺した。新村が行方不明になっている。人質にされた可能性がある。俺はすぐにH07に向かう。」

 「俺も行く。」

 「大丈夫なのか?」広瀬は銃弾を受けた西野の胸を見た。

 「俺の心配よりも新村だ。」

 「そう…だな…」

 二人はSATに頼んでSUVを借りるとH07に急いだ。








 車から降りると野村と小木は6階建てのアパートを見上げた。ここへ来る前に二人は小木の情報提供者である梶原に会うため、良く情報交換の際に使っていた居酒屋を訪れた。人気の少ないその居酒屋には梶原の姿は無く、店主の話しではここ最近店に来ていないということであった。アパートに着くまで小木は何度も情報提供者に電話したが、梶原の電話は常に留守番電話であった。

 「何階か知っているんですか?」アーチ状の入口をくぐり抜けた後に野村が尋ねた。

 「3階だ。アイツを俺の“資産”にする前にちゃんと尾行して居場所も確認している。」先輩捜査官がエレベーターのボタンを押しながら応えた。

 エレベーターを待っていると小型犬を連れた初老の女性がアパートに入って来た。それに気付いた野村は咄嗟に「こんばんは」と声をかけた。女性は無表情で「こんばんは」と返したが、彼女は野村では無く小木の方を向いていた。野村がエレベーターへ視線を戻すと女性が声を上げた。

 「あなた、梶原さんのお友達でしょ!」

 二人の捜査官は驚いて振り返った。

 「そうだわ。あなた、そうでしょ?」女性は小木の顔に見覚えがあった。

 「そうですが…」言葉を詰まらせながら小木が言う。

 「あの人、梶原さんって今部屋にいるのかしら?家賃を滞納しているのよ。」

 「おそらくいると思います。会ったらそう言っておきます。」小木はこの会話を切り上げたかったので嘘をついた。

 「お願いします。2ヶ月分も滞納していの。彼女と遊び歩くのもいいと思うけど、家賃は払ってもらわないとね。」

 エレベーターのドアを開き、野村が乗り込もうとすると小木が彼の腕を掴んだ。

 「私たちは階段を使うのでどうぞ。」小木は野村の腕を引っ張って階段へ向かう。

 「何でエレベーターに乗らないんですか?」階段を駆け上がりながら野村が尋ねる。

 「梶原に彼女なんていなかった。仮にいたとしても俺に何かいうはずだ。」

 “そうかな?”と野村は思った。

 「アイツはいちいち好きな人ができただけで俺に報告して、どうしたらいいか聞いていた。そんなアイツが彼女について何も言わないなんておかしい。」

 「何か事情があったに―」

 「それにアイツは家賃を滞納するような奴じゃない。律儀な奴なんだよ!」

 3階に着くと小木は真っ直ぐ右に進んで情報提供者の部屋に行くとポケットから鍵束を取り出し、その中から一つ選ぶとそれを鍵穴に差し込んだ。

 「何してるんですか?」小声で野村が言った。

 「部屋に入るんだよ!」

 「まず、室内にいないか確認しないと―」

 「そんな暇無い!」小木はドアを開けて室内に入った。野村は上着のポケットからペンライトを取り出して小木の後を追う。

 部屋に入ると野村は静かにドアを閉めてペンライトで足元を照らす。室内は整理整頓されていたが、床や家具が埃に覆われている。

 “片付いている部屋なのに掃除はしないのか?”部屋の奥に進むと小木に出くわした。

 「いましたか?」

 「いや、いない。」

 「外出中なのでは?」

 「それはありえない!」そう言って小木はまた姿を消した。

 ペンライトで周囲を照らしながら歩いていると野村はパソコンで携帯電話を見つけた。サブディスプレイを見ると不在着信とメールの文字が表示されている。携帯電話を開くとディスプレイに男性と女性が写っている写真が表示された。

 “これが小木さんの情報提供者とその彼女?”

 野村は携帯電話を持って小木を探し、風呂場で先輩捜査官を見つけた。小木は呆然と立ち尽くしてバスタブを見下ろしている。

 「どうしたんですか?」野村が尋ねながらバスタブの中を覗き込むと氷の中に埋もれている男がいた。







 「それでいつやるの?」髪を後ろで束ねながら髭面の男が言った。

 「もうちょっと彼の動きを見てみたい。まだ、あの男の動きが読めない…」70メートル先を走っている車を見ながら運転席にいる目が異様に大きい男が言った。

 「気にすることないって。今回もサクッと刺して終わりでしょ?」

 「仮にも相手はSATだからなぁ~少し俺はナーバスなんだよ。」

 「心配し過ぎだよ。SATなんて大したことないよ。どうせ昨日始末した男みたいに命乞いするさ~」

 「だといいけど~」







 尾行されていることに気付いていない宮崎はただ中島に言われた場所に向かって車を走らせていた。中島はシートを少し倒して窓越しに外を見ている。

 「中島さん、起きますか?」宮崎が前を見つめながら言う。

 「起きてるよ。」中島はシートを起こして宮崎を見た。

 「今気付いたんですけど…この住所って確か…不良が溜まっている場所だった気がするんですけど…」

 「それりゃ困ったな~何かあったら宮崎くん、よろしく頼むよ!」だぶだぶの服を着た男が宮崎の肩を軽く叩いた。

 「僕、格闘技って苦手なんですけど…基礎は知っていますけど…」

 「なら何とかなるんじゃない?」

 「ならなかったらどうするんですか!!」宮崎の声は震えていた。「僕には妻も娘もいます!中島さん知ってるでしょ?万が一死んだら洒落にならないですんですよ!!」

 「君の職業はなんだね、宮崎くん?」中島はいたずらっぽく笑顔を浮かべて尋ねた。

 「警察官です。」

 “この人は話しをはぐらかそうとしている!”宮崎は内心の怒りを抑えていた。

 「君の役割は?」再び中島が尋ねる。

 「人々を危険から守ることです。」

 「素晴らしい模範解答だよ!」拍手をしながら中島が言う。

 「さっきから何が言いたいですか!!」思わず刑事は怒鳴った。「こんなの俺の仕事じゃない!」

 「そうなの?引き返すならオイラに車を貸してくれよ。」中島がハンドルに手を伸ばしたが、宮崎はそれを手で払った。

 「一緒に署に戻って課長にこのことを言うべきです!」

 「それはすべきじゃないな~。君はオイラと同じタイプだし。」

 「同じなわけない!俺はアンタみたいな変人じゃない!!」

 中島はカクンと頭を落とした。「何と言われようと構わないけどさ~もう目的地に着いたみたいだよ。」

そう言うと中島はサイドブレーキを引き、緩いカーブを曲がっていた車が横を向き始めた。突然のことに驚いた宮崎はハンドルを回して車体を安定させると停車させた。彼らを尾行していた男たちは宮崎の車に異常が見られると車を路肩に停車させて様子を伺い始めた。

 「何するんですか!!」宮崎が怒鳴ったが、中島は既に外に出ていた。刑事は外に飛び出すと中島の背中に向かってもう一度同じことを言った。それでも中島は数台のバイクが置かれている家に向かって歩き続けた。

 “勝手にしろよ!”

 宮崎は再びに車に乗り込んで車を走らせようとアクセルを踏もうとしたが、諦めて車を中島の行こうとしている家の向かい側にある路肩に停めた。

 “クソッー!!何やってんだよ、俺は!!!”刑事は催涙スプレーをダッシュボードから取り出して中島の後を追う。宮崎がやってきたことに気付くと、だぶだぶの服を着た男は宮崎が持っている催涙スプレーに興味を持った。

 「どこでそんなものを?」

 「妻がプレゼントしてくれたんです。護身用に…」

 「いい嫁さんじゃないか!大事にしないとねぇ~」中島は笑みを浮かべながら目的地に目を戻す。

 宮崎の心臓は異常なほどに高鳴っている。頭の中に不良にリンチされる自分と中島の姿、そして、リンチの末に死亡して山に埋められる様子が思い浮かんだ。

 “妻と娘を残して死ぬ訳にはいかない!”刑事は右手にある催涙スプレーを強く握る。

 二人が短い階段を上がり、中島がインターホンを押そうとした時にタバコを加えた青白い顔をした男がドアから出てきた。中島と宮崎を見た男は驚いて顔を引いたが、彼らの身なりを見て薄ら笑いを浮かべた。

 「何の用だよ、おっさん!」男が中島に向かって怒鳴った。

 「ここの一番偉い人に会いたいんだけど、いるかな?」中島は顔をしかめながら言った。

 「つうか、おめぇ、誰だよ!?」男は中島の問いを無視して再び怒鳴った。

 「一番偉い人に話しがあるんだけど、いるかな?」中島も男の問いを無視した。

 「オイ、コラァ!てめぇ、話聞いてんのか!?」青白い顔をした男は中島を睨みながら顔を近づける。

 このやり取りを見ていた宮崎の脚は震えており、ただ二人を見ることしかできなかった。

 「いや~困ったな~僕たちはサラリーマンです。ここに来るといい物が買えると聞いてやってきました~。」

 「何だよ!」男はタバコを捨てると中島から離れた。「客なら客って早く言えよ!俺に付いてこい!」男は家の中に入って行き、中島はその後を追う。宮崎は少し遅れて中島を追った。

 “久しぶりのカモだぜ!”二人の前を歩きながら男は面白がっていた。

ただ前を歩いている男を追っている二人は道中でタバコを吸っている男たちや若い女と話している男のグループなどを見た。男はリビングに入ると足を止め、宮崎と中島はそれに倣って歩くのを止めた。

 リビングにはソファに座って女を左脇に抱えている金髪の男と椅子に腰掛けてジッポライターの蓋を開けたり閉めたりしている男、金属バットで素振りの練習をしている大柄の男がいた。

 「金沢さん。」男が女とテレビを見ている金髪の男に向かって言う。「お客さんです。」

 「10万だな。」金沢は中島たちを見ずに呟いた。

 中島たちをリビングまで案内した男が振り返って宮崎と中島に金沢の言ったことを伝えようとした時、中島が金沢の方に向かって歩き出した。

 「アンタがここで一番偉い人かい?」中島が尋ねた。

 「オイ、てめぇ!何、金沢さんに話しかけてんだ!!」男が中島の肩を掴んで後ろに引っ張った。

 「痛いよ~」中島はそう言って大人しく後ろに下がった。「どうなのさ?」

 「シャブ中に言う必要なし。」テレビを見ながら金沢が小さな声で答えた。

 「残念ながらシャブ中では、ありま、せ~ん。聞きたいことがあって、ここに来たんですよ。」

 「てめぇ、舐めてんのか!?」男が中島に向かって怒鳴る。

 この状況の中、宮崎はどのタイミングで上着ポケットに入れてある催涙スプレーを出すべきか考えていた。

 「仕方ないじゃ~ん。そうでもしなかったら、ここまで入れてくれないでしょ?」

 「て、てめぇ!!」男が拳を振り上げる。

 「やめろ!」素振りの練習をしていた男が言った。「ちょうど何かを打ちたかったところだ。俺に譲れよ…」金属バットを振り回しながら大柄の男が中島に近づく。

 「あ~あ、知らないよ。西山さんは俺よりも凶暴だからね。今の内に謝って置いた方がいいよ、おっさん。」そう言い残して青白い顔をした男は部屋の端に移動する。

 宮崎は上着のポケットに手を入れて催涙スプレーを出す準備をし、中島の傍に移動し始めた。

 “スプレーとは言え、近距離じゃないと意味がない。”

 「おい!動くんじゃねぇよ!!」部屋の端に移動していた男が怒鳴った。 その声に驚いた宮崎は男の方を向いて立ち止まった。刑事が中島へ視線を戻した時、大柄の男が右手に持ったバットを振り下ろそうとしていた。

 “遅かった!”宮崎は反射的に目を逸した。

 バットが振り下ろされる前に中島は左腕で相手の右腕を抑え、それと同時に右拳を大柄の男の顔面を叩き込んだ。間を置かずに彼は男の右腕を左脇に挟み、右手で男の首筋を掴むと膝蹴りを股間に入れる。数秒の間に急所への攻撃を二度も受けた男は言葉にできない痛みに堪えることで精一杯であった。この二打が一定の効果を生んだことを知ると中島は右手で男を後方に突き飛ばしながら、左手で相手が持っていたバットを掴んでそれを反時計回りに回した。バットは簡単に大柄の男の手から離れる。突き飛ばれた男は金沢が座っていたソファの下に転び、股間を抑えながら床の上で転げまわっている。

 これに一番に驚いていたのは宮崎であった。

 “一体何が起こってるんだよ!?”

第一部(前編)、完!となります。

第二部(後編)は早くて8月、遅くて9月からの公開になるかと思います。

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