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RPG風の世界で、色々みなさん頑張ってる物語

Dungeons & Gunmans -”呪われました”の13作目-

作者: 茶屋ノ壽

 ここは、とある辺境の”お山”です。呪われた娘さんのシルフィさんは、薄暗い人工的に作られた地下通路にいました。幅広の帽子テンガロンハットにポケットの多い、茶色のチョッキと同系色のジャケット、鋲撃ちされた青いズボンといういつもの”ガンマン”の姿です。銀色の長めの髪はポニーテールにしてまとめています。首からは大ぶりの目を覆うゴーグルのようなものをかけています。

 周囲の壁には一定の間隔で明かりが設置されています。ちょっと見ると松明の様ですが、炎に熱を感じませんし、すすも出ていないようです。松明に見せかけた、なにかしら不思議な光源ということらしいです。その光のおかげで、日の光がささない地下でも、視界の確保に苦労しません。

 ここはいわゆる”ダンジョン(Dungeon)”という所です。そもそもDungyonとは城の施設の一つで、おおむね地下にあり、日の光が入らない場所のことです。暗く怪しげな印象から、そこには怪物が住み着いていたり、その怪物が守る宝がある、などと、噂が立ちました。そうして、そのような俗説から連想され、Dungeonとは怪物が住み、宝やそれを守る罠などがある場所、という定義づけがされています。

 シルフィさんは、長い棒を両手で持って歩いています。棒の長さはシルフィさんの歩幅で5歩から6歩の間くらい、または、10歳ちょっとのシルフィさんの身長の倍より少しあるくらいの長さです。その棒で石造りの通路の、進行方向の床などを突いたりして、探りながら、小柄な少女のシルフィさんは慎重に進んでいきます。

 と、その時、棒の先端が通路の先の床を叩いた時、シルフィさんは何か違和感を感じます。どうやら、通路の石畳の一部が下へ沈み込むようになっているようです。シルフィさんは、周囲を観察します。通路の先、10歩ほど進んだところに左右へ曲がる道と、正面に壁が見えます、T字路になっているようです。その正面の壁に、巧妙に偽装された細い切れ目を発見します。シルフィさんは、通路の端によると、慎重に長い棒で下に沈み込む石畳を押し込みます。石畳が押し込まられると、どこからか歯車の噛み合わさるような音が聞こえて一呼吸おいて、風を切る音が聞こえます。優れた動体視力を持つシルフィさんは、正面の壁に作られた隙間から、矢が地面と水平に飛び出して、通路の真ん中を射抜いて飛んでいき、失速して、遠くに落ちたのを確認します。しばらく待ち、続きの矢が放たれないことを確認して、T字路の壁まで、他の仕掛けがないことを確かめつつ進みます。

 矢が飛び出した、壁に手を当てて調べていきます。壁の凹凸を、薄手の革の手袋をはずして、小さな白い手でさわりながら確認していきます。その手がピタリと止まります。そして、腰の後ろにつけていたポーチから、薄い金属の板状の工具を取り出して、発見した不自然な、壁の隙間に差し込みます。金属の触れある音が小さく響きます。金属的な、なにかがかみ合うような音がして、壁が……壁に見せかけていた、縦方向が少女の腕くらいの長さで、地面と水平方向の長さがその半分ほどの、長方形ふたが蝶番でもって開きます。そして、両手でその開いたふたの奥から、矢を打ち出した機構の塊を引き出します。下部分が、レール状の仕掛けになっていて、なめらかに、壁の中から、通路側へと出てきます。引き出した、機構の側面を操作すると、そこにある箱上のものの蓋が開き、矢が9本程、おさまっているのが、確認できました。矢は、ばね仕掛けで打ち出す機構へ装填されるようになっています。その矢の再装填の作動は、どこからかの動きを歯車などで伝達して、自動的に開始されるようになっています。

 

シルフィは考えます


 装填された矢は、射出される機構によって、床の仕掛けを動作の起点にして、飛び出していくようです。射出の動力はばねでありました。常に引き絞っているとばねにがたがくるので、床の仕掛けを動作した時点で、射出準備に入るようですね。だから、石畳を沈み込ませてから発射まで少し時間がかかったと。大本の動力は、ゼンマイと重り、ですね……装置そのものをできるだけ独立させようとしていますが、床の仕掛けとの連動でどうしても大がかりになっていますね。しかし、それほどのスペースを消費せずに、独立して、設置できる設定は良いと思います。再装填の仕掛けもありますね。ある程度時間を置くとばね動力で、床のスイッチがもとに戻り、矢が再装填されるというしかけですね。

 ……保守点検もそれほど頻繁ではないでしょうが、必要なようですね。ゼンマイの能力や、発動の頻度にもよりますが、長くても10日くらいに一回は整備が必要かな?なので、この手の罠があるということは、それを扱える存在がいるという証拠になりますね……その辺の設定はどうしているのでしょうかね?


 シルフィさんは、装置に入れてあった矢を9本、見た目に比べて大きな容量を誇る不思議な背負い袋に入れて、機構をもとに戻して、その場を後にしました。



 その後シルフィさんは、引き続き、曲がり角や、扉などを確認しつつ、地図を作成しながら通路を進んで行きます。時々立ち止まっては書き込んでいる用紙は、白い丈夫な紙で、バインダに金属状の留め具で止められています。罫線が薄く縦横にあらかじめ記入されていて、地図を描くのに便利なようになっています。記入している道具は、木の棒から、黒い芯が飛び出ている細い短めの棒状のものです。黒い線が丁寧に用紙上へひかれていきます。ところどころに書き込みがしてあり、今まで探索した内容がわかりやすくまとめられています。

 とその時、シルフィさんの耳に、何かが聞こえてきます、足音のようです。固い靴が石畳を定期的にたたく音です。どうやら、通路の先の曲がり角の向こうから近づいてくるようです。シルフィさんは、すばやく筆記用具を背中へしまい(それ用の、大きめのポケットがジャケットに縫製されています)腰のホルスターから、"銃"抜いて構えます。

 通路の曲がり角から現れたのは、1体の骨でした。人の体を基本にした骨でできた”怪物”で、粗末な錆の浮いた鱗状の金属を無数に組み合わせた鎧を着て、右腕に幅広の湾曲した、長さがその怪物の腕ほどの、片刃の剣と、左手に小さな丸い木を基本として、金属で補強してある盾を構えています。足元は膝の中程までをカバーする、これもまた所々をさびた金属で補強してある長靴を履いています。筋肉どころか、筋すら無い構造の、骨だけで自立し、あまつさえ移動している姿は、不気味で不自然です。怪物は、かたかたをやけに白い歯を鳴らしながら、意外と速く近寄ってきます。

 シルフィさんは構えた”銃”の引金を引きます。轟音と共に、”弾丸”を媒介にした魔法の光弾が銃口から放たれて、骨の怪物に命中します。体の中央、鎧の真ん中に命中した光弾はその衝撃を骨の体へと伝えます。骨の怪物は、一瞬立ち止まったと思うと、操られていた糸が切れた人形のように、各骨ごとにバラバラになって、石畳の通路へと崩れ落ちます。

 崩れ落ちた骨の怪物に対して、シルフィはその場を動かずに観察を続けます。すると、ゆっくりと十数回呼吸を行ったくらいの時間を置いて、地に落ちていた骨が動き始めます。骨は、見えない手で組み立てられていくように、瞬く間にもとの骨の体へと戻って行きます。同時に落ちていた片刃の幅広の剣と、小さな円形の盾を拾います。鎧は、着込むのに時間がかかるせいでしょうか、床に落としたままです。長靴は足の骨ごと再びくっついています。そして、カタカタと骨の鳴る音を響かせつつ、シルフィさんへ走りよってきます。

 シルフィさんは冷静にそれを見ています。骨の怪物を観察し、一点、腰の骨が淡く光っていることに気がつきます。腰の骨はバラバラになってから戻るまでも光つづけていました。”銃”の引金を引きます、光弾は狙い違わず骨の怪物の腰骨に命中して、それを砕きました。すると、骨の怪物はその力を失って、走りながら、バラバラに崩れ落ちてしまいました。崩れ落ちた骨が周囲に散らばります。完全に動かなくなったことを確認したシルフィさんは、骨の残骸に近づきます。すると、骨の全体が淡く光り消えて行きます。残ったのは、小指爪の半分くらいの大きさの黄色い水晶でした。シルフィさんは小さな手でそれを拾って、ウエストポーチに仕舞っていた小袋へ入れました。


 シルフィさんは考えます


 骨で作られた”怪物”ですね。”死に損ない(Undead)”でしょうか?いわゆる”動く骸骨(Skeleton)”か?それとも、”骨”製の”人形(golem)”でしょうか?前者なら自然発生的な設定とも考えられますが、罠などの保守を考えると、ダンジョンの管理者側に、作られたという設定の可能性が高いですね。”死に損ない”を創造できる存在がいると思っていた方が安全度は高いでしょう。

 一定以上の攻撃を与えると、全体が崩れるのですね。で少しすると復活するわけですね。油断して後ろを向くとバッサリですか。もう少し隠密性能が高ければ脅威でしょうかね?しかし、偶発的な遭遇ならこの程度の脅威度でよさそうです。レベル(level)も低いですし。それでいて、一度崩して、鎧をはぎ取って、弱点を狙うという工夫も必要と、飽きさせないようにしてますね。

 ただ、この”怪物”が数多く何度も出てくると作業になりそうですね。……ああ、初見では弱点を見つけられない可能性がありますか?どうでしょう?バレバレのような気がするのです。

 こちらの攻撃力を押さえていますから、的確に弱点を突かないと撃破に時間がかかるかも、ですね。……ああなるほどです。


 最初に骨の”怪物”があらわれた通路の先の曲がり角とは反対の、今まで進んできた方向、少女の後方から、複数の足音が聞こえてきます。最初の骨の撃破に、時間がかかるようならば、挟み撃ちにする予定だったようです。チャキッと、少女の”ガンマン”は”銃”を構えなおしました。



 軽く、骨の怪物を撃破した後、シルフィさんはとある広間へと足を踏み入れました。広間の中央には古びた絨毯が敷かれています。いつものように、歩幅5、6っ歩分の長さの棒で進行方向を確認しつつ少女は探索していきます。すると、絨毯の上で棒から奇妙な感触が伝わってきます。正確には本来あるはずの床の感触が伝わってきませんでした。どうやら、この絨毯は現実には存在しな幻的な映像のようです。気がつかないで進んでいくと、幻の絨毯を踏み抜いて、下に落ちる罠のようです。いわゆる落とし穴ですね。

 シルフィさんは、慎重に落とし穴のふちまで近づきます。幻の絨毯に棒を差し込んで、特に変化が無いことを確認して、ひょいと、頭を入れてみます。中は真っ暗でしたので、首につけているゴーグルをかぶり、再度中を確認します。暗い所でも視界を確保することのできる道具であるゴーグル、いわゆる”ノクトビジョン(Nocto Vision)” です。”お山”の鍛冶屋さん謹製です。落とし穴は高さがシルフィさんの4倍ほどある深めのもので、そこには鋭いトゲトゲが敷き詰められていました。

 確認後、シルフィさんは、少し小首をかしげて、広間を立ち去りました。


 少女の前には頑丈そうな扉がそびえ立っています。一般的な鍵穴は無く、どうやら、特殊な鍵が無ければ先に進めそうにありません。手書きの地図を確認しつつ、まだ行っていない区画へ行くことにしました。

 

 周囲が徐々にじめじめとしてきます。通路にこけが増えてきて、足元には小さな水たまりも見えます。通路の左右には、朽ち果てた扉があります。扉には鉄格子がはまっていたようです、今はボロボロになって殆ど原型をとどめていませんが、どうやら、牢屋として使っていたようです。その牢屋の1つ、少々広目の部屋の奥に、鎖に繋がれた骸骨が、壁に寄りかかっていました。そして、その骸骨に隠れるようにして、壁に何か文章が刻んであるようです。部屋の外からはその内容を読むことはできそうにありません。

 シルフィさんは、部屋の中へと足を踏み入れました、慎重に長い棒で骸骨を触ろうとします。そしてその瞬間、少女は棒を手から離し、素早く後ろへ飛びずさります。先ほどまで少女のいた、牢屋の入り口近くの空間に、天井より”何か”が降ってきたのです。それは、薄くなって天井に広がって隠密していた、粘性の塊の”怪物”でした。その粘液状の怪物は、少女の落とした木製の棒を取り込みます、そして棒は泡を表面に浮き上がらせます。徐々に溶かされているようです。大きさは少女を飲み込んでさらに余る程です。シルフィさんは、”銃”を素早く抜きざま、連続して3発、発砲します。光弾が粘液状の怪物へ吸い込まれますが、いくらかその体積を穿った程度で、光弾は怪物の背後へと抜けて行きます。あまり効果がなかったようです。

 シルフィさんは、少しびっくりしながら、通路を後ろ向きに飛び、粘液状の怪物から、距離をあけます。そして、”銃”を小さな桜色の唇へ近づけます。

「『かしこきかぐづちをたてまつらん』」簡易式の祝詞を唱えますとぼおと、”銃”が赤く光ります。そして、銃口を粘液状の怪物へと向け、引金を引きます。赤い光弾が螺旋状になりながら怪物へと飛翔し、着弾と同時に大きな炎が立ち上がります。粘液状の怪物は自身の水分を蒸発させながら、焼かれ、縮んでいきます。しかし、痛みを感じていないのか、じりじりと少女の方へと近づいてきます。シルフィは同じように、あと2発、炎を生み出す弾丸を粘液状の怪物に叩き込んで、これを撃破しました。後には、小指の先ほどの緑色の水晶が残っています。

 そして、周囲の気配を再度確認したシルフィさんは、粘液状の怪物によって溶かされ、自分の攻撃で燃えてしまった、5、6歩棒を手に取ります……ぼろぼろと崩れます。肩をすくめて、見た目よりたくさんの物が入る背負い袋から、今度は6歩半棒を取り出しました。

 そして、もう一度壁に繋がれている骸骨が動き出さないことを確認して、近寄りそれの影に隠れていた、壁に刻まれた文字を確認します。そこには、囚人の履歴と遺書、そして’幻影に守られた奧’を探せ、と掘られています。


 シルフィさんは考えます


 通路で動く骨の怪物を出しておいてからの、白骨死体、で注意を引いて、その間隙に頭上からの襲撃というわけです。基本的な誘導なのです。周囲の状況も、じめじめしていて、粘液状の怪物……多分名称は”スライム(slime)”でしょうか?が生息する条件も連想されて、いい雰囲気です。囚人の骨が溶かされていなかったのが気になりますが……まあ、演出の範囲なのですね。長めの棒……10ふぃーと棒っていってましたか、はもったいなかったですね、もう少し早く気がついていれば問題なかったのですが、やはりいささか感知がやりにくい気がします。予備の棒、11ふぃーと棒があってよかったです(11ふぃーと棒は、10ふぃーと棒より先の状況を探ることができるのです!)。

 彫られていた文章の最後、幻影に守られた奥はたぶんあそこですね。



 シルフィさんは、幻の絨毯に隠された落とし穴まで戻ります。そして、石畳の割れ目にハーケンを2か所、打ちこんで、カラビナを使用しつつ、ロープを結び付けます。体重をかけてみて、十分に固定されていることを確認して、ハーネスを装備、そして、落とし穴の中へ、下りていきます。周囲を観察すると、壁の一部が隠し扉になっていて、その奥に、少女の握りこぶしくらいの透明な、水晶球が隠されていました。シルフィはそれを、布で包んでポーチに入れて、床へと戻ります。



 次に、シルフィさんは、封印されていた扉のところまで戻ります。ポーチから水晶球を出すと、水晶球が光始めます、その光が扉にあたると、自然に両開きの扉が奥へと開いていきます。どこからか、イベントクリアのSE(効果音)が流れてきます。 



 シルフィさんは、その後、しばらく封印されていた扉の奥を探索していくと、広い部屋へとたどり着きました。ゆったりとした傾斜の階段が、部屋の入口から下へ続いています、おりきったところは、走り回れるほどの広さの、平坦な石畳の広場になっています。天井は高く、シルフィさんの身長のおよそ10倍ほどです。シルフィさんは、”銃”を2丁それぞれ左右の手に構えて、ゆっくりと階段を下りていきます。下りきったとき、天井から、広場の中央へ、一本の剣が落ちてきます。そして、その剣に集まるように、部屋のあちこちから、甲冑の部品が飛んで集まってきます。そして瞬く間に合体し、金属製の重厚な甲冑が、両手で剣を構えた姿で、完成しました。甲冑は全身を覆っているので、その奥にある体は見えません。同じく、面貌付きの兜ですので、顔も見えません。彩色は銀色が基本で、ところどころに黒い線が走っています。剣は幅広の両手もちで、大きめの甲冑の身長より、やや長めといったところです。こちらの彩色は黒で、金色のラインが稲妻のように入っています。


 シルフィさんは間合いを詰めながら、発砲します。魔法の光弾が白銀の甲冑に当たります。甲冑の戦士はその攻撃は意に介さず、甲冑がこすれる音を鳴らしながら、意外に機敏に接近してきます。そして、両手で持った剣を横に薙ぎ払い、攻撃してきます。シルフィさんは小柄な体を活かして、身をかがめ、さらに、距離を詰め、甲冑の戦士の懐へと飛び込みます。そして、0距離で連続して銃弾を甲冑の胴部へと叩き込みます。甲冑の戦士は、さすがにたまらず、その衝撃で後方へと飛ばされます。飛ばされながら、返す剣でシルフィの首を刈ろうとしますが、シルフィさんは後ろに目があるように、それを察知して、かわします。間合いが離れたところで、さらにシルフィさんは、武器を持ち替えます。両手に構えていた”銃”を腰のホルスターへ収納し、背中にかけていた”ライフル”を両手で構えます。そして、素早く狙いをつけて、発砲します。”ライフル”から発射された、大きめの光弾は甲冑の胴部を貫き、その衝撃で、甲冑は各部の接合部が外れ、石畳にばらばらになって崩れ落ちます。中身には何も入っていませんでした。


 シルフィさんは、ゆっくりと構えを解いて、『背中を甲冑の戦士の残骸へ向けて』部屋の奥へと歩き出します。その瞬間、ばらばらだった甲冑は、無音で宙に浮かび、再び甲冑の戦士へと再生されます。手に持つ、幅広の大きく長い剣が静かに振りかぶられ、そして、致命的な一撃が少女の頭上へとせまります。

 轟音です。シルフィさんは、一瞬のうちに、振り返りもせず、左脇越しに”拳銃”を発砲します。その光弾は正確に、甲冑戦士の幅広の剣を打ち抜いていました。黒い剣はうめき声をあげつつ崩壊していきます。銀色の甲冑も崩れ去り、あとには少女の握りこぶしくらいの黒色の水晶が、落ちていました。


 シルフィさんは思います


 『おやくそく』とは言え、すこし恥ずかしいですね。わざと隙を見せて、華麗に撃退するというのは、なのです。甲冑に手ごたえがなかったので、予想はしていましたが、やはり本体は剣だったのですね。怪物退治の謎解きとしては、適度な難易度で、良い部類ではないでしょうか?



 シルフィさの周囲にファンファーレが鳴り響きます。空間に、『Congratulations』の文字が浮かびあがります。周囲の壁がぱたぱたと外側へ倒れ、床が白い一枚板(岩?)に変化していきます。


「おめでとー、シナリオはこれで終了だよー」少し離れた、高い位置から大きな声がします。都会の建物ほどの大きさの、黒い竜の人、”お山”の鍛冶屋さんこと、ヤミさんです。彼は御年10万と38歳のおじさん……青年で、優秀な鍛冶屋さんでもあり、異世界映像映写機の重度の視聴者で、常識を無視した発明家でもあります。その手元には、なにやら怪しげな機械がありました。

「おめでとー、おもしろかったよ」にぱりと笑いながら、シルフィさんは、クリアした時点で消え去った背負い袋と装備一式の変わりに、いつもの装備を整えながら言いました。

「”幻影”と”見えない手”の組み合わせに、”超電子計算機”を組み合わせて作り上げた、いわば”強化現実”の世界で、”怪物”や”罠”の跋扈するダンジョンを楽しんでみよう!という企画は、だいたい成功ですね」ヤミさんが言います。

「うん、またやりたい。幻影とは思えないほど再現度が高かったし、自然に動けたのは驚きです」にぱりと笑いながらシルフィさんです。

「動きを感知して、慣性まで”見えない手”で再現しましたから。さすがに術式のみでは、計算がおいつかないので”超電子計算機”を開発しました、とりあえず今日は、テストもかねて単独踏破の設定でしたけど、こんどは参加者を複数にしてやってみたいですね……シナリオをねらなくては」嬉々としてしゃべる巨大な竜の人です。

「相変わらずでたらめな技術力と、それの向かって行く方向が明後日ですね……」呆れながらシルフィさんの体に異常がないか調べていた金髪で黒い翼を背に持つ美女さん、堕天使のエルさんが言いました。彼女は竜のヤミさんが(物理的に)引っ掛けた天使さんで、色々あって堕天しまして、現在ヤミさんの広い洞窟へ居候しています。

「でも、複数でやるなら、こんどは混ぜて下さい」きっぱりと言い切るエルさんです。どうもしっかり状況になじんで、楽しんで生活しているようです。それでいいのでしょうか堕天使さん。

「よいですね、では今度はペアでやることにして……」


 わいわいがやがやと、次のプレイの構想を練って行く”お山”の住人たち。シルフィさんがダンジョンの探索にとてつもない勢いで習熟していきそうです。

 少女の”ガンマン”が、”もっとも深き迷宮”とかに趣味で挑戦する日も……近いのかもしれません。



 超技術力の無駄遣いがある程度の、平和な”お山”の日常でございました。







 


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