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バーンドアウトヒーローズ  作者: big bear
第一部 リスタート・アンド・リザレクション
9/45

NO.09  シャイニング・ストーム

「――っ」


 豪腕の一撃が左半身をかすめた。掠めただけだというのに生体装甲が軋みを上げる。まともに受ければどうなるかは明らかだ。


 爆ぜる地面と巻き上げられた瓦礫に紛れ、その場から離脱する。まだだ、まだ、仕掛けるときじゃない。


「――くらえ!」


 続く追撃の一撃をギリギリまで引き付ける。閃光のような二つの鞭、その速度はたいしたものだが動きそのものはそう複雑なものではない。故に見切ってしまえば回避は容易い。


 寸でのところで身をかわし、同時に側面から仕掛けてくるもう一体に対応する。爪による二撃をいなし、噛み付こうとしてくる切っ先を制し、体ごとぶつかり距離を開ける。そのまま、残り二体を視界に入れつつ、さらに距離をとった。


「……流石は最強、しぶといな」


 感心したように黒い奴がそう呟いた。だが、驚くのはこちらのほうだ。連携の完成度、個々の性能、そのどちらも申し分ないレベルだ。五年前でもこのレベルの敵は中々いなかった。この三体だけでなく分かっているだけで後二体これと同レベルの敵がいるのだから、恐ろしい話だ。


 相手も同じく生体装甲を持つ以上防御面ではこちらのアドヴァンテージはない。おまけに、パワーもスピードもそれぞれに負けている。それでも互角に渡り合えているのは、雪那による事前情報のおかげにほかならない。


 このまま戦い続ける分には全く問題はない。だが、こいつらを倒しきることは腹立たしいが現状切り札を切れない以上、無理だ。こいつらと戦えば戦うほど、滝原への救援が遅くなる。このままじゃ、まるっきりあの時と同じだ。しかし、今は耐えるしかない。敵のペースに合わせて、その時を待つ。タイミングが全てだ、それが外れればそこから全てが瓦解してしまう。勝負は一瞬、そこに迷いも焦りも、怒りさえも不要だ。


 さらに迫る一撃をいなし、かわし、防ぎ、一秒ごとに思考と体を研ぎ澄ませていく。一撃でも喰らえば動きが鈍る。そうなれば、そのまま蛸殴りにされてお終いだ。


 戦い始めてからそう長い時間がたったわけではないというのに、既に交した攻防の数は三桁はくだらない。焦る心を切り離し、ひたすら冷徹に目の前の敵へと集中する。


「――クソ! いい加減当たれよ! 面白くないじゃないか!!」


 痺れを切らしたように白い奴がそういった。攻撃力という点においては他の二体には大きく劣るがあの弾性の体と攻撃速度はそれだけで充分すぎるほど脅威だ。しかしながら、幼い。考えたくはないが元になった素体の影響が強く出ているのだろう。


「仕方があるまい、相手が相手だ」


 おそらく敵の中でもっとも経験豊富なのがこの男だろう。堅牢な装甲とそれに相応しいパワーと火力はもちろんの事、常に状況を見極め、嫌なタイミングで仕掛けてくる。元傭兵か、組織の生き残りか、それとも――。


「…でも」


 ここにきてトカゲ似のバイオボーグがはじめて口を開いた。年若い女の声だがどこか無機質な印象を受ける。こいつの厄介さはバイオボーグ特有の変則的な起動と圧倒的な速度、その二つに尽きる。


 こいつら一体一体ならば大した敵ではない。ただこいつらの連携と雪那を倒した見えざる敵、その二つの要素が俺に二の足を踏ませていた。


「……そうだな、時間がない。仕方があるまい――行くぞ!!」


 その言葉と共に三体が同時に仕掛けてくる。統率の取れた三体同時攻撃、雪那の記憶にあったものと同じだが、さらに速度が上がっている。ここまでは目論見どおりだ。ここを凌ぎきれなければ勝機は無い。いや、むしろこのときを待っていた。


 だが、時間が無い、というのはこちらだけの話でもないらしい。理由は不明だが、敵も相応に焦っているのが分かる。


「――ッ!」


 受け流したにもかかわらず、黒い奴の一撃は骨まで響く。瞬間、黒いのの陰からトカゲが飛び出してくる。つづけざまの二撃目が脇腹を掠める、鋭い痛みにほんの一瞬動きが鈍った。


「――ひゃは! クタバレェ!!」


「――クッ!」 


 一瞬の隙に付け入られせた。二つの鞭が俺の胴を捕らえる。どうにか打点は逸らしたものの、先程抉られたわき腹の装甲が砕けた、人工血液が噴出し、視界に警告が表示される。すぐさま止血と再生が開始されるが、中断し、全ての出力を攻撃と機動に回す。


「――あ!?」 


「――!?」


 刹那の間、引き戻される両腕を引っ掴む。そのまま、腕ごと白い奴をぶん回す。勢いをつけ、トカゲ型も巻き込み、黒い奴のほうへと叩きつける。大したダメージは望めないが、これで連中の動きに乱れが生じる。その刹那を、このタイミングで作らなければならなかった。


 脳内に過ぎるのは、雪那の戦闘記録。道中短い時間ではあるものの、幾度と無く繰り返し見た映像だ。状況的にはその映像に近くなるように誘導した。一種の賭けだが、敵の行動を制限し、タイミングをこちらで作ってやるしかなかった。


 それが今だ。勝負は一瞬、速すぎれば逃げられる、遅すぎればこちらが獲られる。ゼロコンマ一秒のズレも許されない。


 瞬間、視界が消え、鋭い音と冷たい感触だけが残された。


 

◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇


 酷く心が軽い。目の前には無窮の闇のみ、触覚と聴覚のみがひたすら鋭く研ぎ澄まされている。思考はあらゆるしがらみから解放され、本能は目前に迫る死線にのみ集中する。この充足感、この緊張感、確かな死と向かい合うこの瞬間だけが俺を満たしていた。


「――!?」


「こいつ……!?」


「――な、止めたのか!?」


 闇の中、鋭い痛みが走る、左の掌に感じる冷たい刃の感触は確かなものだ。見えざる刃は胸部装甲を容易く切り裂き、永久炉の直前で止まっている。痛いが、これでいい。


 薄皮一枚、どうやら賭けには勝ったらしい。すぐさま、視力を戻し、正面を見据える。目の前には何も存在しない、センサー類にも異常はなく、胸の痛みだけが鋭く響いている。これでいい、狙い通りだ。


 センサーと視界への干渉、改竄、妨害それがこの見えざる敵の正体だ。サイボーグである以上は、センサーと補助視界により外界を認識している。依存しているといってもいいだろう。だからこそ、雪那でさえ術中に嵌ってしまった。


 だが、所詮は奇策。見破れば対処は容易い。どれほど取り繕おうと殺気と駆動音は誤魔化せないのだから。


「――はあああッ!」


 刃を引き抜き、間髪いれず、虚空に向かって懇親の一撃を叩き込む。そうだ、この感触だ、装甲砕いた致命打の感触は間違いようがない。


 だが、まだ殺しきれてはいない。見えずともその程度ことは分かる。連中が追いつくまで、ほんの数秒、だが、もはや捉えた。必殺の間合いだ、誰にも邪魔はできない。


「――がっ!?」


 続けざまの二撃。まずは足、膝があるであろう部分を踏み砕き、動きを制す。さらに一撃、刃を握っているであろう右腕を諸共に圧し折る。勤めて冷静に、闇の中で敵の四肢を打ち砕いていく。


 電子制御に異常をきたしたのか、見えざる敵のその姿が幽かに現れては、消える。まるで陽炎だ。


 動きは止めた、刃も砕いた、あとはトドメだ。


 一段と踏み込み、右腕部の出力を瞬間的に引き上げる。防御などさせるものか、一撃で動力炉まで貫く。


「――!」


 防御に回った右腕ごと胸部の装甲をぶち破る。間違いない、殺った。光を放ち、脈打つ心臓部に永久路から直接エネルギーを流し込み、暴走状態を作り上げる。これで積み、このまま握りつぶしてやる


 動力部が弾けるその瞬間、眩いばかりの光が視界を満たした。熱を持った光が俺の生体装甲を焼く。懐かしい痛みと熱の感触だ。


「っ、おのれ!」


 ようやく連中が追い付いた。意識の緩急を突いたおかげで、連中は後手に回っている。今度はこっちの順番ターンだ。


 機を逸した高火力の攻撃など当たるはずもない、崩れ落ちる奴の体を盾に爆炎と粉塵に紛れて、残りの連中へと肉薄する。勝利を確信していたのだろう、隙だらけだ。


 必殺を破られるとはそういうことだ、どれほどの手練だろうが、この数瞬だけは狩られるだけの兎と成り果てる。


「チィッ!」


 やはり、黒い奴の復帰が一番早い。だがもう、手遅れだ。


 まずは一撃。黒い奴の動きを止める。打撃でこの重装甲を破るのは至難の技だ。ならば――。


「ぬ、あああああああ!!」


 振るわれた拳をいなし、黒い奴の懐に一息に潜り込む。刹那の間、呼吸を合わせ、目の前の巨体を浮き上がらせる。反撃の一瞬にあわせれば、このぐらいのことは容易い。そうして、三メートルはあろうという巨体を地面に叩きつけた。


 瓦礫が巻き上げられ再び視界が塞がる。好都合だ、このまま一気に片をつける。


 勢いを殺さず、呼吸と気配を殺し、白い奴の背後に回りこむ。連中は視界とセンサー頼みだ。粉塵で視界は潰れ、センサーの類はエネルギー暴走の余波で数秒間停止している。連中は闇の中にいる。


「クソッ! そこか!!」


 あからさまな圧力を掛け、二体の視線と注意を背後へと集中させる。すぐさま飛んでくる白い鞭を紙一重で逸らし、鞭の間合いの中へと入り込む。


 先程と同じく打撃は効果が無い、かといって投げたところで意味は無い。とりうる手は一つだが、俺にはその手段が無い。だが、打つ手はある。


「あ!?」 


 効かないと承知で白い奴に拳を叩き込む。ダメージが目的ではない、とにかく敵の注意さえ集められればそれでいい。枕を殴っているような不毛さだが、意味はある。


 背後に気配。奇襲のつもりだろうがバレバレだ。続けて白い奴にもう一撃、あと少し、動きを止めておかなければならない。叩きつけられた二撃をあえて受け、意識をこっちに向けさせておく。もう少しだ。


「シャァ!!」


 今だ。最低限かわしきれるギリギリの地点で最低限に体を反らす。脇腹を切り裂かれながらも、トカゲ型の腕を脇に挟み、圧し折る。温い、奇襲ならもっと賢くやるべきだ。


「ッ痛!」


 トカゲの腕を引き寄せ、そのまま利用させてもらう。生体装甲を切り裂くほどの爪だ、弾性の新素材装甲だろうと例外ではない。銀色の人工血液が飛び散り、白い奴が痛みに悲鳴を上げる。切り裂けたのは装甲の表層程度だが、それで充分だ。


「テメエエエ!!」


 いきりたった白いのが無我夢中で反撃してくる。隙だらけかつ無意味だ。そんなものに当たってやる義理はない。


「――クゥ!?」


 俺を掠めた一撃はそのまま、トカゲ型を直撃した。やはり、経験が浅い。怒りと痛みで我を失っている、致命的だ。


 隙だらけの胴体に貫手を放つ。無傷の部分は抜けずとも、表層を切り裂いた部分を狙えば容易く貫ける。


「あが!?」


 狙い通り。脇腹をつら抜いた右腕をそのまま捻り、傷口を広げていく。絹を裂くような悲鳴を上げる白い奴を無視して、そのまま外側へと引き裂く。動力は潰せずとも動けなくする手段はいくらでもある、まずは一つだ。


 休んでいる暇は無い。次だ。


「キシャアアアア!!」


 トカゲ型が怒りの叫びを上げる。目の前で仲間を潰されたのだ、当然の怒りといえるだろう。だが、怒っているのはこちらも同じだ。


 計算どおり。如何に早くとも正面から突っ込んでくるのだから、対処は容易い。


「ガッァ!?」


 こちらから踏み込み、敵の勢いを殺し、こちらの土俵に引きずり込む。まずは頚部に一撃、掬い上げるように殴りつけ、意識を歪ませる。


「――アアアア!?」 


 朦朧とした反撃を払い落とし、むき出しの胸部に致命の一撃を突き入れた。必殺の感触は生々しい、構造上ほぼ生体部品で構成されるバイオノイドの内部はほぼ生物のそれだ。サイボーグやドローンとは違う、忘れられない死の感触が掌に残る。


 これで二つ、残りは三つだ。


「――貴様っ!」


 黒い奴が今更追い付いた。さすがに経験豊富だ、怒りで我を失ってはいない。だが、もう動きが見切れている以上、仕留めるのは容易い。


「――クソッ!!」


 攻撃をいなしながら、的確に反撃を加えていく。狙うは装甲の薄い間接部、いちいち時間をかける気はない。


「――はッ!!」 


「――お、おのれ!?」 


 気合一閃、膝部関節の装甲ごと内部機構を蹴り砕く。これで詰みだ。


 砕けた脚部を足場に天高く駆け上がる。空中で体を反転させ、出力を再び、跳ね上げる。膨れ上がった出力を両の足へと収束させ、この身を一つの槍へと練り上げる。五年前には何度も使ったこの技、威力と派手さは折り紙つきだ。


「ッ貴様アアアアアア!!」 


 動けないながらも二門のレーザーカノンが俺を狙う。今更避けるまでもない、正面から突破あるのみだ。


「ッオオオオ!!」


 大口径の光と正面からぶつかり合う。赤色の光の中を引き裂きながらも、銀色の閃光真っ直ぐに進んでいく。生体装甲の焼ける感覚と痛みも置き去りに、銀色の槍となって、一直線に突き進む。


「――終わりだ!」


 赤い光を突きぬけ、黒い装甲へと両の刃を突き立ててる。生体装甲の強度は誰よりも理解している。だからこそ、この一撃だ。


 黒色の装甲が弾け飛ぶ。蹴りの威力だけならここでお終いだが、はちきれんばかりの余剰エネルギー容赦なく内部を蹂躙し、動力暴走を引き起こす。これが我が必殺、彼女から与えられたこの身体が最強たる所以の一つだ。


 再び、俺の身体が光に包まれる。酷く懐かしい眩しさと熱、ああ酷く心が軽い。

どうも、みなさん速さの足りないbig bearです。

ぶへえ、今回まさかの全編戦闘シーン。書いてて、なんか酔いました。

では、こんなだめ作者と拙い文章ですが、どうかこれからも暖かい目でよろしくお願いします。

誤字脱字報告、ご意見、ご感想、ご質問等ございましたらぜひぜひお書き込みください。

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