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バーンドアウトヒーローズ  作者: big bear
第一部 リスタート・アンド・リザレクション
8/45

NO.08  フラッシュバック・デイドリーム


 司令室の混乱は極短時間で沈静化した。事前の計画が功を奏したというのもあるが、それ以上に滝原一菜統括官の指揮権掌握の早さ、対応の的確さが事態の収拾へと貢献していた。


 状況はきわめて正確に把握されている。各部隊の連携も既に回復しており、避難活動も無事に完了した。大量のドローンも、既にその半数近くが01によって殲滅され、残すは三分の一程度、完全制圧も時間の問題だろう。


 司令本部は予想以上に被害を抑えられたことに胸を撫で下ろしている頃だ。しかし、彼女は全く警戒を緩めてはいない。


「――索敵どうか?」


「敵残数変化なし、増援の反応も感知できません」


 敵の増援は無し、その事実が彼女をどうしようもなく警戒させる。敵の戦力は未知数だがどれだけ少なく見積もったとしても例の五体すら確認されていない。以上敵には何か狙いがあるはずだ。


 そもそも今回の敵は全てが不可解かつ未知数だ。式典会場に何の前触れも無く出現した大量のドローン、少なくともAランク相当の五体のサイボーグ、使用されている技術といい、物量といい並みのものではない。だというのに今までそのような組織が存在しているという事実でさえ、UAFは掴めていなかった。


 人類戦役終結および”組織”壊滅から五年、小規模なブラックリストや流出技術による被害はあったものの、これほどの規模と危険性を持った敵は出現していなかった。さらに、敵はこちらが有してない高水準の技術まで有している。


 式典会場周辺に幾重にも張り巡らされた警戒網、その全てを潜り抜け、あれほどの物量を送り込むなどできない。九基の永久炉心の大半が失われた今、空間転移は不可能なはずだ。もし、敵の用いた手段が空間転移なら、永久炉心が新たに製造されたということだ、しかし絶対に、それだけはありえない。


「――第二分隊と第三分隊、避難誘導終わってるわね?」


「はい、両隊とも他部隊の救援に回っています。なにか指示を?」


司令部こっちに戻るように通信して、それと警戒態勢はレッドを継続。各員警戒を怠るな」


 経験と勘を頼りに司令部の守りを強化する。敵の狙いは分からずとも敵の取リうる戦術ならば絞り込める。司令部への奇襲、敵が取りうる最善手の一つだ。故に対策は取りやすい、だが、敵の保有戦力が未知数な以上、どうやっても不安が残ってしまう。


 滝原の脳裏を五年前の記憶が掠める。失くした左目が思い出したのかのように痛んだ。五年前、左目を失ったその日こそ、彼女の最大の失態、償いようのない痛みの記憶だ。


 だから、二度と同じ轍は踏まない。どんな手を使っても勝利する。そのために、彼を呼び戻しさえしたのだから。





◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇




 拭いきれない違和感は一撃ごとに強まっていく。戦い始めてから感じている違和感はいまや確信へと呼べるものになっていた。だが、背後に付き纏う複数の視線の気配の正体は未だに掴めない。


 思考を巡らせつつも、確実かつ迅速にドローンどもを始末していく。中型も大型も諸共に粉砕し、飛行型を叩き落とす。視界にはいる敵は悉くを無力化する、残骸と瓦礫のみを残して殲滅を続けていく。


 周囲の敵をあらかた片付けると滝原から通信が入った。


「――01、次で最後よ」


「わかった」


戦闘開始から三十分、大半のドローンは始末した。他の場所でも味方が持ち直してきたようだ。滝原からの通信もだいぶ落ち着きを取り戻しつつある。民間人の犠牲は最低限に抑えられた、味方の犠牲も同じくだ。数字の上で見ればこの戦闘は勝利と言えるだろう。やはり、上手く行き過ぎている。


 疲労は一切無い。身体の感覚ももうほとんど取り戻した。上手く行き過ぎている。膨れ上がった違和感が頭からどうにもはなれない。


 敵の意図がわからない。この連中が雪那を襲った連中と同じなら、この程度の戦力で全てとは思えない。そもそも、映像に会った五体の敵すらも現れていないというのは妙な話ではある。戦力を出し惜しんでいるのか、他に何か意図があるのかは分からないがとにかく不気味だ。経験則上、こういうときは必ず何かが起こる。


「……滝原」


「――どうかした?」


 目の前のドローンを粉砕しながら、滝原へと回線を繋ぐ。もうこのドローンどもの動きは識っている、片手間で充分相手にできる。鎮圧だけならそれほど時間は食わないだろう。だが――。


「……分かってるわ、連中の動きが妙だっていうんでしょ?」


 滝原のほうも同じ違和感を抱えていたようだ。何かあるという点においても考えが一致している、だが、俺も滝原もその中身がつかめていない。


「とにかくここを片付け次第、俺は直営に周ろう、そうすれば――」


 後手に回るしかないのは癪だが、情報が少なすぎる。今は次善策あるのみだ。


「直営は厚くしてるけど、そうね、北東は別部隊を回すから、貴方は今すぐ司令部に戻って――ッ!?」


 通信を通じて警報が鳴り響いたその瞬間、目の前の中型を足蹴に空中で反転する。考えるよりも早く身体が反応していた。加速をつけ、地面を踏みしめる。司令部はそう遠くない、間に合わせてみせる。


 一瞬送れて、警告が送られてくる。司令部が急襲されたという旨の通信が味方全体へと伝播された。通信越しにさえ動揺と混乱が感じられる。


 この際周囲の被害を鑑みている余裕など一切無い。事態の把握など後回しだ。出力のリミッターを一つ解除した。上昇した出力の大半を脚部へと集中し、爆ぜるように地を駆ける。身を引き裂くような空気抵抗を押し破り、衝撃波を引き連れて、真っ直ぐに指令部へと向かう。


 途中何度か味方とすれ違うが、無視して先へと進む。彼らも相当に混乱しているようだが、構っている場合じゃない。今はコンマ一秒の時間さえ惜しい。


「滝原! 滝原!! 返事をしろ!!」


 返事は無い。返ってくるのは爆音と鳴り止まない警告音ばかりだ。 


 頭の中で最悪の可能性きおくが何度も何度も蘇る。降り注ぐ黒い雨と、崩れ去った瓦礫の中煌々と燃える紅蓮の炎、耳にこびり付いた無数の断末魔と怨嗟の声、そして少しずつ失われていく彼女の温かさ。その感覚までもが両腕に蘇る。


 一瞬、光の消えた彼女の瞳が滝原の瞳へと変わった。ひどく冷たい虚ろな隻眼が俺の顔を見詰めている。


 その瞳を覗き込んだ瞬間、足元から崩れ落ちるような錯覚さえも蘇った。喪失感は無い、あの時はそれを感じることさえできなかった。その代わり、焼け付くような怒りが心を燃やしている。


「……頼む」


 自然、縋るようなその言葉が漏れていた。あの日と、あの日と同じだ。


 五年前、俺の手は届かなかった。そして今も俺の手は届かないかもしれない。その事実がどんなことよりも恐ろしい。


 壊れそうな心とは裏腹に身体は最適の動きを選択する。臨時司令部はもう目の前だ。もう手が届く。


 時折聞こえてくる通信内容は混沌そのものだが、まだ戦っている、間に合うはずだ。いや、今度こそ、間に合わせてみせる。



◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇


 数瞬の後、司令部を視界に捉えた。指揮車が横転しているものの、火の手は上がっていない、周囲では無数ドローンと味方が戦っている。敵の数は多い、レーダー上だけでもかなりの数が確認できる。最悪ではないが、全滅もありえる。味方の動きもかなり悪い、奇襲を受けたせいで士気がそがれたせいだ。


「滝原! どこにいる!?」


  目の前のドローンを叩き潰しながら、全周波で呼びかけ、声を上げる。まだ生きてるはずだ。あの滝原一菜がそう簡単に死ぬがない。この程度の事、簡単に踏み越えてきたはずだ。自分にいい聞かせるように何度も何度も祈るようにそう頭の中で繰り返した。


「――ッ邪魔だ!!」


 進路を塞ぐ大型を叩き伏せ、背後の中型小型を纏めて潰す。その勢いを殺さずに飛び上がり、飛行型に取り付いた。貫手をぶち込み内部の動力炉を引きちぎる。暴走寸前の炉心に過剰エネルギーを注ぎ込み、空中で握りつぶす。発生した衝撃波と爆風、マイクロウェーブが生体装甲を軋ませ、飛行型の姿勢制御に影響を及ぼし、蝿のように地面へと落としていく。


 だが、それでも三分の一かそれ以下しか潰せない。こんな雑魚に構っている暇など無いというのに何時までもしつこい。ならば――。


「――ッ!!」


 反射的に飛び退いた眼前を巨大な影が抉った。瞬間、背後に別の殺気を感じた。考えるよりも早く身体と神経が次の動きを取る、地面を這うように姿勢を下げる。二条の閃光が頭上を横切った。敵の追撃よりも早く、背後で凶刃をふるった敵を蹴り付け、距離をとる。装甲を砕いた感覚が無い、それどころか打撃の瞬間、勢いを殺されたのが分かった。


 息つく間もなくさらに二撃、どこらともなく別の奴からの攻撃が俺に迫る。鞭のように撓る二撃の速度は他のどれよりも速い、回避している時間が無い。


「――ぐっ!」


 両腕でガードしたにもかかわらず、衝撃だけで生体装甲が軋みを上げた。足を踏ん張り衝撃を受け流しても、両腕に痺れるような感覚が残る。

 

「へえ、防がれちゃったよ。さすがにすごいねえ」


 浮かれたような子供の声がそういった。


 防御を解き敵を正面から見据える、瞬間、焦りと恐怖に堰き立てられていた心に新たな火種が加わった。怒りだ、焼きつくような怒りではなくこの連中を視認してから噴出した身を焦がす劫火のような怒りだ。


「――油断するなよ、この男にはブランクなど無いようだからな」


 野太い声の主はやはり最初の巨体の奴だ。山のような巨体を黒い生体装甲が覆っている。昨日のやつとはまるで違う、大きいながらも無駄が無く、有り余るエネルギーとパワーがその身体に収束している。雪那の映像記録で見たとおりの、完成されたサイボーグだ。


 その周囲を取り巻くのもまた映像のとおりだ。同じく黒を基調とした外骨格と巨大な蜥蜴を思わせるフォルムをもつバイオボーグ、淡白色のサイボーグの二体が黒い奴が控えていた。さらにその後方で二体の敵がこちらを監視している。ボロ衣様なマント姿を隠した奴と、光沢のある装甲をもったサイボーグの二体だ。


 雪那が戦った連中だ。間違いない、こいつらだ。怒りと焦燥感が際限なく燃え上がる。滝原を助けにかないといけない今すぐに、だが、こいつらを見逃すわけない。もし司令部が襲われれば味方は総崩れだ、ここで誰かが食い止めるしかない。こいつらを引き連れて司令部に行くわけにも行かない、こいつらを始末するには本気で戦う必要がある。しかし、そんな事をすれば本末転倒、また味方を巻き込む羽目になる。


 戦うしかない。滝原を信じて、味方に救援を託し、こいつらと戦うしか選択肢は無い。心の中で言い知れない恐怖が渦巻き、飲み込まれそうな錯覚を覚える。


 おびえて震える心に反して、理性と身体は戦いを望んでいる。永久炉は際限なく回り続け、全神経は戦うことへその一点へと収束されていく。


 五年前と同じだ。耐えられないほどに、狂おしいほどに同じだ。あの時、俺は敵を倒した。命をとして戦い、幾多の犠牲を払い、敵を殺した。それでも結局、俺には何も救えなかった。手の中で冷たくなっていく彼女をただ見詰めていることしか俺にはできなかった。俺はまたあの日を、あの時を繰り返しているのかもしれない。





どうも、みなさん速さの足りないbig bearです。

今回は本当に更新が遅くなり申し訳ありませんでした。これからは安定すると思うので、平にご容赦ください。

では、こんなだめ作者と拙い文章ですが、どうかこれからも暖かい目でよろしくお願いします。

誤字脱字報告、ご意見、ご感想、ご質問等ございましたらぜひぜひお書き込みください。

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