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バーンドアウトヒーローズ  作者: big bear
第二部 ジエンド・イズ・ナイ
41/45

NO.041 バーンドアップ・リヴェンジズ

 それに気付いた時には既に何もかもが遅かった。前方に立ちはだかるのは、認識を越えた何か、今まで戦ってきた奴とは明確に違う、実体を伴った不定形の影だ。それの正体が何かは認識できずとも、直感と経験が最大の警鐘を鳴らしている。アレに触れてはいけないと、本能が叫んでいた。


 だが、一度堰を切った流れは止められない、同じように俺には正面から突っ込んでいく以外の選択肢は残されていなかった。苦し紛れの刹那、右の脚を思いっきり踏み込み、僅かに身体を逸らす。致命傷を避けられればそれで御の字、片腕くらいは覚悟のうちだ。


「――――ッ!!」


 全霊を込めた右腕を振りぬくよりも早く、全身に激痛が走っていた。都合四箇所、右腕、左肩、左脇腹に膝、全身を隈なく影が貫いている。正体不明のダメージ源に最大警報が鳴り響くのを無視する、痛みはあるが、まだ動ける。この影にどんな効果があるにせよ、どうにか致命傷は避けられた、今はそれで十分だ。


 痛みを踏み越えて、一歩前へ。突き刺さった影をそのままに、我武者羅になって足を動かす。右腕にはまだ光が残っている。後一撃、後一撃叩き込めればそれで良い。後の事を考える暇も、傷の影響を考慮している余裕もない。例えここで死んだとしても構いはしない、予感は既に現実に変わっている、ここでこいつを殺さなければ次は外にいる仲間たちが狙われるかもしれない。それだけは許せない、ただそれだけのはなしだ。


「っアアアア!!」

 

 間合いは定まった、後は振り下ろすだけだ。裂帛の気合と共に右腕を振りぬく、狙いは不定形の影を発する実体、膝をついたまま動きを止めた死神、この影の正体が何であれ、本体を仕留めれば何もかもを終わらせられるはずだ。


 一瞬の後、振り下ろすはずの刃は空を切ることすらなかった。


「――――!!!?」


 言葉にならない呻き声が喉から漏れた。振りかぶった腕を振り下ろすこともなく、俺は崩れ落ちるように倒れこんでいた。身体を動かそうとする意思が働かない、傷を折った体を動かす意思が飲み込まれていた。


 怒り、哀しみ、嫉妬、悪意、そしてそのどれよりも強烈で壮絶な憎しみが思考と感情を塗りつぶしていく。俺のものではない負の感情の濁流が堰を切ったように流れ込んでくる。


 剥き出しの感情は刃となって俺の精神を蝕む、自分と言う器の中に無理やりに自分ではないものを詰め込まれている、それが分かる。視界(ゲンジツ)記憶(キョコウ)が混ざり合い、フラッシュバックのようにありえない光景が目の前を過ぎる。白い部屋、砕けた硝子、流れる血、乾いた傷の痛み、死んだ誰か、そのどれにも覚えがない。一瞬ごとに俺のものではない感情と記憶に俺自身の記憶と感情を虫食いのように食い潰されていく。その内に自分と他者のとの境界が溶け出し、自分すらも見つけられなくなってしまう。一瞬毎に自分が溶けていく。


「――完成し……これで三人、揃い……はい、完璧に……あの方の細胞を……」


 途切れ途切れに聞こえる知らない声、見たことのない白い花、信じられないほどに美しい星空。安らぎを感じる、自分のものではない安らかさに傷だらけの意識が溶けていく。緩やかな融解は心地良いまどろみと同じだ、考えるという行為ですら煩わしく感じてしまう、このまま溶けるように消えてしまうのならそれも悪くない、そう思えた。


「――では、仰るとおりに失敗作は全て地上に……はい、あの兄妹も同じく……」


 一転、鮮やかな色が咲いた。怒り、燃えるように激しく、沈むように暗い怒り、イメージは本物の痛みとなって、四肢を焼いていく。指先から焼かれていく痛みは実際に感じるそれよりも、遥かに強烈で、おぞましい。耐え難い痛みに悲鳴を上げることすらできない、その機能は失ってしまった、この痛みは俺のものであって、俺のものではない、この痛みはすべてこの感情の主が抱えていたものだ。


「――馬鹿な……なぜ暴走した!? 溶液の濃度を上げろ、鎮静剤を――」


 俺のものではない喉があらん限りの声で咆哮をあげた。痛みは、無力感に変わり、憎悪へと変わる。どんな衝動よりも強い憎悪があらゆるものを染め上げる、やがてそれ以外に何も感じなくなる。憎悪そのものは俺のものではないが、この感覚は知っている。誰に、何に向けられていようとも、憎悪の本質は同じ、自分も相手も何もかもを焼き尽くし無価値な灰だけを残す業火だ。


 火は際限なく燃え上がる、何もかもを焼き尽くすその時まで火は決して消えない。痛みの感覚さえも消え、最後に残った意識に火が燃え移った。最後の自意識が消えていくのを心地よさと共に享受する、抗おうとする意思はここには存在していなかった。そうして、俺は自分を手放した。



◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇


 感じるものなどないはずの場所に痛みだけが残っていた。懐かしく、心地よく、耐え難い痛みの中、僅かに残った燃えカスだけが熱を宿していた。

 

 痛みは知っている、この中ならば泳いでいける、この中ならば進んでいける。炎を手掛かりに自分を辿る、引き裂かれた自我、霧散した意識、混ざり合った記憶を掻き集め、俺という存在(ピース)を全て元の形にはめ込んでいく。憎悪(ホノオ)の果て、やがてそこへと辿り着く。目に映るのは彼女の最期、炎の始まり、あの日の記憶、死と痛み、そこに俺の全てがあった。


 一瞬か、永遠か、それすらも分からない間、記憶(イタミ)と共に自分を取り戻す。俺は俺だ、俺でしかない、この影が俺に何をしたにしろそれは変えられない。


「――――ッ!!」


 思考が復活するよりも早く、体が反応していた。影を引きちぎり、弾丸のように飛び退く。


 記憶の迷路を抜け、現実へと回帰した。それで終わりではない、いまだ危機は脱していない。生きていたのは奇跡のようなものだ、とにかく距離を取らねば直ぐにでもあちら側に送り返されかねない。


 続いて思考が追従する。間合いは外した、身体に感じる痛みは鋭く、感覚は研ぎ澄まされている。だがそれだけに、思考は不可解さにさ迷っている。なぜ俺は生きている、未だにこうして息をしている。何時でも殺せたはずだ、俺が止っていたのが一瞬の間であったとしても、奴には十分すぎる隙だったはず、だというのに俺は生きている、その理由が俺にはどうしてもわからない。


「――いや、今は……!!」


 解けない疑問を振り払い、答えの出た疑問と目の前の現実に目を向ける。あの記憶と感情の流入、あの正体は分かっている、カラクリが分かってしまえば、引っかかった自分を罵りたくもなる。テレパシーの類、ESP能力、幾度となく経験した、自我を食い潰され違う何かを植えつけられる感覚を俺は失念していた。

 

 迂闊だった、ESP能力を持ったサイボーグ、ギガフロートでライアンたちが相対したその脅威が一体のはずがない。こうやって相対する可能性は低くくともゼロではなかったのに、俺はその可能性を完全に軽視していた。ルーキーたちの事を言えない、全くもって自分じゃなければ殺してるほどの軽薄さだ。


「…………」


 目の前で不定形の影が不気味に揺れる、影は光を侵し、食い潰しながら、こちらに向かってくる。目の前で実際に起こっている現象なのに一切現実味がない、まるでまだ悪夢の中にいるような錯覚が思考を蝕んでいく。だが、それだけだ、それ以上ではない。あの影はようは一種の触手のようなものだ、絡めとられれば、それでお終いだが、絡めとられなければそれでいい。方法はいくらでもある、あの影に触れずに、本体を殺す、いつだってそうやってきた、今度もそうするまでだ。


  影が蠢く、今度こそ狙いを定めた影は形を変え、軍勢となって俺を取り巻く。動くのは影ばかり、その影の源たる死神は一歩も動いてはいないが、それでも先程までは感じられなかった肌を刺すような殺意を確かに感じられる。何故奴が動かないのかは理解できないが、感じる殺意はどんな言葉よりも雄弁だ。

 

 音もなく影が牙をむいた。四方八方、逃げ場を塞ぐように密集した殺しの間、その先端が達するよりも早く動く。一息で天井まで跳び、空中で身を翻した。逃げ切るには高さが全く足りない、瞬く間に影が追いついてくる、この狭い部屋では要の機動力を殺されている。


「ッァ!」

 

 跳んだ勢いを殺さずに天井を蹴破った、階層をぶち抜いて上の階へ。そのまま止ることなく上へと抜ける。刺すような気配は依然背中に張り付いている、奴は俺を追っている、順調だ、屋外まで誘い出せればそれでいい。


 太陽を背に外へと辿り着いた。冷たい外気が生体装甲(ハダ)に触れる、少なくとも室内よりもこの屋上のほうが少なからずましだ。近くに滝原たちの気配は感じない、足場は多少悪いが、ここでなら走り回って戦える、機動戦ならあの影とも十分渡り合える。


 よりおぞましく姿を変えた影の怪物が一瞬遅れて、屋上に降り立った。先程までは死神を覆う程度だった影はまるで屋上を覆い尽くさんばかりにその体積を広げている、固形でありながら流体である不定形の悪夢(バケモノ)、もはや本体たる死神の面影はどこにもない。受ける感覚も印象も、それまでとはまるで何もかもが違う。先程までの死神は俺と似たタイプの技術と経験を元に戦う戦士だった、だが、今のこいつは違う、まるで飢えた獣、しかも、その飢えは俺個人に向けられている。


 上等だ、先程までのように気のない相手といたちごっこをするよりは遥かに良い。ようやく殺し合い、こ調子が出てきたというものだ。


「…………!!!」


 影が叫ぶ、蠢く触手が刃に変わり、俺に殺到した。視界を覆い尽くす影を全てかわす、数は多くとも動きは単調で直線的だ、自由に空間を使えるのなら、回避するのは容易い。


 弧を書くように回り込みながら、攻撃を誘導していく。影の変化は多くとも二段階、見切るのは容易いが、近づくには数が多い。無論、無防備に突っ込んでいくという選択肢は毛頭ないが。


「――半歩遠い」


 狙いは影の中心、そこを貫きさえすればそれでこの戦いも終局だ。ESP(サイキック)の相手の戦闘経験なら、この世界の誰よりも豊富だと自負している。とにかく重要なのは、一撃で仕留めること、そしてなおかつ素早く仕留めなければならない。効果範囲はあの影の範囲だけ、そうでなければ相対した段階で勝負が付いていた。


 まずは牽制、左手の指の間に三つのエネルギー塊を形成する。久しぶりだが上手くいった、形は短刀、投げ易い投擲用の短刀だ。有り合わせでなおかつ精錬の甘い攻撃だが、今はそれで十分だ。


 足元を薙ぎ払う影を跳んでかわし、空中で短刀を投げ放つ。三つの光の軌跡が弧を描いて、影に向かって進んでいく。殺傷能力は申し訳程度にしかないが、目的はそれじゃない。


 一瞬の後、三つの短刀は寸分違わず影に突き刺さる。予想通りダメージはない、三本の短刀は影にからめとられ、飲み込まれるだけだ。狙い通り、理性がある相手ならこうは上手くはいかない。


「…………!!」


 眩い光が影の中で炸裂した。視界を焼くような強烈な光が影を祓った、殺傷能力はゼロだが放たれる光の鮮烈さはどんなものよりも凄まじい。


 やつの能力が実際の影そのものであれ、そうでないにしても、奴は怯んだ。視界が潰れ、道が開いた、一瞬だが、それで十分だ。


 間合いは遠いが、それを埋めるのは一瞬の事だ。踏み込みと同時に右手を低く構える。右腕に出力を注ぎ込む、前腕から指先まで刃のようにエネルギーを纏わせる。輝きを鋭く、刃をむき出しに、全てを一点へと収束させていく。これをやるのも相当に久しぶりだ、手順を省くことはできないが、慎重かつ迅速に抜き身の刃を腕に宿す。その輝きに影が怯む、獣のような影の群隊は明らかにこの光を恐れている。


「――はあああああああ!!」


 二度目の踏み込み、屋上の床を踏み砕きながら、思い切り勢いを付ける。背に迫るのは無数の影、その魔手を振り切り、その一撃に全てを注ぎ込む。その絶頂、あらゆる加速を刹那に乗せる。右腕を鞘から抜き、居合いのように振りぬく。乾坤一擲、僅かな抵抗の後、影を切り裂く。必殺の感触、間違いなく重傷を与えた。


「――チィッ!」 


 しかし、殺せていない。心臓や肺、重要な機器を両断するよりまえに、何かに切っ先を逸らされた。また殺しそこなった、我ながら失態を責め立てたくもなるが、趣味に興じている時間はない。すぐさま飛び退く、また殺気の質が変わった、獣のものそれじゃない、理性のある統制された殺気だ。


 悶える様に荒れ狂う影の刃を往なし、距離を取る。今度はどのように変わるにせよ、厄介なのには変わりはないはずだ。


「――ハア……ハアハア」


 身構えていたというのに、影は迫ってこない。変わりに越えるのは荒い息遣い、傷を負い、痛みを抱えた誰かの呼吸が聞こえてくる。


 今まで荒れ狂っていた影はうずくまるように収束し、動きを止めている。代わりに現われたのは今まで呑み込まれていた死神だ。左側の方から胸の辺りまで大きな亀裂、先程の一撃の傷で間違いないが、やはり途中で防がれていた、盾のように構えた蒼色の長刀がその証だ。あの一瞬で理性を取り戻した奴はあの一撃に確かに対応していた。自分の詰めの甘さに嫌気が差す、確かに殺せる一撃だったが、中身に抵抗されるのは想定していなかった。


「……一体なんなんだ、お前は」


「……私、私は――」


 期せず疑問が口を付いて出てきた。感情は掻き乱され、思考は疑問で詰まりかけている。話には聞いていたがそれにしても、あまりにも奇妙だ。

 

 身構えても、影は動かず、仕掛けてこない。まるで殺気までとは別人だ、俺を殺したいのか殺したくないのか、一体どっちのなのかさっぱり分からない。能力に関してもそうだ、今の奴からは能力(チカラ)を感じられない、感じられる気配も殺気も違いすぎてどれが本物なのかを特定することすら難しい。こんなわけのわからない奴を相手にするのは初めてのことだ。


 だが、どうするのが正解なのかは良く分かっている。こいつの意図は何で、何者なのかが分からずとも、すべきことは分かっている。奴が次の変化をする前にケリを付ける、奴が手の内を晒す前に奴の手札ごと砕く、先手必殺、今度こそそれを成し遂げる。


 使うのは両手、指先まで完全に力とエネルギーを浸透させる。必ず二撃で仕留める、刃にせよ、影にせよ、掻い潜り、押しのけ、本命を急所に叩き込む。間合いはそう遠くない、一歩で詰められる。


「――行くぞッ」


 姿勢を落とし、ギリギリと右脚を踏み込む。火蓋を落とすまで、一瞬、張り詰めた全神経で奴の微細な動きにまで注意を向ける。さっきの二の舞を演じる気はない、後の先で攻撃を叩き潰す。

 

「――!」


 死神が動いた。まるで祈るように刃を地に立て、寄りかかって立ち上がる。その瞬間、思考よりも先に身体(ホンノウ)が反応した。右脚をバネに前方へと跳ぶ、周囲の視界を歪めながら一直線に突っ込んでいく。先程と同じように、刹那で間合いが迫る、思考は置いてけぼりだ、直感と本能で動くしかない。


 攻撃に反応したのは死神ではなく影、俺を向かい撃つように伸びた影が横合いから迫る。速度で振り切るのは無理だ、故に、跳ぶ。


 加速の最中に逆の脚を踏み込み、空中へと身を翻した。追ってくる影は計算のうちだ、二段目の変化をギリギリまで引き付けてから、バーニア噴射でかわす。


 そのまま落下、右の拳を槌の様に振り下ろした。屋上の床を吹き飛ばし、下層に繋がる大穴を穿つ。これは当然中らない、こんな大振りで隙だらけの一撃が当たるとはこっちも思ってはいない。


 気配と視界を頼りに俺の攻撃を回避したはずの奴を捕捉する。本命はこの後だ、左の拳を確実にぶち込む。右の一撃はそのための陽動に過ぎない。今度こそ仕留められるそのはずだった。


「――くっ」


 横合いからの一撃を寸前でかわし、狙い打ってくる砲撃を左手で弾き飛ばす。最高のタイミングで横合いから殴りつけられたようなものだ、全く無粋にもほどがある。


 後ろに向かって転がるようにして続く砲撃を回避していく。高出力のレーザー照射、視界を焼くようなそれは中れば、俺でも致命傷だ。


 砲撃を掻い潜り、屋上を所狭しと駆け回る。屋上全体を制圧するような高密度な飽和爆撃、俺も奴もお構い無しだ。砲撃の合間を縫って、すぐさま砲撃の主へと向き直る、センサーには最大警戒の表示、今横槍を入れてきた敵はかなりの戦力を保有している。


「――例のNEOHもどきか……」


 視界には天を埋め尽くす黒い化け物の群れ、ESの示すのは元来のNEOHに極めて近い数値、多少の差異はあれど、目の前にいるのは五年前、幾度となく戦ったNEOHに間違いない。


 砲撃が止んでも警報は鳴り止まない、それどころか視界を埋め尽くす偽者どもは一秒ごとに数を増やしている。転移回廊(ポータル)の反応も数も際限なく増えていくようにさえ思える。この物量と転移回廊、姿形はどうあれ、こいつらはまさしくNEOHそのものだ。


 数えるのも馬鹿らしくなるような数の砲撃を切り抜けながら、視界の端に死神を捉えた。この絨毯爆撃の中を手負いの死神は難なく死線を超えている、このままならば奴は生き残るだろう。だが、そんなことはもうどうでも良かった。


 脳裏を過ぎるのは鮮烈な記憶、この物量、転移回廊、二十億人もの人間が何の意味もなく殺された、その光景は記憶と言うにはあまりにも生々しく、痛みを伴っていた。痛みと喪失感、数え切れないほどの悪夢が脳を食いつぶしていくのが分かる。先程感じていた憎悪、それに勝るとも劣らぬ業火が身を焼いている。


 その感覚がどうしようもないほどに愉しかった。


「――上等だ」


 嗤う、獰猛に、不遜に、腹の底から嗤う。消えかけていた種火が再び燃え上がる、奴らを目の前にして失った感情が蘇ってくるのがわかった。どれほどの悪夢が立ちはだかろうとも絶対に立ち止まりはしない。先程と同じだ、奴のことも、捕虜のことも、傷を負った岩倉のことでさえ、激情に塗りつぶされていくのが分かる。こいつらがどうして再び現われたのか、本当に”組織”に関係があるのかも、どうでもいい。再び現われたのなら、もう一度全滅させる、ただそれだけの事だ。


 復讐だ。何度蘇ろうとも、何度数を増やそうとも、そのたびに殺し尽くす、それが俺の役目だ。何度でも、何度でも、何度でも、こいつらを殺す、一体どれだけ傷つこうとも構うものか、例えこの命尽きたとしても、それで構わない。こいつらが、皆から、アイツから、俺から全てを奪った。だから、せめてものこと、こいつらは殺し尽くす。例え過ちを繰り返していたとしても、俺にとってはこの瞬間だけが全てだった。

 



どうも、みなさん、big bearです。今回は全編戦闘、胃もたれしたらすいません(懇願)

では、こんなだめ作者と拙い文章ですが、どうかこれからも暖かい目でよろしくお願いします。

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