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バーンドアウトヒーローズ  作者: big bear
第一部 リスタート・アンド・リザレクション
30/45

NO.030 アンティル・バーンドアウト

 久しぶりの感覚だ。防御と回避しか許されず、一切の反撃を封じられる。一寸先には死が待ち受け、痛みと負傷が蓄積していく。手も足も出せないというのは、本当に久しぶりだった。


 トドメを撃つその一瞬、飛び出してきたサイボーグを砕いたその時、奴は変わった。永久炉の発光現象、制御できないレベルでの出力の増大、暴走状態とも取れるその現象は俺にも経験がある。それがどれほどの力をもたらすかなどというのはこの身をもって識っていた。 


 永久炉心、この胸にも存在する永久機関はその実、酷く不安定なものだ。望んだときに、望むだけの力を提供してくれる便利な道具ではなく、不機嫌な暴れ馬のような飼いならすのは手がかかる代物だ。馬力に関しては最高だが、御するには相応の力量が求められる。しかも、永久炉一つ一つでその出力特性が異なり、一辺倒な機械制御では対応できず、手綱の取り方を教えられるようなものでもない。俺や雪那や仲間たちは経験と才能を持って力を引き出し、制御してきた。こればかりは、ただのVR訓練や刷り込みでは体得できない。その違いが奴と俺との違いだった。


 しかし、その揺らぎが今、圧倒的な力を生み出している。何が鍵になったかはわからないが、奴は永久炉の力を最大限に引き出している。あの時の俺か、それ以上にだ。


「――っああああああああ!!」


「ッう!」


 直感に任せて、打撃を逸らす。俺の目でも残像が見えるほどの速度、捉えるのはとうにあきらめた。単純な脚力だけではあるまい、06(アマンダ)の変成獣化(キメラ)に慣性制御やグラヴィティを併用しているはずだ、おまけに全身から発するあの光、俺の出力集中を全身で行っている。先程まではできなかった能力の同時行使を、今の奴は簡単に行っている。たださえあった性能差はいまや絶望的な域へと達していた。


 それでも辛うじて攻撃を防げているのは、奴の攻撃が単調なものであるからだ。どれほど速く、強烈な攻撃だろうと感情に任せたものなら筋が見える。筋が見えれば動きの予測は簡単だ、防御は容易い。問題は一撃一撃が必殺の威力だという事に他ならない。防御するたびに装甲が抉れ、衝撃が骨にまで響く。着実にダメージが蓄積している、既にいくつかのシステムがダウンした。すこしでも動きが鈍ればそこでお終いだ、そう長くはもつまい。


「い、いいぞ! トドメを刺せ、10!」


 一瞬で背後に回りこまれた。やはり単純な速度では勝負にならない。上段狙いの回し蹴り、なんの捻りもない技でも、これだけの速度と力なら必殺の威力だ。おまけに俺の反応速度さえ越えた動きなのだ避けようがない。


「っなぜ!?」


「ッ!?」


 それでもかわす。最小限の動きで蹴りをかわし、後方へと跳びながら追撃をも退ける。苦し紛れに放ったエネルギー放出の不意打ちも、奴の纏う光に無効化された。飛び道具は当然効かないらしい。


「悪足掻きを! いい加減観念したまえ!!」


息を吹き返して、有頂天といわんばかりの声は無視する。それに愉しくなってきたところだ、まだ終わらせる気はない。


鈍くなっていく身体とは対象的に追い詰められればられるほど精神はより鋭く研ぎ澄まされていく。平静と狂気が混じり合い、静かに澄み渡る。  そのまま奴は追ってくる。着地して体勢を整える暇すらない。上等だ、そろそろ防戦一方も飽きてきたところ、そろそろ度肝を抜いてやる。


「――!」


 振りぬかれた拳にあわせるようにして空中で身を翻した。伸びきった右腕を空中で摑み、足を10の首に引っ掛ける。そのまま腕を軸に奴を地面に倒す。地に足が着いていないせいで、たいした威力はないが体勢を崩せた。


「このままッ!」


「くっ!?」


 間接を極める。奴が僅かに苦悶の声を上げる。どれだけ頑丈でも間接部自体は人体構造からはみ出たものではない。伸びきった腕に力をかけてやれば、圧し折るのはそう難しいことではない。


 想像以上の硬さを押し切って、腕の関節を圧し折ろうとした瞬間、俺の体が浮いた。間接を圧し折る間もなく、腕ごと体を持ちあげられたのだ。


「なっ!?」


 技を解く暇すらなく、体を地面に叩きつけられる。こちらの技を力技で捻じ伏せられた。不利な体勢だと言うのにかなりの勢いで背中を打ち付けられ、受身をとることすらできなかった。想定外の反撃に思わず、技を解いてしまう。


 しまったと思ったときには追撃が迫っていた。本能に任せ、踏み付けをかわす。頭を踏み砕くはずだった脚が頬を掠めて、地面をかち割る。余りの威力に足場までもが崩れ落ちる、蹴りのあとには大きなクレーターができていた。全くふざけた力だ、これでは攻撃のたびに地図を書き直す羽目になる。


 クレーターに滑り落ちるようにして体勢を整える。現状では小技は通用しないことが分かっただけでも収穫だ。これで迂闊に攻撃を仕掛けることはできなくなった。さて、つぎはどうするか。


 考えるより先に動かなくてはならない。止っていてはあの速度に縊り殺される。

 

 思考ではなく直感と経験を頼りに攻撃を凌いでいく。感情任せのラッシュが此処まで脅威に感じられるの初めての経験だ。今までの敵とは違う、技巧を使わない性能任せの攻撃、単調で見え透かしたはずのそれに体がついていかない。初めての感覚だ。


 拳の掠めた脇腹から血が零れる。一秒ごとに傷が増え、骨が軋み、痛みばかりが蓄積していく。時間と同じく命そのものが削られていく。時間をかければかけるほど、こちらが不利になってくる。


 限界は近い。それは受け入れている、望んでさえいる。だが、俺の命は俺のものではない。まだ死ねない。まだ、君のところへは――。


「――はああああああ!!」


「っ――!?」


 ほんの一瞬、雑念が混じった。防御の一寸の隙間が生まれた、針の穴のようなその隙を縫って奴の拳がまともに突き刺さった。装甲をと通り越して、直接臓腑を抉られたような衝撃。視界が眩む、腹を殴られたのに脳まで揺れている。思わず膝をつく、まともに立っていることすら出来ない。たった一撃でこの様か、追撃が来ると分かっているのに、ただ死を迎えることしかできない。


 戦いの最中に均衡を欠くとは、俺も随分と情けなくなったものだ。一瞬よぎった彼女の顔に僅かな迷いが生まれてしまった。戦いに迷いを持ち込むのがどれほど致命的かいやと言うほど理解しているというのに迷ってしまった。このまま運命に身を任せれば、もう終わりにできるかもしれないと、彼女の元へといけるかもしれないと迷ってしまった。その結果がこの様だ、何も責任を果たせないまま負けようとしている。


 閃光と共にトドメの蹴りが迫る。中ればそれで終わりだ、その結果を無責任なことに感情(あたま)は受け入れていた。できることはした、もう楽になってもいいはずだと都合のいい理由を付け自分を正当化しようと理性は必死だ。


 最後の瞬間はもう目と鼻の先だ。これを受け入れればそれで終わり。ようやくただ生きていただけの俺の命も終わる。


 最後の瞬間が先延ばしにされていく。死の間際で感覚が引き伸ばされ、周囲の全てが止ったような錯覚で世界が染まる。死神の鎌のような一撃が煌く。全力は尽くした、此処で終わりと言うのも悪くはない。いや、今までが長すぎたのだ。終わらせてくれるというなら受け入れよう。


 後悔や無念が脳裏を掠める。責任を果たせぬまま死ぬ自分に対しての怒りもあった、滝原や雪那にすまないという気持ちもあった、自分でも驚くほどに先程交わした岩倉との約束を果たそうともしないことへの後悔もあった。思い返せば後悔ばかりだ。何一つ救えてはいない、何一つ守れなかった、それが俺だ。


 すまない、瑠璃華。君の最後の言葉さえ俺は守れない。やはり、俺は最後の一瞬でさえも自分を許せない。


 そうして、俺は最期を受け入れた。


 

◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇ 


 驚愕は誰のものだったか、それはわからないが、俺自身が一番困惑していた。俺はもう受け入れていたというのに、なぜまだこうして息をしているのか自分でも理解できていない。


 振り上げた左腕がしっかりと死神の鎌を食い止めていた。


 止った世界の中で、諦めた意思に反して、身体が動いていた。防御に回した左腕に出力を集中、光を纏わせ、攻撃を最大限相殺している。正気でもなかなかできない芸当で、俺は奴のトドメを防いでいた。


「……!」


 思考を置いてけぼりに、本能は問題なく動く。地面を蹴って、右へと思いきり跳ぶ。距離を取らねばやられる、その直感に従って体が勝手に動いていた。


 着地の瞬間、痛みに生の実感を得た。生きている、確かにこうして生きている。しらぬまに感情を本能が否定していた、まだ諦めるのは許さない、四肢がついている限り、この永久炉(シンゾウ)が動く限りは戦い続けるのがお前の役目だと、身体が叫んでいる。


 笑い出しそうだ、どうやら骨の髄どころか、この血の一滴まで俺は戦士でしかないらしい。しかも、死に場所すら決めさせてくれないときた。


 いいだろう、付き合ってやる。本当の最後の瞬間まで、燃え尽きた灰すらも燃やし尽くして戦ってやる。それに、ようやく思い出した、いつだって俺はこの程度で諦めるほど、往生際がよくはなかった。 


 全身に出力を廻らせ、傷口を焼く。傷の具合はそう酷いものではない、内臓までダメージは達しているが動きに支障が出るほどではない。まだまだ戦える。その事実を確認すると、情けなくも降伏を示していた理性がふたたび戦意を取り戻す。まだ終わるには早い、まだ四肢はしっかり動くのだから。


 それに勝ち目がないわけではない。奴の動きがどれだけ速くとも、太刀筋は読めている。それに死の間際に拾った光明、そこに勝機がある。速さ比べや力比べ、小手先の技では勝てない。勝利のためには、こちらが唯一勝る一点に全てをかけるしかない。


 集中しなければ、一点の曇りも一寸の誤差も許されない、迷いなどもってのほかだ。力を引き出す激情と戦いのための冷徹さ、決して交じり合わない二つを同時に行使する、それを完璧にこなすには不要なものは全て切り捨てなければならない。機械の精密性と人間の柔軟性、その架け橋となるのが俺達(サイボーグ)だ。


「10、殺せ! 終わりにしろ!!」


「……イエス、マスター」


 奴が動く。再び感覚が引き伸ばされる、死の間際のその感覚を意図的に引き出してみせる。死と生の狭間、この場所こそ俺に相応しい。


 一息で間合いが詰まる。やはり速いが次の動きは見えている、加速と腕力に任せた右の拳。それに併せて踏み込む、中れば死ぬが、それだけだ。中っても外れても、こちらとしては本望、これほど気楽なものもあるまい。


「!?」 


 掠めたというには余りにも際どい。頬の一部を削り取られた、拳の破壊範囲は見た目よりも広い。掠めれば、それだけでこちらの時間切れが近づいてくる。しかし、懐には入った。


 敵の次の動きは識っている。迎撃の膝蹴り、それは無視だ。この間合いならそうたいした威力は出せない、一撃で行動不能にならなければ許容範囲だ。助骨の二、三本はいかれたかもしれないが内臓はいってない十分幸運な部類といえる。


 さっきの蹴りで引き離すはずが、俺を引き剥がせず、奴の動きに一瞬の隙間が生まれる。一々避けていてはこの隙がつけない。


「っアアアア!!」


「……ッ!?」


 大地を踏みしめて、脇腹に一撃、拳の一点に全力を注ぎこむ。速度はもちろんこと、こちらの牽制を諸共せぬ奴の纏う光の鎧も十分厄介。それを突き破るためには、この際防御も負荷も無視だ、全てを攻撃にまわす。こいつほど派手ではないが、十分必殺の威力がある。その証拠に確かな手応え、全身に展開した光の鎧を抜け、生体装甲に罅を入れる。狙い通りだ。


 ダメージを気にしていないのか、それとも気付いてすらいないのか、奴は退かない。勢いと力に任せて再び攻撃を仕掛けてくる。上等だ、根競べといこう。


 致命の一撃をだけをかわして、問題ないと判断したものだけを受けながら、前進する。決して間合いは外させない、至近距離ならば速度のアドバンテージをある程度誤魔化せる。奴が冷静に距離をとりさえしなければ、それで十分だ。


「……!!」


 右の拳、申し分のないタイミングと速度で放たれるはずのそれを先んじて潰してみせる。次の行動へ移る一瞬の隙間に再び脇腹の同じ場所に拳を叩き込む。此処に来てようやく主導権を取り返した。


 動きを通じて奴の揺らぎを感じ取る。燃え盛っていた激情に、僅かな困惑と恐怖が混じり始めたのだ。こいつは何故俺を仕留め切れないのか、何故自分が反撃を受けているのかを理解できていない。そこに俺の唯一ともいえる勝機がある。


 滑稽さと加虐に歪な笑いが漏れる。本当に基本的なことが、俺を完全に上回り、全てを兼ね備えたはずの10の唯一の弱点となるとは全く皮肉な話だ。


 奴の動きは速い、俺では捉え切れないほどにだ。それは認めよう、だがそれを認めたうえでこいつは俺よりも鈍い。理由は一つ、余りにも単純で、陳腐な答えだ。


 オートバランサー、本来は動きを補助するはずのそれが奴の足かせになっている。確かに、兵器としての完成度を上げるなら、オートバランサーの搭載は自明の理だ。だがいま、奴の驚異的な速度に対してオートバランサーの反応速度、動作から動作への移行速度は対応しきれていない。一度動作に入ってしまえば捕らえきれないほどに速いが、接近から攻撃、回避から攻撃、防御から攻撃への一瞬の速度域は俺よりも鈍い。おまけに感情に任せた単調な攻め、次の動きを識るのは容易い。


「痛っ!」 


 苦し紛れの裏拳を押さえ込み、傷口に拳を差し込む。奴が一歩退き、傷口を押さえて膝をつく。一点集中、我ながらこすい手だが、効果は十分だ。奴が光を纏ってから、ようやく奴にダメージらしいダメージを与えることができた。


「……まだ動くな」


 確認するようにそう呟く。こちらとて相応の代価を払わされた。致命傷と四肢を潰しかねない攻撃だけ回避し、防御したツケは全身に蓄積している。各部の装甲は悲鳴をあげ、重要な経路(バイパス)もいくつか断線している。特に酷いのが両の腕と拳だ、両腕を朱に彩るのは返り血だけではない。攻撃の際、拳と腕を防護一切せずに過負荷を賭け続けているのだ、装甲は内側から亀裂が入り、ナノカーボンの筋繊維がだらしなく飛び出している。だがまだ痛む、故に感覚がある、ならば拳は握れる、それだけ分かれば問題はない。


「く、何故こうも計算外が続く!? なぜだ! 十五年前といい、今回といい何故勝ちきれない!! 一体私たちとお前で何が違うというんだ!!」


「――俺が知るか、自分で考えろ」


 狂乱一歩手前の声を無視して、奴の動きを注視する。先に与えたダメージに合わせて、多少は芯に響いているはずだ、それに俺の狙った場所には循環液の整流機構がある場所、遠からず動きが鈍るのは確定事項だ。


 が、それはこちらも同じこと。強がってみても、時間切れは近い。人工血液が焼けているようだ、体内で制御しきれない熱が体を内側から焼いていく。蓄積したダメージと長時間の全力稼動に身体が悲鳴を上げはじめていた。


 一秒ごとに、死が近づいてくる。だからこそ、戦っていられる。すぐそばに死を感じていられるからこそ、生を感じていられる。


 しっかりと大地を踏みしめ、前に出る。退けばそこで終わりだ、前に出なければようやく手に入れた勝機も消えうせる。


「――ッおおおおおお!!」



 命を削りながら、敵の命を削り取る。鈍くなっていく身体と鋭くなっていく感情、相反する二つを支配し続ける。こうなれば、性能も技術も関係ない、ただの意地の比べあいだ。


「……っ!」

 

 削り合いの果て、奴が一歩退いた。根競べなら、執念深い分こっちのほうが得意だ。


 一歩退いた奴の胴へ思いっきり蹴りを入れる。奴の動きが明らかに鈍っている、反応できたはずの一撃に対応できてない。それはこちらも同じだ、一撃で胴を砕いてしまうはずだったのに装甲に罅を入れるだけに止まる。このままでは殺しきれなくなる、萎えた手足では奴を殺せない。


 全力で打てるのはよくて一撃、精度が落ちる前に大技を叩き込む。それしかない。


「――考えは同じか。いいだろう、次で終わりだ」


「…………」


 奴もまた同じ考えに到ったらしい。奴の四肢に光が収束していく、ただでさえ殺傷に十分な力がさらに高まる。どうにか機能しているESが最大警報をかき鳴らす、直撃すれば確実に死ぬという旨の警告が目障りで仕方がない。今更の話だ、気にしても仕方がない。


 退きさえすれば、勝てるのに無意味に向かってくる敵を笑うことはしない。俺も似たようなものだ。


 永久炉(シンゾウ)から右腕に全ての出力をかき集める。バラバラになりかけた右腕でもまだ動くなら役に立つ。防御は一切考えない、必要なのは矛で、盾じゃない。


 互いの必殺を手に瞬間を待つ。張り詰めた空気の中で精神が澄ませていく、必要なもの以外は完全に切り捨てる。心地よい感覚すらも憶える、静寂の間、他者と自分が混ざり合うような錯覚に全てが支配されていく。


「……!」


「――!」


 久遠の刹那、静寂を破る。先に動いたのは奴、最強の凶器とかした四肢を振るう。まだ待つ、この瞬間は違う。まだ俺の瞬間じゃない。


 一撃、右の拳をかわす、掠めた左肩が吹き飛んだ。


 二撃、続け様の蹴りを身体を逸らして致命傷を避ける。胸部装甲の半分が消し飛ぶ、問題はない。余りの出力に攻撃が通った空間が歪む、異相空間の壁が破れれ、破壊の爪痕が通常空間にまで及ぶ。


 三撃、崩れた体勢の俺を奴が追う。右の蹴り降ろし、まるで踏み潰すような一撃を無様にかわす。動きが崩れた、逃げ場がない。次で積み、俺は右腕を防御に使えば必殺の手段を失う、その時点でもう後は詰み将棋になる。


 四撃、狙い済ませた左の拳。ここにきて奴の動きが加速した、俺が与えたダメージ以上に増大した出力に身体が対応してきている。素直に認めよう、見事な一撃だ。殺されるにも申し分ない。


 ――だが、俺の勝ちだ。


「――っ!?」


「――は、その顔が見たかったんだ」


 醜く折れ曲がった右腕、驚愕に停止した敵の姿。痛みはない、辛うじてくっついているだけの右腕にはもはや感覚が残っていない、まあ、千切れなかっただけ幸運だ。


「――飛べッ!!」


 無事な左手で奴を摑み、片手背負い投げの要領で宙へ飛ばす。力は要らない、ほんの一瞬、奴の意識が止ればいい。


 右腕から右足へ全ての出力を集中させる、奴の動きが止った瞬間に全てを決めなくてはならない。残すのは最低限でいい、自己修復もESも、トドメに必要なものを残して、必要のない機能を全て停止させる。ダメージを考慮してもこれが最高の一撃。周囲の空間をゆがめる膨大な熱量を一点に、白銀の太陽を右脚に封じ込める。


 眩い光と共に激痛が走る。想定以上の過負荷にとうとう身体が限界を迎えた。だが、それがどうした。まだ燃え尽きてはいない。


 跳ぶ。奴は未だに宙にいる、反応できている身体に意識が追い付いていない。必殺の確信とそれを破られた際に生じる意識の隙、奴には初体験のはずだ。如何な手練でも、絶対に生じるその瞬間に何もかもを賭ける。


 空中で身体を反転。感覚は引き伸ばされ、その一瞬に何もかもが収束していく。決着のときだ。降下と再加速、物理法則を捻じ伏せて必殺の一撃へと。痛みを置き去りに、感情を置き去りに、一つの刃へとこの身を移し変える。


「――っツ!?」


「これで――」


 ようやく奴の意識が追い付いた、両の腕を胸の前に盾のように差し出す。遅い、お前の速さでは俺の一撃には追い付けない。


「――終わりだ!!」


 右脚が奴の胸を抉った。収束され刃とかした熱量が光の鎧を容易く貫き、最後の砦たる生体装甲を焼き切る。必殺の感触、確かに心の臓に達した。あとは全てを解き放つだけだ。

 

 トリガーを引く。太陽を繋ぎとめる楔を引き抜き、瞬間、世界を光で染め上げた。


 

 

どうも、みなさん、big bearです。バーンドアウトももう連載開始から、一年と364日です。日にちは中途半端ですが、今回でようやく最初の戦いに決着を付けることができました。これも、読んでくださるみなさまのおかげ、感謝に絶えません。

では、こんなだめ作者と拙い文章ですが、どうかこれからも暖かい目でよろしくお願いします。

誤字脱字報告、ご意見、ご感想、ご質問等ございましたらぜひぜひお書き込みください。

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