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バーンドアウトヒーローズ  作者: big bear
第一部 リスタート・アンド・リザレクション
20/45

NO.020 アンフィット・インストラクター

 会議と言うのはここまで退屈だったかと、佐渡憲吾支部長は欠伸を堪えた。目の前では、名前も知らない第十三支部の支部長が弁明を続けている。全責任は自分ではなく、留守を預かっていた部下にあると顔を真っ赤にして捲くし立てているが、今更何をしても遅い。もう彼の処分は決定している、ここでの弁明は形式上のものでしかなく、ここで泣こうが喚こうが意味は無い。そういう点では彼も哀れだ、偶々姪の結婚式に出席していたときに例の襲撃事件が起こったのだから、ある意味被害者ともいえる。まあ、いたところで何か役に立ったかといわれればそうではないのだが。


 とはいえ、この会議の議題が彼に全く無関係と言うわけではない。03襲撃から始まる、式典会場襲撃事件、第十三支部での戦闘、この一連の事件への対策を練るために異例の全支部長出席での本部会議が召集された。が、紛糾するばかりで一向に話は進まない。全員とは言わないものの、ここにいる過半数は目の前の問題解決よりも、過ぎたことへの責任追及に熱心だ。


「――しかし、まあ、最悪の事態は避けられましたな。逃げ出したサーペントも01の手で破壊されたと報告を受けています、彼が居合わせたのは不幸中の幸いでした」


「君ぃ、問題はその01なんだよ。何でもこの三件中二件の現場に彼は居合わせたそうじゃないか、これでは事件を解決してるのか、起こしてるのか分からないじゃないな。そもそも、彼が五年間も何処で何をしていたのかということからハッキリさせるべきだと、私は思うね。なあ、Mr佐渡?」


「たしかにコールドマン支部長の言われるとおりだ。佐渡支部長、説明していただきたいな」


 それきた。全く予想通りの人物から、全く予想通りの質問が飛んでくる。このやり取り一体何度目だと悪態を吐きたくなる衝動を堪えながら、手を挙げ、発言の許可を求める。誰も守っちゃいやしないが、くだらない事で責められたくはない。


「――何度も申し上げているとおり、機密ですとしかお答えできません。というか私自身も彼の任務内容について把握しておりません、五年間の間の任務内容については前支部長高幡が生前、特Sクラス機密に指定されておりまして……当然ながらアクセス権を所有されておられるのは最高委員会の方々のみです。従って、お答えできないとしか申し上げられません」


「そんなものは詭弁だ! いくら機密とはいえ支部長たる君が把握してないなどと、我々を侮るのも大概にしたまえ!」


「その通りだ! あの01ほどの戦力を五年間も遊ばせていたなど到底許されることではない! その怠慢が今回の一連事件を招いたのではないのかね?」


「そもそも、五年間も何をしていたのかも分からない兵器がどれほど信頼できるというのだ? 彼の功績は認めるが、所詮は五年前の英雄、そろそろもっと信頼の置ける戦力を確保すべきだ」


 同調したコールドマンの腰巾着たちが、気勢を上げていく。西アメリカ支部長アルフレッド・コールドマン、UAF内での最大派閥いわゆる推進派のリーダーが彼だ。独立独歩の姿勢をとってきたUAFの組織を国連加盟国との連携によりさらに実践的な組織へと改革するというのが、彼らの表向きの主張だ。実際のところ、国連加盟国とは安全保障最高委員の選出国であり、その選出国とは彼らのスポンサーたる太平洋連合のことだ。つまり彼らの最終的な目的は北アメリカ連合によるUAFの私物化であると目されている。確かに彼らの言うとおり支部間での連携強化と実践的な組織改革は重要だ、しかしその結果、設立当初からの理念である政治的中立を蔑ろにしては本末転倒だと考える一派も当然いる。


「――コールドマン支部長のおっしゃることは最もです。しかしながら、彼の、01の活躍が無ければ、さらに未曾有の被害が出ていたことは確実です。例え、彼が何処で何をしていようと彼の信頼性が揺らぐものではありません。実勢彼のおかげで式典会場にいたVIPは皆さんご無事ですし、サーペントの脱走と言う最悪の事態も避けられました。責任と信頼性を問うなら、今までこれほど規模の敵を見過ごしてきた諜報部と我々、そして第十三支部こそ問われるべきではありませんか?」


 その一派の代表がこの男だ。香山一(かおるやまはじめ)、本部付き内務調査局局長にして人類戦役開戦からのベテランだ。今は官僚出身者や各国家軍の出向者が大半を占める支部長クラスの中にあって、彼は数少ない実戦でのたたき上げの一人である彼の立ち位置は特殊だ。UAFの理念に忠実に現場第一主義を掲げる彼は内務調査局という立場にありながら、むしろ上層部よりも現場で戦う統括官や戦闘員からの支持を集めている。しかし、その清純派そのものといえる見た目と理念とは裏腹に、内務局長としての情報網を活かして相当汚いこともしているという噂もある喰えない男だ。


「――第十三支部の責任は当然追及されてしかるべきだ。それでも、ここまで現状を悪化させた一因が、01に、ひいては事件を担当した極東支部にあることは否定できん事実だ。誰も責任を取らないというわけには行くまい」


「それはまたご尤も。――ですが、現状的の戦力に対抗しうるのは極東支部のみということもお忘れなく。我々の任務は市民の安全を守り、世界の敵を排除することです。設立理念第一条をお忘れですか?」


「……それは、そうだが、責任の所在をはっきりさせねば、組織としての統率が」


「責任追及は事件が解決した後でもいいでしょう。我々の本来の義務を履行するためにも、まずは迅速な対策チームの発足を最優先すべきです。その点についてはこの場にいる全員の同意を得られると私は確信しています」


 噂の真偽がどうであれ、カリスマ性は見事なものだと内心感想を漏らす。一向に纏まる兆しの無かった会議は彼の言葉だけで一定の方向性で収束を見せ始めた。その手腕とカリスマ性はここにいる連中とは一枚も二枚も役者が上だ。そのうえ、各支部長クラスの弱みを握っているとしたら、それこそ怖いもの無しといえるだろう。


「その草案については、既に極東支部主導で立案されています。詳しくは、佐渡支部長より説明していただきます」


「ま、待ちたまえ! 何故、極東支部主導なのかね? 一体誰が承認したというのだ!?」


「――その点については、私から説明させていただきます」


 仕方無しに発言した。これで完璧に推進派からは目の敵にされるだろうが、必要経費と割り切るとしよう。自ら矢面に立つ、主義ではないが給料泥棒に甘んじるよりはいい。


「承認については式典会場襲撃後に最高委員会から直接いただいております。故に、この場で事後報告という形になったことはお許しいただきたい。しかしながら、極東支部主導ともうしましても、二度の襲撃により当支部は著しく疲弊しておりますので、対策チームの構成員は各支部の優秀な人員を推薦していただき、それを招聘する形になります。旧第01(ゼロイチ)特務戦隊と同じ形を取ることになるでしょう」


 我ながら卑怯だが、最高委員会の名前を出してしまえば、大抵の反論は封殺できる。それにやむ終えないとはいえ、各支部からの招聘と言う形にしてしまえば極東支部への風当たりを少しは軽減できる。本来なら、政治的な意図を含まず、信頼できる人員のみで部隊を構成したかったが、そうもいってられないのが現状だ。


 それに期せずして、かの第01(ゼロイチ)特務戦隊と同じ部隊構成となったのはプロパガンダとしてもかなり都合がいい。かつてゼロシリーズの全員が所属し、世界を救った英雄の部隊、新たな敵を相手に戦うにはこれ以上の験担ぎは中々あるまい。


「部隊規模はこれも同じく戦隊規模。01と03を基幹戦力に据え、H.E.R.Oと通常空挺隊での編成を予定しております。敵拠点への強襲作戦を想定してアルバトロス級空中拠点艦艇を一艘、さらに、開発局にて実験段階の例の支援機を派遣を要求しています」


 一気に喋りきったところで、周囲の反応を伺う。ここまでのところは定石どおりの部隊編成となっている、一々文句をつけるようなところはない。問題はここからだ。


「――戦隊長としては当支部から滝原一菜統括官を、および部隊長兼専任教官として――」


 二つ目の決定事項を口に出したその瞬間、これまで以上に会場がどよめいた。香山局長ですらも目を見開いて驚いてる。彼らの反応は予想通りだが、そこまで驚くことではないはずだ。少なくとも、誰でも一度は考えたことではあるであろう可能性を口にしただけだ。


「確かに、皆さんの考えていらっしゃるとおり、これは賭けです。しかも、分の悪い賭けなのでしょう。ですが、私は運のいいほうでして安心してお任せください」


 会場の視線を全て集めながら、わざとらしく慇懃かつ不遜に振舞う。ここからが全ての本番だ、成すべきを成す為に詐欺師と道化を演じきって見せよう。


◇   ◇   ◇    ◇   ◇   ◇   ◇  ◇   ◇   ◇   ◇


 慣れないことはするものではない。全くその通りだ、実際やってみてわかる。慣れない事をすると勝手も分からなければ、加減もわからない。


 ついでにいえば数学とは違い、現実世界ではマイナスとマイナスを賭けてもプラスになることはまず無い。むしろ、事態の悪化を招くのが常々だ。そして、今の現状がその実例と言うわけということになるわけだ。


「――滝原、正直に言うぞ」


「ん、なに? どうかした? 何か問題?」


「弱音は吐きたくないんだが、それでも俺、向いていないと思うんだ」


「……まだ一週間でしょ? もう少し頑張ってみてくれない?」


 モニター越しの滝原に思わず愚痴ってしまった。いつもならこんなことは無いはずだが、どうにも冷静になりきれない。油断すると居ても立ってもいられなくなる様な恐怖と焦燥が蘇ってくる。


 内心の焦りを沈めながら、頭の中で状況を整理する。棺桶での戦闘から一週間、(サーペント)からの連絡は一切無い。一体何処で、何をやっているのかさっぱりわからない、それが問題なのだ。暇さえあれば自分の決断が間違っていたのではないのかと考え込んでしまう。人には信頼して任せろと言ったというのに、我ながら情けない話だ。滝原とエドガーの調査も相変わらずなしの礫、傷は癒えても一層不機嫌な雪那は俺を見るだけで怒り心頭だ。俺にできることはほとんど無し、唯一与えられた仕事はとことん俺に向いてない。


 因果な話だ、俺は戦う以外の対処方法を知らない。あれからの五年間と同じ、戦っていないとこうも余計に迷うのか、俺は。


「――も、もう一度、もう一度お願いします!」


「……あ、ああ」


「ほら、そっちはあきらめてないわよ?」


 疲れていても真っ直ぐな声に意識を引き戻された。他の連中は全員、虫の息で伸びているがこの子はまだ元気だ。他の連中と同じ力で相手をした、一切手心なんて加えてない。彼女の体力が残っているということは彼女自身が俺の攻撃を上手く捌いていたということだろう。先程の模擬戦を思い返してみれば、思い当たる節があるにはある。こんなことは初体験で、経験があるわけではないがこれがいわゆる芽があるという奴なのかもしれない。


 達人の悟りにはほど遠い俺でも立ち会えば相手の本質をある程度掴める。彼女には芯がある、決してぶれる事のないひたむきさが彼女の中には感じられるのだ。彼女の戦士と資質は俺には漠然としか掴めないが、そんな才能よりその心の芯が尊いと俺には思えた。最初にあったときに感じた覚悟は俺の勘違いではなかったのだ。


「君は……岩倉君だったな?」


「は、はい! い、岩倉ヒカリ特技官であるましゅ、あ、あります!!」


 素質はあっても、この上がり症がどうにもその素質を相殺している感がある。戦っている最中はいいのだが、話しかけるとこの有様だ、やりにくくて仕方がない。


「緊張しすぎだ。俺もやりにくい、自然体で頼む」


「は、はい! 自然体でいきます!!」


「――岩倉特技官、命令よ、深呼吸しなさい。貴方、有名人に会うたびそれじゃこの先やってけないわよ?」


「え、あ、はい! 深呼吸します!!」


 滝原に言われて、スーツの上から分かるほど彼女は大きく息を吸い込む。これで少しは落ち着いてくれれば俺も助かる。


 彼女を待つ間、身体の調子を確かめる。傷は当の昔に癒えているから問題ないが、何十にも掛けたリミッターのせいでどうしようもなく身体が重い。どうやっても動作が意識にワンテンポ遅れる、自分で身体を動かしているというよりも、ゲームのキャラクターを操作しているような感覚だ。ハンデだと思えば、丁度いいのかもしれないが、違和感はぬぐえない。


「――今日はこれで最後だ、一撃でいい、俺に中ててみろ」


「――はい! いきます!!」


 仮称、第五○一特殊作戦群戦隊、第01分隊分隊長兼専任教官、それが俺の今の肩書きだ。最初に聞いたとき、自分の耳がおかしくなったのかと真剣に疑った。次に疑ったのは、失礼にもほどがあるが滝原が余りの過労でとうとう頭がおかしくなってしまったのではないのかという事だ。最後には自分の正気に立ち返ってみたが、残念なことにまだイカれてはいなかった。


 俺には人を育てるなんていうことは絶対に無理だ。所詮、何処までいっても兵器である俺は壊すことしかできない。対して、人を育てることは造ることだ。俺には土台無理だ。言うなれば向き不向き以前に火炎放射器で料理するか、日本刀で手術するようなもの、そもそもそういう用途で造られてない。


 しかし、任務は任務だ。やれるだけの事をしようと思い、この一週間、努力はしているが成果はあってないようなものだ。俺が担当しているのは九人、どれも関東支部所属のあのときの生き残りだ。全員が全員優秀と言うわけではないが、一応死線を潜ったおかげで全員、新兵特有の視野の狭さは解消している。そんな連中を一週間相手にして何の成果も上げられていないのは俺の無能さゆえに他ならない。


 試行錯誤の結果、いまさら基礎能力を上げようにも時間がないので、とりあえず実戦形式の模擬戦で経験を積ませることにしたのだが、どうにもこれが上手く行っている気がしない。毎回毎回、俺が一方的に彼らを倒す、それが一日に多くて三回か四回程度、そんな無意味な行為をこの三日繰り返している。別の方法を試す頃合なのだろうが、無い頭を絞っても大した案は出てきやしない。いい加減、滝原に代わりを用意してもらおう。


「――やあああああ!!」


「……!?」


 一瞬驚いた、さっきよりも疾い。俺の攻撃に少しづつ対応してきている。自信はないが、俺の模擬戦も全く無意味ではなかったらしい。


「――はあああああああ!」


「――まだだ!」

 

 速度の増した攻撃を確実に往なしていく。俺から見ればまだまだ遅いが、単純な攻撃速度だけでなく、反応速度全般も上昇している。成長速度としては爆発的だ、飛躍したとも言っていいかもしれない。なるほど、滝原が気に入るわけだ。


 だが、リミッターを掛けていても苦戦するような力量にはまだまだ届かない。片手で相手できるレベルに過ぎないが、このまま経験を積めばかなり相当以上に優秀な戦士に育つだろう。しかし、そこが限界だ。それは彼女だけの話ではない、俺達(サイボーグ)と人間では根本的な疾さの域が違う。どれだけ鍛えようが越えられない壁の向こうに俺たちの感覚はある、その違いだけはどうやっても覆せない。


 それでも、何故か無性に楽しい。何度倒れてもそれでも向かってくる彼女の直向さは心地よく、彼女が少しづつ強くなっていく実感は不思議な高揚感を齎してくれる。教官としては無能に等しい俺だが、これが人に教え導く喜びだというなら悪くないものだと、そう思えた。


 ふと、彼女の笑顔が思い浮かんだ。どこか陰のありながら、俺にとってはどんなものよりも美しく、愛おしいその笑顔を持つ彼女は俺が教官になったと聞けば、どう反応してくれるだろうか。笑う? そうかもしれない。俺を褒める? そうかもしれない。また無理をしてと怒る? そうかもしれない。様々な彼女の顔が浮かんでは消えていく。一応戦闘中だというのに暢気なものだ。


 けれど、ただ一つ。どんな風にしていてもきっと、いつでも彼女は俺にあの笑顔を向けてくれる、それだけは確かだ。


 

どうも、みなさん、big bearです。記念すべき?二十話目ですよ、二十話。このままの勢いでどんどん投稿していきたいと思います。

では、こんなだめ作者と拙い文章ですが、どうかこれからも暖かい目でよろしくお願いします。

誤字脱字報告、ご意見、ご感想、ご質問等ございましたらぜひぜひお書き込みください。

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