ホットチョコレートで一息つきませんか?
後宮への長い廊下に女官長、宰相、リュミエールと三人揃って歩く姿は、ひどく目を引くものだった。
「それでは陛下と私が出会ったのは侍女殿ではなく姫君だと言われますか。」
宰相が女官長に尋ねる。
「容貌を聞けば…ただ私の見る限り印象はかなり異なりますが。」
線の細いロザリアの姿を女官長は思い描く。
「しかし侍女のふりをする意味がわかりませんね。後宮に入られる際、徹底的に身元の洗い出しは済んでおりますし、間者というわけでもないでしょう。」
宰相が思案しながら女官長と話し合う。
「まあいい。会ってみればはっきりするさ。」
リュミエールが楽しそうに言った。
後宮を守る騎士たちは三人の姿を見て、信じられないものを見たという表情をする。
「姫に会いにきた。」
リュミエールが短くいうと騎士たちは後宮の扉を開けた。
三人の姿が後宮に消えた後、後宮の騎士、侍女は三人の姿を見かけると、なにかロザリアが失態をしたのではないかと囁きあった。
ロザリアの部屋の前に着くと、控えている侍女には来たことを知らせなくていいと女官長がつたえる。
ロザリアの寝室からは明るい声が小さく聞こえてくる。
女官長、宰相、リュミエールが扉に耳を当てると楽しそうな、困ったような会話が聞こえてくる。
「…姫様……と言いますか、私の…侍女のふりをしてお菓子を作るのは潮時なんじゃありませんか。
正体がばれてしまえば女官長様に怒られます。」
宰相が女官長の顔を見る。
女官長は無表情のまま話を聞く。
「そうね……宰相が、まさか、お菓子配り歩いてるなんて思わなかったし。あんな偉そうな男の人にも配ってるんだもんね。」
宰相が今度はリュミエールの顔を見た。
偉そうな人の笑みを浮かべていた。
「あまーい。おいしー。しあわせー。」
幸せそうな声が聞こえる。
「姫様。」
「ま、怒られても『最初から本人がしたいと言いなさい』って言われるだけかもね。」
女官長の口調そっくりな言葉が聞こえた。
宰相が思わず小さく吹き出した。
「まさか、ここまで面白い姫君とは。」
偶然の出会いに宰相が感謝する。
「しとやかね。」
リュミエールが小さく女官長の肩を叩く。
「どうやら私の思い違いですわね。」
女官長がうなづく。
扉の外の様子も気がつかず二人の会話は続く。
「姫様、チョコレートで酔っておいでですか。」
「マリアは真面目ね。」
「ここにいるのが私仕事……んー、でも……はやく王様、正妃娶ってくださったら私も国に帰れるのにねー。」
「姫様、人目がないからと言って…はしたないですよ。」
「だって誰もこないし、女官長にも伏せってるって伝えたしのんびり、だらだらたまんない。誕生日ケーキもおいしそうに作れたしねー、楽しみ。」
「誕生日のスイーツは私だけのものよ。」
ひときわ大きな声が部屋から聞こえた。
「姫様…。」
「あなた様はっ。」
耐えきれなくなった女官長の叫びと共に寝室の扉が開かれた。
その後ろでリュミエールがニヤリと笑う。
「ここにいるのが仕事か、働かないとな。」
宰相が背後で聞こえる声に教育を間違えたかと…ほんの少し苦笑した。




