今日のおやつはワッフル
「あれから女官長はどう?」
ロザリアは天蓋付きのベッドに横たわりワッフルを食べる。
「姫様、もう少し姫様らしいご態度を。」
マリアが手箒をもちシーツの上を清掃しながらたしなめた。
「マリアの前でしかしないわよー。猫かぶって大人しくしてるしさ。」
マリアはため息をついた。
「女官長様は良い方ですよ。姫様のこられた経緯、寵愛を受けないかわいそうな姫を気遣っていらっしゃいますし。」
繊細な美しい外見のロザリアは目を伏せる。
「そうね、はやくお暇を頂きたいわ、側室なんて面倒よね、街にもいけないし。マリアの方がよっぽどお姫様らしいのにね。」
論点がずれているとマリアは思いつつ自分の栗色の髪をなで、姫の美しい黄金色の髪を見ながらこの姫の性格さえなんとかなれば夜会の花として姫様を自慢できるのにと思う。
けれど、口から出た言葉は別のものだった。
「宰相様も、この前のお願いは下げてくださったらしいです。」
「良かったー、涙も武器よね。」
反感を買いそうな言葉をロザリアは口にする。
「そういえば姫様、お父上から誕生日の贈り物が届いていますわ。」
一週間後に迫ったロザリアの誕生日、祖国の父から届いたのは一通の手紙、きらめく美しいドレス…そしてカカオだった。
手紙も、ドレスもしっかりと見ることもせず叫んだ。
「まぁ、お父様素晴らしいわ。カカオよ!」
ロザリアはベットから飛び降りた。
「この城にもチョコレートはあるけれど…やっぱり自分で作ると味が違うのよね。」
ロザリアは興奮しながら叫ぶ。
「姫様、それよりこのドレス。素敵でございます。
金紗にみごとな華の縫い取り、姫様の白い肌が引き立ちます。」
マリアも負けじと叫ぶ。
「マリア。着てみたら、そんなレース多い服でお菓子作れないわよ。それより七輪よ。はやくカカオをローストして…ああ、石臼もいるわね。
マリア、女官長に頼んで来てよ。」
マリアは美しいドレスよりも黒い豆に心を奪われたロザリアの姿を見て、なんの罪もない黒い豆を踏み潰したい衝動にかられた。
姫様は美しいのに……と。
テーブルの上には忘れられた手紙がポツンとおかれていた。
ひとしきり二人で騒いだ後、マリアはロザリアにドレスを着ることを約束させ、女官長に七輪と石臼などカカオからチョコレートを作るために必要なもの用立ててもらえるよう頼みに女官長の元へ訪れた。
女官長は特に問題もなくマリアに道具の許可を与え、次回お菓子を作る際用意しておくことと、もちろん宰相用にお菓子を作ることを命じると通常業務に戻って行った。
マリアは女官長から姫といつ入れ替わったことがばれるかなぁ…と思いつつ、居室に戻る廊下を歩く。
途中、後宮に仕える侍女達に捕まった。
名前も知らない同僚が意地悪そうな表情で話しかけてくる。
「陛下に全く相手にされない姫の世話なんてお可哀想ね。」
容姿に自信のある侍女は…
「美しくない姫なんて大変ね。」
と声をかけられたときマリアは思わず睨んでしまった。
武装具の好きなマリアは一瞬殺るか真剣に考え、今はまだやめておくことにする。
「一国の王女に向かって、ひどい言いようですわね。」
言い返すマリアに侍女たちは冷笑を浴びせた。
「ここは後宮、身分なんて関係ないでしょう。」
侍女たちは言葉をつなぐ。
「そうですか。仕方ありませんね。伯爵家の教育がその程度ということですね。」
マリアは暗に話しかけた侍女の出自を口にする。
「同じ侍女同士、仲良く致しましょう。」
侍女たちは顔を青くしてマリアの側を離れる。
滅多に人前に出ない姫。
興味のないことにはまったく無頓着な姫。
けれど生まれ持った美しさも、内面の美しさも、誰にも引けを取らないとこの国で知っているのはほぼマリアだけ。
マリアは何度思い出したかわからない言葉を思い出す。
この国に来る時、当時使えていた公爵令嬢の「私よりロザリアが行く方がいいのよ。」という言葉が恨めしい。
大きなため息がでた。
今回はマリア視点のお話になります。マリア視点からの文章が分かりにくかったので少し文章を修正して見ました。ご指摘ありがとうございます。
誤字脱字修正しました。
文章推敲いたしました。